以心伝心な二人   作:レスキュー係長

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⑥新たな依頼

 

 

 

 

雪乃と八幡、二人の退院当日、陽乃は車を走らせていた。いや、正確には車を走らせていたのは都築であるのだが。

 

 

あまりに陽乃の運転が酷い、と雪ノ下母が都築を差し向けたのだ。確かにほとんど新車同然の高級外車でエンスト、バッテリー切れ、パンクを引き起こすあたり呪われているとしか思えないのは当然かもしれないが。

 

 

「そういえば陽乃様。頼まれていたゴミ御殿の土地所有者の件ですが後ろに置いてあるファイルにまとめておきました。」

 

 

ファイルが参照するものの、そこには陽乃が求めていた答えは載っておらず思わずファイルを隣席へ放り投げる。

 

 

「どういうこと?土地所有者無しって。あんな目立つ場所が空き家だっていうの?」

 

「少なくとも土地台帳などを確認しても現在の所有者は分かりませんでした。ただ、当時物件を仲介していた小暮不動産に話を聞いたところによると、前の所有者が瀬田俊介と言うそうです。既に亡くなっていますが。」

 

「一体誰が相続したんだか‥‥」

 

「相続登記は義務ではなく相続人本人の判断に委ねられていますからね。死亡者の名義のまま長期間放置されることはザラですよ。というより、良いのですか?雪乃様を放っておいて。退院では?」

 

「いいの。どうせ学校行ったりで忙しくて合う暇なんてないんだから。それよりゴミ御殿の写真取らなきゃならないんでしょ。まさかあそこにまた行くことになるとは思わなかったわ。しかも親に言われて行くことになるなんて。」

 

「陽乃様、これはご両親の意向です。何の準備もせず陽乃様が雪ノ下建設に入ったら、間違いなく社員は反発いたします。それを防ぐためにこうしてバイトとして現地調査に駆り出されているわけで‥‥‥」

 

「そこよ。何で現地調査なの?経理や事務の手伝いとか色々あるでしょ。」

 

「ここらの再開発のための重要な仕事ですよ。そんなこと言わずに‥‥」

 

「お母様のことよ。既に調査済みに決まっているわ。そうね、どうせならゴミ御殿の内部まで入ってみたら面白いかも。」

 

「‥‥‥許可なく侵入するのは住居侵入罪ですよ。あくまで外観だけでいいんですよ。」

 

「別に後で許可取れば大丈夫でしょ。」

 

「はぁ‥‥‥庭までにしてくださいよ。中に入るのはダメですからね。」

 

 

 

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「相変わらずごちゃごちゃしてるわね。」

 

 

相変わらず、粗大ゴミで周りが覆われてるゴミ御殿。門には何の表札もなく、ただそこに静かに佇むその姿はいつ見ても気味が悪い。

 

 

門から玄関までのコンクリートで固められた無機質な道は前日の雨のせいで滑るほどではないが湿っていて、それ以外の無舗装地はぬかるみになっている。

 

 

陽乃は都築のそれとない忠告をガン無視してゴミ御殿の内部への侵入を試みるが、当然正面玄関は固く閉ざされているため、ピクリともしない。

 

 

それでも、内部を覗こうと裏口へ移動している時だった。ぬかるんだ道に足を踏み入れた陽乃のスニーカーにぬめりとした感触と嘔吐をもよおすほどの腐敗臭を感じたのは。

 

 

 

これは明らかにぬかるんだ土の感触ではない。そしてただならない臭いだ。これは嫌な予感がする。というかヤバイ。見てはならない。

 

 

そう直感が脳内に語りかける。だが、一足、また一足と歩を進めるたびに纏わりつく気味の悪い感触と強烈な臭いに耐えられなくなり、目線を地面へと向ける。

 

 

 

 

 

そこには何らかの生き物の内臓が散らばっていた。それも大量に。既に干からびているものからハエがたかり腐敗が始まっているものまで様々な内臓がそこには存在した。

 

 

「っ!」

 

 

 

陽乃は裏口まで走り抜ける。裏口のノブに手をかけるとガチャりと軽く回ったのですぐさま内部へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

薄暗い家の中はどことなく冷たく感じた。裏口からは真っ直ぐと続く廊下が広がり、右に一部屋、奥に一部屋あるようだった。

 

 

陽乃はそっと右の部屋まで進み、開ける。中にはいつか見た人形の山。そして真ん中には人が入れるほどの棺桶のようなものが置かれ、一段と異様な風景が広がっていた。

 

 

 

(なにこれ‥‥気色悪い‥‥‥)

 

 

 

カシャリと一眼レフを構え、撮影すぐさま奥の部屋へと急ぐ。

 

 

 

 

開けると直ぐに分かる薬品臭。

 

 

 

(これは‥‥‥!)

