非常警報を受けて外に飛び出したエックスとアクセルの目に飛び込んできたのは、
ハンターベースのパトカーに乗り込み狂喜乱舞しながら走り去っていくカメリーオの姿だった。
周囲を顧みず猛スピードで敷地を走り抜ける
カメリーオの車両に対し、周りにいる一般市民は悲鳴を上げる。
慌てて身を引いて道を譲ったり横跳びをして回避行動をとる中、
同じく周囲にいたイレギュラーハンターの隊員たちは
身を挺して暴走車両を止めようとする。
しかしカメリーオの乱暴な運転の前には成すすべなく撥ねられたり、
飛びつきには成功して車両を掴むも、
力及ばず引きずられては引きはがされ派手に地面を転がった。
そんな危険運転をするカメリーオが道路に出る際の一時停止など勿論する事もなく、
車の流れに強引に割り込んでクラクションを鳴らされながら、
猛然とハンターベースの敷地を出て行ってしまった。
「な、何故カメリーオが……!?」
死屍累々の有様を驚愕をもって見せつけられ、エックスは身が震え空いた口が塞がらない。
元ハンターの今はイレギュラーが警察車両の運転席に座ってハンドルを握っていたと言う事は、
最初は耳を疑ったカメリーオ脱走の報は、残念ながら正しかったと言う事に他ならない。
護送を買って出たゼロに対してはバスター片手に絶対に口車に乗らないよう念を押したはず。
それに手錠には特殊兵装を封印する機能が込められている為、
独房にさえきちんと収監すれば元特Aハンターであってもそうそう逃げられる心配はない。
なのにどうして?
怯える一般市民と負傷した隊員たちのうめき声を前に
エックスが思考を巡らせてフリーズしていると、すぐ我に返ったアクセルが声をかける。
「エックス! とりあえず今はカメリーオを追いかけようよ!」
慌てて叫ぶアクセルの声にエックスもはっとした様子で意識を切り替えた。
そうだ、ここでじっとしていればカメリーオの脱走を許してしまう。
幸い巻き添えを食って怪我をした隊員たちは、すぐ駆け付けた他の隊員に介抱され始めた。
ここは彼らに任せるとしてエックスは素早く周囲を見渡し、
カメリーオが乱暴な運転で出てきたハンターベースの駐車場に目をやった。
ハンターベースの本丸であるツインタワー程ではないが、
階層にして地下2階を含む6階分はある巨大なビルディング型の駐車場。
万一の脱走を防ぐ為に複数あるゲートには詰め所が用意され、
地上階のみにハンターベースとの連絡通路が設置されている。
もっとも元レンジャー部隊のハンターとはいえ、今しがたカメリーオを逃がしてしまったが。
「……そうだな! 今ならまだ追いつけるかもしれない!」
「OKEY!」
エックスとアクセルは駐車場の複数ある入り口の最も近い方へと走った。
距離自体はそう離れていない駐車場は、イレギュラーハンター本部の管轄にある
車両を収めているだけあって、数百台以上は下らない
相当数のパトカーが所狭しと駐車されている。
出口に近い所に駐められている車両の近くには、
既に緊急出撃した同僚のハンター達が車に乗り込んだり、
中には既に乗り込んで出口へと走り出している者達もいた。
2人は後れを取らないよう空いていた車両の一台に近づき乗り込もうとした。
その時であった。
駐車場の出口の辺りから、何か大きく重そうな物が激しくぶつかる音が聞こえた。
そして更に僅かな間をおいて、もう一回同じような激突音が鳴り響く。
「今度はなんだ!?」
乗り込もうと車の扉に触れようとした手が止まり、2人は音の出どころに振り返り――――
「「あっ……!!」」
――――最初に駐車場を出ようとした一台のパトカーが、
出入り口のゲートにぶつかった事に気付く。
すぐ後ろに並ぶようにゲートを潜ろうと進めていた別の車両も、
ぶつかってバウンドした先行車両の巻き添えを食った。 フロント周りがひしゃげ
進むべき方向を無理矢理明後日の方向に変えられた後続車は勢いだけは殺せないまま、
中で係員が逃げようと慌てふためいているゲート脇の詰め所に突っ込んだ!
――――そして後続車は大爆発!!
これには車体が潰れただけの先頭車両も火炎に巻かれ……誘爆!!
