ペルソナ4 有里湊のif世界での物語   作:雨扇

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7月10日(日)~7月11日(月)

 7月10日。日曜日。

 

 ジュネスに行くとみんながもう集まっていた。

 

「有里!」

 

 花村が手招きする。何やらとても焦って……あ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 少し遡って朝早くアイギスから電話がきた。

 

『湊さん、朝早くすみません。ですが早く伝えなくてはいけないと思いましたので……』

 

「……? 昨日のマヨナカテレビには誰も映らなかったから死人はいないはずだけど」

 

『それは私も確認しました。ですが……』

 

 その後のアイギスの言葉は一瞬自分の耳を疑った。それくらい衝撃的だったから。

 

『死亡した方は……貴方の担任の、()()()()()さんです』

 

「……」

 

 「諸岡金四郎」ーー僕に鳴上、花村、里中、天城の担任。つまり……モロキンだ。

 

 モロキンが……死んだのだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「モロキンが死んだんだね……」

 

「有里知ってたのか?」

 

「今朝聞いた」

 

 みんなとても混乱していた。鳴上と完二はまだマシだったけど他の三人は弱気になっていた。

 

「やっぱり……警察も捕らえらんない犯人を俺らでなんて……無理だったのか?」

 

「諦めるな!」

 

「あぁ……そのとおりだぜ。そもそも警察にゃ無理だろうってはじめたんじゃねぇスか。オレらが腰砕けんなったら犯人は野放しんなっちまう! 泣きゴト言ってる場合じゃねぇ……オレらなりのやり方で前に進むしかねぇんだ」

 

 完二……カッコいいけど生意気ー。でも、お陰で士気が戻ってきたと思う。

 

「クマなら何か知ってるかもね。行ってみる?」

 

 僕の提案にみんな意義無し。大型テレビへと向かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あれ。店員さんがいる。珍しいな……急いでいるのに!」

 

 花村が二人の店員の元へと話を聞きにいく。“熊田さん”という妙なのがいるらしい。

 

「う……うわっ。居る!」

 

 里中の指差す方をみんな見る。

 

「ク、クマ!?」

 

 マッサージチェアに座り気持ちよそさそうにしているクマがいた。

 

「クマ出れたんだね」

 

「ハンチョー。そりゃ出口あるから出られるクマよ。今までは出るって発送がなかっただけクマ」

 

 僕たちと接しこっち側に興味が出て考えるより先に動いてしまった……と。

 

「あ、さっきお名前訊かれたから“クマだ”って言っといたクマよ」

 

 なるほど。だから“熊田”……ね。

 

ーーランクアップ。「愚者:自称特別捜査隊コミュ5」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 場所をフードコートに戻して本題に入る。……ってか暑い。

 

「あっちの世界の霧が晴れたときまで中にはおまえだけだったんだな?」

 

「そうクマ」

 

 マヨナカテレビにも映っていなかった。……とするとモロキンは“こっち”で殺された。

 

「ひよっとして……もう、テレビに入れても殺せないって思ったとか」

 

 ……何か違う気がする。そんな単純だったら、こんな事件すぐに終わると思う。

 何か……何か引っ掛かるんだよな。

 

「手がかりほしいな。そろそろりせに話訊けるかも」

 

「ならならー、これをりせチャンに渡すクマよ。クマからのフォーユーって」

 

 クマからメガネを受けとる。りせ用のメガネだ。

 

「ハァ~それにしても暑っクマー」

 

「おまえも飲むか? と言ってもカラッポじゃ意味ねーか」

 

 もしもそのまま飲んだらどうなるんだろう? カラッポのキグルミに溜まるとか?

 

「……取ろ」

 

「カラッポじゃないの?」

 

「ハンチョー。クマをいつまでも「カラッポのクマ」だと思ってちゃダメクマ。チエチャンと雪チャンを逆ナンするために! クマは「中身のあるクマ」になったクマ!」

 

 花村が必死に押さえるが「もう限界クマー!!」とクマが力ずくで頭を取った。

 

「っフゥー。いい……風!」

 

「「「「「エェー!?」」」」」

 

「ホントだ。中身あるね」

 

 ジュースもしっかりと飲んでいるしこれはもうカラッポとは言えないね。ガッツリ中身あるね。

 

「ところでチエチャン、雪チャン。着るものとかないかな? ボク生まれたままの姿だから……」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 クマの服に関しては女子二人に任せ男子達は四六商店でホームランバーを食べていた。

 

「ごめん、遅くなった……」

 

「イッエース、ザッツライト。イカガデスカ?」

 

 おおー。大人しければ見た目はカワイイ好青年って感じだ。

 

