城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』、美少女探偵ありんすちゃんの朝は一杯のココアで始まります。今朝は珍しく探偵助手のキーノもマグカップを持ってありんすちゃんのデスクの前の応接セットに座ります。
「……静かだな……そろそろ新刊かアニメ四期の話題があってもよいのにな……」
「……キーノはあまあま、甘いでありんちゅ!」
ありんすちゃんが大きな声をあげます。
「……キーノにはわかりまちぇんでありんちゅが大人のじじょあるますでありんちゅ」
ありんすちゃんは得意そうに胸をはりますが、たぶん一ミリもわかっていないと思います。
「…………」
キーノは黙りこみました。普段ならありんすちゃんに反論して不毛な言い争いになるのですが……
「…………ふっ。タフでないとタフじゃないでありんちゅ。やちゃちくないちょ息できないんでありんちゅ」
ありんすちゃんは意味深な言葉を残して探偵社を出ていきました。
※ ※ ※
「──大変です! モモンさ──ん」
エ・ランテルのありんす探偵社からさほど離れていない場所にあるアダマンタイト級冒険者チーム“漆黒”のモモンの家に慌てた様子のナーベが駆け込んできました。
「……ナーベか。騒々しいぞ。何があった?」
「……それが守護者統括のアルベド様が何ものかに殺されました!」
「──なんだと?」
“漆黒”の二人は現場にやって来ました。魔導国の中枢、ナザリック地下大墳墓の第九階層にあるリゾートスパです。
「……これはこれはようこそいらっしゃいました……わん」
第一発見者のメイド長、ペストレーニゃ・S・ワンコが出迎えました。
モモンは倒れているアルベドから思わず目をそらします。入浴時に襲われたと思われる被害者は全裸で上からバスタオルが申し訳程度にかけてありました。
「モモンさ──ん。アルベド様はまだ息があるかもしれません。ここは人工呼吸をするべきかと」
ナーベが何故か強く主張しました。
(いやいやいや。人工呼吸なんて無理だろ? ガイコツだから息なんて吹けないだろ。それにそもそもアンデッドが息を吐くか?)
「……さ、はやくアルベド様に人工呼吸をしてあげて下さい……わん」
二人から急かされたモモンは仕方なくアルベドの頭を両手で支えて顔を近付け──
「ここはありんちゅちゃにまかしぇるでありんちゅ」
まさに間一髪というタイミングで少女び出しました。なんと、美少女名探偵ありんすちゃんです。ありんすちゃんはたまたま急いでいたモモン達に興味を持ち、後をついてきちゃったんですね。
ありんすちゃんはアルベドの身体にかけられたバスタオルを持ち上げて覗きこみました。なるほど。まずは死因を特定するんですね。
「…………モジャモジャ」
……うん? ありんすちゃんは何を見たのでしょうか?
「…………モジャモジャのモジャモジャのゴワゴワ、でありんちゅ」
ありんすちゃんはまたしてもバスタオルを持ち上げました。そして──
「……いろいろいじってちらべるでありんちゅ。コチョコチョ、コチョコチョ」
ありんすちゃんがバスタオルの間に入ってアチコチ触りだすと、死んだ筈のアルベドが身をよじりはじめました。
「…………くふふふふ……くふふふ……」
「…………チョメチョメ、チョメチョメチョメチョメ……」
何故かモモンは白けた様子になり、ナーベが慌て出しました。
「……モモンさ──ん。早く人工呼吸を! 唇を重ねて人工呼吸をしないとアルベド様が助かりません!」
モモンは無言でナーベに背を向けて去ってしまいました。
「──いい加減にしなさいッ! わたくしの邪魔しないでッ!」
いきなりアルベドが起き上がりました。と、次の瞬間──
「こぉらぁああ! 風呂場ではルールをまもれぇええ!」
スパの飾りにしか見えなかったライオンの像が立ち上り、ゴインッ! とアルベドを殴り付けました。全裸のまま、血塗れになって倒れたアルベドを見下ろしながらありんすちゃんは断言します。
「アルベチョさちゅがい犯人は、ライオンだったでありんちゅ!」
※ ※ ※
「──と、いう訳でまたちてもありんちゅちゃ大活躍しるしまたでありんちゅ!」
ありんす探偵社に戻ってきたありんすちゃんは助手のキーノに自慢しました。キーノは深く感銘を受けたらしく、何やら考え込んでいました。
「……ありんすちゃん、今からモモン様に『またしてもスパリゾートで事件です! 今度の被害者は美少女吸血姫です!』って言って連れてきて。私は一足先に出かけてくるッ!」
キーノは元気よく走っていってしまいました。
※ ※ ※
「…………今度はいったい……?」
ありんすちゃんに連れられてきたモモンは頭を抱えます。
「……おかしいっすね? せっかく通りかかったんで出血大サービスでこのチビッコイのにガンガン
聖印を背中に背負ったら