城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』──まだ薄暗い早朝に窓の外を眺める探偵助手、キーノの姿がありました。
キーノはギュッと手を握りしめるとなにやら決心した面持ちで顔を上げました。
「…………私を探偵助手から正規の探偵にして欲しい」
キーノの申し出にありんすちゃんは机の上に手を組むと額にあてました。なんとなくエバンでゲリオンなポーズです。
「…………探偵助手の卒業試験、しるでありんちゅな……うーん…………」
ありんすちゃんは目を閉じます。しばらく考え込むと、パチリと目を開けました。
「わかっちゃでありんちゅ。でわ、こりから試験しるでありますでありんちゅ」
ありんすちゃんは重々しく言うとキーノを連れ出していきました。
※ ※ ※
エ・ランテルの郊外にやって来ると、ありんすちゃんは言いました。
「そりではこりからありんちゅちゃがキーノを試験しまするでありんちゅ。キーノはありんちゅちゃの背中にタッチ出来たら助手を卒業でありんちゅ」
「……え? それだけで良いのか?」
思いのほか簡単な条件にキーノは呆気に取られました。
「ちょれでわ、スタートでありんちゅ!」
ありんすちゃんはチョコチョコとした足取りで駆け出しました。
※ ※ ※
キーノはありんすちゃんを追いかけます。ありんすちゃんに追いつきタッチをしようと手を伸ばした瞬間──
「グレータァーテレポーテーチョン、でありんちゅ!」
ありんすちゃんの姿は消えてしまいました。
※ ※ ※
「はあはあ…………ようやくありんすちゃんを見つけた……た、タッチ……」
「残念でありんちゅ。〈グレータァーテレポーテーチョン!〉でありんちゅ」
ようやくありんすちゃんを見つけたキーノでしたが、あと一歩の所で逃げられてしまいます。
こんな不毛なオニゴッコは終わらないまま100年もの歳月が過ぎていくのでした。
「…………ハアハア……ありん、す、ちゃんよ……いい加減つかまってもらえんか? …………もう、やめにしたいんじゃが……」
「嫌でありんちゅ。逃げますでありんちゅ!」
またしても転移して姿を消されたキーノはガックリと膝をつきました。
「……しまったな……こんな事になるなら探偵助手のままで良かったな……まさか、こんなに大変な事になるとは……思わなかった……ううう…………」
キーノの瞳からはとめどめもなく涙がこぼれ落ちていくのでした。
※ ※ ※
「………………はっ! ……な……なんだ、夢か…………」
目が覚めるとキーノはいつもの屋根裏部屋のベッドの中でした。キーノは安堵のため息をつくと先程までみていた夢を静かに思い返すのでした。
「……ちょうだ。キーノもそろそろ助手を卒業しるとよいんでありんちゅ」
朝食をとりながらありんすちゃんが唐突に切り出しました。
「……あ、いえ。結構です。私は助手が天職ですので…………」
キーノは即座に断りましたとさ。うーん……。