落第騎士の英雄譚~破軍の眠り姫~(一時凍結)   作:スズきょろ

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詩音「作者が熱を出して暇だったらしく、一日で二話投稿しました・・・えーと第3話お楽しみください!あはは・・・はぁ」



第3話

「・・・・・・ん、っ」

 

 じんわりと、白い光が覚醒を促しステラは目を覚ました。

 

「目が覚めたか。ヴァーミリオン」

 

 ステラが横たわるベッドの側に座り、黒乃は煙草をふかしながら声をかける。

 

「理事長先生・・・・・ここは?」

「君の部屋だ。倒れた原因は《幻想形態》の固有霊装(デバイス)に殺傷されたことによる極度の疲労だからな。医者はiPS再生槽(カプセル)を使うような事態ではないから、自室で休ませていたんだよ」

 

 ふぅ、と黒乃の紅をさした唇から紫煙が吐き出される。

 

(・・・・・確か学生寮は禁煙だったはずだけど)

 

 と、思ったが注意する気力はなかった。

 

「・・・・・はぁ。久しく忘れていたわ。負けるって・・・・・こういう気分なのね」

「まあ、あまり気に病むことはない。黒鉄はハンデ戦とはいえこの私にも勝っている男だ、現時点でお前が勝てる相手ではないよ」

「元世界ランキング三位の《世界時計(ワールドクロック)》にも勝てるって・・・・・。何よそれ・・・・・あっ、理事長先生。アイツは、ーーー無事なの(・・・・)?」

「大丈夫だ。お前よりはずっと重症だが、命に別状があるような事態じゃない」

 

 そして黒乃は二段ベッドの上段に目を向けた。

 ステラがベッドから這い出て見上げると、そこには蒼白い顔で横たわる、ランニングシャツ姿の一輝がいた。・・・・・かすかな寝息が聞こえなければしたいと見紛うほどに、彼の全身からは生気というものが抜け落ちている。

 《一刀修羅》は生存本能までも無視して全力を出す伐刀絶技(ノウブルアーツ)だ。

 使えば、一分後にはまともに呼吸すらできないほど衰弱しきる。

 こうなるのも当然といえば当然だった。

 

「まあそれでも自力で部屋に戻って、制服を脱ぐ程度には余力を残していたがな。そのくらいできなければ技として使い勝手が悪すぎる。黒鉄も、その程度の調整はしているんだろう」

「そんなの余力のうちにも入らないと思いますけど」

 

 とても戦える状態じゃない。

 一度でも使いどころを間違って仕留め損ねればそれだけでアウト。

 ひどい自滅技だ。しかしそんなピーキーな技を使いこなし、この男は自分を倒してみせた。

 

「そういえば、あの時、理事長室にもう一人いましたけど、あの子は?」

「龍切のことか?あいつなら、『ステラとの出会いを祝うパーティーしなきゃ!』と言って、今買い出しに行っている」

「そうですか・・・・理事長先生。この男は一体何なんですか?」

「何、とは?」

「とぼけないでください!アタシの動体視力を上回る速度で動くなんて、尋常じゃないでしょう!もしかしてあれなの?ジャパニーズNINJAってやつッ!?」

「いや全く違うが・・・・・・」

「ともかく、これほどの男がFランクで留年生なんておかしいでしょう!?どういうことか説明してください!」

「そうはいってもな。Fランクは妥当な判定だぞ。何しろランクは伐刀者としての能力(・・・・・・・・・)を評価するものだ。実戦力・・・・つまり剣術の腕や体術の冴えはそもそも評価項目に存在しない。なにしろ本来これらは超常の力を行使する伐刀絶技(ノウブルアーツ)の前には無力なものだからな」

 

 そう、優れた異能の前に体技など無価値。

 たとえ鉄すら斬り裂ける剣の達人がいたとして、ステラの操る太陽がごとき灼熱を前に一体何ができるだろうか?何もできはしない。ただ灰になるだけだ。

 故に体技は同等の能力を持つ伐刀者(ブレイザー)同士の優劣をつける程度のプラスにしかならない。

 

