この貧乏店主に愛の手を!   作:勇(気無い)者

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6.新スキル習得

 早朝━━━それもまだ小鳥たちの囀りが聞こえ始めてくる早い時間帯に、ウィズは目を覚ました。ベッドの上で上半身を起こし、大きく伸びをする。

 そして、寝惚け眼を擦りながらベッドから降りて、部屋を出た。彼女が向かった先は、ウィズの寝室の隣にある、今まで物置き程度にしか使っていなかった部屋。

 ガチャリとドアを開けて中に入ると、布団の上で死にそうになっている少年が一人、横になっている。

 ウィズは何を言うでもなく彼の腕に触れ、ドレインタッチのスキルを使った。すると、真っ赤だった少年の顔色が常人のそれへと戻り始め、荒かった呼吸も落ち着きを取り戻す。

 ゆっくりと、少年が目を開けた。

 

「おはようございます、カズトさん」

「……おはようございます。そして、ありがとうございます、ウィズさん」

 

 ウィズの一日は、こうしてカズトを起こすところから始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

「瞑想のスキルをお教えようかと思うんです」

 

 朝食を済ませると、ウィズがそんな事を言ってきた。

 

「瞑想、ですか?」

「はい。これは私が独自に編み出したスキルなんですけど、体内の魔力の循環効率を上げて回復を早めるというものなんです」

「……魔力の回復を早める、ですか……?」

 

 カズトには無限の魔力がある。魔力の回復━━というか蓄積━━は勝手に行われるので、彼には無用の長物に思えるスキルだ。

 

「あの……俺には無限の魔力が……」

「勿論、このスキルを教えようと思ったのは別の理由があります。というのもですね……」

 

 ウィズが言うにはこのスキル、習得するのに体内の魔力の流れを完全にコントロールしなければならないとの事である。それは体内の魔力を完全に掌握する事を意味し、掌握するという事は自在に操る事が出来るという事だ。

 そして、体内での循環効率を上げる事によって魔力の回復を早めるのが瞑想の最終である。

 

「瞑想が出来るようになれば、上級魔法もあっという間に覚えられますよ。上級魔法習得に必要なのは、詠唱と魔力の流れを覚える事ですから」

「成る程、瞑想が出来るなら魔力の流れは掌握している訳ですし、後は詠唱を覚えるだけという訳ですね」

「はい、そういう事です」

 

 それは確かに便利そうだと、カズトは思った。

 しかし、分からない事もある。

 

「それで、このスキルを俺に教えようと思ったのは何故ですか?」

 

 ただ魔力の流れを掴むというなら、上級魔法をそのまま教えれば良い話だ。先も述べたように、彼には魔力の回復を早める必要など無い。

 であれば、何かしらの理由がある筈だ。

 

「えっと、確証はないんですけど……カズトさんの無限の魔力は今、自動で魔力を製造し続けている状態だと思うんですよ。それで、もしもカズトさんが瞑想を覚えて魔力の流れをコントロール出来るようになれば、一時的にでも無限の魔力の製造を止める事が出来るんじゃないかと思いまして……」

「……⁉︎ それ、本当ですか⁉︎」

「いえ、確証は無いです! 確証は無いですけど……試してみる価値はあると思います。どうしますか?」

「お、お願いします! 瞑想のやり方を教えてください!」

 

 こうして、カズトの瞑想習得の為の訓練が始まった。

 とはいえ、流石に店を連日閉めるような事は出来ないので、店内で行う事に。まぁ、いつも通り客は来ないので、訓練には集中出来る。

 まずウィズは、魔力とは何たるかをカズトに教えるところから始めた。座学である。

 カズトはウィズの講義を真剣に聞いていた。分からない事があった時にはキチンと質問し、理解出来るまで考える。知力がそこそこ高い事もあってか、カズトはウィズの教えを確実にモノにしていった。

 ……のだが。

 

「じゃあ、そろそろ実践に移りましょうか」

 

 実践に移ってからが駄目駄目であった。

 

「魔力は体内を循環していますから、まずはそれを感じ取れるようになりましょう。目を閉じて、自分の中に意識を傾けてみてください」

 

 ウィズがそう言うので、カズトは言われるままに目を閉じ、集中した。

 だが、小一時間ほど魔力の流れを掴もうと頑張ったものの、成果はさっぱりであった。

 それもその筈、彼はこの世界に来て、まだ三日目なのである。それ以前は日本という、魔法のような非科学的な力が存在しない平和な国で平和ボケした生活を送っていたのだ。それを、女神に無限の魔力を入れてもらったとはいえ、いきなり魔力の扱いなど分かろう筈も無い。

 かと言って、このまま目を閉じて集中し続けても、何かが掴めるとは思えない。

 

「……ちょっと、外で魔法撃ってきます」

 

 ウィズに断りを入れ、カズトはアクセルの街の外へと足を運んだ。どの道、魔力が溢れ始めていたので、魔法を撃って魔力を消費して来なければならないし、もしかしたら魔法を撃つ事で何かしらコツが掴めるかもしれない。

 気分転換も兼ねている。何事も根を詰めすぎるのは良くない。

 やって来た場所は、草なども生えていない荒地である。周囲に人が居ない事を確認し、カズトは早速魔法を撃ち始めた。

 

「フリーズガスト!」

 

 カズトの前方に冷気を纏った白い霧が発生し、次の瞬間━━━何も無かったそこに、氷塊が現れた。大きさはカズトの身長の半分程度しかない。

 フリーズガストという魔法は、冷気を纏った霧を発生させて、中に入ったものを凍り付かせる中級魔法である。

 カズトはしゃがみ込んで氷塊を指でツンツンとつつく。

 

