ありんす探偵社へようこそ   作:善太夫

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スペイン岬の謎

 城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』には朝から来客を迎えていました。

 

「……こりはアインジュちゃま……よこそなのでぇ、ありんちゅ」

 

 漆黒のフルヘルムの男は片手を上げて制止しました。

 

「──モモンだ。ここではアインズではなくモモンだ」

 

 モモンは来客用のソファーに腰掛けると要件を切り出す。

 

「先日は私のニセ者に関する事件を解決してくれて感謝する。結局、あの者の正体はわからなかったが……」

 

 オリエント急行の殺人事件で殺されたモモンのニセ者は結局単なる詐欺師として処理されたのでした。

 

「……まずはお礼として伺った訳だが、それともうひとつ……ちょっとした相談があって、だな……」

 

「……ちょっとまちゅでありんちゅ。キーノ! 早くお茶いれるでありんちゅ! キーノ!」

 

 ありんすちゃんはキーノを呼びました。えっと……ありんすちゃん。キーノはオリエント急行の殺人事件の犯人として逮捕されちゃいましたよね?

 

「〈グレーターテレポーテーション!〉」

 

 ありんすちゃんが魔法を唱えると、素っ裸の助手のキーノが出現しました。

 

「──えっ! えっ! えーー? あ、ありんすちゃん……に……えーー! も、モモン様ぁああ!」

 

 キーノは牢屋に入れられていましたが、丁度一週間に一度の入浴をしていた時に転移させられてしまったのでした。

 

 

※   ※   ※

 

「……あれ? モモン様は?」

 

 大慌てで屋根裏の自分の部屋に駆け込んで衣服を身につけたキーノが戻ると、ありんすちゃんがただ一人冷たいミルクを飲んでいるだけでした。

 

「……ちょっくに帰っちゃでありんちゅ。キーノのせいで依頼とりちょこぬたでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは少し不機嫌そうです。

 

「……いや、私は悪くないぞ。そもそも入浴中に無理矢理テレポーテーションさせられた被害者だ。よりにもよってモモン様に……は、は、はだ……裸を……ムムムム……」

 

 キーノの顔がまたしても真っ赤になります。

 

「……せめてこの右から25度位の角度からならば……まてよ? 物事は考えようだ。もしかしたらモモン様は『うん? ただの子供だと思っていたが案外と胸が成長しているな』とか思ってくれたかもしれないぞ。お、女として……い、意識してくれるかも……」

 

「……ちょんなこちょないでありんちゅ。キーノがナーベよりボインボインなるないならダメでありんちゅな」

 

 キーノの夢想はありんすちゃんの容赦ない一言で粉砕されてしまいました。

 

 と、その時──

 

「大変です! スペイン岬で事件です! 王国のガゼフ様とブレイン様が殺されました!」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

「ここがスペイン岬でありんちゅか……死体は……この布の下でありんちゅな」

 

 警官に呼ばれて事件現場にやってきたありんすちゃんと助手のキーノは早速死体の検分を始めました。ありんすちゃんが布をめくると──

 

「──わわわーー!」

 

 キーノが思わず顔を手でおおいます。

 

 なんと布の下のガゼフとブレインの死体は一糸もまとわない全裸だったのでした。

 

「……わわわ………」

 

 ちなみにキーノは顔を覆いながらも指の隙間からしっかりと見ていたりします。

 

「……この事件の謎はめいたんて、美少女めいたんて、ありんちゅちゃが解くでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは落ちていた棒を拾うとガゼフとブレインの性器を突っつき始めました。

 

「あ、ありんすちゃん。な、なにをしているのだ?」

 

 キーノが相変わらず両手で顔を覆いながら尋ねました。

 

「……なにって……ナニをチョンチョンちているでありんちゅ」

 

「いや、それは見ればわかるが……あの、わ、私は見ていないぞ? ほ、本当だ」

 

 ありんすちゃんは棒で飽きるまで突っついた後、呟きました。

 

「……二人はまちがいなくちんでいるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは腕を組みました。

 

「二人がなじぇ裸だったのかが謎でありんちゅ。その理由は……」

 

「……理由は?」

 

 キーノが緊張した面もちで尋ねますが、ありんすちゃんは黙りこんでしまいました。よく見るとありんすちゃんはウツラウツラ居眠りしています。仕方ありませんよね。だってありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

「……ようやく目覚めたか。で、ありんすちゃん、聞かせてもらおう。何故ガゼフとブレインの二人は全裸だったのか?」

 

 ありんす探偵社で目を覚ましたありんすちゃんに助手のキーノが詰め寄ります。

 

「……その……やっぱりあの二人は……で、出来ていたのか?……いわゆる男同士で……裸で抱きあう……」

 

「……二人がスッポンポンだったのは……」

 

「……スッポンポンだったのは?」

 

 ありんすちゃんの言葉を待つキーノの喉がゴクリと動きます。

 

「スッポンポンになったのは……あちゅかったからでありんちゅ。だから服を脱いじゃったんでありんちゅ」

 

「…………」

 

 ありんすちゃんの名推理にキーノは言葉を失いました。

 

「……ありんちゅちゃには犯人がわかりまちた。犯人は──」

 

 さらにありんすちゃんは犯人の名前をあげました。その名前はキーノの全く予期しない人物だったのでした。

 

「……ま、まさか……そんな事があるはずが……」

 

「……キーノ。しゅぐに逮捕しるでありんちゅ」

 

 しかしキーノはあまりの衝撃で動く事が出来ませんでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

「──離せ! これは何かの間違いだ! 誰か! そうだ。ラナー王女を! ラナー王女を呼んでくれ! 私は無実だっ!」

 

 犯人が連れ去られる様子を見ていたありんすちゃんは静かに口を開きます。

 

「……ガゼフとブレインを殺ちたのは“蒼の薔薇”のラキューシュ、犯人ちかちらない二人の様子がこりに細かく書いてあっちゃでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはキーノに一冊の薄い本を見せました。

 

 ──薔薇は夕日に輝く

 

 それはかつてラキュースが書いたガゼフとブレインをモデルにした同人誌でした。(ふしぎのくにのありんすちゃん 031参照)

 

 かくて謎に包まれたこの事件は『スッポンポン岬の謎殺人事件』としてあらぬ噂をひろめていくのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 一人の支配者が新聞を拡げて呟いた。

 

「……ガゼフが……うーむ。勿体ないな。……しかしスペイン岬って……こわっ。……思ったより物騒なんだな。これまでストレス発散で『死のオーラ』を放ちに行っていたが場所を変えた方が良いかもしれないな。………うーん。同じアンデッドなのにありんすちゃんは全くストレスが無さそうな秘訣を是非とも聞きたかったのだがな……」


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