「それが今の世間一般の考え方だ。だから現状、黒鉄を評価できるシステム自体が存在しないんだよ。そして、その項目を省いた黒鉄は・・・・・・こういってはあれだが、最低だ。ここまで出来の悪い男も珍しい。君が十年に一度の天才ならば、この男は十年に一度の劣等生(・・・・・・・・・)というべきだろうな。それほどにどうしようもない。それは君も直に戦って見て分かっただろう。この男の渾身の一撃は、無防備な君を傷つけることすらできなかった」

「・・・・・・まあ、それはそうですけど・・・・・・それでも『留年』は納得できません」

「どうして?」

「アタシは皇族です。国家にとって強い魔導騎士の存在がどれだけ大切なものか、よく知ってる。そしてそれは国家に魔導騎士の育成を委任されている学園に対しても同じはずでしょう、だからあれだけ戦える人間を単位が足りないなんて理由で留年させるはずがない」

 

 《解放軍(リベリオン)》のような思想結社まで現れ始めた昨今、強い騎士はいつだって求められている。

 それを遊ばせておく理由はない。

 ステラの指摘に黒乃は苦笑いを浮かべ、ため息をついた。

 

「ふふ、やれやれ、なかなか痛いところをついてくる―――単位が足りない云々は―――学園側の建前だ」

「建前・・・・・?」

「ああ。ヴァーミリオン・・・・『黒鉄』という苗字に覚えはないか?」

「・・・・・こんな庶民のこと、アタシが知るはず」

 

 ない。そう言おうとしたが、たった一人その姓を持つ人物に覚えがあった。

 

「・・・・・・・・・まさか、『サムライ・リョーマ』ですか!?」

「その通り。日本を第二次世界大戦で戦勝国へと導いた三人の極東の英雄の一人『サムライ・リョーマ』。本名を黒鉄龍馬。彼は黒鉄の曾祖父にあたる人物だ。彼の他にも黒鉄の家は代々、優秀な伐刀者(ブレイザー)を輩出してきた明治から続く日本の名家で、騎士の世界にとても強い影響力を持っている。その黒鉄本家が破軍学園に直接圧力をかけてきたんだよ。『黒鉄の家を出奔したはぐれ者。黒鉄一輝を卒業させるな』とな」

「どうしてそんなことを・・・・・・・」

「名家故のメンツというものだ。家系から『Fランク(落ちこぼれ)』なんて出したら家名に傷が付く。そう思っているんだろう。今の騎士社会は『ランクこそが全て』だからな。

 そして前理事長はこれを承諾して実践教科を受講する最低能力水準などというありもしない規定を勝手に作り、黒鉄を授業から締め出した。留年はその理不尽の結果だよ」

「それが、親の・・・・教師のすることなの!?」

「信じたくないだろうが、いるんだよ。そういう大人は。もちろん私はそんなことを許すつもりはない。その手のクズは徹底的に掃除したが・・・・それで黒鉄の無駄になった一年間が返ってくるというわけではもない」

 

 黒乃から聞かされた一輝の周りの環境は嘘であって欲しいと思ったが、今こうして一輝が留年していることがその事実を裏付けていた。

 黒鉄龍馬という大英雄を持つ名家の一族故にその劣った能力のせいで周りからは『存在しないもの』のように扱われ、今までのチャンス全てを不当に奪われ、さらに彼の道を阻むためにありもしない基準を作り、どの下衆よりも勝るほどのどす黒い悪意で一輝をFランクという最低値になってしまった落第生に仕立て上げた。

 

「しかし、それでもあの男は腐らなかった。自分の価値を信じ続け、そのありったけをぶつけることで十年に一人の天才とまで言われる《紅蓮の皇女》すらも凌駕する『最強の一分間』に至った。龍切は黒鉄が倒れないように、友としてこの一年間、ずっと彼を隣で支え守り続けてきた。己の立場など気にせずに」