 

 

 

釘付けになる陽乃は気がついていなかった。その後ろから近づくその手に。

 

 

 

 

 

 

=================

 

 

 

 

「今度、あんなことしたら許さないから。」

 

「申し訳ありません。でも腕を捻らなくても‥‥‥」

 

「あんなタイミングで後ろから肩を掴む奴がどこにいるんだか。」

 

 

 

奥の部屋を見ていた陽乃の肩を掴もうとしたのは、家に入って行く陽乃を引き戻そうとした都築だった。びびった陽乃は見事なまでに都築の腕をひねり上げてしまった、という次第である。

 

 

現在は車に戻り、帰宅への道を進む。

 

 

「で、都築はどう思う?」

 

「どう思うとは、あの大量の剥製のことですか?そうですね、作りも丁寧で素晴らしい出来でしたね。ただあの家は‥‥」

 

「異常ね。多分あそこにいる人は狂ってる。」

 

 

大量の人形部屋、薬品臭い剥製部屋、外に散らばった内臓。どれも何とも気味が悪く、思い出すだけで吐き気がするほどだ。

 

 

「‥‥‥私、暫く家の仕事の手伝いしたくない‥‥」

 

 

 

そんな時、陽乃の携帯のバイブレーションが鳴り響く。メールだ。

 

 

宛先は八幡からで、そこには

 

 

〝明後日、小暮と話すことになりました。一応報告しておきます。〟

 

 

とある。

 

 

「流石。比企谷君はすごいな‥‥」

 

 

 

そう呟いた言葉は車のエンジン音に混じり、消えて行った。

 

 

 

 

 

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所変わってここは総武高校奉仕部部室。

 

無事退院を終えその足で高校へと足を運んだ八幡と雪乃は爆発騒動のことを根掘り葉掘り聞かれたためか疲れ果てるように席へ座っていた。

 

一方の結衣の方はというとなにやら不機嫌な様子である。ときおり八幡の方にチロチロと目線を送る彼女の姿に八幡はすぐに気がつき、口を開く。

 

 

「さっきからなんなんだ、由比ヶ浜。なんだ、俺の顔になんかついてるのか。」

 

「あら、付いているじゃない。腐ったゾンビの顔面が。」

 

「おい、退院早々俺のことディスるの止めてくれる?今度は精神療科に入院することになっちゃうから。」

 

「……ホントに何も気づいてないの?」

 

「はあ?何をだよ。」

 

「……ヒッキー、今日は女の子達に囲まれてにやにやしてた。スケベ、変態、八幡。」

 

「おい、八幡は悪口じゃねえからな。人の立派な名前だから。というか、にやにやなんかしてねえよ。あれは爆発の様子を聞きたがった野次馬達が集まっていっただけで別に俺のことなんかどうでもいいと思ってんだろうよ。」

 

「あのさ……ヒッキーはさ、自分が今置かれている状況を理解してないからそんなこと言えるんだよ。」

 

 

そうして、結衣は爆発騒動以降の八幡の急激な好感度上昇について語り始めた。なんでも比企谷八幡が学校一の美少女、雪ノ下雪乃を爆発から守ったらしいという噂が事故後、恐ろしい早さで拡散したらしい。それにより、底辺をさまよっていたかあるいは認知すらされていなかった好感度や知名度がぐんぐん上がり、女子達の間では葉山に続く新たな王子、「ひねくれ王子」と囁かれるようになっていったらしい。

 

 

「だから、今のクラスの女子はヒッキーのことを悪く言う人はいないし、むしろ恋人にしたい!みたいに考えている人もいるの。今日、ヒッキーに群がってた女の子達みんなヒッキーのことねらってたんだよ。」

 

 

(こんなややこしい時期にモテ期到来とか、八幡こまっちゃう☆)

 

(比企谷君……貴方、私に心読まれている自覚あるのかしら。ホント、気に入らないわ……安心して、比企谷君。部の備品にはしっかりと管理するから。)

 

(備品扱いは特定の性癖の人間にはご褒美だが、あいにくそんな趣味は………ヤメテ!そんな冷たい目で俺を見ないで!HPが削れちゃう!)

