落第騎士の英雄譚~破軍の眠り姫~(一時凍結) 作:スズきょろ
間が空いてしまって申し訳ないです。
今日は詩音の心の傷がわかるかも?
それでは、どうぞ!
ショッピングモールに
二人は
「一輝。アレ」
ささやき声で有栖院が指した先には、予想通り人質に紛れ込んでいる詩音と珠雫の姿があった。
「ステラちゃんいないわね・・・」
「・・・・いや、ステラもいるよ。詩音と珠雫の間にいる鍔の広い帽子の子だ。きっと詩音が渡したんだろう」
「なるほどね。でもよくない状況ね」
「うん。人質と犯人の距離が近い。それに頭数がたぶん足りない」
「そうね。少し待ちましょう」
二人は
──しかし、事態は二人が予想しなかった思わぬ方向に進んだ。
『お母さんをいじめるなぁーーーーっ!!』
「「ッ!?」」
突如、人質の小学生くらいの少年が銃を構えた
(なんてことだ!)
一輝たちは少年を止められる位置にはおらず、兵士のズボンに白い斑が描かれる。だがそんなものに攻撃力などあるはずもなく、相手を激昂させる効果は十二分にありすぎた。
『こんのガキがぁぁああああ!!!!』
兵士は激怒し、自分の腰ほどにも身長のない子供に容赦なく蹴りを見舞う。はずだった。
『うおっ!?』
「えっ?」
その足はなにもない空間を蹴っただけだった。
さっきの少年が能力を使って避けたなら別だが、少年からは魔力を感じることはなかった。だったら何故少年が消えたのか。その答えは少し離れた場所にあった。
「一輝。あれって!」
「君が、助けたのか」
その場所に立っていたのは、さっきの少年を抱えた銀髪の少女が立っていた。見間違えるはずがない。その少女は一輝の心の許せる友人。
「詩音」
龍切詩音だった。
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詩音は少年を立たせ肩を両手で肩をつかんで向き合った。
「少年、君の行動は凄いと思う。けどさっきのはただ相手を怒らせただけだ。お母さんを守りたいならまずは、自分の身を守れるようになってから、それが出来るぐらい強くなったらお母さんの事を守ってあげなさい。わかった?」
「わかった。お姉さんありがとう!」
「うん、どういたしまして」
詩音はそう言ってまた少年を抱え音もなく移動し、人質の輪の中に戻り、少年をおろすと母親であろう女性が近づいてきた。
「お母さん!」
「シンジ!どうもありがとうございます!」
「いえ、その言葉はここを乗りきった後で」
そう言って詩音は
「おい、姉ちゃん。なに余計な事してくれたんだよ」
「余計な事・・・とは?」
「そこのクソガキを逃がしたことだよっ!」
「ふーん」
詩音は男の言い分に興味がなく、適当に返事をする。その態度は男に火に油を注いだようで、手に持っていた銃を人質に向けて構えた。
「テメェッ!ぶっ殺してやるっ!」
引き金に手を置き今にも発射されそうになった、その時、
「止めねえか」
男の声が掛かり発砲されることはなかった。
「ビ、ビショウさん!」
「おいおい、俺は人質には手を出すなと言っておいたはずだぜ?」
「で、でもあのクソガキが名誉市民である俺にアイスを投げつけてきたんですよ!それをそこの姉ちゃんが邪魔して!」
男はそう言って詩音を指差した。そしてビショウと呼ばれた男は詩音の方を向いた。
「黒地に金刺繍の外套・・・・貴方がこの集団の親玉ね」
「ヒヒヒ、よくご存じで。ええ、その通りです。名はビショウと申します。そう言うあんたは
「そうよ。名前を言うつもりは更々ないけどね。私は早く帰りたいの、だから容赦はしない!」
詩音は静かに
「おっと、あぶない」
(手応えが、ない!?)
「ヒヒヒ、ざーんねん。ほぉれお返ししますよ!」
ビショウの右拳が、詩音の腹部を撃ち抜いた。
「か、はっ・・・・・・・!?」
(この力、まさか!?)
