ラクシアの神々を戴くファミリアで 作:魔法王ユレヒト
“闘神”は無心で剣を振っていた。
彼の持つ剣の銘は《絶竜神剣ドラゴンゴッドスレイヤー》、グレンダール・ファミリアに所属するアンセルム・ベレスファーストという男が打った「竜はおろか神すら殺せる剣」をコンセプトとした一振りだ。
持ち手の生命力を吸ってその切れ味を増し、斬りつけた竜の特殊能力を封じる力も持つ第1級
遠征から帰ってゆん・ゆん・ぽむとの模擬戦を終えたフェルディナントは鍛錬を続けていた。先の遠征で大量のモンスターを屠ってなお彼の闘争心は収まることを知らない。
これこそが彼を“闘神”たらしめるものなのだ。
◆
フェルディナントの朝は早い。
彼の1日は日の出と共に始まる。
日の光を受けてベッドから跳ね起きると寝間着を脱いですぐに武装を始める。もちろん《絶竜神剣ゴッドスレイヤー》も忘れない。
最低限の携行品を背負い袋に入れると倉庫から持ち出したパンを頬張りつつ彼は1人ダンジョンへと向かう。
最初は問題となった朝食の無断欠席や食料の無断持ち出しも常態化した今、問い質されることはない。
◆
“闘神”はダンジョンへ潜る際に地図を持たない。彼は空気の流れからある程度は周囲――自己中心に半径10
あとは幾度となく潜った記憶があれば十分だ。彼は難なく18階層まで辿り着く。
「よお“闘神”、“魔神学者”はいねえのか?」
「マイザールなら今頃寝床から起きたんじゃないか?」
毎日のように来るのだ、顔馴染みの商人も多い。フェルディナント自身は質素倹約を是とする武人然とした人物であるが、彼の腹心であるマイザールは別だ。彼は自らの研究に貪欲でル=ロウド・ファミリアの収入の大半を自分のために使っている。その分大きな発明をするのだから尚更タチが悪い。
「それじゃあ回復薬は」
「練技がある。必要ない」
「ほんと“闘神”の旦那は安上がりだぜ。こっちは商売上がったりだ」
フェルディナントは軽い休憩を食事を摂りつつあらゆる勧誘をスルーして19階層へ向かう。
23階層までは彼にとって少し刺激的な散歩道でしかないのだった。
◆
フェルディナントの帰宅はいつも夕方になる。キルヒア・ファミリアの団長にして賢神キルヒアの最高神官でありながらこの体たらくなので、実質的な団長は他にいる。
フェルディナントが帰宅した矢先、その団長代理――
「ですから父上! 少しはこちらに団員を!」
「ならん」
「そこをなんとか!」
「ならん」
「戦勝神ユリスカロア様、団長がお帰りになったので本日はこれでお引き取りください」
「人の子の癖に生意気な……」
「タビットは神の生まれ変わりです」
「勝手に思い込んでればいい!」
しばし話し合うとユリスカロアと呼ばれた女性は立ち去って行った。彼女のファミリアはルミエル・ファミリアの中で最小規模の全団員数1を記録している。
“
「“
「かく言う貴様は“闘神”と見る。何用だ?」
「これはただの思いつきなのだが……」
――彼の持つ呪いの剣と我が神殺しの剣、切り結べばどうなるのだろうな――
「人の子にしては面白い発送だな。よかろう、ザウエルに話を通しておく」
――マジかよ――
無礼な話しかけ方をして、無礼な話題を振って、面白いと返答された。
からかったつもりのフェルディナントは呆気にとられ、その直後に壮絶に後悔した。
――事故って殺したらヤバい――
いいや相手はLv3、その上奴の持つ呪いの剣《フレイムロード》の威力は《絶竜神剣ドラゴンゴッドスレイヤー》にも匹敵する。
それにザウエルの真の恐ろしさはその呪いの剣よりも彼自身にある。彼の呪いの剣は周囲の仲間にすら影響を及ぼす。それゆえに彼はずっと一人でダンジョンに潜り続けた。
その結果彼は多岐にわたる能力を得て、一人でも一つのパーティーに匹敵することとなる。その応用力こそが彼の真骨頂だ。
「油断すればこちらが殺されかねん」
「物騒なことばかり考えてないで少しは賢神の最高神官らしいことを考えろ」
一連のやり取りを見ていたキルヒアが思わずツッコミを入れた。
◆
「これが我が全力!」「効か――めっちゃ効く!」
あの翌日、ユリスカロアが「ザウエルは決闘を承認した。明後日に中庭で行う」などと言うものだからフェルディナントは焦った。
そこでサーペントの勇者が一人“湖の大司教”バトエルデン・エラーに頼み込んで鍛錬をつけてもらっている。
いかに鉄壁のバトエルデンといえどフェルディナントの攻撃は堪えるようだ。その一方でフェルディナントもまた《絶竜神剣ドラゴンゴッドスレイヤー》に命を吸われて満身創痍と見える。
「バトエルデンを三口!」「俺は“闘神”に賭けるぜ!」
「毎度あり! 他にはぁ?」
中庭には野次馬が集まり必然的に賭けも始まった。フェルディナントがバトエルデンを打ち倒すのと、フェルディナントがその前に《絶竜神剣ドラゴンゴッドスレイヤー》によって倒れるのが先か。
フェルディナントとゆんが模擬戦を行うことはしばしばあったがフェルディナントとバトエルデンの模擬戦はかれこれ二年ぶりとなる。ルミエル・ファミリアの団員達は熱狂していた。
一度距離を空けた満身創痍のフェルディナントが何かを呟きながらバトエルデンとの距離を再び詰める。足元には
「【我が声に応え賢神の加護を与え給え】――【
閃光の矢がバトエルデンの胸へ鎧を貫通しながら突き刺さり、それと同時にフェルディナントの剣がバトエルデンの胴体へ食い込む。
「ガハッ……てめぇ汚えぞ!」
「実戦形式だからこそ価値があるのだ」
「いいだろう、なら俺も手段を選ばねえ【その疲労と負傷、ルーフェリアの名のもとに水と共に洗い流さん】」
バトエルデンの傷が全回復する。
「【我が声に応え賢神の加護を与え給え】――【その疲労と負傷、ルーフェリアの名のもとに水と共に洗い流さん】
「汚えぞおい!」
「これでおあいこだ」
【コンプレーション】によるコピー対象はキルヒア・ファミリアの魔法ではない。始祖神ライフォスに連なる神々全てが対象だ。
――なぜかそのキルヒア・ファミリアの魔法とその娘のユリスカロア・ファミリア腹心マイザールが属するル=ロウド・ファミリアなどの魔法はコピーできないのだが――
◆
結局この戦いは3日3晩続き、バトエルデンが【レストレーション】による
賭けに講じていた団員達はライフォスから直々に説教されて、賭けに使われた金品は全てファミリアへの上納金として扱われることとなった。
「あれ? 俺の出番は」
「アレはお前との戦いより間違いなく面白いだろうな」
「ユリス!? これは戦わずに済んだことを喜ぶべきか……出番が消えたことを嘆くべきか……」
“闘神”は今日も戦いの中に生きている。
【コンプレーション】
詠唱:【我が声に応え賢神の加護を与え給え】
必要:魔力消費 当魔法+コピー対象
追加詠唱:コピー対象に準ずる