「低レベルの冒険者……それもスキルレベルが一ともなると、この程度か……」

 

 呟き、溜め息を吐く。ウィズが実践してみせた時には、人を数人ぐらい凍り付かせられそうな程の氷塊を出していた。比べてみれば圧倒的な差である。

 だが、そもそもウィズはレベルがカズトの十数倍は上━━カズトの今のレベルは四━━であり、フリーズガストのスキルレベルも数十倍は上なので当たり前だ。

 

「まぁ、比べる相手が悪いか……」

 

 考えても仕方ないと、他の魔法も撃ってみる。

 昨日使ったファイアーボールにウインドストーム、ライトニングにブレード・オブ・ウインド。更に攻撃魔法だけでなく、補助魔法に分類されるストーンバインドやパラライズなど、色々と使ってみる。

 やはり、どれもウィズに比べると天と地ほどの差がある。

 

「……やっぱり、ウィザードになるべきかな」

 

 冒険者と違って魔法職のウィザードになれば、職業補正がついて多少は威力が上がる事だろう。それでも、ウィズの魔法と比べてしまえば誤差の範囲でしかないのだが。

 

 その後もカズトは昼過ぎまで適当に魔法を撃ちまくったのだが、魔力の流れを掴む事は出来なかった。お腹も減ってきていたので切り上げ、街で昼食用に二人分のサンドイッチを買って店に戻る。

 

「ただいま戻りました」

「カズトさん、お帰りなさい」

 

 店内に入ると、ウィズが笑顔で出迎えてくれた。

 

「どうでした? 魔力の流れは掴めましたか?」

「……いえ……それが、さっぱりで……。お店はどうですか? お客さん来ました?」

「……いえ、今日はお客さん一人も来てないです……」

 

 どちらもさっぱりであった。

 

 それから二人は昼食を済ませ、再び瞑想の訓練に入る。と言っても、ウィズは伝えるべき事は全て伝えたので、後はカズトの頑張り次第なのだが。

 一時間、二時間と瞑想を続けて、それでも魔力の流れを掴む事が全く出来ないでいるカズト。時間だけが無為に過ぎてゆく中、遂に四時間が経過しようかという頃。カズトはある事を思いついた。

 

「あの、ウィズさん。ちょっといいですか?」

「はい、どうしました?」

「えっとですね、ちょっと思いついた事があるんですよ。普通の冒険者は出来ないだろう方法を」

「……? 何ですか?」

「いえね、よくよく考えたら、魔力の流れを感じられるだろうスキルがある事を思い出したんですよ」

 

 それは、相手から魔力を吸い取ったり、相手に魔力を分け与えたりする事が出来る、アンデッドのみが覚えられるスキル。

 

「ドレインタッチを使えば、魔力の流れを掴む事が出来るんじゃないかと」

「あ、成る程! 確かにドレインタッチは魔力送ったり吸い取ったりするスキルですものね!」

「ええ。ちょっとインチキ臭い気もしますが、折角ですから試してみたいんです。ウィズさん、すみませんが少し協力お願いします」

 

 という訳で、早速実践に移る。

 ウィズとカズトは向かい合って座り、互いの両手を繋ぎ合わせた。それぞれ右手から相手に魔力━━体力も送っているが━━を送り合う。これによって魔力が循環し、魔力と体力が枯渇する事なくドレインタッチを使い続ける事が出来る。

 

「どうですか? 魔力の流れを感じ取る事が出来ますか?」

「は、はい……! よく分かります! これが魔力なんですね……」

 

 この方法は効果絶大であった。魔力という存在を全く知らない日本人であっても、ドレインタッチというスキルを使うだけで魔力━━ついでに体力━━を吸ったり送ったり出来るのだ。

 素晴らしき(かな)、ドレインタッチ。カズトはクラスを冒険者にしておいて良かったと心の底から思った。もしもウィザードを選んでいたら、このような事は出来なかったのだ。

 それから数分ほどして。

 

「そろそろ瞑想の方をやってみてはいかがでしょう?」

「え……? あ、ああ、そうですね……」

 

 ウィズにそう言われて、今更ながら現状に気付いた。

 美人の女性(ウィズ)と両手を繋ぎ、向かい合っている。

 カズトは中学時代にしろ高校時代━━途中で亡くなったが━━にしろ、灰色の青春時代を送ってきた。年齢も思春期真っ盛りである。女の子と、このような状況になった事など一度もない。

 だから、惜しいと思った。

 

「あ、あの……もう少しだけお願いします……」

「はい、いいですよ」

 

 屈託の無い笑顔を浮かべるウィズに、カズトは少しだけ罪悪感を感じながらも、幸せを感じずにはいられなかった。

 その後、カズトが顔を(照れて)赤くして魔力が蓄積され始めたのではと、ウィズに懸念されるハプニングなどもありながら、カズトはその状況を楽しんだ。

 そして、魔力の流れもバッチリ掴めるようになり、無事に瞑想のスキルをモノにする事が出来た。その際、ウィズが「自分は開発に一年近く掛かったのに……」とこっそりボヤいていたのだが、カズトはそれを知らない。

 

 

 

 

 

 

 翌日の早朝。ウィズは何だかいつもより調子が良く、まるで十時間近く熟睡したかのようなバッチシの気分で目が覚めた。

 昨日はカズトも瞑想を習得出来たので、もしかしたら彼も昨日の朝とは違って普通に熟睡しているかもしれない。そんな事を思いながら、ウィズはカズトを起こすべく隣の部屋へ赴くと。

 

「カズトさ〜ん、おはようございます。調子はどうで━━━」

 

 ━━━そこには、昨日の朝と変わらず、顔を真っ赤にして死にそうなカズトの姿があった。

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