「・・・え?それはどういうことですか?」

 

 黒乃の言葉に困惑の色を浮かべたステラに黒乃は答える。

 

「龍切の留年理由はFランクだからではない、あいつのランクはお前と同じAランク、問題なく二年への進級も無事にあがれるはずだった、ただ・・・」

「ただ?」

「あいつは去年学園内では、有名なちょっとした事件を起こしたんだ。しかも、相手は前理事長。そいつの目の前でソイツにたいする暴言を吐いたんだ」

「えっ!?」

 

 ステラはそのことに驚愕する、学園内で有名になるような事件をあの少女が起こしているなんて思っていなかった。

 

「あいつが暴言を吐いた理由は自分のことではなく、黒鉄のことで怒ったんだ。前理事長は『黒鉄一輝と縁を切れ』と前々から脅してたらしくてな、最初は無視してたのだが我慢の限界に達したのか、ついに前理事長の目の前で暴言を吐いたそうだ。」

「・・・あ」

 

 なぜ詩音が前理事長を暴言を吐いたのか、答えはシンプルだった。

 彼女は許せなかったのだ、己の家の体裁を保つために一輝からチャンスを奪い続け、さらには友すらも奪おうとしたことに。そのあまりにも非情な行動に詩音は立場など気にせずに前理事長の目の前で怒り、縁を切ることを拒否しその後も彼の友であり続けたのだ。

 

「それで、前理事長をバカにした龍切はその後の授業を全てサボり、黒鉄の隣で静かに彼の心の支えになっていたようだな」

「そう、なの・・・・・でも、なんで・・・・・・」

「・・・・・さあ、な。こればっかりは二人に聞いてみないとわからん。ただ私は期待している、龍切はどうかわからんが黒鉄なら七星の頂に届くのではないか、とな」

 

 言って、黒乃は煙草を携帯灰皿に突っ込み、改めてステラに尋ねる。

 

「ヴァーミリオン。君は今朝、私のところに挨拶に来た時『なぜ留学して来たのか』という質問になんと答えたか、覚えているか?」

「ええ、あの国にいると上を目指せなくなるから・・・・・です」

 

 ステラを天才という概念の枠に押し込めてくる者たち。なんの根拠もなく増長し、上を目指す気力が知らず知らずのうちに削がれてく。

 

 それが何より恐ろしかった。

 

 だからステラは留学を決意し、自分より強い存在を求めて日本へやって来た。強い騎士と戦い、それらを悉く打ち倒し、七星剣王となるために、そして、愛するヴァーミリオン皇国を守るために。

 

「だったら、ステラ・ヴァーミリオン。とりあえずこの一年、黒鉄の背中を全力で追いかけてみろ。それはきっと、君の人生において無駄ではないはずだ」

「・・・・・まだ、わかりません。アタシはまだ、理事長先生の言葉でしか彼のことを知りませんから」

「・・・・・・それもそうだな」

 

 ステラの言い分に黒乃は納得し頷くと、部屋の出口へ向かいドアノブを回し、扉を開けると、

 

「だったら、自分自身で確かめるといい。さっき言ったように《一刀修羅》は自分の魔力も体力も気力も、全てを残さず使い切る一日一回限りの大技。しかも途中で中断することもできない暴れ馬のような能力だ。

 だからしばらくは目を覚まさないだろうが・・・・まあ、死にかけてるだけで死んでるわけじゃないからな。そのうち起きる。・・・・・・確かめた後で、どうしても黒鉄との相部屋が嫌だというのなら、私に言え。龍切とお前の部屋を交代させる」

 

 そう告げると、黒乃は部屋から出て行こうとした。

 そしてステラは、なにかを思い出したように黒乃を呼び止めた。

 

