テレビの中の世界は霧が多く漂っている場所だった。鳴上は落ち着いていたが里中と花村の二人はとても焦っていた。やっぱタルタロスよりかは安全だと思うけど(二回目)
現在僕たちはとりあえず出口を探そうってことになり歩き続ける。するとある部屋にたどり着いた。ベッドがあり周りの壁には破れたポスターが沢山。それに部屋の真ん中に椅子、そして上に輪になってる布がある。……どんな状況なのかは誰でも想像がついた。
「戻ろうよ……。気分悪くなってきた。さっきんトコ戻って違う道探してみようよ。私……こんな場所いたくない」
まぁ。確かに気分は僕も少し悪い感じがする。この霧のせい? 影時間中も動き過ぎると気分悪くなって次の日全然元気がなかったりしたから。
鳴上と花村も賛成したので出ることにした。
「ちょっ、ここでするの!?」
「しょーがねぇだろ、結構我慢してたんだぞ!」
「鳴上くん止めてよ!」
「何で?」
「有里くん!」
「見なければいい」
戻る前に花村が「漏れる」とか言って壁でしようとしてたが、僕らがいたせいなのか知らないけど出なかった。「膀胱炎になったらお前らのせいだからな」とか嘆いてたけど、僕は知らない。何も知らない。
「うぎゃあー!!」
「里中!?」
急に里中の悲鳴が聞こえたから僕らは部屋の外に出る。外はマンションの廊下だった。僕らは今までマンションの部屋にいたのだ。
そして僕らの目の前にいるのは……クマだった。そんなクマも何かビビってた。
「き、君たち何でここにいるクマ!?」
「それはこっちが知りてーよ!」
「何でそんなに焦っているの?」
僕が訊くがクマは結構取り乱してて答えてくれなかった。その代わりクマはメガネを一つ取り出して鳴上に渡した。
「見える」
「ハッキリと?」
「あぁ」
すると鳴上は奥の方をじっと見ていた。何かがいる。それを感じとったのだろう。
「急いで逃げるクマ! “シャドウ”が、“シャドウ”がぁぁ!」
「シャドウ?」
三人はわからないのではてなが浮かんだような顔をしていた。……けど僕にはわかる。まさか、イゴールが言ったことが本当に当たるとは。「また事件に巻き込まれる」……これの事だったんだね。
「ぎゃああ!! 来たクマぁぁぁ!」
クマが猛スピードで逃げた。嫌な気配がしてドアの方を見る。僕はメガネをしている訳ではないのでかなり凝視しないとわからないが、見えた。シャドウ……「アブルリー」の姿が。
「走って逃げろ!」
僕はとっさに叫んだ。僕が叫ぶのが珍しかったのか三人はぎょっと驚いていたがシャドウの姿を全員確認した途端みんな走り出した。
何とか外に出たが先回りされシャドウが里中の目の前に現れた。
「ぎゃっ!」
攻撃……というか舐めた。舐められた里中は気絶してしまった。囲まれてしまいもう駄目。召喚器がなくペルソナが出せない。思わず目をつぶった。
「鳴上……?」
花村がそう呟く。鳴上の手のひらにカードがあった。「ペルソナ」だ。彼は呟く。召喚の言葉を。
「ペ……ル……ソ……ナ!」
思いっきり手を握ってカードを握りつぶした。青白い光の中、ペルソナが姿を表す。鳴上悠のペルソナ、「イザナギ」だ。
イザナギはシャドウをあっという間に倒していく。途中攻撃を受けたりしたが難なく撃破出来た。
「鳴上、大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ」
倒し終わったあと、初めてのペルソナ召喚に体力を使ったのか鳴上は地面に座る。里中はまだ気絶しているのでそれまでの間だ。花村といつの間に戻ってきたクマは周りを確認してくれている。
◇◇◇
「鳴上、有里大変だぁ!」
数分後。花村が大急ぎで戻ってきた。霧の影響があるのでそうそう早くこれないがそれでもかなり焦っていた。
「シャドウってヤツがまだあっちから来る!」
「問題ない……くっ」
「鳴上は休んでて」
鳴上はまだ体力が回復しきってない。連続で戦うにはあと一回か二回テレビの中に入るしかないと思う。