ゲートから伝わる轟音と爆風に曝され、たまらずに2人して顔を守るように腕で覆った。
圧倒的な熱量と燈色の光、焼けただれた車両や破砕した詰め所やゲートの破片が、
火災報知機のベルと共に数十メートルは離れている筈のエックスやアクセルにも降り注ぐ。
「こんな時に操作ミス!? 一体何やってんのもう!!」
アクセルがたまらず悪態をつく。 焦りからくる隊員のミスだと思ったその考えは、
しかしすぐに間違いだと言う事に気づかされる事になる。
「ぎゃああああああああああああああああッ!!!!」
火災事故から気を取り直す間もなく、エックス達のすぐ近くの
別の車両から誰かの悲鳴と共に強烈な閃光が走った!
今度はそちらへと振り向くと別の車両のハンドルに手を触れた隊員に電撃が走っていた。
白目をむき、全身を踊らせて叫び声を上げてすぐに倒れ込んでしまった。
同乗しようとしたもう一人が反対側に周ってみると、
驚愕に染まった表情で腰を抜かしてしまった。
感電した隊員は全身を黒く焦がし完全に機能停止していた。
口と鼻周りから煙を吹き、ある筈のない髪の毛がアフロヘア―になっている事から
見るからに相当高圧な電力にさらされたことが分かる。
「だ、誰か止めてくれええええええええ!!」
間髪入れずに背後から叫び声が聞こえる。
「車が言う事をきかないんだあああああああ!!!!」
唸るエンジン音にタイヤがスキール音を上げ、
ゲートに突っ込んだ時と同じような激突音がまたも鳴り響く。
今度は駐めてあった別の車両に突き刺さって大破した。 周囲にいた隊員たちも巻き込んで。
<エックス!! 大変よ!!>
混乱の中、突然エックスの無線機に通信が入った。 エイリアだ。
<3階にあった保管庫から押収した下着類とイレギュラー達から取り上げた
武器弾薬のいくつかが無くなっているの!!
……え!? 何ですって! コンピュータウィルスの入ったチップまで!?>
……慌ただしく応対するエイリアの情報から、エックスは全てを悟った。
「……カメリーオの仕業だ」
<えっ?>
「これはカメリーオの妨害工作だ!! あいつ逃亡の時間稼ぎに車に細工していったんだ!」
エックスはエイリアに伝えた。
横でやり取りを聞いていたアクセルは、触れかけていたパトカーのハンドルから慌てて手を離す。
「エイリア! この駐車場の他の出口はどうなってる!?
本部の連絡通路から近い所の車両は!?」
「確認するわ! ……ああ!! 何てひどい!?」
無線越しに手早く確認したであろうエイリアから悲痛な声が上がった。
今エックス達がいるスペースの惨状と同じように、
駐車場内の他のフロアも大混乱に陥っていた。
車が勝手に暴走した。 ハンドルを引いた瞬間爆発したか感電した。
そして極めつけに乗り込みの際に座席に画鋲がばら撒かれていた。
それらを全てエイリアは手短にだが、しっかりとエックスとアクセルに伝えた。
エックスはたまらずに悪態をついた。
「クソッ! やむを得ない……この駐車場内の車両はあきらめよう!」
「わかったよ! でもどうしてこんな短時間に全部の車両を!?」
「全てじゃない! 俺達が真っ先に乗り込みそうな車だけを狙い撃ちにしたんだ!!
とにかく出入り口を塞がれたらどうにもならない! 一旦外に出よう!」
駐車場の出入り口は全て燃え盛る車両に阻まれ使い物にならない。
エックスはとにかく、カメリーオは自分達に任せて消火作業を優先するよう他の隊員に指示し、
辛うじて被害の発生していないすぐ近くの本部への連絡通路へと再び走った。
駐車場内で行われている消火活動への援護に駆け付けた隊員達とすれ違う中、
開いたままのオートドアをくぐり抜けると、
目前に左右がガラス張りの連絡通路が本部へと真っすぐに伸びている。
今使えるルートで外に一番早く出られるのはここだ。
ハンターベースの職員が忙しなく往来する連絡通路へエックス達が飛び込んだその時であった。
「カメリーオオオオオオオオオ!!!! 俺を騙したなあああああああああ!?」
今回の騒動が発端の一因となった、
赤いイレギュラーが憤怒の形相で連絡通路の反対側から走ってきたのは。
エックスは長年苦楽を共にした相棒の姿を見るやいなや、
走りながら右の二の腕を振り上げ――――
「あ、おいエックス!! カメリーオを見つけなかったか――――」
「 な ん で 逃 が し た あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ッ ! ? 」
――――凄まじい怒りと共にすれ違いざまにゼロの喉に目掛け振りかざした!!
