カズトの異世界生活四日目。
瞑想を習得し、魔力の流れを何ともなくだがコントロール出来るようになったものの、昨日と変わらず朝は死にかけながらウィズに
クエストに行きたいとは思っているが、ウィズからクエストに行く場合は自分も連れていくようにと言われてしまっている手前、クエストに行きたいとは言いづらい。
という訳で朝食後、ウィズに今日の予定を聞いてみる事にした。
「そうですね、お店の在庫の整理を行っておきたいなと考えていますけど……」
そう言われて、カズトはウィズの店がマジックアイテムショップである事は知っているものの、そのマジックアイテムとやらはどのような物があるのかを知らない事に気付いた。
マジックアイテム。魔法の力によって生成される魔法の道具。科学技術の発展によって進歩してきた日本人には、何とも興味のそそられる話である。
「あの、それ俺も手伝っていいですか?」
「それは助かりますけど……カズトさんのご予定はいいんですか?」
「いえ、俺はこの世界に来たばかりで特に予定も無いですし。強いて言うなら、ウィズさんのお手伝いをしたいです」
本心からの言葉である。カズトはウィズが居なかったらとっくに死んでいたので、ウィズの為なら何でもやるつもりであった。
……と言っても、悪事に加担するような真似は出来れば御免被りたいところである。ウィズはリッチーでありながら善良なので、その心配は皆無であろうが。
因みに、彼の中で魔王討伐の考えは既になくなっている。ウィズが魔王軍幹部なのをカズトは知っているので、彼女と懇意にしている以上、魔王軍側と事を構えるような真似は出来ればしたくないのだ。何かしらの切っ掛けでウィズが魔王軍幹部である事実が他の人に知れたら目も当てられない。例え、彼女が何の悪事も働いていない、なんちゃって幹部であるにしても、だ。
そんな訳で、二人は在庫置き場へとやって来た。
「す、すごいですね……」
思わずそんな言葉を漏らすカズト。
そこには、棚いっぱいに詰められたアイテムの他に、棚に入りきらず床に積み重ねるように置かれているアイテム、恐らく開封前なのであろうダンボールなどが積み重ねられている。
兎に角、すごい量だ。足の踏み場もない、とまではいかないものの、かなり制限はされるだろう。
「最近はすごく良いアイテムばかり見つけてしまって、たくさん仕入れちゃったんですよ。整理しないとって思ってはいたんですが、つい後回しにしてしまいまして……」
「てへっ」と言いながら、ペロリと舌を出すウィズ。何ともあざとい仕草だが、とても可愛かった。
「それで、整理ってどうするんです?」
「まず、売れたアイテムの補填を行います」
補填。足りないところや欠けたところを
「……あの、ウィズさん?」
「なんですか?」
「売れたアイテムがあるんですか……?」
少なくとも昨日一日、客は誰一人として来なかった。店として大丈夫なのかと疑いたくなるレベルである。潰れてもおかしくない。
それなのに補填が必要とは、一体どういう事なのか。実は客入りに波があって、来る時は結構来ていたりするのだろうか。
すると、ウィズは頬をぷくっと可愛く膨らませ、
「カズトさんまでそんな事を言うんですか⁉︎ ウチの商品だって、売れる時は売れるんですからね! ただ、買ってくれる人がなかなか来てくださらないだけで……!」
「……え? え?」
話が微妙に噛み合っていない。カズトは客が来ていないのに補填が必要なのかと聞きたかっただけで、商品がどうこうと言いたかった訳ではない。というか、どういった商品があるかなど全く知らない。
だが、これはカズトの言い方が良くなかったと言える。客が来ているのかを聞けば良かったのに「売れたアイテムがあるのか」と言ってしまったので、ウィズはカズトにまで商才無しと言われているのだと勘違いしてしまったのだ。
まぁ、日頃から商才無しと言われるような物を仕入れてくるウィズも悪いといえば悪い。彼女に一欠片でも商才があったのなら、店はここまで客足が遠のく事もなかったのではないだろうか。
どっちもどっちであった。
とりあえず、ウィズに対して崇拝に近い気持ちを抱いているカズトの方が謝罪し、ウィズもそれで落ち着いたので改めて商品の補填に入る。
「それで、どれが売れたんですか?」
「これです!」
ウィズが興奮気味に取り出したのは、何の変哲もない赤色のチョーカーである。
「これはですね! 願いが叶うというチョーカーなんです!」
「願いが叶う⁉︎ それはすごいですね!」
願いが叶う、という言葉にカズトは、それが本当ならばすごいアイテムだと思った。もしかしたら、自分が毎朝死にかけるのも直るのか、とも。
しかし、その実態は……。
「どうやって使うアイテムなんですか?」
「えっとですね、まず叶えたいと思う願い事を思い浮かべながらチョーカーを首に着けるんです。すると、そのチョーカーは願い事が叶うまで絶対に外れないうえに、日を追うごとにチョーカーが徐々に締まっていきますので、それが締まり過ぎて窒息する前に願いを叶えるんです」
「………………」
━━━自力で叶えるのかよ⁉︎
という言葉は、なんとか呑み込んだカズト。
人間、死ぬ気になればなんでも出来るという言葉がある。このチョーカーはそれを明確に体現している、ある種呪われたような恐ろしいマジックアイテムなのだ。
「……どんな人が買うんですか?」
「主に女性に人気ですね! 絶対に痩せられると評判なんですよ!」
━━━そこまでして痩せたいのかよ!