「ブリリアント! だね」

 

「ハンチョーありがとー! 言ってる意味よくわからんけど」

 

「ったく。完二、これで好きなだけアイス買ってクマと分けろ。俺たちちょっと豆腐屋行ってくるからここで大人しくしてろよ」

 

 二千円渡す花村。ちなみにクマの服のお金は花村のツケらしい。よく店員売ったなそれで。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 先に行った鳴上と天城を追いかけ豆腐屋に行くと見知った顔がいた。

 

「あ、直斗」

 

「あの時以来ですね。……そう言えば他の皆さんには名乗ってませんでしたね。僕は白鐘直斗。例の連続殺人事件をついて調べています。ひとつ……意見を聞かせてください。被害者の諸岡金四郎さん……皆さんの通う学校の先生ですよね」

 

「……知るかよそんなこと」

 

「……まぁいいです。とにかく……僕は事件を一刻も早く解決したい。皆さんのこと注目していますよ。それじゃいずれまた」

 

 納得したのか、もしくはますます僕たちが事件に関わっていると思っているのか……。いや、まずはりせから話訊くことが先決かな。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 りせと合流して神社に向かう。

 

「家にいたことは覚えているんだけど……気がついたらもう“向こうの世界”だった」

 

 手がかりなし、か……。

 

「直斗に何か訊かれた?」

 

「事件のこと……でも“向こうの世界”のことは話してないよ。無駄だと思ったし“ジュネスの屋上で気を失ってたところを助けてもらった”ってね」

 

「まぁそれが妥当だろうね」

 

「あの……その……」

 

 ……? りせが何か言いたそうだ。

 

「あの……助けてもらっちゃってありがとね! うれしかった!」

 

 おおー。流石アイドル。ゆかりもあんなこう、“キャピキャピ”って感を出せるのだろうか。

 

「その……最近の私疲れて少し暗かったから嫌かなと思って……しゃべり方、へん? あ、でも世間的には今の感じの方が私の“普通”なのかな……?」

 

「いやカワイイよ」

 

「うん。カワイイと思う」

 

「私……どの辺が“地”だか自分でもよくわかんなくなってて……」

 

「無理に決めなくても誰だって色んな顔があると思う」

 

 天城が言うと説得力あるな……。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「りせ。これ一応仲間の証っていうか……」

 

「そっか……先輩たち向こうでかけてたよね。メガネ……ありがと先輩。これで仲間だよね!」

 

 支援ペルソナ「ヒミコ」を宿す久慈川りせが仲間になった。

 

ーーランクアップ。「愚者:自称特別捜査隊コミュ6」

 

「うーっす」

 

 あ、完二帰ってきた。ホームランバーをクマ5本、完二6本食べたらしい。腹大丈夫? そしてクマは花村が連れて帰った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「お待ちしておりました」

 

 夜。眠るとベルベットルームにいた。ここに来るのは最初の「あの日」以来だ。

 

「“謎”の解決に徐々に近づいておられますかな……?」

 

「さぁ……? “選択”をするのは鳴上だからね。僕はただのサポートだよ」

 

「そう言う割にはかなり親身になっているようですが……?」

 

「……」

 

「失礼。さて……道のりもやがて佳境に……しかしそれゆえに予想だにせぬことがいくつも待ち構えておりましょう。面白くなってまいりますな……フフ。では再びお目にかかります時まで、ごきげんよう……」

 

 

 

〓〓〓

 

 

 

 7月11日。月曜日。

 

 そう言えば担任ってどうなるんだろう? モロキンの代わりに誰かが担当するってことだよね。

 

「知ってると思うけど諸岡先生が亡くなられたので……今日からあなたたちのお相手をすることになったぁ~

 

 ()()()()でぇす」

 

 気のせい……いや、屋久島で見かけた気がするぞ……!

 

「はてしなくうぜぇ……」

 

「モロキンから柏木って……どんな濃い味のコンボだよ……」

 

 周りから聞こえる声。うん、その通りだと思う。モロキンだけでも疲れるのに柏木先生って……はぁ。

 柏木先生によると来週の定期試験もちゃんとあるらしい。さ、花村と里中を鍛えないと。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 放課後。ジュネス、フードコート。

 

「あー来週もう期末かぁ……。“赤”久々にくるなコレ……」

 

「また勉強会する?」

 

「有里センセー頼むー」

 

「あはは」

 

 りせが笑った。僕と里中そんな面白い話してたっけ?