「 ゴ ッ ボ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ ッ ! ? 」
互いに全力疾走する勢いと振りかざされたエックスの剛腕の衝突が、
破壊的なエネルギーを二乗三乗にも引き上げる!
前に進む勢いはそのままに、ゼロの首は腕にぶつかった衝撃で上を向き後ろのめりに倒れこむ!
そして後頭部を強打!
「うぼあッ! な、何をしやがるエック……ヴォエッ! ゴボボーッ!」
エックスのラリアットと頭を強く打った前後からのダメージに
電子頭脳を激しくシェイクされ、ゼロは今にも嘔吐しそうなほど苦しげに地面をのたうち回った。
しかし怒れる青いハンターは容赦しない。
間髪入れず地面を転がりまわるゼロの胸倉をつかんで無理矢理引き起こす。
「言えッ!! 何に釣られた!? あれだけ逃がすなって言ったのに何故裏切った!?」
「エ、エックス待って! まだゼロが裏切ったと決まった訳じゃないよ!!」
マジ切れするエックスにアクセルが割って止めに入った。
エックスの手から離れゼロの頭は再び地面に倒れ込む。
「今騙されたとか言いかけてたじゃないか!!
絶対エロにつられてカメリーオに言いくるめられたに違いないッ!!」
「とにかく落ち着いて話を聞こうよ!! ……えっと、ゼロ!?」
身を挺して怒れるエックスを宥めつかせると、アクセルはゼロに向きなおす。
「何があったの? まさか本当にカメリーオと変な取引とかしてないよね?」
膝をついて苦しそうにせき込むゼロの後ろ頭に手を当てて上半身を起こし、
そしてゼロは爆発音や悲鳴の飛び交う騒然とした火災現場を目の当たりにする。
目を見開きゼロは言葉を失った。
「……カメリーオの仕業だよ。 保管庫から押収した盗品や武器の類が盗まれたんだよ」
「何ッ!?」
妨害工作と言うには度を越したカメリーオの破壊活動、沈痛なアクセルの声にゼロは驚愕する。
「クソッ!! 何てこった!!」
苦虫を噛み潰した様な顔で、悔しそうに震える握り拳を地面に叩きつけるゼロ。
「残りの下着も取ってくるって約束したから、わざわざ保管庫の位置まで教えたんだぞ!?
あの野郎!! 恩を仇で返しやがってッ!!」
そして語るに落ちる。
話をしっかりと聞いていたエックスとアクセルは真顔で互いに顔を見合わせると、
攻撃が駐車場やハンターベース本部に入り込まないよう脱走の手助けをした下手人の
側面へと回り込み、背景に正門前の大きな国道が見えるように位置取って得物を突きつけた。
「ごめんねエックス。 処刑の邪魔しちゃって……折角だから僕も参加するよ」
「じゃあファイナルストライクで一気にケリをつけよう」
「OKEY!」
「あ、これひょっとして詰んだか?」
乾いた笑顔で淡々と処刑の段取りを立てる2人に、
冷や汗ダラッダラで引き攣った笑顔を浮かべるゼロ。
エックスのバスターにエネルギーが収束し、
アクセルはバレットのスライドを引いて無情なるコッキング音を立てる。
「ゼロ……最後に言い残す事はないか?」
2人の胸中に怒りの炎が燃え盛る中、
エックスはあくまで表面上は穏やかにゼロに辞世の句を求める。
対してゼロは観念したのか一つため息をつくと、
介錯を求める合図のように正座をしてそっと目を閉じた。
「俺は正義の味方でもなければ、自分を英雄と名乗った覚えもない。
俺はただ……自分が信じるモノの為に戦ってきた。
俺は悩まない……目の前にエッチな話がぶら下がったのなら……
全 裸 で ル パ ン ダ イ ブ す る ま で だ ! ! 」
「「死ねやああああああああああああああああああッ!!!!」」
「j8うぇう9sfどいkj9え04いおckふぇs9どえwり90tッ!!!!」
バスターとバレットの波状攻撃にゼロはこんがりと身を焼かれ、
隠しカラーよりなお黒いブラックゼロとなった彼は
側面ガラスをぶち破って派手に吹き飛ばされた!
