家族の絆   作:坂本ヒツジ

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牢屋

 あれから何日経ったのだろうか。

 

 多分、二週は過ぎている。

 一晩中、眠られない日々が続いている。

 

 夜が怖い。

 

 寝ると美貴と道夫の夢を見る。

 助けてと涙を流しながら俺にすがるが、助けることができない俺がいる。

 

 夢から覚めると、俺は家族を助けられなかったこの現実に対して、涙を流している。

 どれだけの涙を流したろうか。

 もう家族に会えないのだろうか。

 

 担当の警察官に、家族と会いたいと切願しても、規則だからダメだと言う。

 せめて美貴と道夫が一緒にいるかと聞いても、管轄外だから知らないと言う。

 今日も向こうから警察官がやって来た。

 

「おはよう、智くん」

 

 ん。何か雰囲気が違う。

 誰だ。

 

「ま、返事をもらえないのは仕方ないか。

 自己紹介をさせてもらうよ。法律では、犯罪者に対して弁護士を付けることが義務付けられている。そして、君の弁護士が私だ。それでと。色々とこの件に関して調べた結果、君を助けられる方法が見つかった。君は奥さんが、妊娠を告白されて初めて彼女が人間だと知った。間違いないね」

「ああ」

「よかった。それを聞きたかったんだよ」

「どう言う意味だ」

「告白されてからの君は、子供という人質を常にとられていた。今回の一連の出来事も仕方なく行った。そこで」

 

 彼はカバンの中から一通の書類を取り出し、俺に見せた。

 

「これは離婚届だ。この書類によって君は、身の潔白を証明できる。普通は2人のサインが必要なんだが。特例があって、ま、これが少しややこしいんだが。相手が修理不可能な状態 であれば、1人のサインでも離婚が成立できる。今回のケースではこれを利用するんだが、いかんせん、奥さんは人間だ。で、この問題の箇所の修理不可能の言葉を拡大解釈してだな、結婚届のサインをした時、すでに正常な神経でなかった、別の言葉に置き換えると、修理不可能ということができる。つまり、彼女は君を騙して結婚届にサインさせたので、この離婚届を出せば君は晴れて自由の身だ」

 

 頭が混乱した。

 

 俺が助かる?

 

 いや、俺のことよりも美貴と道夫のことだ。

 

「ちょっと待ってください。俺の身はどうでもいい。妻と息子はどうなるんですか」

「それがだね。君も少しは知っていると思うが、システムに対しての罪は法律では追放と明記されてあって、今回のケースがそれに当たる。子供はシステム外で生まれたから、母親と一緒になるのは間違いないね。近年では稀なケースだ」

 

 美貴と道夫が追放。

 

 そして俺だけが助かる。

 もう家族と会えないのか。

 何か手がないのか。

 

「俺も追放の罰を受けたい。弁護士さん、どうすればいい」

「え、君は何を言っているんだね。この書類にサインをするだけで元の生活に戻れるというのに」

「俺はどうしても家族と一緒に居たいんだ。たとえ追放されようが、これから1人で生きていくより、はるかにマシだ」

「んー、君の言っている事が理解できない。家族だって。元の生活に戻れば新しい奥さんを迎え、養子として君の子供もできる。何が不満なんだね。私には分からない」

「弁護士さんが分からなくても、俺はそうしたいんだ。教えてくれ。どうしたら俺は追放される」

「今日はどうやら君は、正常な精神状態ではないようだ。また来るとしよう」

「待ってくれ。俺の話を聞いてくれ」

 

 彼は後ろも振り向かず去って行った。

 

 美貴と道夫が追放される。

 俺はどうしたらいい。

 今回もまた家族を救えなかった。

 

 涙がまた流れ落ちてきた。

 

 彼が言っていた。俺だけ助かって、また新しい家族を作れと。

 

 出来るはずないじゃないか。

 俺の家族は美貴と道夫しかいないんだ。

 2人が追放されて、俺だけ偽りの家族の中で暮らすことはもはやできない。離婚届には絶対にサインをしない。これから一生涯。家族と一緒になれなくても、結婚をしている証を捨てたくはない。

 

 彼はたぶん、本当の家族を知らないからあんな事が言えるのだろう。思えば彼も可哀想な人なのかもしれない。アンドロイドの奧さんと養子を本当の家族だと信じている。それが、偽りの家族だと彼は認識できないんだ。

 

 そもそも、誰がこんな理不尽な法律を作ったんだ。

 始まりは世界的な食料危機、戦争。それは知っている。

 人類存亡の危機がこの醜いシステムを作り上げた。

 

 壊してやりたい。

 

「待てよ、もしかしたら」

 

 外部からのハッカーによる攻撃は、もしかしたらシステムの破壊。

 

 可能性は高い。

 

 システム内に住んでいれば矛盾を感じない。

 安全で便利で、しかも食料は有り余るほどある。

 

 美貴だけが例外中の例外だ。

 

 美貴が罪を犯したから俺は本当の愛を知った。彼女がいなかったら俺の子供も生まれなかった。彼女のおかげで俺は本当の家族愛を知る事が出来た。

 

 彼らはシステムを破壊し、人間本来の家族関係を取り戻そうとしているのでは。

 

 だが、パレメーターが十分の1に書き換えられたのが理解できない。

 家族関係を破壊したければ、システムを破壊するはずだ。

 

 なぜ彼らは最初にパレメーターだけを変えた。

 

 分からない。

 

 分からない事だらけだ。

 

 唯一分かっているのは、彼らはさらに攻撃をしてシステムに対して何らかのパレメーターの変更、あるいは破壊を目論んんでいるという事実だけだ。

 

「あー、こんなことはどうでもいい。頭から消えろ」

 

 もう俺はプログラマーではない。

 今は家族の事だけを思い、いかにして、俺も追放させるかを考えないと。

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