以心伝心な二人   作:レスキュー係長

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①その依頼は突然で

放課後、男女が一緒に帰宅する。

 

夕日をバックにたわいもない話をしながら共に同じ道を歩いていく。ただそれだけのイベントであり、世に蔓延るラブコメでは余りにも使い古されている手段ではある。が、未だに根強い人気を誇っているのはなぜなのだろうか。

 

比企谷八幡はそんな生産性の欠片もない考え事をしながら家までの道を歩いていた。腐ったような目は相変わらずで、すれ違う人々が思わず二度見してしまうほどだ。

 

しかしながら、こと今日に関してはすれ違う人々が三度見、いや四度見しているのは八幡の目からみて明らかであった。

それもそのはずだ。八幡の隣で歩いているのは黒髪ロングの美少女、雪ノ下雪乃なのだから。

一方は思わず見とれてしまうほどの絶世の美少女。また一方は子供もビビる目の腐った男。そんな二人が並んで歩いているのだから四度見するのも頷ける。

 

 

(大体なんで俺がこんな青春ラブコメみたいなことやったんだか…まちがってるだろ……)

 

 

なぜ八幡が雪乃と一緒に帰宅しているのか。それを説明するには少し時間を巻き戻さなくてはならない。

 

 

*********************

 

 

放課後、八幡は平塚教諭からの衝撃のファーストブリットをくらいながらも謝り倒し、奉仕部部室まで逃げてきた。なお、そんなことになったのは八幡がこともあろうに平塚教諭の授業中に居眠りをしたのが原因であり、全くもって八幡に同情の余地がないことははっきりとしておこう。

 

さて、八幡が部室に入るといきなりの違和感に襲われた。

雪乃がいつもの席ではなく、依頼人の席に座っていたのだ。しかもあの由比ヶ浜が険しい顔をしているときている。

 

(これはややこしい予感がする…)

 

八幡は静かにドアを締め家への帰宅を優先しようとしたところ、雪乃が口を開いた。

 

 

「比企谷君、依頼よ。私からの。」

 

 

 

 

そう話す雪乃の口調は穏やかではあったが

 

「何逃げようとしているのかしら。どうせ家に帰っても小町さんの邪魔になるだけなんだから大人しく座って私がこれから話す依頼話を聞いてなさい。」

という含みをもっているのは明らかであり、経験的に又は本能的に『逆らえばより面倒なことになる』と自分のどこかで警告していたので八幡は大人しく座ることにした。

 

 

「ヒッキー、遅いよ。何してたの?」

 

「由比ヶ浜さん、どうせこの男のことだから平塚先生の授業中に居眠りでもして呼び出しを食らっていたに違いないわ。」

 

「え、なに、エスパーなの?エスパーゆきのんなの?」

 

「……比企谷君、次にその言葉を放つなら平塚先生の拳の倍の痛みを味わうことになるけどいいかしら?」

 

「すいませんでした!!!」

 

 

(こっわ!笑顔でバイオレンスな言葉浴びせてくる雪ノ下こっわ!)

 

 

「ちょっと!ヒッキー!そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!大変なんだよ!」

 

「落ち着け、由比ヶ浜。後、お前近いから、離れろって…」

 

 

あ、ゴメン…と八幡から距離を離れる由比ヶ浜は雪乃にアイコンタクトする。ふぅと息を整え、雪乃は机にはがきサイズの紙を差し出した。

 

 

「三日前ぐらいかしら。私の家の郵便受けに妙な手紙が入っていたの。それから変なことが続けて起きてる気がして。」

 

 

八幡がその紙をのぞき込むと新聞の切り貼りで

 

 

 

 

【 僕は君ヲ愛しテいル イつだッテ ソバにいるヨ いつも ウシろニいる 】

 

 

 

と並んでいた。

 

 

「なんだこれ……気色悪いな……送り主は?」

 

