「あら?
もしかしてレディーのお誘いを断る気?
それともあなたからしたら私は年増かしら」
「だれがロリコンだっ……君はチルドレンのことを知っているのか?
そもそも君は誰だ?
僕たちを招待するとはどこに」
「あーあー、もう質問ばっかり。
私の正体なんてどうでもいいでしょう」
面倒そうに言い放ちながらさらし姿の少女は手に持ったライトを皆元に向けた。
「学園都市の統括理事長、ここのトップがあなたに話があるそうよ。
だから私がここまで迎えに来たの」
少女は気だるそうに言い放ちつつも視線は皆元に向けたままだ。
動けずに数秒が経つ。
(ここのトップが、もう僕らに気が付いていたのか……つまり紫穂がさっき透視した監視装置を設置したのは学園都市?
このタイミングで行動に移るならばそれしか考えられない)
「もし嫌だと言ったら?」
「さあね。
呼んでるのは私じゃないし。
ただ、助言だけどあれと接触する機会があるならそうしてた方がいいと思うわよ」
後ろ手で隠した
言葉同様にけだるい雰囲気が漂っている。
「……ほんっとこんな時間に仕事に呼ぶとかありえないわ。
折角みんなで添い寝してたって言うのに……!」
(聞こえてるぞー)
呟く少女の声に突っ込みを入れたがったがその声があまりにも真に迫っているため何も言えない。
皆元光一はこの雰囲気を知っている。
職業柄もあってよく体感する
どんな職業柄だ、と思われた方はコミックを読まれてください。
きっと彼の人生は涙なしでは見られません(嫉妬の血涙を含む)。
「僕1人でいいんだな?」
「ええ」
「連れて行ってくれるかい?」
内心の迷いを表に出さずその提案に皆元は乗った。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。
例えこれから連れて行かれる穴がこの世の深淵につながっていてもついていく。
それほどにこの街の正確な事情が分からない今は危険だ。
「よう、帰ろうぜ」
女性陣、インデックスとチルドレンが銭湯から出てきたのを見計らって上条は声をかけた。
「お待たせなんだよ」
「牛乳ありがとね、上条さん」
「気にすんなって。
あれくらい上条さんにとってヘでもありませんのことよ」
笑みを向ける薫に対して手をひらひらとふって返す。
正直、上条にとって小さくない出費ではあったがちょっとでもチルドレンが楽しくすごせるようにと思えばそれこそ屁でもない。
きっと表に出していないだけでチルドレンに不安がないはずがないのだ。
「あら?
皆元さんはまだ入ってるの」
「だったら帰ろうなんて言うかよ。
なんか本屋で情報収集してくる、とか言ってたぜ。
遅くなるかもしれないから先に戻っておいてだそうですよ」
「ふーん」
考える様子を見せる紫穂だったが上条はそれ以上何も言えることはない。
いまの伝言に偽りはなく、本当に皆元からそう告げられたのだ。
そのまま雑談をしつつ帰路に就く上条たちであったが一行は道行く人々の視線を集めていた。
「いやー眼福だったなー」
「なにが眼福なんや?」
「インデックスちゃんのあどけない裸体?」
「かおるはやっぱり変態さんなんだよ……」
「薫ちゃんはオヤジだしね」
「ウチらからしたら普通やもんなぁ。
……薫、その手の動きはなんや?」
「ん?
普通に葵の体を撫でまわそうとしてるだけだよ?」
「なんでうちに飛び火するんや!?」
銀髪の修道服を着た美少女にタイプの違う3人の美少女。
道行く学生たちが振り返ってしまうほどに華がある。
(それに比べて俺と来たら……)
背景である。
つんつん頭だけが個性であると自認する上条は正に空気である。
「あんまし騒ぎ過ぎんなよー」
「何?
