ありんす探偵社へようこそ   作:善太夫

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仮面魔術師の行方

 城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』、美少女探偵ありんすちゃんの朝は一杯のミルクで始まります。

 

「……まったくひどい目にあった……さすがにヤバかったな……」

 

 探偵助手のキーノがまだブツブツ言い続けていますが、ありんすちゃんは無視をしています。

 

 キーノは前回消滅させられてしまった為、危うくこの作品から退場となってしまう所でした。

 

「……まったく……この作品での私の扱いは最近酷くなっているんじゃないのか? 作者に直々に文句を言ってやらんとな」

 

 ありんすちゃんはミルクを飲み終えるとタオルで口の周りを丁寧に拭きました。……うん? いつもならば口の周りにわっかをつけたままのありんすちゃんなんですが……

 

 チリンチリンと入り口の扉に付けられた鈴が鳴り、来客を告げました。

 

「……依頼をお願いしたい。私はリ・エスティーゼ王国アダマンタイト級冒険者チーム“蒼の薔薇”リーダー、ラキュースと申します」

 

 何故かキーノは顔を隠しています。

 

「……実はメンバーのマジックキャスター、イビルアイを探し出して欲しいのです」

 

「えええーーー!」

 

 突然叫び声を上げたキーノを殴って静かにさせるとありんすはにこやかに言いました。

 

「ちょれでは依頼内容をくわちくはなしゅでありんちゅ」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

「イビルアイは一年ほど前に突然『私は夢を叶える為にエ・ランテルに行かなくてはならない』と言って“蒼の薔薇”を飛び出していってしまいました。それからたまには戻ってくる時もあったのですが……」

 

 ラキュースは話を続けます。

 

「リ・エスティーゼ王国で最近、いろんな事があり私達“蒼の薔薇”も遠くの地に行く事になりまして、イビルアイを待っている事が出来なくなったのです」

 

(……うぇえ……そんな事が……しかし私にはモモン様のいるエ・ランテルを離れる訳にはいかないぞ……)

 

 ありんすちゃんは小さく頷きました。

 

「ちょれでチビルアイをちゅかまえてしょの遠くに行くんでありんちゅな。よろちい、でありんちゅ。ありんちゅちゃにまかしぇるでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは胸をはりました。かくしてありんす探偵社は仮面のマジックキャスター、イビルアイの行方を探す事になりました。

 

 

 

※   ※   ※

 

「……キーノ! ちゃっちゃと準備しるでありんちゅ!」

 

 依頼者のラキュースと共に他の“蒼の薔薇”メンバーと落ち合う事になったありんすちゃんはグズグズしている助手を叱りつけます。ありんすちゃんは今回の依頼が金貨十枚の報酬なので張り切っているんですね。

 

「……え、あっ……イタタタタ……復活したばかりでお腹の具合が……」

 

「ダメでありんちゅ。こうなったら力じゅくでちゅれていくでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは小さな身体でキーノを担ぐと歩きだしました。

 

(……参ったな……ラキュースだけでなくガガーランやティア達に会ったら……正体がばれてしまうぞ……困った……)

 

 キーノは焦っていました。何故、キーノは焦っているのでしょう? 実はキーノの正体は王国アダマンタイト級冒険者チーム“蒼の薔薇”の謎の仮面マジックキャスター、イビルアイその人だったのでした。

 

(……そうだ……あれだ!)

 

 キーノはアイテム袋から紙袋を取り出すと顔を書き、スッポリと被ります。

 

(……これでなんとかごまかすとしよう)

 

 こうしてありんすちゃんとキーノはラキュースと一緒に出かけていきました。はたしてキーノはこの難局を乗り切る事が出来るのでしょうか?

 

 

 

※   ※   ※

 

「ここだ。とりあえず私達が泊まっている部屋に行こう」

 

 ラキュースが連れてきた場所はエ・ランテル随一の宿屋『黄金の輝き亭』でした。

 

「お? あんたが美少女名探偵とか呼ばれてるありんすちゃんか……確かに美少女だな。まあ、俺にはかなわないだろうがな。ガッハッハッハッ」

 

 “蒼の薔薇”のガガーランが快活そうに笑います。

 

「……怪しい。紙袋かぶった助手……」

 

「……怪しすぎ」

 

 紙袋をかぶったキーノはティア、ティナからあからさまに怪しまれています。

 

「確かに怪しすぎるぜ。案外中身はイビルアイだったりしてな? ま、冗談はそれ位にしておくか」

 

 ありんすちゃんは“蒼の薔薇”の面々からイビルアイについて詳しく聞き出します。

 

