この貧乏店主に愛の手を!   作:勇(気無い)者

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5.ゴブリン殲滅戦

 ややあって、ウィズとカズトは街の外れにある森の中へとやって来ていた。二人は今、数メートルほどの低層断崖の上にある茂みに隠れながら、崖下に居るゴブリンの群れを観察している。

 

「大体……三十から四十ぐらいですね」

「お、多いですね……大丈夫でしょうか」

「大丈夫ですよ。完全な奇襲のうえに、地形のアドバンテージもあります」

 

 それに、とウィズは付け加え、

 

「万一何かあっても私がカズトさんの事を守りますから」

「……は、はい」

 

 ━━━その台詞は男女逆では?

 

 と思うカズトではあるが、レベルもステータスもウィズの方が圧倒的に上なので、何も言えない。

 実際、ウィズとカズトが戦った場合、カズトは二秒と掛からず瞬殺されるだろう。それだけこの世界において、レベルというものは絶対なのである。一回りも差が開けば勝負にはならない。無論、成長には個人差があるので一概にそうとは言えないが。

 

「……初心者殺しは居ないみたいですね」

 

 ウィズが辺りを見渡しながらそう言った。木々や茂みに遮られてはいるが、真っ黒な体毛に覆われた生物が近くに居れば、すぐに気付くだろう。

 

「では、カズトさん」

「は、はい。……でも、大丈夫ですかね? 火事になったりとか……」

「大丈夫ですよ。その時は私が何とかしますから」

 

 何とも頼もしいウィズ。だが、カズトとしては何から何まで彼女に甘えっぱなしで、何だか居た堪れない気持ちになってしまう。

 しかし、今はゴブリン狩りに集中すべき時だ。首を横に振り、気持ちを切り替えてゴブリンを見据える。

 

「では、いきます。……ファイアーボール!」

 

 手の平から炎の塊を飛ばし、ゴブリンの群れへと叩き込んだ。着弾した炎の塊は周囲へと広がるが、巻き込めたのは十数体程度である。これでは殲滅は叶わない。

 だが、ゴブリンは突然の奇襲に驚き戸惑い、混乱に陥っている。

 そこでカズトは矢継ぎ早に次の魔法を唱えた。

 

「ウインドストーム!」

 

 燃え盛る炎の中に、逆巻く風の魔法を放り込む。炎は勢いを増し、渦を巻きながら周囲へと広がりゴブリン達を焼いてゆく。

 

「ファイアーボール!」

 

 更に駄目押しのファイアーボールを放り込み、炎の勢いを強める。ゴブリン達は逃げ惑う間に全滅した。

 

「やりましたね、カズトさん!」

「はい! ウィズさんのおかげですよ! ……でも、やっぱり火が燃え移ってしまってますね……」

 

 カズトの言う通り、炎の勢い自体は大したことないが、周囲の木々に燃え移っている。放っておけば火事に発展し、森は焼失してしまうだろう。

 

「急いで鎮火すれば大丈夫ですよ。カズトさん、魔力はまだ余裕ありますか?」

「はい、まだまだ大丈夫です」

 

 無限の魔力のおかげであろうが、中級魔法程度であれば十発や二十発程度は余裕で撃てる。

 

「でしたら、クリエイト・ウォーターで炎の鎮火をしましょう。私は右の方から行いますので、カズトさんは左からお願いします」

「分かりました」

 

 そうして数分後。二人は崖下に降りて、木々に燃え移った炎の鎮火を完了させた。

 

「何とか終わりましたね」

「はい、なんとか策が上手くハマってくれましたよ」

 

 一応、ファイアーボールからのウインドストームで火勢が増す、というのはカズトの策である。森の中でそんな事をするなど山火事になりそうなものではあるが、ウィズが責任を持って消化すると申し出たので、カズトもこのような策を実行に移す事が出来た。

 仮にカズト一人だったら森の中でこのような策は使わないし、ウィズからも火事になりそうな場所では控えるよう言われている。

 

「そう言えば、あれだけのゴブリンを倒したんですから、カズトさんのレベル上がったんじゃないですか?」

「あ、そうですね。ちょっと見てみましょうか」

 

 そう言ってカズトが冒険者カードを懐から取り出し、ウィズが横からカードを覗き込み━━━その瞬間、二人の背後の茂みがガサッと揺れた。

 何事かと振り返る二人であったが、

 

「━━━いっ⁉︎」

 

 漆黒の体毛に覆われた獣━━━初心者殺しがまさに今、二人に飛びかかってきているところであった。

 

「カズトさん、危ない!」

「うぐぇっ」

 

 ウィズがカズトを突き飛ばす。咄嗟の事で力加減がなされておらず、カズトは数メートルほど吹っ飛んで地面をゴロゴロと二回転。

 ようやく止まって身体を起こし、顔を上げて見れば、

 

「あっ……ウィズさん!」

 