「・・・・・・ちょっと待って理事長先生」

「ん?どうした?」

「さっき、誰が私と同じAランクだって言いましたか?」

「龍切だが?」

「えっ、あの子Aランクなの!?」

「そうだ、まああまり知られていないがな。あいつもある意味化け物だぞ?お前の伐刀絶技(ノウブルアーツ)固有霊装(デバイス)無しで止めたらしいからな」

「そ、そんな事できるわけないじゃない!だ、だって太陽と変わらない温度をしているのよ!?そんなことをしたら死ぬわよ!?」

「だが、実際龍切は生きている。その隣で見ていた奴もいる。まあ時間ができたら勝負を挑んでみるといいんじゃないか?じゃあな、私はこれでも忙がしいんだ」

 

 そして今度こそ黒乃は出ていった。

 そして、部屋にはまだ目を覚まさない一輝とステラの二人が残された。

 静寂の中、ステラは二段ベッドの二階を見上げ、自分を倒した一輝のことを考えていた。

 

 自分は決して弱くない。

 

 程々に強い程度の相手に圧勝を許すほど弱いとも思っていない。

 

 つまり、それだけ一輝は本当に強い。だからこそ、その強さの根源。あらゆる理不尽に屈さず、自分の価値を信じ続けるその強さの理由を知りたい。

 

「・・・クロガネ、イッキ」

 

 その名を口にすると不思議と胸を疼きのようなものが甘く掻く。

 ステラにとって、これほど他人を理解したいと思ったのは初めてだった。

 ステラは自分の内から溢れ出る好奇心に後押しされ二段ベッドの梯子を登るが、一輝は変わらずに眠り続けていた。

 だが、無意識にランニングシャツの広い襟首から覗く一輝の背中に目が向く。

 あの頼りない、誤魔化すような微笑からは想像できないほど、広く、厚みのある背中だ。

 いや、体型としてはそれほど筋骨隆々というわけじゃない、どちらかというと線の細い部類に入るだろう。

 だが、鋼のような力強さが、その背中を実物よりも、ずっと大きく見せている。

 

(・・・・・・ちょ、ちょっとだけなら、大丈夫、よね?顔も、向こう向いてるし)

 

 ステラは心の中で見えない誰かに確認してから、そおっと一気の背中に手を伸ばし触れる。

 

「ぅ・・・・・ぁ」

 

 触ってみて感じた印象は、鋼、とは少し違っていた。強く生命の温度を感じるからか、例えるならば大地に根ざす大樹の幹のような、ずっしりとした力強さを感じた。

 

(・・・これが、男の人の背中・・・なのね)

 

初めての感触に夢中になっているとーーー

 

「ん、ぅ」

「きゃ・・・・・・!」

 

 突然、一輝が寝返りをうち仰向けになるが、その際にステラの右腕が巻き込まれて下敷きなってしまう。

 そのことに焦り、なんとか抜け出そうとするも、一輝の体が意外にも重く、手が抜けてくれない。

 

(・・・・・仕方ないわね)

 

 ステラは息を殺して一輝のベッドに上がり、彼をまたいで膝立ちになると、左手で一輝の左半身をそぉっとほんの少しだけもちあげた。

 

「うぅ、んっ!」

「ーーーーッ!」

「・・・・・・くぅ・・・・」

(・・・・・び、びっくりしたぁ・・・)

 

 とりあえず、脱出に成功したことに安堵するステラだったが、何をしても起きない一輝に、ステラの喉がゴクリとなる。彼女の視線は、寝返りですこしめくれた一輝の腹部に向けられていた。

 

(・・・・・男の人のおなか・・・・)

 

 一体、どんな感触なのだろう。見たことはあるが、触れたことはないそれに、ステラはドキドキする。

 

「・・・・・って!な、何を考えているのよステラッ!いけないわ。未婚の、それも姫であるアタシが、こ、恋人でもなんでもない男の人の体に興味を持つなんて・・・はしたないっ」

 

 別にそういうえっちな気持ちで興味を持ってるわけではなく、自分を倒した黒鉄一輝という、今まで出会ったことがない初めての存在。

 

 それに対する騎士としての純粋な好奇心だ。そのはずだ・・・たぶん・・・・・・おそらく。

 

