ラクシアの神々を戴くファミリアで 作:魔法王ユレヒト
“百変化”はその日もルミエル・ファミリアの
いついかなる時も気ままに生きているグラスランナーであるゆんが多少なりとも他のサーペントの勇者と予定をすり合わせ(彼女に予定などというものがあるかはわからないが)てくれること自体が奇跡に等しい。
今日はそんな世界最強のグラスランナーの生態を追ってみることとする。
「何言ってんだお前」
「いやいや、こうした方が雰囲気が出るでしょう?」
ゆんを尾行する二人の男、ローブのフードを被った男はアンセルム・ベレスファーストといい、その隣にいる奇妙な筒状の武器を4つ腰に吊るした男はクリフォードといった。
「第一尾行したところで気付かれるだろ、多分もうバレてるぞ」
「いえ、バレた所でどんな反応をするか観察するのも一興。同じファミリアですから殺されることはないはずです」
「厳密には同じファミリアじゃないけどな」
「アンセルムは変なところで律儀ですね」
「クリフがガサツすぎるだけだ」
アンセルムの言っていることは正しく、ゆん・ゆん・ぽむがアステリア・ファミリアに属しているのに対しアンセルムの所属はグレンダール・ファミリア、クリフの所属はレパラール・ファミリアだ。
ザイア・ファミリアのエリヤ・キングフィッシャー、ル=ロウド・ファミリアのミケ・ルドルフ・タマ、アステリア・ファミリアのウィスタリア共々
「自分で言うかそれ」
「まあ事実ですし」
と、我々の自己紹介を終えたところで“百変化”の尾行を再開しよう。
彼女は早朝オラリオの商店街をふらついて、もうすぐ昼になろうとしている。大量の銀貨の入った袋を無防備にも手で持ち、店のディスプレイを見て回っていた。
きっと我々の目線にも気づいているだろうが、Lv5の冒険者となれば視線を受けることも多いので不自然には思われまい。
とある店に入った。看板を見るに冒険者向けの薬品店。窓が大きめなので我々はそれをそこから観察する。
「さて、【マギスフィア変化・スコープ】」
「クリフ、お前はそれをちゃんとした用途で使ったことがあるか?」
「無いです」
「威張るなよ」
クリフはポケットから魔石を加工して作られた紫色の結晶、マギスフィアを取り出し、
彼が持つ4つの筒状の武器は<ガン>というテラスティア大陸のロストテクノロジーであり、ルミエル・ファミリアの一部の団員はこれを扱うためのクリフと同様のスキルを持つ。
「ん? この店員ぼったくってますね」
「いくらグラスランナーのおつむが残念だからって流石に」
「そのまま払ってますね」
「マジかよ」
「店出る寸前に差額だけスリ取ってます」
「流石と言うかなんというか」
購入品目は精神力回復系のポーションをいくつか。高級品ではないが安物でもないものだ。彼女が得意とする練技の使用は精神力を消費するためだろう。
あとは屋台で何度かジャガ丸くんを購入しては平らげたが特に面白いことはない。
「言い方が失礼だぞ」
「事実じゃないですか」
すると衆目の中、いきなりゆんが姿を消した。
「【カメレオンカムフラージュ】、カメレオンのように擬態して周囲の目を欺く練技です」
「よし、帰るか。こうなればどうしようもない」
「諦めたらそこで試合終了ですよ、【マギスフィア探知・ライフセンサー】」
クリフはマギスフィアを用いて周囲の生体反応を探る。三次元的に位置を把握することができる優れものだ。先ほどまで見えていたゆんの位置と反応を比較してその行方を追う。
「こっちです」
「俺達何が目的だっけ」
「ストーカーです」
「なあクリフ」「姫騎士発見!」
クリフはあさっての方向へ一目散に走り出した。
「“剣姫”アイズ・ヴァレンシュタイン、姫騎士好きのあいつにはたまんねえか」
そう、クリフォードは無類の姫騎士好きでも知られているのだ。ザイア・ファミリアの女性団員に対する幾度とない覗きやストーカー行為は同ファミリアでありガッデムガーディアンズの一員たるエリヤ・キングフィッシャーがその度に折檻しているが、クリフは一向に止めようとしない。