『予感はしていたかい?』
……ファルロスの声が聞こえる。僕はクマの元に向かう。クマがメガネをくれた。かけると目の前には大量のアブルリーの軍勢が。
「強さはそれほどでもないけど、数が多いクマ! に、逃げた方がいいクマよ……」
「大丈夫。クマは下がってて」
クマは僕の言うとおり下がった。
『覚悟は決まった?』
「あぁ。決まった」
僕の右手には拳銃があった。
「そうか、その拳銃で……」
「それは無理クマよ。シャドウに普通の攻撃は効かないクマ!」
そんな会話が後ろから聞こえた。……違うんだ。この拳銃はそんな使い方じゃない。
『もう、あの時の恐怖はなくなった?』
「いや。やる度に怖いよ」
僕はいつもの召喚に移る。見慣れた召喚器の銃口をこめかみに当てる。
『さぁ。新たな戦いの幕開けだ。湊……君の仮面の一つを呼び出すんだ』
「ペ……ル……ソ……ナ!!」
引き金を引く。衝撃と共に現れたペルソナ。僕が最初に呼び出した思い出ある仮面。「オルフェウス」
「焼き尽くせ。オルフェウス!!」
そう指示するとオルフェウスはありったけの火属性の魔法「アギ」を放った。僕の精神力が尽きるまで。全てのシャドウが滅ぼされるまで。とにかく、ありったけ。いつしか僕は何も考えられなくなった。精神力が尽きた証拠かもしれない。それでもオルフェウスはアギを放ち続けた。たぶんもうシャドウは全て葬っただろう。
「有里!!」
その一言ではっと気がついた。目の前は巨大な炎が燃えていて、地面にはシャドウが消えた跡。そしてオルフェウスが上空でただたたずんでいた。後ろを振り向くと花村が僕の肩に手を置いていた。どうやら僕の肩を揺すっていたらしい。鳴上にクマ、いつの間に起きたのか里中もいた。
そして僕はーー気を失った。
◇◇◇
目が覚めると見知らぬ所にいた。誰かの家のようだ。
「だいじょうぶ?」
起きると横から少女の声が聞こえた。確かガソリンスタンドで気分が悪そうな鳴上を心配していた子だ。
「うん。もう平気」
「よかった。一緒に朝ごはん食べよ」
名前を訊くと「
「有里、起きたか」
「鳴上。そのきの……」
「昨日のことはどうなった?」と訊こうとしたが遮られた。
「……菜々子に聞かれたくない。学校に行くとき話そう」
「わかった」
僕たちは朝ごはんを食べることにした。菜々子ちゃん、将来いいお嫁さんになる。そう言ったら「ありがと」と照れながらお礼を言ってくれた。……隣で鳴上が少しむすっとしていたのは気にしないでおこう。てか気にしたくない。
◇◇◇
4月15日。金曜日。
登校中。鳴上と昨日あの後どうなったのか訊いた。
あの後特にシャドウが襲ってくる気配がなく僕らが入ってきたスタジオみたいな場所へと戻った。どうやって帰ったのかと言うとクマが出したテレビを来たときと同じように入ると元の場所。ジュネスの家電製品売り場へと戻れたらしい。
そしてあの部屋で見たポスター。演歌歌手の「柊 みすず」だとわかった。数日前に死んだ「
◇◇◇
今日は朝から集会があった。どうやら緊急らしい。そこで聞いた内容は驚くべきことだった。
山野アナの第一発見者である小西早紀先輩は……山野アナと同様に変死体となって。遺体の姿で発見された……。
集会が終わったあと、鳴上と里中と一緒に廊下で静かに立っていた。外は雨が降っていて、雨の音が今日はやけに鮮明に聞こえた。
「あ……花村……」
里中が呟く。花村がゆっくりと歩いてきた。
「……なあ、おまえら。昨日、あの夜中のテレビ見たか?」
「あのさ……人が死んでるのに何言ってるの? しかも被害者は」
「わかってるよ! 聞いてくれ!!」
珍しく花村が真剣に話していた。話したのは昨日のマヨナカテレビを見たこと。小西先輩が苦しそうにもがいているみたいに見えたこと。……もしかしたら小西先輩と山野アナは誰かに「あの世界」に放り込まれたかもしれないと思っていること。