僅かに空中を舞った後、地面を何度か派手に転がり……
やがて仰向けに大の字に身体を開いて停止した。
黒焦げになって煙を上げつつも、騒々しい地上の様子をよそに美しく雄大な青い空に
負けないぐらい、全てををやり遂げたような晴れやかな笑みを浮かべ眺めていた。
まるで我が生涯に一片の悔いもないと言わんばかりに。
「……一体性欲の何がゼロをそこまで駆り立てるんだ」
「パンツの代償が破壊工作とか笑い話にもなんないよッ!! バーロー!!」
2人は息を荒げ、おバカな行動に命を懸ける仲間のメンタルに呆れかえっていた。
<エックス! アクセル! 朗報よ!! 逃げたカメリーオの位置が分かったわ!>
脱力した空気の中、エイリアから再び通信が入った。
<隊員の一人がカメリーオの車に飛びついた時に追跡タグを貼り付けていたのよ!
あの変態はここから北西に20km離れた国際空港に向かっているわ!>
「っ何だって!?」
<外にパトロールに出ていた他のハンターも区画封鎖と検問の設置をしているの!
急いで! 今ならまだ間に合うわ!!>
そう言ってエイリアは通信を打ち切った。
エックスとアクセルは武器を収め、2人してもう一度互いに顔を見合わせてうなずいた。
「行こう! 今はこんな事をしている場合じゃない!」
「そうだね! カメリーオを捕まえなきゃ!」
そう言ってエックスとアクセルは叩き割った連絡通路のガラスを跨いで正門へと駆け出した。
「でもどうするの!? 駐車場はあんな状態でとても車を出し入れできないよ!?」
「なら国道を走っている一般車を止めるしかない!! 車を借りよう!」
「できるのそんな事!?」
「やるしかない!! カメリーオを逃がす訳にはいかないんだ!」
2人は市民の協力を仰ぐ事を提案しながら、
敷地前を横切る片側それぞれ4車線ある大きな国道へ走り寄ると、
道路側の歩行者通行路にて立ち止まり、道路を走る車へと両手を振って大声を上げる。
「すみません!! 止まってくださいッ!! 誰でもいいので車を貸してくださいッ!!」
「お願い!! 犯人に逃げられちゃうよ!! 頼むから誰か協力してよ!!」
交通規制が敷かれる中、まばらに道路を走る乗用車に必死で声をかけるも、
しかし我関せずと言うべきか道行く車のどの一台も彼らの為に止まる気配を見せず、
躍起になるイレギュラーハンター達を置いて軽快なエンジン音を鳴り響かせ去っていった。
それでもあきらめず声をかけ続ける2人。 人間ならとっくに喉がかれそうな程に叫び続けるが、
エックス達の声は無情にもそれ以上に大きい自動車の走行音にかき消されていく。
道行くドライバーのあまりに世知辛い無関心さに、
やがてエックス達は意気消沈して呼び止める動作を止めてしまった。
「くそっ……このままじゃきりがない! どうすればいいんだ!!」
「こんな所でモタモタしてたんじゃ逃げられちゃうよ!」
「折角仲間が命懸けで掴んだチャンスなのに……何か方法はないのか!?」
頭を抱え、やるせなさに打ちひしがれるエックスとアクセル。
このままではカメリーオは逃げおおせ、
必死で車に張り付いて発信機を取り付けた名も無き隊員に申し訳が立たない。
「らしくないぞエックス!」
途方に暮れるエックスとアクセルの後ろから、聞き覚えのある声がした。
2人は振り返り声の主の姿を見た。
「お前ならとっくに車を拝借できてると思ったんだが?」
「「ゼロ!?」」
視線の先にはゼロがいた。
燃えるような赤のボディにたなびく金髪、そして相対する者全てを射抜く青い目。
エックスとアクセルのよく知る凄腕の剣士が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
それだけにアクセルは強い違和感を覚えた。
今さっきエックスと二人でブラックゼロと化すまで徹底的に攻撃したはずなのに。
「……生きてたんだ、アレで」
疑問を感じるアクセルにゼロは得意げにこう話した。
「ダメージがかんぜんにかいふくするまで、じめんにねそべっていたんだ」
「自力で回復するもんなの!? 無駄に凄いな!!」
強靭を通り越して当たり前のようにダメージが治ったゼロにアクセルは驚愕していた。
一方でエックスは、しれっと無傷で戻ってくるゼロを見ても特に驚きおののく様子はない。
当然だ。 何せゼロの数あるあだ名の一つに『復活のハンター』なるものがあるが、
その根拠とはどれだけバラバラになって下半身が吹き飛ぼうとも、
少しの間を置けば何事もなかったかのように生還する。
そんな説明に困る現場をいの一番に目撃する事が多いのが、他ならぬエックスであるからだ。
むしろ毎度その光景を見せられる彼こそが、
ゼロの『復活のハンター』なる名前の出所だと言っても過言ではない。
それはさておき、困惑するアクセルをよそに2人の元に戻ってきたゼロが構わずに続けた。
「まあいい、エックス。 車を掴まえたいなら俺にいい案がある」
余裕ありげなゼロの態度に、エックスは今しがたアクセルと一緒に激しいツッコミを入れて
吹き飛ばしたばかりと言う事もあって、疑ってみるような目つきでゼロを見返した。
「……まさかとは思わないが、カメリーオの事はあきらめようとか言わないよな?」
「俺を見損なうなよ! 何、心配するな。 カメリーオは必ず確保するつもりだ!