「……分からないわ。ただこれが送られてきてから視線を感じたり、誰かからつけられている気がするの。家の電話にも無言電話がきたり、この前なんか黒いフードをきた人が夜中にインターフォン押してきたり‥‥」

 

「しかもね、今日の朝にまた新しいやつが入ってたんだって。これがそれなんだけど…」

 

 

由比ヶ浜が取り出したもう一枚の紙。そこには、

 

 

 

【 僕は君ヲ愛しテいル イつだッテ ソバにいるヨ 僕ノ思いハ爆発シソウだ 】

 

 

 

と一枚目と同じように書かれていた。

 

 

「……いよいよヤバそうだな。完全にストーカーだな。しかも厄介なタイプときた。」

 

「どうしよ、ヒッキー。このままだとゆきのん、絶対なんかされちゃうよ。」

 

「そうはいってもだな……雪ノ下、この話平塚先生にはしたのか?」

 

「いえ、まだよ。それにする気もないわ。」

 

「待て待て。どうしてだ。さすがにこれはまずいだろ。正直言って警察を介入しても安心できないレベルだぞ。」

 

 

そういえば、と八幡は少し前に事件で報道されていた千葉ストーカー殺人事件のことを思い出していた。

 

 

被害者は当時高校生だった女性。そもそもの発端は彼女が家の近くのコンビニに訪れた際、見知らぬ男に告白されたことから始まった。無論、女性は断ったが、それが男に狂気を加速させることになる。

男は女性の後をストーキングし、自宅を特定。さらに電話番号まで特定し、無言電話を数百件の残したりとエスカレートしていった。

 

女性は警察に相談。ストーカー規制法に乗っ取り、男に警告したがそれが男の女性への愛を殺意に変化させていってしまう。

その後女性の家族は引っ越し高校も変えたのだが、男は女性のSNSから自宅を割り出し、待ち伏せ。帰宅時後ろから襲い、殺害へと至った。

 

 

八幡が思い出すのも無理はない。当時はそれだけ大きな事件だったのだ。しかも千葉という地元での犯行であったためかピリピリとしていたし、何故だか小町から「お兄ちゃん、ストーカーだけはやっちゃダメだよ」と謎のお達しを頂いた程であった。

 

とどのつまり、八幡は心配しているのだ。明確な根拠など一つもありもしないが、今起こっている出来事はどう考えてもヤバイ。八幡の直感はそう示していた。

 

 

「でも、イタズラかもしれないじゃない。」

 

「イタズラにしては余りに手が込んでる。大体本当にお前がイタズラだと考えてるなら俺たちに相談なんかしないだろ。それに実際に無言電話やらインターフォン前にまで来てるわけだから既に実害があるわけだ。なら警察に相談するか、せめて家族に相談するのが賢明なんじゃないか。お前の姉さんに連絡して‥‥」

 

「それはダメ!」

 

 

雪ノ下は険しい顔で叫ぶ。

 

 

 

なんとなく、なんとなくではあるが雪乃が拒否する理由がわかる気がした。

 

 

彼女が一人暮らしをする理由はただひとつ、母からの逃亡である。母親からの命令にひたすらYESと答え続け、依存する日々からの脱却。その第一歩が一人高級マンションで生活することなのだ。

もしも家族に連絡されれば間違いなく家に連れ戻される。

 

(だが、それは雪ノ下のワガママに過ぎない‥‥)

 

 

「ゆきのん、大丈夫?深呼吸しよ、ね?」

 

 

結衣は優しく雪乃に声をかける。その声は雪乃の強張った表情を緩める。

 

 

「由比ヶ浜さん、大きな声を出してごめんなさい。大丈夫だから。」

 

「ゆきのんが大丈夫ならそれでいいんだけど‥‥でもさ、ゆきのんこのままだとなんか大変なことになる気がするよ‥‥」

 

