6月17日。金曜日。
昼間は基本ゴミ拾い。天城、里中は別エリア。一年の完二も別エリア。僕と花村、鳴上。そして運動部コンビの一条と長瀬でゴミ拾いをした。途中一年の女子たちに鳴上がヘルプで行ってしまったので四人になった。花村が始めた恋ばな的な会話で「花村の好きな人」という若干タブーともなる話になった時はヒヤヒヤしたけどもう、大丈夫だった。
……ちなみに、女子の手料理という最も危うい話題が出た時はさらにヒヤヒヤしたが三人にその表情がバレる事はなかった。(番外編)
◇◇◇
夕方。飯ごう炊さんの時間。料理は天城と里中に任せ僕たちは座って待つことにした。本当は、任せたくはないのだが。
「有里」
隣に座っている鳴上が声をかけてきた。花村に聞かれないように少し離れて話す。もちろん、女性人にも聞かれぬように。
「どうしたの?」
「有里なら止める勇気があったんじゃないのか?」
「あったよ」
「じゃあ……」
鳴上がさらに何か言おうとしたけど僕は止める。
「花村の
「は?」
鳴上は僕が何を言っているのか分かっていないようだ。仕方ない。もう一度詳しく言おう。
「あのツッコミ名人(仮)の花村の
「いや、まぁ……。少しは気になるけど……」
鳴上はもう諦めたようだ。スタスタとベンチに戻る。花村が何を話していたのかと訊いてきたが、何も言わないでおいた。僕もリーダー様も、「心の準備」で忙しいのだ。
「お、来た来た!」
女性人が“カレー”を持ってきた。カレー……?
「あ、天城さん。これ……」
「カレー」
「いやだってこれムド……」
「カレー」
「ムドオン……」
「カレー」
どうしても天城さんはこれを「カレー」だと言いたいようだ。しかし、これは……。
ーー明らかに“ムドオンカレー”だ!!
一瞬鳴上もそう思っていると感じた。同じワイルド同士だから何となく分かるのだろうか。
「あーと、お待たせ。その……。“愛情”は、入ってるからさ……」
里中さん。この“
「うお、入っちゃってる?」
入っちゃってるよ。“殺意”のスパイスが。
「それベタな台詞だけどグッとくるな!」
グッとくる。そうですか。この後、「ウッ!」となるから。
「じゃ、いっただきまーす!」
花村よ。骨は拾ってやる……!
「……!!!!」
……「ウッ!」ではなく「ブッ!」とカレーを吹き出す音が出たようだ。
「花村よ。死す」
「……花村」
◇◇◇
「あんじゃコリャーァァ!」
花村、生きてたんだ。……別に真面目に死んだとか思ってないよ。思うわけないじゃないか。……あはは。
「おっめーら、どんなっ……ゲホ!
カレーは“辛い”とか“甘い”とかだろ! コレくせーんだよ! それにジャリジャリしてんだよ! “ジャリジャリ”してるうえに“ドロドロ”してて、“ブヨブヨ”んとこもあって……。
も、いろんな気持ちワリーのだらけで飲み込めねーんだよ!」
里中が反論するが花村は「まっじーんだよ!」と、かなりお怒りのご様子。流石の花村でもダメなようだ。
「……鳴上くん、有里くん」
あー、きた。女性人のこの期待のこもった目線。
「真顔で言っとくぜ? 止めとけよ?」
かなり真顔だ。
「僕らは、天城の弁当がアレなことは知ってたんだよなぁ」
「そうなの!?」
鳴上が頷く。花村の目が「知ってるなら教えてくれよ」と言いたげだったがそこは無視した。
そう、僕は
……そう言ったらチョップされた。痛い。
「……鳴上、食べようか」
「そうだな」
一口。そーっと、そーっと……口にいれた。
「……」
「……」
そして僕らは同時に……倒れた。
「鳴上くーん! 有里くーん!」
そんな心配する女子二人の声が聞こえた……けど。倒れたのは君たちのせいだと僕は声を大にして言いたい。
◇◇◇
「……すみませんでした」
「ごめんなさい……」
天城と里中が謝る。彼女たちも悪気はないので僕らもーー僕と鳴上は覚悟していたので事実花村ひとりーー怒れない。
「はぁ……どーすんだ? 俺らの班メシ抜きじゃん。せめて食えんならいーけど、こんな“物体X”ムリだろ絶対……」
これを女子二人が食べれたのならーー絶対無理だけどーー抜きなのは男性人となるのだが、それは早々却下となった為、班全員抜きになる状況なのだ。
「……!! いいにおい」
里中が呟く。確かにいいにおいが漂う。
「大谷さん!?」
大谷さんが山盛りのカレーを持って席に座るところだった。ちなみに、沖奈市での
まぁ、あの体型を見れば……壊した方法を推理するのは容易だろう。
花村が大谷さんにカレーをわけてもらうよう頼む。
「無理ね。ダイエット中だからこれっぽっちしか作ってないし」
ダイエット中……? バケツくらいあるのに……不思議だ。
結局、あの後モロキンに追い出されテントへと向かった。僕たちの班は最終的にご飯抜き。これはキツい。
◇◇◇
「あークソ。腹へった……」
テント内。花村が呟く。そして目の前にいる「後輩」に声かけた。
「つか、なんでおまえここにいんの?」
「バックレたら進級させねぇって釘刺されたんスよ。それに一年のテント、葬式みてーに静かだし」
「完二がいたらそうなるよね」
何故か完二がいるのだ。別にいいのだけれど。
本来テント内には鳴上、花村、僕、そしてもうひとりくらいいたハズなのだが、他のテントの人と一緒に
「しゃーねーなぁ……じゃあおまえ、寝る場所あそこな」
花村が指差した場所は岩があって中々寝れなそうなとこだ。絶対朝起きると背中が痛くなりそう。
「有里先輩はどこで寝るんスか?」
「僕? ここ」
入り口近くを指差した。簡単に言えば鳴上たちが縦向きで寝るのに対して僕は横向き。アイツらが寝相悪ければ足蹴りの被害者コースだ。
「ジャンケンで負けた」
「オレのとこと代わります?」
「だが断る。岩で寝るよりマシだから」
僕はバックの中からタッパーを取り出す。
「有里何それ?」
「簡単なもの。作ってきた。
“食べ物”と聞いた途端みんな食いついてきた。
「有里さんお願い! それ恵んで!」
「オレは食べてきたんで別にいいっス。でも有里先輩の手料理は興味あるっすね」
「有里、頼む」
ひとり言葉の意味によっては恐怖を感じるが、気にせず多目に持ってきた割り箸を人数分渡した。
作ったのは本当に簡単な物で、量もそんなにない。まさか完二まで乱入するとは思わなかったからだ。何を作ったのか?