なにせ奴に対しては脱いで洗ってない下着の借りがあるからな!」
「汚い借りだなあ」
「俺の下着の話じゃないぞアクセル! ……まあとにかく教えてやる」
やはり怪訝な眼差しを送るエックスとアクセル。
そんな2人に対し余程自分の考えに自信があるのか、ゼロは胸を張って答えた。
「簡単な事だ。
バスターの一発でもぶち込んで、車止めてから適当に交通違反でっち上げればいい!」
「ただの言いがかりって言うんだよそれッ!!」
身も蓋もないゼロの言い分に、当然のごとくアクセルが過敏に反応した。
やってもない犯罪のでっち上げなど悪徳以外の何物でもない。
非常時とは言え、そんな無茶をやらかしたら当然に問題になるのだが、
「問題ない。 犯人逮捕に協力しない市民は反逆者だ!」
「TRPGのパラノイアじゃあるまいしダメに決まってるでしょ!?
ほら、エックスも何か言って「その手があったか!」
「ファッ!?」
エックスはむしろ乗り気であった。
感激のあまり両手を叩き、打つ手のない状況に顔を曇らせていたエックスの表情が、
まるでにわか雨の通り過ぎた後の晴れやかな太陽のように明るくなる。
あんな無茶な言い分のどこに琴線に触れる部分が!?
そう言わんばかりにアクセルは派手に吹き出してしまった。
口に物を含んだ状態なら、それこそもう『ひどい事』になっていただろう。
しかしゼロの提案に感銘を受けたエックスは、長年の相棒に歩み寄って右手を差し出し、
ゼロもそれに答える形で笑みを浮かべてエックスの手を握り、
仲直りの意志を込め強く上下に振った。
「疑ったりしてすまなかったゼロ! ありがとう、君の意見に助けられた!」
「フッ、いいからさっさと適当な車を停めてカメリーオを見つけ次第ぶっ殺そう!」
「ああ!! 逃がしたのはゼロだけど、施設を破壊したカメリーオを俺は絶対に許さない!」
犯した失態をしっかり覚えてはいるが、唖然とするアクセルをよそに
エックスとゼロは互いの握り拳を合わせて称えあった。
やはり彼らは苦楽を共にした仲間、(道徳的にはさて置き)強い信頼の絆で結ばれているのだろう。
「ちょっと待てええええええええええええええッ!!!」
勝手に不穏な話を進めるエックスとゼロに、ついにアクセルは堪忍袋の緒が切れた。
天下の大通りで絶叫しながら2人に詰め寄るアクセル。
「あんた等どういう思考回路してたらそうなるの!? 周りの迷惑考えてる!?」
……エックスとゼロはため息をついた。
エックスに至っては頭まで抱え、さながらアクセルが物分かりの悪い堅物のような物言いをする。
「何事も建前は必要なんだ。 分かるだろうアクセル?」
「分かってたまるか!! エックス達は法律やハンターの使命を何だと思ってるの!?」
あくまで正論を言うアクセルに、あくまで冷静に一歩前に踏み出すゼロ。
そのただならぬ様子にアクセルは一瞬身じろぎする。
「アクセル……お前には一つ教えてなかったことがあるな。
俺達の意志の源となり背中を支える、ハンターとしての心構えを」
そう言ってゼロは振り返りエックスと目を合わせた。
エックスは無言でうなずくと、
その答えを待っていたと言わんばかりにすぐにアクセルの方へ向きなおす。
そして阿吽の呼吸でぴったりと口を揃え、
エックスとゼロが力強くアクセルを見据えてこう宣言した!