「だ、第一、こいつもアタシの下着姿を許可なく見たんだから、おあいこ、よね・・・?」

 

 完全に詭弁だったが、ステラは無理やり正当化した。

 ステラは自分を打ち負かした初めての存在に対する好奇心に後押しされながら、一輝の腰に跨ったまま、そぉっと彼のめくれたランニングシャツの隙間に細い指を差し入れ、ゆっくりとみぞおちあたりまでまくりあげた。

 

「・・・これが、・・・男の人の、身体・・・・・」

 

 これほど近くで、そして生で見るのは初めてだ。

 女である自分のそれとはまるで別物だの体に刻む肉の陰影。

 その未知への興味に、ステラの脳が茹で、熱病でもこじらせたようにクラクラして、息が荒くなる。

 そして、我慢できずに一輝の腹部をつついてしまう。

 

「うわぁ・・・・」

 

 薄い皮の下から力強い繊維の感触が押し返してくる、弾力性に富み、しなやかかつ力強さを兼ね備えている。

 

「すごい・・・」

 

 闇雲ではなく、定められた目的と、確かな方法論によって作り上げられた戦士の体に、思わず感嘆の声が漏れる。

 同じ騎士としてこれほどまでに研ぎ澄まされた体を得ることが、いかに困難なことか、それを維持することが、いかに大変なことか、よくわかる。

 その身体は、一輝が苦難の中にありながらも、決して諦めない意志の証拠だ。

 

 知れば知るほど際限なく溢れ出してくる一輝に対する興味に息苦しさすら感じる。

 

「ハァ、ァ・・・アタシ、どうしちゃったんだろ」

「いや。それは僕が聞きたいかな。・・・・・ステラさん。何やってるの?」

 

 ステラが暑さに喘ぐような声で誰にともなく問いに自分の腰に跨り、自分の肌を弄っていたステラを、何が起こっているのかわからないという表情で見つめる一輝が問いを返して来た。

 

「き、きゃああああああああッッ!?!?」

「ちょ!そんな勢いよく立ち上がったらーーー」

 

 一輝の注意も虚しく突然のことで驚いたステラはものすごい勢いで天井に頭をぶつけ「ぎゃふん」とそのまま二段ベッドの上から床へ墜落した。

 

「す、ステラさーーーーんッッ!?大丈夫っ!?今思いっきり頭から行ったよねっ!?」

「だ、だだだ大丈夫よ!ちょっと落っこちて下に置いてあったトマトジュースを被っただけだからっ」

「いやそれ全然大丈夫じゃない!だってそれステラさんの中に入ってるトマトジュースだものっ!とりあえずジッとしてて!今手当てするからっ!」

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

「どうしたの?」

 

 両手にスーパーのビニール袋を持った詩音は一輝がステラの額に絆創膏を貼ってるのを見てそう呟く。

 

「あ、いや、これはちょっとね」

「まあ、別にいいけどね、一輝、台所借りちゃうね?今日会えたのも何かの縁、それを祝うパーティーしなきゃ!まっ、二人とも疲れててご飯のこと忘れてたでしょ?」

「「あ」」

 

 詩音は「やっぱりねぇ」と呟きながらビニール袋を持って台所へ向かう。

 

「じゃあ、ご飯を作るから、二人はゆっくりしてなさい。簡単に作っちゃうから」

 

 詩音はそう言って鼻歌を歌いながら、台所の中へと入っていく。

 そして、再び、一輝と二人きりになったステラは、一輝に話しかける。

 

「・・・イッキが、これまで実家や学校にどういう扱いをされてきたか、ってことを、理事長先生から聞いたわ」

「ちょ・・・なんであの人は人の家のデリケートな問題を吹聴してるんだよ。・・・ごめんね、聞いていて気分のいい話でもなかったでしょ」

「そんなことはどうでもいいわ・・・それより、教えて欲しいの」

「何を?」

「どうしてイッキはそんな目にあいながら、まだ騎士を目指そうとするの?」

「・・・?なんでそんなことを聞くの?」

「っ、べ、別にアンタのことを知りたいとか、そんなんじゃないのよ?自惚れないで!ただあんたみたいな魔力も最低で能力も最悪な、どう考えても騎士に向いていないヘボ伐刀者(ブレイザー)が、なんでそこまで頑張っちゃうのかなーって興味があるのよ!」