 

「りせちゃんー」

 

「ふふ。違うのごめんなさい。私……新しい学校でもどうせ当分は友達上手く出来ないって思ってたから……」

 

 きっかけが事件じゃなければもっといい出会いだと思うけど。

 

「事件の話だけどモロキンの件……どう思う? 夜中の番組には全然映ったりはしなかった」

 

 鳴上が訊ねる。クマによると鼻が利かなくなったが「いる」か「いない」か位は間違えないらしい。犯人の動機が一切わからない。お手上げ侍……かな。

 

「俺……白状するとさ……。正直心のどこかでモロキンの奴が犯人かもって……思ってたことあんだ。ウチから2人目って言うけど実際はもっとだろ? それにあいつ“死んで当然”とか何度も言ってたことあったしな……。

 

 けど疑って悪かったなって……。ムカつく奴だったけどこんな死に方ありえないだろ……。モロキンだけじゃねぇ……。かわいそうっつーか……なんつーか……。とにかく犯人許せねぇよ……!」

 

 花村……。うん、そうだね。どんな理由があろうとも、犯人は許せない。

 

ーー“ そう言う割にはかなり親身になっているようですが……?”

 

 ……僕は、ただ「明日」が見たいだけ。

 

「……直斗」

 

「どうも」

 

 直斗が来て色々話していた。要するに犯人が見つかった。何で知っているのかは直斗が県警本部の要請で来ている“特別捜査協力員の探偵”だから。犯人は“高校生の少年”で逮捕は時間の問題だということ。

 

 直斗が探偵……。だから色々聞き込みしてたりしていたのか。

 

「みなさんの“遊び”も間もなく終わりになるかもしれない……。それだけは伝えておいたほうがいいと思ったので」

 

 ……は? 遊び……僕らがやっていることが“遊び”……?

 

ーー“事件が解決しますように”

 

「ーーっ!!」

 

「おい有里!」

 

 ……あ。

 気がつくと僕は直斗の胸ぐらを掴んでいた。でも、言わないと気が済まなかった。

 

「“遊び”なんかじゃない。僕には直斗の方が遊びだと思えるね。探偵だから何だ。直斗は謎を解くだけ。最後はどうせ人任せだ。僕たちの何がわかる? 謎を解き終わった直斗に皆何を感じると思う? 僕にとっては……“どうでもいい”」

 

 手を離す。冷静になって思うと直斗って女子で……女子の胸ぐらを掴んでしまったんだよね僕。根にもたないといいけど。

 

 そうだ。もう一個言わないと。

 

「親友の大事な人だって殺されてる。それにね、約束してるから」

 

「ハンチョー……」

 

 クマが目をうるうるとさせていた。まったく、こういう時はカワイイんだから。

 

「遊び……か。探偵は元々逮捕には関わりません。そういう点では“人任せ”は合ってると思います。それに事件に対して特別な感情もありません。

 

 ただ……必要な時にしか興味をもたれず、“どうでもいい”と思われるというのは……確かに寂しいことですね。もう慣れましたけど……」

 

 や、やっぱり言い過ぎた……。

 

「謎の多い事件でしたね。意外とあっけない幕切れでしたね……。じゃ、もう行きます」

 

 そう言うと直斗は去っていった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「有里……」

 

「花村。どうしたの?」

 

「サンキューな。怒ってくれて。お前が言わなかったら俺がアイツの胸ぐら掴んでた」

 

「ハンチョー! クマ感動したクマよー! クマね、一生ハンチョーについていくつもりです!」

 

 花村が多分一番犯人のこと憎んでるって言っても過言ではないもんね。確かに“遊び”って言われて怒らないわけないか。

 

 そしてクマ。感動するのはありがとうだけど一生は……その、ちょっと遠慮します。

 

「それにしても有里君が怒るところ見るのはレアだよね」

 

「うんうん! あーでもりせちゃんの店見張ってた時何か覗こうとしてた男捕まえる時も怒ってたよね」

 

 天城と里中まで……ちょっと恥ずかしいからそろそろ止めてほしい。

 

「有里先輩カッコよかったっス!」

 

「うんうん! カッコよかったよ先輩!」

 

 完二とりせまで……。鳴上、お前まで言わないよな……?

 

「……」

 

「……鳴上?」

 

「え、どうした?」

 

「いや……大丈夫?」

 

「あぁ。大丈夫だ」

 

 ……少し、心配。僕は多分さっきの鳴上の表情や言動に、“心当たり”がある……と思う。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 夜。昨日すっかり忘れていた時価ネットたなか。

 

〔祝福の手、メガアミノドロップ×2 39800円〕

〔ミドルグロウ、業火の勾玉×2 24800円〕

 

 ……高いな。買わなくていい。


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