 ウィズは初心者殺しに襲われていた。その巨体に覆い被されて彼女の姿は確認出来ないが、ウィズが下敷きになっているのは確定的に明らかである。

 

「くそっ、ウィズさんから離れろ! ウインド・オブ━━━」

 

 風の中級魔法を詠唱しようとしたが、カズトは途中で中断してしまった。初心者殺しの様子がおかしい事に気付いたのだ。

 魔法を詠唱しようとする前まで、初心者殺しは確かに動いていた。だが、今ではピクリとも動かず、グッタリとしている。

 カズトがそのまま観察していると、やがて初心者殺しの身体がモゾモゾと揺れ、下からウィズが這い出てきた。

 

「ウィズさん! 無事だったんですね!」

「はい、勿論無事ですよ。リッチーは魔法の掛かった武器以外の物理攻撃は効きませんから」

「あっ……そう言えば、そうでしたね……」

 

 リッチーの性質や特性については既に聞き及んでいたのだが、ウィズが余りにも人間臭いうえに、彼女が虎二匹を足して黒く塗ったような猛獣である初心者殺しに襲われているところを見てしまい、動転して頭からすっぽり抜け落ちてしまっていたのだ。

 しかし、ニコニコと笑っているウィズではあるが、彼女の髪と顔は初心者殺しの涎でベトベトである。

 

「……あの、これ使ってください」

 

 カズトはポケットに入っていたハンカチをウィズに手渡すのであった。

 

 

 

 

 

 

 アクセルの街に帰ってきた二人は一旦別れ、カズトは冒険者ギルドへクエスト達成の報告を。ウィズは初心者殺しの所為で汚れてしまったので、店に戻ってお風呂に入っている。

 

「はい、確かに。ゴブリン三十匹討伐を確認しました。こちらが報酬です」

 

 赤い髪の受付嬢から規定の報酬を受け取るカズト。ゴブリンの討伐数は四十三匹で、初心者殺しもカズトが討伐している。クエスト報酬とは別に討伐報酬もその分貰えた。

 

「しかし、本当に達成されるとは思いませんでしたよ。しかも、初心者殺しまで討伐してしまうとは」

 

 と、受付嬢のお姉さん。実はクエスト案内を行ったのは彼女なのだが、カズトがクエストボードから依頼書を持ってきた時に一度止められている。

 何故なら、この依頼は駆け出しの冒険者が、しかも一人で受けていいものではないからだ。しかし、カズトが「元ベテラン冒険者であるアークウィザードの同行者が居る」と告げると、受付嬢はそれならとクエストの受領を行った。その時にウィズの名前は出していない。

 

「ま、まぁ同行者の方がかなり強い方だったので……」

「そうなんですか、いや気になりますねぇ。どなたなんですか?」

「あ、あの……すみません、名前は出さないようにと言われてますので」

 

 嘘である。ウィズにそんな事は言われていない。だが、カズトとしては何かしらウィズに迷惑が掛かるような事態に陥ってしまっては本当に申し訳が立たないので、何となく伏せているだけだ。

 

「ほほぅ、人知れず新人冒険者を助ける、引退したアークウィザードのベテラン冒険者、ですか……実にカッコイイですねぇ」

 

 紅魔族(厨二病患者)のような事を宣う受付嬢。

 

「いいなぁ、ウチのギルドで冒険者の新人教育とかやってくれないかなぁ……」

 

 ギルド側がそのような事を行っているという事実はないのだが、この受付嬢は上の者に新人冒険者への教育をすべきでは、と打診を行っている。無論、却下されているのだが。

 

「あの、その人の特徴とかって」

「すみません、用事があるので自分はこれで」

「あぁっ! 待ってくださいよぅ!」

 

 そんな事など知らないカズトは、本当にウィズに迷惑が掛かりそうな気配を察して、そそくさとギルドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 それからカズトは昨日の街の探索の続きをしながら、三十分ほど掛けてウィズの店に戻った。ウィズがお風呂に入っているので、なるべくゆっくり戻ろうと考えた為だ。

 

「ただいま戻りましたー」

 

 『close』の札が掛けられた入り口のドアを開けて店内に入り、声を掛けるが返事はない。カズトはそのままカウンターの更に奥へと進み、居住スペースの敷居の前で靴を脱いで中へと足を踏み入れる。

 そこは居間のような部屋で、中央に足が短めの四角いテーブルが設置かれており、それぞれの辺に合わせて座布団が四つ置かれている。

 カズトは座布団の一つに腰を下ろした。

 

「あ、戻っていらしたんですね」

 

 すると、そのタイミングでウィズが部屋の奥から姿を現した。先程までとは違った、黒を基調としている魔法使い風のローブを身に纏い、タオルで髪を拭いている。その仕草は何となく色っぽい。

 

「はい、ギルドから報酬を貰ってきました」

 