“剣姫”はクリフの好みに合致するだろう。それこそゆんよりも彼にとっては魅力的だ。
◆
姿を消したゆん・ゆん・ぽむはアンセルムを屋根から監視していた。
ルミエル・ファミリアには七不思議と呼ばれる謎が存在し、団員達の噂になっている。アンセルムの招待もまたその一つだ。
彼は自らの種族を明かさない上に平時、常にフードを被りその頭部を隠している。ゆん・ゆん・ぽむもそれに前々から興味があったのだ。
しかしグラスランナーといえどある程度の分別のあるゆんは彼を尾行するのは悪いと思い、今まで実行せずにいた。だがそれも今日で終わりだ。彼が先にこちらを尾行してきたのだから向こうもされて当然だ。
グラスランナーらしい詭弁で自分に言い訳して監視を続けつつ、彼に関する情報を頭の中で整理する。
グレンダール・ファミリアに属する彼は、自らの武器を自らの手で作ることに異様に拘るらしい。そのせいか彼の発展アビリティの鍛冶はヘファイストス・ファミリアの中上位鍛冶師に匹敵する。まずこれが一つ。
他のファミリアの冒険者の目撃情報の中には、「モンスター探知スキルで何故かアンセルムが引っかかったかもしれない」「彼が竜人に姿を変えて戦うところを見た」「卵という言葉を聞くと異様に怯える」など、アンセルムが人族や哺乳類でなかのようなものもある。
ゆんには心当たりがあった。ドレイクブロークンと呼ばれるモンスター――ドレイクの変異種――だ。
ドレイクはテラスティア大陸のみに生息する蛮族と呼ばれるモンスターの一種であり、頭部に一対の角と背部に翼を持つ竜人だ。生まれながらにして体の一部として魔法の武器を持っている。これを体内に取り込むことで竜の姿に変じることができる蛮族のエリート種族として、他の蛮族を率いることも、人語を話して交渉を持ちかけることもある。
だが中には魔法の武器を持たずして生まれるドレイクもいる。彼らはドレイクブロークンと呼ばれ、劣等種として蛮族の中でも蔑まれることとなる。
ドレイクブロークンは一般的なドレイクと比較して攻撃性が低く、人族へ寝返ることもあるという。
ゆんはアンセルムがそんなドレイクではないかと考えた。
アンセルムがクリフを置いて帰路へ差し掛かるのを見届けるつもりていたゆんは、その背を追う人物が目に入った。
ソーマ・ファミリアの団員が3人、覚えている限りではLv3だ。彼らは1人になったアンセルムを尾行し、襲うタイミングを伺っているようだ。目的は彼お手製の剣だろう。
彼らの実力はアンセルムと同等またはそれ以下だが数の暴力は無視できない。このままではルミエル・ファミリアは深刻な喪失を被ることとなる。
「次の曲がり角だ。せーので行くぞ」
『了解』
ゆんは練技で聴覚を強化して屋根の上から彼らを目と耳で見張る。次の曲がり角までは10
ゆんは切れ者ではないが、馬鹿というわけではない。彼らが手を出す前にこちらが手を出すのも不味いし、そもそもオラリオで高レベル冒険者が揉め事を起こすのも不味い。
ゆんは体を透明にしたまま翼と尻尾を練技で生やし、彼らの背後へ降り立つ。
(悪く思わないでね)
器用に尻尾を動かして一番右を歩く男の足に引っ掛ける。
「テメェ何してくれんだよ?」
「俺じゃねえよ」
パーティー内で不和の火種が灯される。ゆんの狙い通りだ。ソーマ・ファミリアは時に団員同士で略奪を行うと聞いた。
「行くぞ、せーの」
その瞬間にゆんは掛け声をかけた中心の男以外の片足を引っ張る。
「やっぱりさっきのはテメェか」
「違えよ!」
「独占するつもりだったのか」
「そ、そんなことは!」
ソーマ・ファミリアの男たちが言い争う間にアンセルムは曲がり角の先へと行ってしまう。それを見届けたゆんは彼らから離れて再びアンセルムを追って
ゆんを主役で書くつもりがアンセルムが主役に
グラスランナーの描写って難しい