詩音は殴られた腹を押さえながら、ビショウのふざけた攻撃力と防御力のからくりに気づいた。
「あん、た、その指輪が、
「ヒヒヒ、大当たりでさぁ。ですがどうします?これのからくりが分かったところでどうしようもないのでは?」
「確かに。でも私の目的は達成した」
詩音が言い切ると同時に、
「《
「なにっ!?」
水使い・黒鉄珠雫が生み出した水の防壁が、人質と
そして詩音は、それを合図に走り出した。
「カカカッ!あなたは、何も学習していないのですかぁ!」
「・・・・・・・・」
詩音は先程と同じようにビショウに近づいた。ビショウは左腕を前にだし詩音の拳を受け止めようとする、だが詩音はビショウに拳が届く直前で勢いを殺さずに左足を軸に右回転し、裏拳でビショウの左肘を砕いた。
「ぎゃあぁぁぁああ!?俺の腕がぁああぁぁあ!!」
「五月蝿いなぁ。まぁ、これで、終わりだけど」
詩音はそのまま回転の勢いを使って、左腕でビショウの腹をお返しとばかりに撃ち抜いた。ビショウは防ぐ事もできず、口から血を吐きながら柱にめり込んだ。
「て、てめぇ・・・よくも、やりや、がったな。ゴボッ・・・」
「あれ?まだ生きてたの?殺さなきゃ」
ビショウがまだ生きているのを確認した詩音は、ゆっくりとビショウに近づいていく。その詩音の目を見たビショウの顔が恐怖に染まった。
「ひぃぃっ!?くるな!来るなぁっ!!」
詩音の瞳に光はなく、目の焦点は合っていなかった。そして確かに分かるのは、その瞳に込められた殺意だった。
「五月蝿い、
詩音は壊れた人形の様に呟きながらビショウに近づいていく。まるで何かに、それこそ
「やめろぉっ!!来るなぁぁぁぁっっ!!死にたくないっっ!!」
「殺す。私は貴方を殺すっ!!」
そして詩音はビショウの目の前に立つと、右の拳を明かな殺意を込めて振り下ろした。だが、その拳がビショウに届くことはなかった。なぜなら、後ろから誰かが詩音を後ろから抱きしめて拳を止めたからだ。詩音の事を止めたその人物とは、
「詩音!」
青い《一刀修羅》の光を纏った一輝だった。
一輝は詩音に優しく語りかける。
「もういいんだ。皆助かったんだ。だから、もう休んでいいんだよ」
「ほんとに?もう、大丈夫?誰も、泣かない?誰も、悲しまない?誰も、死なない?」
「うん、もう大丈夫。誰も泣かない、誰も悲しまない、誰も死なないから、大丈夫だから休んで」
「そう、う、ん・・・わかっ・・た・・・・・」
詩音は糸が切れたように力をなくし、一輝の腕の中で気を失った。そんな一輝に有栖院が話しかけてきた。
「一輝、こっちはもう片付いたわ。詩音は大丈夫?」
有栖院の来た方には能力で拘束された、
「うん。気を失っているだけだよ。目立った傷は無さそう」
「そう、なら良いわ」
「それにしても、止めなかったら本当に・・・・」
「殺してたわ。確実に、頭を砕いてね・・・・」
「これが詩音の心の傷、なのかな・・・」
「たぶんね、これは予想以上に深そうね・・・・」
(怖かった、いつも明るい詩音があんなに怖いだなんて・・・
正直、あれが同一人物だなんて思いたくない、でもいつかは向き合わなきゃいけないんだ)
腕の中で眠っている詩音の顔にかかった髪をどかし、静かにけれども、確かに決意した一輝だった。
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「ステラ、ちゃんと考えて行動しなさいよ・・・・」
呆れていた。確かに好きな人が(本人には言わないが・・・・)バカにされたことを怒るのは分かるがあまりにも軽率すぎだ。
「うっ・・・だって、イッキがバカにされていても立ってもいられなくて・・・」
「はぁ・・・まぁいいわ、でも仮にも一国の皇女なんだから軽はずみに相手の挑発を受けないように」
「わかってるわよ!にしてもあのキリハラって奴ムカつくわね!思い出したらまたイライラしてきた!」
「まあね。アイツ何回も断ってんのに『僕のガールフレンドにならないか?』ってしつこいのよね~
私、好きな人いるってのに・・・」
「やっぱりアイ・・・ん?ちょっと待ってシオン、今貴女、好きな人いるって言ったの!?」
ステラは詩音がいきなり爆弾を投下したことに少し時間を開けて気がついた。
「言ったよ?でも、あっちはそういうの興味無さそうなのよね。はぁ、会いたいなぁ」
そんな詩音は頬をほんのり赤く染めて、にやけていた。完全に恋する乙女の顔だった。
「そう言うステラはいないの?好きな人」
「は、はぁ!?い、いいいいるわけないじゃない!」
「お、おおう・・・・わかったよ・・・」
(うん、確定だね)
ステラの反応でいることを確認した詩音は、ニヤニヤしながら席を立った。
「じゃあステラ、私用事あるから帰るね」
「そう・・・じゃあまた明日話しましょ?」
「うん、また明日ね。一輝と仲良くね~プププ!」
「な、なんなのよ!その顔は!?」
ステラの文句を背中越しに聞きながら、詩音は自分の部屋に戻った。シャワーを浴び、いつものキグルミパジャマ(今日はネコだ)に着替え布団で眠りについた。
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わたしのまえにひろがる、あかいえきたい。
たおれて、うごかないぱぱとまま。
ぱぱとままのからだからながれてるあかいえきたい。
ぱぱとままのまえにたっている、あかいえきたいのついたほうちょうをもったおとこのひと。
おねえちゃんがわたしをだきしめながらないている。
おとこのひとがちかづいてくる。
うごかないわたしのからだ。
うごかないおねえちゃん。
このままだとおねえちゃんがしんじゃう。
それはだめ。
ほうちょうをかまえたおとこのひと。
こないで。
わたしもしんじゃう。
いや。
ふってきたほうちょう。
しにたくない!!
わたしのまえでなにかがはじけたおとがした。
まえにあったのはあしだけになっているおとこのひとだったもの。
わたしのてにはわたしのれいそう。
てにひろがっていたのはあかいえきたい。
あかいえきたい、このあかいえきたいはなに?
からだにながれてるあかいえきたい?
それは、ち。
ちがわたしのてについている?
つまりわたしは、ひとを
わたしは殺した。わたしはひとを殺した。殺した。殺した。殺し殺した殺殺した殺し殺殺殺した殺した殺殺した殺殺した殺した殺殺した殺殺殺し殺した殺殺し殺した殺殺殺殺し殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺した。
わたしののどからでるのはひめい。
そっか、わたしは、そうか、わたしは、
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「最近見なくなったと思ったのに・・・・・ダメだなわたしは。あれはお姉ちゃんを守るためにやったんだ。そうしなきゃ私たちは・・・・あ、あれ?何で、涙が?」
詩音はベッドから出ようとしたが、体に力が入らなかった。それどころか体が震えだした。寒い訳でもないのに。詩音はベッドの中で自分の膝を抱えて丸くなった。
「こわいよ。いたいよ。だれかわたしをたすけてよ」
少女の声は誰にも届かない。
一人きりの部屋の中で、少女の泣き声が響くだけ。