夜中にふと目が覚めた。
何かがいつもと違う。
今まで経験したことのない痛み。智を起こさなくては。
「智起きて。どうやら陣痛が始まったみたいなの」
「え、本当か。俺は何をすればいい」
「以前話した通りに、出産の準備をお願いします。痛い」
これは間違いなく陣痛の痛み。
いよいよだ。
まず始めにやる事は。
そうだ、陣痛の間隔を測る事だ。
スマホ機能の中で時計を呼び出してと、まだ間隔が長いわ。
この間隔だとすぐには生まれそうにない。
人によってはすごく短時間で出産を終わる人もいるみたい。
私もそうなるといいんだけど。
明け方になった頃、少しづつ痛みが増していった。
間隔も早くなって来た。
もうすぐ、もうすぐ赤ちゃんに会えるんだわ。
「思っていたよりも痛い」
智はこっちを見ている。
どうしていいか分からず、ウロウロしている。
そうだ、彼に手伝ってもらおう。
「智。背中をさすってくれる。少しは痛みが和らぐみたい」
「もちろんだよ。
そういえば、背中をさすると痛みが和らぐって美貴が言っていたな。今思い出したよ」
「ありがとう智。
少し楽になった。
陣痛の間隔を測ったら、生まれるのはまだまだみたい」
「今度は俺が間隔を測るよ」
思わず私は反対の仕草をした。
なぜ私は反対したのだろう。
そうか。
「間隔を測るのは出産の痛みをそらす為。
間隔がだんだんと短くなって行くごとに、赤ちゃんと対面する時間が近づいくる。もうすぐ赤ちゃんに対面する喜びが痛みを和らげてくれる。
智。ありがとう、気を使ってもらって」
「そうか、そうだよな。
俺は出産に立ち会うのは初めてなんで、わからない事だらけだよ」
「私だってそうよ。
今はただ、私の心に眠っていた女の本能に耳を傾け、出産に意識を集中している」
「そうか。
では俺は、俺の心に眠っていた男の本能に従うか」
「ウフフ。それは今でなくてもいいわ」
もう智ったら。
彼が私を少し笑わしてくれたので、肩の力が抜ける気がした。
そういえば、お産は昔女の人なら誰もが経験する事。
色々心配もあるけれど、生まれてくる赤ちゃんの事だけ考えよう。
それに愛する彼もいるし。
あ、これは。
「どうやら破水したみたい。
それに、間隔がすごく短くなっている」
痛みが極限にちかい。
こんな痛みは生まれて初めて。
でも、でも、この痛みがないと赤ちゃんに会えない。
もう少しだ。
そうだ、呼吸法を忘れていたわ。陣痛に合わせて。
「フ。フ。フ。フ」
「痛い。
智、手を握って」
呼吸法で少しは楽になったけど、ますます痛みが増してくる。
彼の手が私を勇気付けてくれる。
智ありがとう。
「赤ちゃんの頭が少し見えた。
美貴がんばれ」
「本当に。もう少しね。
もう少しで会えるのね」
この時、私の考えていたのは赤ちゃんのことだけだった。
「頭が完全に出たよ。
両手で赤ちゃんの頭をしっかり持ってと。
これでいいよな」
「よし、美貴、力んで」
「んーー」
力んだら、急に違う感覚になった。
「オンギャー、オンギャー」
生まれたんだ、
私達の赤ちゃん。
智が赤ちゃんを拭いてくれている。
男の子。それとも女の子。
健康に生まれた?
すぐに聞きたかったけど、疲れすぎて声にならない。
「生まれたよ。
五体満足で健康な俺たちの男の赤ちゃんだ」
「本当に、ありがとう智、ありがとう」
「いや。
俺の方こそありがとう。
こんなに感動したのは生まれて初めてさ」
智は生まれたばかりの赤ちゃんを、私にそっと手渡してくれた。
赤ちゃんは暖かくて、陶磁器のように滑らかで、そして、とても柔らかかった。
集めた知識の中で、生まれた子をすぐに母親に抱かせ、おっぱいをあげるとホルモンの関係で後産が楽になる。
そして、おっぱいの出も良くなり、親子の繋がりがより親密になる。
さらに、赤ちゃんの精神が安定すると知った。
おっぱいをあげるたった1つの行動が、こんなにも奇跡を産んでくれる。
人口子宮では考えられない事だ。
でも、おっぱいを吸われるとくすぐったい。
しばらくすると赤ちゃんは眠った。
疲れたんだね。
よく頑張ったね。
私も疲れた。
「智、そろそろ産湯の準備をお願い。
私、体力がほとんど残ってない」
「ああ、わかっているさ、任しときなよ」
智は素早く産湯の用意をしてくれた。
起こさないように気を使ったけど赤ちゃんは目を覚ました。
でも、よほど疲れていたのか、産湯の中でまた眠った。
もしかしたら、羊水の中と同じ感覚だから、安心して眠ったのかな?
寝顔を見ると幸せな気分になってきた。
そして強く思った。
産んでよかったと。
「よく眠っているな」
「ええ、本当に」
「美貴、お疲れ。少し休んだら」
「そうよね。休んでおかないと。
この子にいつ起こされるか分からないもの。
子育ては体力よ」
自分で言って少しおかしかった。
体力の言葉に力が入っていたから。赤ちゃんは1日のほとんどを寝ているが、お腹が空くと夜中でも起きると学んだ。
これからも体力勝負だ。
でも、本当に疲れたわ。
赤ちゃんの隣で添い寝をして休もう。
可愛い寝顔。
私、本当に赤ちゃんを産んだんだ。