「……なるほど。チビルアイはちんちょう140センチか120センチ位でありんちゅか。しょいで胸はペタンコ、金ぱちゅれ八重歯でありんちゅか……」

 

「……顔を見たことがあるのはボスだけ。食事中も仮面は外さない」

 

「……そういえばそうだったな。あの仮面はマジックアイテムで迂闊に外すと大変な事になる、とか言っていたな」

 

 ありんすちゃんは腕を組んで考え込みます。

 

「しょれで最後にチビルアイ見ちゃのはいちゅでありんちゅ?」

 

 ありんすちゃんの質問にラキュースが答えました。

 

「半年ほど前だったかしら……イビルアイが突然エ・ランテルに行くって言い出したのは。確かアダマンタイト級冒険者“漆黒”のモモン様に会いに行く、と言っていたわね」

 

「……エ・ランテル……モモン……でありんちゅか…………」

 

 ありんすちゃんは考え込みました。その様子を見て、キーノは焦りました。このままではイビルアイとモモンのストーカーだったキーノとを結びつけられるのは時間の問題です。

 

「……えーと……イビルアイさんって凄いマジックキャスターなんですよね? わた、私も噂を聞いた事があります」

 

 キーノが懸命に話題を反らそうとします。

 

「……そうね。確かにマジックキャスターとしての実力は大したものだったわ。マジックキャスターとして、はね」

 

「うんうん。そうだよな。まあ、人間性としてはいろいろ問題があったな。態度が偉そうだったり感情的で子供っぽいとか……」

 

「……たまにおねしょしていた」

 

「……ラキュースのうすい本を隠れて読んでた」

 

「──な!」

 

 思い思いにイビルアイの陰口を叩くメンバーにキーノは言葉を失いました。

 

「──コホン。あーコホンコホン。コホンケホケホ、ゴホン!」

 

 ありんすちゃんが咳払いをしました。無理に咳をしたのでむせてしまったみたいですね。

 

「チビルアイのこちょはわかりまちたでありんちゅ。こりからありんちゅちゃが捜査しまるすでありんちゅ」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 まずありんすちゃんがやってきたのはリ・エスティーゼ王国王都の冒険者組合です。

 

「ちゃのもう、でありんちゅ」

 

「これは美少女名探偵のありんす様。本日はどのようなご用件でございましょうか?」

 

 さすがは美少女名探偵として名高いありんすちゃんですね。王都の冒険者組合でも有名人物みたいですよ。

 

「私達冒険者組合でも有名ですよ。数々の難事件を解決してきた美少女名探偵の噂は皆、知っています」

 

 誉められてありんすちゃんは大きく胸をそらします。

 

「今日は冒険者にちゅいて質問あるますでありんちゅ。チビルアイにちゅいておちえるでありんちゅよ」

 

「……え? チビルアイ、さんですか?」

 

「ちょうでありんちゅ。おちっこチビルアイでありんちゅ」

 

「……申し訳ありません。チビルアイという方は冒険者におりません。……イビルアイさんなら──」

 

「──いないでありんちゅか……チビルアイ……うーん……」

 

 ありんすちゃんは考え込みます。やがて何やら結論が出たみたいですが……うーん……

 

「……チビルアイの行方、わかっちゃでありんちゅ!」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 翌日得意げなありんすちゃんから報告を受けた“蒼の薔薇”の面々は困惑していました。

 

「……するとありんすちゃんの推理によれば『イビルアイは最初からいなかった』だと?」

 

「ちょうでありんちゅ。ありんちゅちゃにかかればしゅべてお見通しなんでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは得意そうです。

 

「……いやいや。それはおかしいだろ? イビルアイがいなかったなんてありえない。じゃああのイビルアイはイビルアイじゃなくて誰なんだい?」

 

 ガガーランの質問にありんすちゃんは答えます。

 

「ありはチビルアイじゃないチビルアイでありんちゅ。だからチビルアイはチビルアイじゃないからいないんでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは空を指差して断言します。

 

「……チビルアイはみんなの心の中にいるますでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんの勢いに“蒼の薔薇”も空を見上げました。

 

「……そうか……」

「……私達の……」

「……心の中に……」

「……イビルアイ……」

 

 

 

「──んな訳あるかーー!」

 

 ずっとおとなしくしていたキーノがたまらずに紙袋を脱ぎ捨てて叫びました。

 

「……あ……イビルアイ……いたの?」

 

 ラキュースは思わず呟きました。かくして仮面のマジックキャスター、イビルアイを無事見つけたありんすちゃんの名声はまたしても上がったのでした。


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