という言葉も呑み込んだ。
命懸けでも痩せたいとは、購入者は自身のプロポーションに余程コンプレックスを抱いているのであろう。恐ろしいまでの執念である。だが、そんな短期間で体重を落としても、リバウンドする未来しか見えない。ダイエットは無理なく行いましょう。
しかしながら、改めて価値観の違いを味わうカズト。ダイエット器具一つとっても、ここまで違うものなのか。カルチャーショックならぬ、ディファレントワールドショックとでも言えばいいのか。日本では絶対にあり得ない。
「……それで、これを補充すれば良いんですか?」
「そうしたいのは山々なんですが、そのチョーカーはもう在庫がそれ一つしか無いんですよ。ですから、棚に少し空きが出来てしまうので、その分を補填しようかと」
「そうですか。えっと、どれを置くんですか?」
「そうですねぇ……」
ウィズが奥の棚へと向かい、ゴソゴソと漁り始め、
「えっと、これじゃなくて……あっ、あった! これで━━━キャー!」
「ああっ⁉︎ ウィズさん⁉︎」
棚に詰められた物が、雪崩を起こしてウィズの上へと落ちてきた。カズトは慌てて生き埋めとなったウィズの元へと駆け寄り、彼女を掘り起こす。
「大丈夫ですか?」
「ええ……ありがとうございます、カズトさん」
生き埋め状態から解放されたウィズは、その手に白銀のロザリオを持っていた。
「えっと、それは?」
「これですか? これはですね、素敵な出会いがあると言われているロザリオなんです! これを着けていると、恋愛運が上昇するんですよ。私も着けてます」
ホラ、と胸元からロザリオを取り出すウィズ。成る程、そういったものを信じている人になら売れるであろう。
だが、ウィズはそれよりも金運上昇か商売繁盛のお守りでも買った方が良いと思われる。恋愛云々以前に、店を何とかすべきであろう。
━━━っていうか、それを身に着けてるって事は、ウィズさんは出会いを求めている……?
そんな事を考えるカズトだが、何だかモヤッとした気持ちになった。それがどういった感情であるのか、恋愛経験ゼロのカズトには分からなかったが、一つだけ気付いた事がある。
ウィズはアンデッドだ。アンデッドは年を取らず、浄化されない限りは永遠に存在し続けるが、逆に人間は年老いていずれ死に至る生命体である。
つまり、ウィズは永遠に年も取らずそのまま存在し続け、周囲の人間はウィズを置き去りにしていずれ亡くなる。
カズト自身もそうだ。彼は人間であり、やがてはウィズを置いて死ぬ。
そう考えると、何だか物悲しい気持ちになった。ウィズはこれから永遠に近い時をたった一人で存在し続け、人々が自分を置き去りにしてゆくのを見続けるのだ。
カズトはひっそりと誓う。自分もいつかリッチーとなり、ウィズの隣に存在し続けよう、と。
「どうかしたんですか、カズトさん?」
「えっ……? あ、いえ……何でもありません」
いつの間にか考え込んでしまい、ウィズが心配そうに声を掛けてきた。
いかんいかんと首を横に振り、考えを打ち切る。
どの道、リッチーとなる為には魔法を極めなければならない。それはつまり、ウィズと肩を並べられるぐらいの魔法の腕が必要という事である。アークウィザードにすらなれない今のカズトの実力では、夢物語も良いところだ。まずは実力を付けねばならない。
否、それ以前にまずは目の前のアイテムの整理を行うべきだ。ウィズが雪崩を引き起こしたお陰で、ちょっとした惨事になっている。
「早いとこ補填を終わらせて、在庫の整理を終わらせましょう」
「……? はい、そうですね」
そうして、二人は作業に取り掛かり始めたのであった。
尚、余談ではあるが。整理中、及び整理が終わってからもそれぞれのマジックアイテムの効果を知ったカズトは、ウィズが商売に関してポンコツである事を知った。