「なんかそこまでボロクソに言われると清々しくすらあるね」

 

 一輝は、少し気恥ずかしそうにしながら、話し出す。

 

「僕には、目標にしている人と恩返しをしたい人がいるんだ」

「目標にしている人?・・・それってもしかして、サムライ・リョーマ?」

 

 黒鉄の家の人間が目標にしそうな身近な英雄。

 その名前が突然出てくると一輝も思っていた。

 

「うん。・・・その通りだよ。僕は昔から才能がなくてさ。ずっと両親や親戚達に入らないものみたいに扱われてきた。代々続く騎士の家系だからね。才能がない子供はいるだけで迷惑(・・・・・・・)なんだ。だから分家の子供だって受けられる魔力制御のレクチャーにも参加させてもらえなかったし、毎年ある一族が集まる新年会にも僕の席はなくて、ずっと外側から鍵をかけられる自室(・・・・・・・・・・・・・)に閉じ込められていた」

 

『何もできないお前は、何もするな』

 

 それが五歳の誕生日に実の父親から最後にかけられた言葉だ。あれ以来、父は一言も一輝に話しかけては来なかった。

 いや、視界に入れたことすらもないかも知らない。

 そして、当主の意志は一族全ての人間に影響を与える。

 黒鉄一輝は、みんなから『いない者』のように扱われた。

ーーーとても、苦しかった。本当に消えてしまいたいとすら思った。

 

「でもそんな時、龍馬さんが声をかけてくれたんだ」

 

 今でもあの雪の日のことを、黒鉄一輝は鮮明に思い出せる。

 元旦で一族全員が集まった時、一輝は当然のように部屋に閉じ込められていた。そんな一輝に追い打ちをかけるように聞こえてくる楽しげな声。

 とても辛く、寂しかった。

 そんな状況に一輝は耐えることができずに、家を抜け出し、裏手にある山に入った・・・・が、そこで、道に迷ってしまった。

 日が沈むにつれ、気温はどんどん下がり、粉雪は吹雪に変わっていく。

 

 だけど・・・誰一人彼を助けには来なかった。

 

 当然だ。いない者を探す理由がどこにあるのか?

 ここで人知れず凍死しても、そのことを両親も、親戚も、悲しみはしないだろう。・・・たった一人、彼の妹だけは悲しんでくれるかも知れない。

 

 それでも、一人だけだ。

 

 悔しくて仕方なかった。

 

 自分の才能のなさがーーーではなく、誰も自分を信じてくれないことが悔しくて、涙が出た。

 

 そんな時に、白髪にカイゼル髭を蓄えた大柄な老人、黒鉄龍馬が一輝の前に現れたのは。

 

そして、こういった。ーーーーその悔しさを捨てるなと。

 

 その悔しさは、まだ一輝が自分を諦めてない(・・・・・)証拠だから。

 

『いいか小僧。今はまだ小さな小僧。お前が大人になった時、連中みたいな才能なんてちっぽけなもんで満足する小せぇ大人になるな。分相応なんて聞こえのいい諦めで大人ぶるつまらねえ大人になるな。そんなもん歯牙にも掛けないででっかい大人になれ。ーーー諦めない(・・・・)気持ちさえあれば人間はなんだってできる。なにしろ人間ってやつは翼もないのに月まで行った生き物なんだからな』

 

 黒鉄龍馬は、少年のような笑顔で一輝にそう言い放った。

 

「・・・すごく、嬉しかった。生まれて初めて、自分を諦めなくてもいいんだって、言ってもらえた瞬間だったから。それがただの言葉であることは子供の僕だってわかっていたんだ。彼が僕の人生に何を保証してくれるわけでもないことも」