「おおっ! お弁当の定番、“玉子焼き”だ!」
「花村うるさい。静かに食べて」
「す、すまん」
そう言えばさっき花村何かボリボリ食べていた気がするけど……。あ、おっとっとだ。横に置いてある。玉子焼き食べたらまた食べる気だ。
「旨い! おまえハイスペック過ぎねぇ?」
「俺より上手かも」
「流石先輩っス!」
編みぐるみ作りが得意な女子力ある完二と僕よりリーダー性がある鳴上、色々気を使ってくれる花村の三人に誉められるのは少し恥ずかしい。
何とか今夜をしのぐ程度に食べられたので寝ることにした。
「完二……。おまえ、もっとあっちだろ」
「……」
「……」
「あそこじゃエビゾリなるんスよ」
何か重苦しい雰囲気。いや、そんな雰囲気を出しているのは僕らか。
「……そうか。あの……さぁ」
「なんスか」
「……なんでこのテント来たんだ?」
「あ? さっき言ったじゃねえスか。んだよ……なんなんスか?」
勇気を振り絞り話しを続ける花村。こういう時尊敬するな。こういう時……だけ。
「お。おまえってやっぱ……アッチ系なの?」
「アッチ……?」
完二はキョトンとした表情。花村が言いたいことをよく分かっていないみたいだ。
「……貞操の危機」
僕がボソッと言った。
「なななな、何言ってんじゃコラァ!」
「何故そこでキョドる!?」
「なおさらホンモノっぽいじゃんかよ!」
僕と花村は思わず起き上がる。本来ツッコミは花村の役目なのに僕がしてしまったじゃないか。
「今はもう女ぐらい平気っスよ!」
「し……静かに、な」
鳴上は冷静に注意するが花村たちーー僕もーーは止まらなかった。
「証明、出来る?」
「しょ、証明だ……?」
「そ、そうだぜ! じゃなきゃ俺ら一晩ビクビクしながら過ごすことになんだろ」
「ケッ……も、いっスよ。んならオレ、女子のテント行ってくるっスよ!」
え? それはマズイのではないだろうか。見つかったら停学だ、ってモロキン言ってたし。
流石に「女子のテントに行く」ことについては止めた。だけど完二は止まらなかった。
「コイツ、本気で行きそうだぜ。な、おまえからも止めてくれよ」
花村は鳴上にそう頼んだ。鳴上は少し考えているようだった。
「……行ってこい」
「は?」
「はぁ!?」
「妙な疑いかけられて黙ってられっか。先輩にも見せてやるっスよ! モロキンがなんぼのモンじゃ! 巽完二なめんなコラアァ!! うおおおおぉぉぉぉぉー!!!!」
……行ってしまった。もう、知らない。
◇◇◇
「……何で来たの?」
中々寝れないのでトランプで遊んでいると何故か里中と天城が来たのだ。これこそモロキンに見つかったらヤバイのでは?
話を聞くと急に完二が来て気絶してしまい、寝ようにも寝れない……と。しかも大谷さんと同じテントで、イビキがスゴくて寝るのも無理がある。
イビキに関しては大谷さんのせいだとはっきり言えるのかもしれないが……。完二が気絶した原因……まさか里中のキックじゃないよね?
そう言ったら里中は目線をそらした。え。いやこっち見てよ里中さん。完二にキックしてないよね?
二人がテントに入ってしばらくするとモロキンがこっちに近づいてきた。僕らは布団の中に隠れる。鳴上と天城、花村と里中がそれぞれ同じ布団に入って密着状態だったがこの時はそう言っていられないだろう。
……絶対順平とか羨ましいとか言ってくるだろうな。
モロキンはしばらくこの辺うろつくだろうし、戻れない状況になった。結局、二人もこのテントで寝た。かなり、狭かったなぁ。
〓〓〓
6月18日。土曜日。
朝早くに二人は目覚めてテントを出た。
「完二……無事かな」
「アイツなら大丈夫だろ」
「完二なら、な」
「完二なら大丈夫」。しばらく僕たちはそれだけを言葉にしていて、色々と察したかのごとくテントから出たのであった。
ちなみにゴミ拾いは小説の内容です。知ってる人は知ってますかね?