「由比ヶ浜の言う通りだ。つまり、だ。雪ノ下は警察、家族、先生にも事情を話さずに事件を解決してほしいってことか。それは無茶な話‥‥」

 

「それは違うわ。忘れたの?奉仕部は魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える、それがモットーよ。私はそのストーカーを自分の手で捕まえる。だからその手伝いをして欲しいの。」

 

「なっ!お前な‥‥それは危なすぎる‥‥」

 

「勿論、大事になりそうなら自分から警察に相談するわ。ただそれまでは自分でなんとかしたい。だから助けて欲しいの。」

 

 

『いつか私を助けてね。』

いつかの日、雪乃が話したその言葉が八幡の思考を邪魔する。最善策はなんなのか、彼女を説得できるだけ材料がどうしても見つからない。

 

 

「どうする?ヒッキー‥‥」

 

「どうするもなにも‥‥‥‥雪ノ下、これは現時点で答えを出すのは難しいだろ。」

 

「そうね‥‥」

 

「でも、ヒッキー。今のままならゆきのん襲われちゃうかもしれないよ‥‥」

 

「分かってる。自宅がバレている以上、家に帰るのはリスクが高すぎる。なあ、由比ヶ浜。お前の家は今日雪ノ下泊めても大丈夫か?」

 

「泊めても大丈夫だけど‥‥今日はパパ居ないからちょっと怖いかも‥‥」

 

(女三人か‥‥それは危ないかもな‥‥なら‥‥)

 

「なら、うちに来るか?」

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

そんなこんなで今彼らは雪ノ下の家へ向かっている。服を取りに行くためだ。

 

 

通行人からの訝しむ目線を無視し、八幡は生産性のない考え事はやめて心に引っかかっているあの紙に書いてあった文について考察していた。

 

 

(最後の文が気になる‥‥一枚目の最後『いつも ウシろニいる』。これはいわば相手にストーキングをします!という宣言のようなものだ。実際、雪ノ下はその後からストーキングされているわけだしな。なら二枚目はどうだ。『僕ノ思いハ爆発シソウだ』。これはどういう意味なんだろうか。いよいよ直接手を出してくるということか?まあ、なんにしても一応連絡はしとくべきかもな‥‥)

 

 

 

「考え事は外でしない方がいいわ。ひどい顔してるわよ。元々かもしれないけれど。まさか、私を家に連れ込んであんなことやこんなことをさせる妄想でもしてたのかしら、ストーカヶ谷君。」

 

 

隣で歩いている雪乃はいつものように軽口を叩く。

 

 

「あのな‥‥誰のお蔭でこんなことになってるのか自覚あるんですかね。」

 

「勿論よ。まあ、直接手を出してくるなら容赦なく合気道で制圧して見せるわ。」

 

「相手はどんなやつかわからないんだろ。それともなんだ、相手が分かってるのか?」

 

「なんとなく、ね。手紙が届く前の日に放課後、一年生ぐらいの男子学生に告白されたのよ。確か小暮くんとか言ったかしら。でも自分が如何に私に相応しいか、自分が如何にすごいかを永遠と語るナルシストだったから丁重に叩き潰してみたわ。そういえば帰り際に『諦めませんから!』って俯きながら呟いてたような気がしたけど、今回に関係があるのかしら?」

 

 

(あ、絶対それですよね。間違いなくその子がストーカーじゃないですか。)

 

 

 

呆れる八幡の横に一台の赤いアウディがスッと止まった。

 

 

「やっはろー!雪乃ちゃんに比企谷君!なになに二人揃って下校?遂に二人は付き合い始めたの?!お姉ちゃん聞いてないよ〜」

 

 

アウディから出てきたのは大魔王、雪ノ下陽乃であった。

 

 

(面倒な人が来ちまった‥‥ロクな日じゃねえな‥‥なんて日だ。)

 

 

八幡は辺りに嵐が巻き起こる、そんな予感に頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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