 

 でも、それでも嬉しかった。ただの言葉でも、本当に救われたのだ。

 だからこそ、一輝は決めた。

 

「だからその時決めたんだ。どうせ大人になるのなら、僕は彼のような大人になろうって。いつか僕も同じ境遇の人間を見つけた時に、父親達のように『諦めろ』と突き放す大人ではなく、『諦めなくていい』と、才能なんて人間のほんの一部でしかないのだと、ーーー彼の言葉を他の誰かに伝えられる大人になろうって。でも、そのためには、今のままじゃダメだ。強くならないといけない。彼のように強く、でないと、僕の言葉はただの負け惜しみにしかならない。だから、さ。こんなところで諦めてなんていられないんだ。黒鉄龍馬と同じくらい強くなろうと思ったら、七星剣王くらいにはならないと話にならないからね」

「・・・そう。それがイッキの『夢』なんだ。じゃあ、恩返しをしたい人って?」

「恩返しをしたい人は、僕のたった一人の友達の龍切詩音だよ」

 

 一輝は、台所の方を見ながらそう言う。台所は暖簾がかけられており、わからないが、中からは何か食材を切る音がリズムよく聞こえていた。

 

「シオンが?彼女が何をしたの?」

「詩音が留年をした理由は聞いた?」

「ええ、確か授業を途中から全部サボったことと、前理事長をバカにしたんでしょ?」

「うん、彼女は僕が入学したときから、ずっと僕に仲良くしてくれていたんだ。周りが僕を遠ざけていた時も、ずっと・・・・・」

 

 一輝は去年、この破軍学園で彼女と初めて会った時のことを思い出す。

 あの日は、桜が綺麗に咲いていた日だった。

 クラスメイトになった彼女は一輝の席に近づいてこう言ってきた。

 

『私の名前は龍切詩音、せっかくクラスメイトになったんだしこれから一年間よろしくね。黒鉄一輝』

 

 なんの悪意も込められておらず、ただ純粋に一輝と仲良くなりたいという意志が彼女の笑顔を見てすぐにわかった。

 だけど、周りはそうはいかなかった。

 ただ一人、実戦教科を受けさせてもらえない生徒。名目上は『能力不足につき危険』ということだったが、本当は黒鉄本家の黒い思惑が絡んでいた。それは当時の教師陣の態度を見れば丸わかりだ。

 

『一輝に関われば内申が悪くなる』

 

 そんな噂が囁かれ、みんなから距離を取られるのも当然の成り行きだった。

 

 だが、詩音は違った。

 彼女だけはずっと一輝の友人でいてくれた、一輝が受けれない実戦教科も、全部詩音が教えてくれた。

 そして、一輝が授業を受けれない教科を全部詩音が教える日々が続いた時、詩音と一輝は揃って理事長室に呼ばれた。

 内容は、黒鉄家の落ちこぼれである黒鉄一輝と縁を切れ、それは君のためでもある。だった。

 それは前々から言われていたらしく、その度に彼女はその要求をのまないと留年させるぞ、と脅されていたらしい。

 

 そのあまりにも残酷な事実に一輝は言葉を失い、隣に立つ詩音を見ることしかできなかった。

誰だって、留年するのは嫌なはずだ。だから、詩音も一輝から離れてしまうのかと、そう思った時だった、隣に立っていた詩音が前理事長に近づくと、思いっきり机を両手で叩いた。

 

 そして、叩いた事に驚き怯えた目で見る前理事長の胸倉を掴みあげ詩音はこう言った。

 

 

 

ーーーうるせぇっ!、と。

 

 

『うるせぇっ!お前に私の交遊関係をとやかく言われる筋合いなんかねぇんだよ!禿げダヌキっ!何で私があんた達に言われて一輝(友達)と縁をきらねぇといけないの?そんなことを言う権利があんた達にあるの?一輝の本当の強さを努力を見ない奴らが、ベラベラと好き放題言ってんじゃねぇよ!