上条さんもあたしの邪魔するっていうの!?」
「何のだよ!?」
「無論ナ「黙れーい!」」
実際には上条も薫たちと親しげに接しているせいで全く空気になれていない。
むしろ「あの可愛い娘ちゃん」たちといる分悪目立ち中だ。
そして敵意(というよりも嫉妬)の籠められた視線に気がつかないほど鈍くもない。
ちなみに女性からの好意に関しては圧倒的に鈍い。
「……ねぇねぇ三宮さん。
もしかして上条さんってばなんか目立っちゃってます?」
「そりゃあねぇ。
薫ちゃんってば声大きいし可愛いもの」
「おぅふ……」
さらりと言ってのける紫穂にのまれてしまう。
「仲のいいことで」
「そりゃあ私たち3人ともお互いのことが大好きだもの」
きゃっきゃとふざける薫と葵、インデックスを眺めながら微笑む紫穂の横顔は大人びていた。
とても中学生とは思えない。
「なんつーか母親みたいだな、三宮は」
「失礼ね、私も2人と同い年なのよ。
それに私は守られてばっかりよ」
「へぇ。
そんなもんか」
「そんなものよ」
皆元は学生服の少女に連れられて1台のバンに乗り込んだ。
窓を含めて真っ黒に塗りかためられているそれはやけに怪しい。
(車体に特殊な装備は見られない、か。
おそらく真っ当な車じゃないな)
スライドドアは皆元が乗り込むと同時にひとりでに閉まった。
車内は通常の座席は取り外され、後部にさらしの少女が座る三人がけのシートがあるのみだ。
運転席との間には壁があり窺うことはできない。
その壁にはカーナビにしては大きすぎるスクリーンがかけられている。
「この車でどこかに向かうのかい?」
「いいえ、とりあえずは座ったらどう」
初対面の少女の横、というのは内心で嫌な予感がしたがそれを押しとどめて皆元もシートに腰かけた。
「何よ。
私の隣がそんなにいやだっていうの?」
「そ、そんなことないさ」
表情に出ていたらしい。
取り繕うようにごまかすと少女も追求を諦めたようだ。
(薫たちといい初対面の女の子には散々な目にあわされてるからなぁ)
「ロリコン?」
「違うわ!
君は僕に関してどんな情報を聞いているんだ!」
「……答えるわけないでしょ。
はいこれ」
咄嗟にどなった皆元をスルーして少女は手に持った懐中電灯で皆元の手元を指した。
直後、皆元の手には折り畳み式の携帯電話が現れた。
「!
君はテレポーターなのか……」
上条に会って、この街に超能力が存在することは聞き及んでいた皆元だったが改めて目にすると実感となって訪れた。
(これが開発されて得た能力……。
転移までに一瞬ラグが見られた……。
葵ほどのレベルには達していないようだな)
思案を巡らしているとその携帯電話から呼び出し音が流れ出した。
これに出ろ、ということだろう。
「もしもし」
『ああ、聞こえているよ』
電話口から響いてきた声は異常だった。
落ち着いたトーンで帰ってきたその声には人間らしい色が全く感じられなかった。
「貴方がこの学園都市の―――」
『はじめまして、だ。
この学園都市の統括理事長などという役職に就いている』
どのような年齢といわれても納得できそうな声音。
男とも女ともとれるそれは普通ではない。
『せっかくの異世界からの来訪者に直接お会い出来なくて残念だよ』
「……現状は把握していると」
少なくとも常日頃から皆元が折衝などで渡り合っている役人などよりは老獪に感じられる。
『いいや、私はまだ何も掴めていない。
だからこうしてご足労いただいた次第だ』
学園都市内のどこかにある窓のないビルに内部に「人間」は確かに存在していた。
若く老いた男らしくもあり女らしくも中性的ですらあるソレ。
アレイスター=クロウリーは巨大なビーカー内で口元を動かすことなく会話をしている。
『ひとつ聞かせてもらってもいいですか?』
「ああ、皆元光一君」
『……貴方は今回の、
「違うな。
今回のこれは禁書目録こそが原因だ」
『そう、ですか』
「時間を無駄にしたくないので本題に入ろうか。
なぜ私がこうして連絡をとったのかだ」
アレイスターには皆元が緊張していることが手に取るようにわかった。
「一言で言うと君たちにこの世界、この街で居場所を与えようということだ」
現状では禁書目録と同様に〈幻想殺し〉上条当麻の部屋で居候するという方針で落ち着いている皆元たちには願ってもないことだろう。
『つまりどういうことでしょうか?』
先を促す皆元にもわかっていることだろう。
「君たち4人に戸籍を与えるということだ。
そして君に職を、少女たちを学校に通わせてもいい」
『それで代わりに何を求めるというのです?
僕はともかくチルドレン、彼女たちに危害が加わるというのならお断りします』
「気が早いな。
たいしたことではない。
〈幻想殺し〉が絡む事件が起きた際には手を出さないでほしいだけだ」
皆元がこの提案に乗るとは思っていない。
本当の狙いは逆だ。
『…………なぜ?