「……頼むよ。鳴上。おまえがいないと“テレビん中”に入れないんだ。俺、どうしてもあっちの世界に行ってたしかめたいんだ。先輩に関係する場所もあるかもしれない。なんで先輩が死ななきゃなんなかったのか、知っときたいんだよ! それにシャドウって化け物と戦えねぇし。有里、おまえの力も借りたい」
「ジュネスで待っている」と言って花村は去っていった。
◇◇◇
今日はあんなことがあった為、すぐに下校となった。とりあえずジュネスには行くことになった。昨日と同じテレビの所に行くとロープを腰に巻いて束を持った花村がいた。
「来てくれたのか!!」
少し嬉しそうに言った花村。里中はまたあそこに行くのは反対のようだ。それでも花村は引かない。
「あんときと同じ場所……ここから入ればまたあのクマに会えるかもしれない」
「……それでそのロープ?」
僕が訊くと花村は頷いた。たぶん意味ないと思うけど。
里中がロープを持って留守番係、僕ら男子三人が突入係となった。
「戻ってきてよ、絶対に!!」
里中はとても心配そうに見送った。僕らはまたーーここに来てしまったのだ。シャドウがうようよといる世界に。
「キ……キミたち……。なんでまた来たクマ?」
「へへへ……。ちょっと真実をつかみにね」
正直言って、めんどくさいと思ったけど。これは元の世界に戻るためだと思うし、何より僕がいない「その後」の世界を見てみたかったってのもある。それに……一年間共に過ごすリーダーとその相棒との、“自分の意思での異世界訪問”になったのは……紛れもない事実ってこと。
◇◇◇
来た途端すぐにクマにどや顔で色々言われた。
「わーかったっ! 犯人はキミたちだクマ! キミたちはココに来れる……。他人にムリヤリ入れられた感じじゃないクマ! よって一番怪しいのはキミたちクマ! キミたちこそ、ここへ人を入れてるヤツに違いないクマァアッ!!」
「っざけんなッつーの! 俺たちはその犯人ってヤツを突き止めに来たんだよ! そうじゃなきゃ、わざわざこんな帰れるかもどうかもわかんねーところにまた来るかっての!!」
ごもっとも、花村。
花村はクマに知っていることがあれば話すよう言ったけどクマも何も知らないらしい。クマはここにずっと住んでるらしいけどこんな騒がしいこと今までなかったようだ。
「証拠あるクマ?」と言われたが証拠はない。……いや。強いて言えば一つあるかな? やってみるか。
「……君を助けたこと」
「ん?」
呟くと花村がこっち向いた。それにつられて鳴上にクマもこっち向いた。
「昨日、君を助けてシャドウを倒したこと。それじゃダメ?」
「そっか」
あっさり納得してくれた。ありがたい。
「……おい。ずいぶん態度が違うじゃねぇか。納得したのかよ」
「まだ疑いは晴れてないクマ。けど、この二人はシャドウから助けてくれたクマ。信じてもいいよ。……でも、その代わり言ってるとおりに犯人を捜し出してほしいクマ」
クマがしょんぼりとした表情で僕たちに頼んだ。クマはただ、ここで静かに暮らしたいだけだ、ど。
……そのあとニッコリとした顔で「約束してくれないとここから出さないよ。テヘペロ」とかそんな感じだったから召喚器ちらつかせて黙らせた。
「今回はちゃんと命綱を……あ」
花村が用意したロープ。それは見事にぷっつりと切れていた。今ごろ里中はパニックになっていることだろう。奢りを覚悟しないと。
結局約束することになった。
「1つ訊いてもいいかな? あの番組“マヨナカテレビ”ってここのスタジオで撮影されてたりする?」
鳴上がクマに訊いた。
「バングミ? サツエイ? ココは元々こういう世界クマ。誰かが何かをトルとかそんなのないクマよ。でも、そっちがこっちに干渉するからこっちの世界、どんどんおかしくなってるクマ」
こっちの世界に住んでるクマが知らない。……マヨナカテレビは一体何なのだろうか。
