一階に降りて行くと、先ほどの案内係の人がいた。
「決まったようだな」
「はい、宜しくお願いします」
「ベッドでの試しはどうするね。
この先には、それ用の部屋があるが。」
そういえば、正式に契約を交わす前に、ベッドでの試しが出来るんだった。
でも、今はそんな気分じゃないし、ベッドでの行為については、さほど重要視していなかった。
「いえ、結構です。このアンドロイドでお願いします」
「ほう、珍しいな。
ほとんどの男は、お試しをするんだが。
まあいいか。君が決めた事だし」
「このあと俺は、何をすれば」
「彼女の名前を決めて、結婚式だ。
ま、結婚式は昔の風習で、契約の言葉でを交わし記念写真を撮るだけだけどね」
両親の結婚式の写真を見たことがある。
2人とも洋風で、白色の基調だった。
父さんの顔は嬉しそうだったけど、母さんの顔は無表情なのを覚えている。
そうだ、名前を決めないと。
色々と考えていたけど、その中で彼女に合うのは、そうだな、 美貴に決めよう。
「君の名前は美貴と書いて、美しい貴婦人という意味だ」
「素敵な名前をつけていただいて、ありがとうございます」
弾けるような満面の笑みを期待したけど、儀礼的な返事が帰ってきた。
俺は、彼女の笑みを見たいのか。
「というわけで、この名前でお願いします」
「さてと、そうと決まったらこのビルの二階に行ってくれ。
そこが結婚式場だ」
二階に着くと、そこは華やか雰囲気になっていた。
天井には豪華なシャンデリアがいくつもぶら下がっており、電球の光によってガラスがキラキラと輝いている。
窓という窓はステンドグラスで色とりどりの光が部屋の中に降り注いでいて、装飾も豪華で家具類はアンチック調に統一されていた。
「わー、すごく素敵ですね」
「ああ、そうだな。俺もそう思うよ」
美貴は再び、弾けるような笑みをし、あちらこち見ていた。
美貴を見ていると、何故か幸せな気持ちになっていた。
しばらくすると、向こうから女性が歩いて来て挨拶をした。
「こんにちは。結婚衣装の案内係です。こちらにどうぞ」
機械的な決まり文句だった。
明らかにアンドロイドです、といった感じがした。
彼女の後について行くと、三方向が鏡張りの部屋に通された。
「ここで結婚式用の衣装を決めます。こちらのタブレットで衣装を呼び出し、試着する事ができます。
私は外で待っていますので、ご自由にお試しください」
タブレットを俺達に渡し、彼女は部屋の外に出た。
さて、どんな衣装にしようか。
美貴に聞いてみよう。きっと彼女の好みがあるはずだ。
「美貴、君はどんな花嫁衣装が好みだい」
「え、私の意見ですか?」
「そうだよ。君の意見を聞きたいんだ」
「えーと。
和服の結婚衣装を試してもいいですか?」
「もちろんだよ」
「ありがとうございます」
美貴はタブレットを受け取ると慣れた手つきで操作し、数ある和服の花嫁衣装から一つを呼び出した。
すると、つぎの瞬間にはタブレットにあった衣装を美貴が着ていた。
光のトリックで、実際に着なくても試着する事の出来る便利な機能である。
さらに、周りが鏡なので、あらゆる方向から見た感じを確かめる事ができた。
その花嫁衣装は赤を基調としており、鳥が飛んでいる絵柄が見えた。
確か、鶴。
しばらくすると美貴は俺に、笑顔でこう言った。
「これが気に入りました。どうでしょうか?」
悪くわないな。
いや、むしろ凄く似合っている。
「似合っているよ美貴。
その、質問なんだが、その鳥は鶴だよね。その鳥好きなの?」
「はい、好きです。
そして、このつるは幸福を運んでくれるとの言い伝えがあるんです。
花嫁衣装ではこの鶴の絵柄が昔は人気だったと知ったので着てみ・・。
すみません。
とにかくこの絵柄、気に入りました」
「俺のも選んでくれないか。
どうも俺は服を選ぶのは苦手なんでね」
「はい、喜んで。
やはり、和服にしますか?」
「そうだな。
美貴と同じ和服の方が記念写真には良いよな」
「はい、私もそう思います」
そう言うと美貴はタブレットを操作し、数ある和服の花婿衣装から選んでくれた。
俺は早速着て見た。紋付き羽織袴と書かれていた。
「この服の名前、紋付き羽織袴って名前なんだね。
どう、俺に似合っていると思う?」
「はい、とっても似合っています」
「よし、これに決めたよ」
美貴は俺に微笑んでくれた。
部屋を出ると先ほどの彼女が待っていた。
「お決まりでしょうか?」
「ああ、これで頼むよ」
「かしこまりました。
服が出来上がるまで1時間位かかります。
出来上がったらご連絡しますので、最上階にあるラウンジの方でお待ちくださいませ」
「わかった。宜しく頼むよ」
「かしこまりました」
早速、エレベーターに乗り、最上階に着いた。
そこは、360度見渡せる展望台になっていた。
「わー、すごーい」
「ほんとだな。これだけの景色を見るのは初めてだよ」
右側には、今まで住んでいた高層マンションの群れが見える。
一般家庭の区画だ。
その区画の左側に高い壁がある。
その壁の左側、ここから見ると正面に一軒家の家々がある。エリートが暮らす区画だ。
その中の一軒家が俺の家になる。
正式な契約は結婚式の時にすると言われた。
左側には山脈が見える。冬になると、スキーによく行く場所だ。後ろは海が広がっていた。
広いラウンジの中を見渡すと、1組のカップルが座っているだけだった。
よく見ると悪友の隆だ。
「よ、決まったのか?」
「ああ、紹介するよ。美貴だ。お前の方は?」
「もち、決まったさ。マリアだ」
その後は、お互いに紹介の挨拶をした。
ふと、呼び出し音が聞こえた。隆のだ。
「あ、はい、分かりました。これからそちら行きます」
「待ちくたびれていた所だったんだ。
やっと結婚式が出来る。
じゃ、お先な。後でまた連絡するわ。
おっと、ここのランチは不味いけど、フライドチキンだけは美味しかったぜ」
そう言って隆はマリアと下に降りて行った。
お腹すいたな、そういえば朝から何も食べてない。
ここでランチにするか。
「美貴はお腹が空いてるかい」
「はい、空いています」
異性型アンドロイドは、人間と同じ食べ物を食べてエネルギーを生み出して活動出来るような機能になっている。
つまり、人間と寝起きを共にするので、食生活を人間と同じにしたんだとか。
味覚も人間と同じように感じるよう、調節してあるらしい。
ただし、個体差は若干あると聞いている。
「よし、そうと決まればここでランチにしよう」
「はい、それに、フライドチキンは注文しないといけませんね」
「ああ、全くそうだ」
美貴と一緒に食べるランチは最高だった。