その言い方だと上条君の周囲で何か事件が起こるというのですか?』
「聞いただろう。
〈幻想殺し〉の現状を」
上条当麻は先日までの禁書目録の奪還を目論む
その結果「不幸」なことに〈幻想殺し〉はイギリス清教に存在を把握されてしまった。
つまりはあの女、
いくら科学の象徴たる学園都市に住んでいるとしても魔術側が上条を放置しておくわけがない。
遠からず上条は魔術絡みの事件に巻き込まれることだろう。
そしてアレイスターも彼自身の計画を邪魔する事態とならない限りそれを止めるつもりはない。
むしろ上条が巻き込まれることすら計画の一部である。
『だから何かあった際に彼を見殺しにしろと』
皆元の声からは憤りが感じられる。
至近で皆元たちを観測できたのは短時間だったが彼らがそう言われてすぐに従うような性格ではないと分かっている。
本当の狙いはチルドレンと〈幻想殺し〉の強制力を持たせないままでの協力。
学園都市に存在する能力とは違う原理で作用する
仮に強制力―――例えば暗部を用いた脅迫―――で縛ろうにもチルドレンの能力は未知数に過ぎるのだ。
学園都市に数多くいる感知系の能力者でも察知出来なかった、仮に出来たといえども正しい情報を抜き出すことができなかった
その危険性は学園都市の第一位に勝るとも劣らない。
むしろ対抗手段が数多く練られている第一位よりも危険といえる。
そんなチルドレンが学園都市に対し明確な敵意を持つことはよろしくない。
「言い方が悪いな。
君たちの安全のために言っている」
遠からず皆元たちはもとの世界へと帰る手段を発見することだろう。
アレイスターが想定するその後の展開的にも強制的な手段はとりたくないのだ。
『お断りさせていただきます。
僕たちは上条君を見捨てたりはしません』
予想と寸分違わぬ皆元の発言を平然と受け止める。
「そうか、それは残念だ。
がしかし現状のままでは大変だろう。
近いうちに君たちには居場所を与えようと思うがどうかね?」
『今の交渉はなんだったんです。
結局のところこちらにしか利点を感じられません。
率直に言ってそれを信用することはできませんね』
「信用してもらう必要はない。
ただ君たちは利用すればいいというだけのことだ。
慈善事業と言ってもいい」
『…………仮にチルドレンに害を与えようというならば、僕は手加減しません』
「いい。
それでいいさ」
(信用などいらない。
自身の判断で〈幻想殺し〉を助けるといい)
『それと何らかの監視装置を感知しました。
あれはそちらのものですか?』
「何のことかな」
『わからないのならば構いません。
次に付近で発見したならば強制的に排除します』
「そうしてくれ」
『では有意義な時間でした。
失礼します』
「あぁ、ひとつ言っておきたいことがあった。
こちらでも未成年とでは犯罪だからな?」
アレイスターが言い終わらないうちに通話は切れていた。
皆元がチルドレンたちに少しだけ遅れて上条宅に戻ると玄関扉の前で薫が待っていた。
「遅くなったね」
「どこ行ってたの?」
「ちょっとこれからのことを考えてただけだよ。
これからのことは明日にでも話そう」
「りょうかいっと。
入ろうよ!」
薫に手をひかれ上条の部屋の扉を開ける。
中ではもう寝る準備がほとんど整っていた。
インデックスに紫穂、葵は枕を抱えつつ横になり上条は浴室の扉を開いている。
「本気でそこに寝るつもりなのかい!?」
「あー皆元さんおかえりっすー。
もう覚悟は決めてますから。
おやすみなさいですー」
そう言ってサムズアップをする上条の姿には後光が差しているかのようだった。
皆元アイを通して見た幻想であるのは言うまでもない。
(風呂で寝ることになったとはいえ久しぶりの自宅だからな。
上条君も早く寝たいんだろう。
……うん、きっとそうだ)
仏と化した上条を浴室へと見送る。
「皆元も一緒に寝ていいんだよ?」
「大人をからかうなっ」
「つれへんな―」
「折角私たちが誘ってるのにね。
据え膳食わぬはなんとやらよ?」
「3人がとっても大人に見えるんだよ……」
「はよ寝んかー!」
部屋の電気を消すと皆元は廊下で横になった。
薫たちがぶーたれていたがすぐにそれも寝息に変わった。
戻ってきたばかりだが情報を整理する必要がある。
(学園都市の統括理事長……狙いはなんだ?)
近くにチルドレンたちを感じ、安心感を覚えつつも皆元はまどろみに落ちて行った。
前回から長らく間隔が開いてしまいました。
申し訳ありません!
これから、という毛色が表に出すぎてしまった感じのシリアスっぽい何かになってしまいました。☆さんをもっと絶チル時空に取り込もうともおもったのですがそこんとこは自重いたしました。はい。
最後になりましたがご覧頂き有り難うございました!では。