 言って、机にエリス硬貨の入った袋を置く。総計、八万一千エリスにも上る。

 実は、この中にカズトが女神アクアから貰ったお金も含まれていたりするのだが、これはカズトなりのウィズへの迷惑を掛けたお詫びの気持ちである。余りにも迷惑を掛けすぎている為に、お金を少しでも多く渡そうと思って混ぜたのだ。

 

「報酬はどうしましょう? 俺が二で、ウィズさんが八ぐらいの割合で良いと思うんですが」

「ええっ⁉︎ いえ、あの待ってください! 流石にそんなに受け取れませんよ⁉︎ 寧ろ、逆でいいぐらいです!」

「えぇ……いや、今回の件は正直、ウィズさんが居てくれたからクエストを達成出来た訳ですし、俺一人じゃ絶対に達成出来ませんでしたよ」

「それを言ったら、私なんてリッチーですから本来クエスト自体を受けられないんですよ!」

 

 彼女の冒険者カードの種族欄には『リッチー』と表記されてしまっているので、人に見せる事は出来ない。故に、彼女は冒険者ギルドでクエストを受ける事が出来ないのだ。

 だが、カズトにとってそんな事はどうでもいい。命の恩人であるウィズに、少しでも恩返しがしたいのだ。その為なら、今回の報酬を全てウィズに贈りたいと考えているぐらいである。

 

「しかし、ウィズさんが居なければ俺は初心者殺しに……いえ、その前にゴブリン相手に殺されていたかもしれません。それを考えれば、やはりウィズさんに多く貰ってほしいです」

「いえ、ですから私はリッチーなのでクエストの報酬なんて受け取れないんですよ。カズトさんが受けたクエストなんですから、そんなに遠慮する必要はありません」

「ですが━━━」

「ですけど━━━」

 

 どうぞどうぞと、お互いに譲り合う事、数分。

 

「なら、折半という事にしましょう。(これから)俺が受けたクエストの報酬から半分払うという事でどうですか?」

 

 『これから』と小さく、ウィズがギリギリ何を言ったか聞き取れない声量なのがミソである。こう言っておけば、今後カズトが一人でクエストを受けたとしても、そこから半分をウィズに渡す事が出来る。

 ……まぁ、ウィズは納得も受け取ろうともしないだろうが、確かに言ったという事実が大事である。駄目だったとしても、そこから別の譲歩を引き出させれば良いのだ。

 

「いえ……ですけど……」

「これ以上は譲歩出来ません。これを受け取って貰えないと、俺は申し訳なさ過ぎて死んでしまいます。お願いですから、受け取ってください」

 

 本日五度目のDOGEZA。一日に五回もDOGEZAをするなど、どれだけ安いDOGEZAなのか。

 しかし、この手はウィズに対してかなり有効であるのは間違いない。

 

「わ、分かりました! 分かりましたから、頭を上げてください!」

「ありがとうございます!」

 

 バッと顔を上げ、すごく良い笑顔でお礼を述べるカズト。

 

「す、すごい良い笑顔……。あの、カズトさんがお礼を言うのは変な気が……寧ろ、私の方がお礼を述べる立場では……」

「いえ、ウィズさんは俺にとって命の恩人ですから。今回の件以前から返しきれない恩がありますし、俺としては一生を掛けて尽くす所存です」

「そ、そんな、大袈裟ですよ……」

「いえいえ、そんな事はありません。ウィズさんが居なければ俺はもう死んでいたでしょうし、俺がこうして生きていられるのは全てウィズさんのお陰です。何も大袈裟なんて事はありませんよ。本当、ウィズさんには感謝してもしきれないと言いますか」

「分かりました! カズトさんの気持ちは分かりましたから!」

 

 やはりウィズはグイグイ押されるのが苦手なようだ。彼女は露骨に話題を逸らし始める。

 

「そんな事よりも、もうすぐ夕方になりますし、お夕飯の買い物に行きましょう! ()()()()ですし、腕に(より)を掛けて作りますよ」

「本当ですか⁉︎」

 

 女性(ウィズ)の手料理を食べられると聞き、著しくテンションの上がるカズト。

 だが、彼はウィズの言葉の中に引っかかる一言があり、思わず立ち止まる。

 

 ━━━ん? さっき『久しぶり』って言った……?

 

 『久しぶり』とは、いかなる意味か。人に食べさせるのが久しぶりという意味か、それとも━━━

 

「カズトさん? どうかしたんですか?」

「あ、ああ、いえ……何でもありません」

 

 ウィズの後を追うカズト。

 

 こうして、二人の新しい生活が幕を開けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 尚、買い物の最中にウィズが今まで極貧生活を送っていた事が露見し、彼女の言った『久しぶり』というのが、そもそもマトモな食事自体が久しぶりなのだという事もカズトにバレたそうな。




生木は水分を含んでいる(だっけ?)から燃えにくいと聞いた事がありますが、どうなんでしょう?
まぁ、それが本当にしても、放っておけば燃え移るんでしょうが……。
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