「母さん、もうお腹いっぱいだよ」
明日は俺の22歳の誕生日だ。
22歳になると、誰もが異性のアンドロイドと結婚しなくてはならない。
気が乗らない。
「本当にもういいのかい?
母さんの手料理はこれで最後なんだよ。」
「わかっているさ。
色々と今日までありがとう、母さん」
幼い頃は母を慕って、いつもまとわり付いていた。
いつの頃からか忘れたけど、母が自分の本当の母ではなくアンドロイドと知った。
その後は、俺と母の間の距離が、自然と大きくなっていった。
「身体には気をつけてね。引っ越しの準備は終わったの?」
「ああ、もちろんさ、最後の荷物は宅配サービスに頼んだ。家具は明日からのハネムーン中に決めるよ」
「それで安心したわ」
俺はプログラム部門で最高位を取った。
大学の学力評価で最高位を取ると、超エリートのコースが約束されており、政府の中枢で働くことが約束されていた。給料はポイント制で、普通の人の初任給は年間500万ポイントだが、エリートはその10倍の額だ。
ただし、プログラムのエリートは一般市民との交流は禁止されていた。政府の機密を守る為、なんだそうだ。
つまり、家族団欒の夜は今夜限りだ。
「さすがね。最高位を取るとは。明日は、異性の相手を選びに行く日でしょう。最高位だと最新のアンドロイドが選べますね。おめでとう」
「母さんと父さんのおかげさ。感謝してるよ」
決まりきった言葉のやり取り。表面上は完璧な母だけど、内面の感情が全く伝わってこない。
ま、当たり前か。母さんはアンドロイドだからな。
明日は異性のアンドロイドを選ぶ日か。気が乗らないな。母さんと同じアンドロイド。表面は完璧。でも中身が・・・。
父さんはアンドロイドではなく、生身の人間だ。
父さんとは血では繋がっていない。
つまり、育ての親だ。温厚で、口数が少ない。
でも、俺が間違った事をしたら本気で怒ってくれた。時には父さんは、理不尽な事を言うこともあったが、心は暖っかた。
母さんとはまるっきり違う。
仕事でほとんど家にいなかった父さんだけど、懐かしい思い出が次から次へと浮かんで来た。
「おい、智。母さんみたいなアンドロイドがいいぞ。」
「 もー、あなたったら」
父さんが、母さんのことを心から愛しているのは知っている。
父さんの言いたいことはわかる。
けど最も避けたいタイプだった。
「ああ、もちろん。そのつもりさ」
心とは裏腹なことを言った。
父さんを傷つけたくない思いがそうさせた。
俺の名前を付けたのは父さんだった。こんな時代だからか、智略に長けた子に育って欲しいとの思いから名前をつけたんだとか。
父さんと、この先一生会えないけれど、父さんのことは死ぬまで忘れないだろう。
少し、悲しくなった。
ベッドに入って眠ろうとしても、これからことを考えるとなかなか眠れなくて一晩中起きていた。突然、腕に巻いてあるスマホが鳴った。外を見ると朝日が見えた。いつの間にか眠っていた。
「もしもーし、智、起きてるかー」
この声は悪友の隆だ。
そういえば、一緒にアンドロイドを見に行く約束をしてたのを忘れていた。
彼はこの日が来るのをとても楽しみにしていた。これに関していえば俺とは真逆だが、普段は気が合い、時々行動を共にしていた。
今回も一緒に行くことにしていた。
「悪い、昨日眠れなくって。今どこだ」
「あのなー、待ち合わせの場所だよ。早くこっち来いよ。」
「わかった、すぐ行く」
身支度を済ませると、両親に最後の挨拶をした。
待ち合わせの場所に行くと、彼はイライラしながら待っていた。
「やっと来たか。おい、早く行こうぜ」
「分かったよ」
2人は早速電車に乗った。
電車に乗るのは久しぶりだった。
車窓の外を見ると、俺が住んでいた高層マンションが丁度見えた。その周りには、やはり高層マンションが建っている。さらにその奥には自然な感じで作られた林と草原が広がっている。そして、その先には大きな川が流れている。この川の岸辺で幼い時にキャンプファイアをした記憶がある。
川の反対側には、大人達はハッキリと言わなかったけど、どうやら女性だけ住んでいるみたいだ。誰もそこにいったことがない。
あくまでも噂だ。
「おい、着いたみたいだせ。楽しみだな。そういえばお前、卒業試験の成績はどうだった?」
「プログラム部門で最高位を取れたよ。お前は?」
「本当かよ、おれも機械工学で最高位さ。おたがいに最新のアンドロイドとご対面できるな。」
「そうだな」
返事はしたものの、本心ではなかった。
駅に着くと案内の掲示板が目に留まり、案内の通りに駅の中を歩いた。
駅の外に出ると周りは全てガラスの巨大なビルが目に入ってきた。
このビルがアンドロイドを管理、運営している中心的な存在だとわかった。
入り口に入ると受け付けの人がいた。
人間の男性だったのはすぐに分かった。動きと目の視線がアンドロイドと違う。
その中の1人が話しかけてきた。
重要なセキュリティエリアではアンドロイドではなく、生身の人間が対応していた。
「隆君と智君だね。待っていたよ。
念のため、スマホを確かめさせてくれ」
スマホは、物心着いた時から腕に装着されていた。
最近分かったのだが、これは人間を管理す為の物。幼い頃から外そうと何度も試したけど外れなかった。バイオ的にロックがしてある。
外すには、中枢のコンピュータにアクセスして、解除するしかなかった。
もし外したければ、ハッキングするしかなかった。
不思議な事に、中枢のコンピュータに対しては、常に外部からのハッキングの脅威が襲い掛かっていた。それを防ぐ為のプログラムを作るのが、プログラム科を卒業した人達だ。
つまり、俺の仕事になるわけだ。
しかし、誰がハッキングを?
「間違いないな、よしと。」
「えーと君達の成績、ほー、2人とも最高位じゃないか
。知っていると思うが、最新のアンドロイドが選べるぞ」
「ありがとうございます。」
隆はすぐに返事をした。
俺はただ、黙っていただけだった。