「前に放り込まれた人」の気配が最後にあった場所に案内してくれた。クマが言うにはそっち……つまり僕らの世界で霧が出る日はこっち……テレビの中だと晴れる日になるらしい。霧が晴れるとシャドウの活動が活発になるとか。
「それしても霧スゲーな」
「そー言えばセンセイとハンチョーにはメガネ渡したけどヨースケには渡してなかったクマね。ほい」
クマは花村にメガネを渡した。メガネをかけた花村は関心していた。
「すげぇ。濃い霧がまるでないみたいだ……。てか今鳴上と有里のことを「センセイ」と「ハンチョー」って呼ばなかったか?」
そう言えばそうだ。クマは何故かどや顔で「ちゃんと敬意はあるクマよ」と言った。まぁ別に僕と鳴上は嫌ではなかったので快く了承した。
「つか、ここって町の商店街にそっくりじゃんか。けど、ここがウチの商店街と一緒ならこの先は……」
花村はある場所を見る。そこは小西先輩の家である「コニシ酒店」だ。
【ジュネスなんて潰れればいいのに……】
「なっ!!」
急に声が聞こえた。
【ジュネスのせいで……】
【そういえば小西さんちの早紀ちゃん、ジュネスでバイトしてるんですってよ】
【まあ……お家が大変だってときに……ねぇ】
【ジュネスのせいでこのところ売上もよくないっていうし】
【娘さんがジュネスで働いているなんてご主人も苦労するわねぇ】
【困った子よねぇ……】
ほとんどが……ジュネスについての悪口だった。
「先輩……っ!」
「花村!」
「鳴上、行くよ」
「あぁ!」
花村が店に入っていってしまった。僕と鳴上にクマは後を追いかけて店に入っていく。
入ると声がまた聞こえた。次に聞こえたのは男性の声だった。小西先輩のことを「早紀」と呼んでいることから父親なのだろう。
【なんど言えばわかるんだ早紀!】
【おまえが近所からどう言われているか知らないわけじゃないだろ!】
【代々続いたこの店の長女として恥ずかしくないのか!】
【金か? それとも男か!?】
【よりによってあんな店でバイトなんかしやがって】
花村の顔を見るととても辛そうだった。色々中を見てまわると机の上に色んな写真があった。ある写真を手にとって花村に訊く。僕がとった写真はバイト仲間とジュネスで撮ったやつらしい。小西先輩は全然乗り気じゃなかった、とも言った。
【……ずっと】
【ずっと言えなかった……】
「この声……先輩!?」
小西先輩の父親の声が聞こえたと思ったら次は先輩本人の声。……本当にこの世界は謎が多いな。
【本当の気持ち伝えたい……】
【私……ずっと花ちゃんのこと……】
「え……? 俺のこと先輩……!?」
え……? 何これ。ここで告白みたいな? 「好きでした」みたいな? 気になる。順平とチドリのことと同じくらい今は気になっている。
【花ちゃんのこと……】
【ウザいと思ってた】
つらっ。辛すぎ。スゴい心に突き刺さる。特に……思いを寄せていた花村には。
【仲よくしてたの店長の息子だから都合がいいってだけだったのに……】
【勘違いして盛りあがってほんとウザい】
【ジュネスなんてどうだっていい……】
【あんなののせいで潰れそうなウチの店も怒鳴る親も好き勝手言う近所の人も……】
【全部なくなればいい……】
……これ以上、声が聞こえることはなかった。花村を見るととてもショックを受けている感じだった。
まるで……父親を失った時の美鶴先輩みたいな。それくらいの悲しみが、今の花村にはあった。
「ウ……ウソだよ……。こんなのさ……。小西先輩は……。先輩は……。先輩は……そんな人じゃないだろ!!」
『……悲しいなぁ。可哀想だなぁ俺……。……でも、何もかもウザいと思っているのは……自分のほうだっつーの! あははははは』
花村と同じ……だけど少し違うノイズがかかったような。そんな声が聞こえた。奥の方から人影が一つ。
「誰だよ!」
花村が怒鳴る。そこから現れたのは……花村と同じ容姿、制服に声。違うのは目が金色に妖しく光っていること。
「この反応……“シャドウ”だクマ!」
『我は影……真なる我……。なぁ、「俺」』