 

 

雪乃の凍てつく視線を食らった八幡ではあったが、実際のところそんなものは八幡の行動の上辺だけをくみ取った人間たちが勝手に作ったイメージであることは容易に想像がついていた。

 

 

「由比ヶ浜さん、きっとそれは一時的なものよ。よく考えてみて。こんな目が死んでて、コミュニケーション能力のかけらもない人間を凡人が理解出来るわけないじゃない。」

 

「おいおい、壮大にディスりやがって!泣くぞ!いいのか!」

 

 

 

コン、コン、ガラガラ

 

 

 

「盛り上がってるところ失礼します…あぁ…元気そうで何よりです、センパイ。」

 

 

盛り上がる三人はその音のする部室のドアへ目線を移す。そこに立っていたのはスーパーあざとい生徒会長、一色いろはであった。

 

 

 

 

 

===================

 

 

 

「どうぞ。」

 

「ありがとうございます。雪ノ下先輩。それからごめんなさい。入院中顔見せ出来なくて。私が行った時にはまだ面会謝絶で‥‥」

 

「いいのよ、一色さん。気持ちだけで十分だわ。」

 

 

いろはは雪乃の入れたお茶を少し口に含み、舌で転がす。茶葉の香りが口から鼻へ通り抜け、心を落ち着かせる。

 

 

「で、だ。お前が来たわけだからどうせ生徒会関係でやらかしたんだろ。ほれ、話してみろよ。」

 

「なんでそんな言い方するんですか。やらかしてません。いや、まあ、問題は発生したんですけど‥‥‥あるイベントをやることになったんですが‥‥」

 

 

 

 

 

トラブル内容自体は大したものではなく、イベント主催者側と出店側のもつれであった。

そのイベントとは県内の中学生を対象にした総武高校のオープンキャンパスであり、様々な部活動が出店することになっていた。その中のひとつ、マルチメディア研究部は自作のゲームソフトの販売を企画、準備をしていたのだがそれが問題の始まりだった。

学校と生徒会との間の会議で営利行為は禁止となっていたのだ。

すぐさま生徒会はマルチメディア研究部に営利行為の禁止通知を出したが、相手は反発。現在、大きな混乱の中にいる、ということらしい。

 

 

「まあ、話は分かった。だが、なんでこんなに話がこじれたんだよ。生徒会の主張は間違ってないんだからねじ伏せればいい。」

 

「いやいや、そんな簡単な話じゃないんですよ。うちの書記ちゃんがあっちの人と話してる時にうっかり『オープンキャンパスで営利行為はできる』って言った、ってあっちは主張してて。書記ちゃんは言ってないらしいんですけど。それにあっちの部長がなかなかやり手で、他の部を巻き込んできて困ってて。小暮正樹って言うんですけど。」

 

「小暮って‥‥あの小暮か。」

 

「え?知ってるんですか?」

 

「まあ、ちょっとな。で、お前は俺たちに問題の解決の手伝いをして欲しいと。」

 

「まあ、そうなんですけど‥‥でもセンパイや雪ノ下先輩は今大変な時だから‥‥」

 

「大丈夫、いろはちゃん。その依頼受けるから。」

 

そう目線を下に向けるいろはに優しく声をかけたのは意外にも結衣であった。

 

「そうね。やりましょうか。」

 

 

 

(待て、雪ノ下。小暮は‥‥)

 

(分かってるわ。でも困っている人をそのままには出来ないでしょ。)

 

 

 

「はぁ‥‥その小暮と話せるか?」

 

「あ、はい。明後日、説明会を開く予定です。その時なら。」

 

「一色、しゃあないからその依頼受けてやるよ。」

 

 

(厄介なことになったもんだ。まあ、いいか聞きたいことは色々あるし。あ、一応報告しておくか。)

 

(誰に何を報告するのかしら?)

 

(あ、いや、誰でもねえよ。ナチュラルに心読んでくるな。)

 

 

 

 

 

 

八幡はスマホをつける。心を読まれぬように無心で。宛先は勿論、魔王の元である。

 

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