 黒鉄一輝の人生は黒鉄一輝が決めるもの!あんた達が決めるものじゃない!次に一輝の邪魔をしてみなさい、今度は、どうなっても知らないわ』

 

 詩音は前理事長を睨みながら、憤怒に満ちた顔で殺気を放ちながらそう言い放った。

 

「・・・・龍馬さんに言われた時と同じくらいに嬉しかった。龍馬さん以外にも僕を認めてくれる人がいて、僕の生き方を応援してくれる。初めて僕を友達と言ってくれた。同時に、他人のために怒るその姿に僕は憧れた。どんな権力にも屈せずに、自分の信念を貫いていくその強く逞しい姿に、どんな理不尽も己の力で切り伏せていく姿は僕にとっての理想の騎士だ。だから、僕は龍馬さんのような強い人に、そして詩音のような優しい人になりたいと思った。どんなことがあっても諦めずに何度も立ち上がり己の信念を貫き通す人にね」

「・・・いい友達を持ったわね。そんな人、そうそう会えないと思うわよ?」

「僕もそう思うよ。彼女と出会えたのはとても幸運だってね」

「でも、話を聞く限りだとシオンって、かなりの負けず嫌いじゃない?」

「そうだね、彼女は諦めという言葉を極端に嫌うからね。でも、それは僕たちにも言えるはずだよ。僕達もかなりの負けず嫌いだからね」

「それもそうね」

 

 ステラはくすくすと笑うと、身体の力を抜いて、両手を上に上げる。

 

「・・・あーあ。・・・・負けたわ。天才とか凡才とか、そんなつまらない尺度でアンタを枠にはめて、本当のあんたを見ていなかったのはアタシの方。こんな半端な心持ちで、アンタみたいなとんでもない負けず嫌いに勝てるはずなかった。・・・・アタシの完敗よ。イッキ」

 

 どこか清々しさを感じさせる言葉には、黒乃の言葉を疑う気持ちはなかった。

 

 ステラは心からこの出会いを喜んだ。

 

 もし、彼女がヴァーミリオン皇国にいたままだったら、絶対あり得なかった出会い。

 

 海を渡って来た甲斐があったのだと実感できた。

 

 そう思った時、

 

 

「おーい、ご飯できたよ~。ちょっと、そこどいて~」

 

 詩音が台所から両手に鍋を持ちながら戻って来た。

 

「あっ、詩音。ごめん、ご飯作らせちゃって」

「気にしなくていいよ。あと、一輝?私はお礼を言われた方が嬉しいの、忘れた?」

「そうだった。ありがとうございます。詩音さん」

「分かればよろしい!今日はステラの留学祝いと一輝の勝利祝いを兼ねてのしゃぶしゃぶパーティーだよ!」

「へー、しゃぶしゃぶは初めて食べるわね」

「詩音の料理は絶品なんだよ。店でも出せるくらいに」

「そんな事無いよ~、えへへ。

 まっ、今日はしゃぶしゃぶの鍋の出汁とつけるタレ、色んな具材を切り揃えただけだし」

「そんなに美味しいの?だったら、お手並み拝見といこうかしら」

「お手柔らかに、まあやるのは自分自身なんだけどね?」

 

 その後、三人でしゃぶしゃぶパーティーをはじめ、一年の時の話をしたりと色々な話で盛り上がった。

 

 

 

 

「あっ、そういえば、ステラさんは僕に負けたから僕の下僕ってことでいいんだよね?」

「・・・・・・へ?」

「一輝、ここでそれ持ってくる?」

 

 

 

どうやら、平穏な日常はまだ来ないようだ。




詩音「いかがだったでしょうか!今回はずいぶんと長かったですねぇ・・・えっ作者ですか?もうここには出てこないらしいです。私のOHANASIがトラウマらしくて・・・・
 でもその変わりに紙が渡されるようになりました。
 えっと・・・『早く詩音の戦闘が書きたい』、だそうです。
それでは皆さんまた次回お会いしましょう」
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