「「 俺 達が
アクセルは絶句した。
………………………………………………………………………………
……………………………………………………
…………………………
今日は結婚1周年記念日。 俺『伊藤 誠(いとう まこと)』が
親父のツテでここアメリカに長期滞在し3か月目となる。
眩しい日差しの差し込む快晴のニューヨークがマンハッタンを駆る、
俺の愛車は1959年式のピンクキャデラック。
右の助手席に座る妻の言葉(ことのは)の長い後ろ髪が
温暖なアメリカの風に吹かれてたなびいていた。
「ふふっ今日もいい天気ですね♪ あなた?」
こっちを向いてはにかむ言葉を俺は横目でにこやかに流し見た。
人目を惹く豊満でわがままな体つき、だけどその心は清楚で絵に描いたような大和撫子。
自慢の奥さんを脇に乗せ、アメリカの繁華街をクラシックカーで駆る。
まさに俺の人生はピークそのものだ!
そんな順風満帆にドライブを満喫している中、
カーラジオからあるニュースが俺達の耳に飛び込んできた。
何でも収監されるはずだったイレギュラーが、
たった今この近くのハンターベースからパトカーを奪って逃走したと。
既にこの話はパトロールで出張ってた他のハンター達にも伝わって、
順次道を封鎖したり検問を置いたりしているらしいけど……。
「まあ……イレギュラーが逃げるなんて怖いです……!!」
ニュースを真に受けた言葉が怯えていた。
よく見れば事件が起きた影響なのか、
周りに走っている車の数が少なくなったり、あるいは通過する交差点をチラ見すると
ニュース内容の通り設置された検問に引っ掛かり、
渋滞に巻き込まれた哀れなイエローキャブ達の姿も見えた。
冗談じゃない……折角いい気分だってのにこれじゃあ台無しだ!
俺はもう一度周囲を見渡した。
封鎖が始まった影響か、今走っている道路にあまり他の車の姿は見当たらない。
こういう時は……軽くかっ飛ばすに限る!
「っ! あなた!?」
俺はアクセルペダルを全開まで踏み込んで、車の少ない快適な道路を目一杯飛ばした。
フロントカラスに走行風が巻き込んで顔に強く当たる!
生暖かいが気持ちがいい! オープンカー最高だ!
「ダメです! こんなにスピード出したら危ないですよ!」
目を閉じて顔を腕で覆い巻き込む風から身を守ろうとする言葉。
俺は言った。
「はははっ! どうだい言葉! 会った事も無いイレギュラーなんかよりずっと怖いだろう!?」
「やめてください! こんなにスピード出したら捕まっちゃいますよ!」
「考えすぎだよ! 何だったらパトカーだってぶっちぎってやってもいいぜ!?」
「きゃああああああああ!」
俺の妻はかわいい声を上げて塞ぎ込んでしまった。
全く考えすぎだって、イレギュラーなんてそうそう出会う事ないんだから。
そう考えながら俺は他の車を縫うように追い越していった。
かなりのスピード差があるのか、他の車は地面に置かれたパイロンのようにあっさりとパスする。
途中クラクションを鳴らしてくる奴もいたけど、ここは日本じゃない。 旅の恥は掻き捨てだ!
俺は猛スピードのままハンターベース正門前を猛然と通過!
なんだかテレビとかで見覚えのあるレプリロイド3人と、駐車場の中辺りから
煙が上がっているようにも見えた気がするけど、ボヤ騒ぎでも起こしたのかな?
まあそんな事はどうでもいいや。
俺は構わずに正面を向き、長く続く道を風の赴くままにかっ飛ばしていった!
吼えろ! 俺のV8エンジン!
………………………………………………………………………………
……………………………………………………
…………………………
「こんな時になんなのあの車!? 明らかな速度違反じゃない!!」
唯我独尊を地で行くような物言いのエックスとゼロの背後を、
風切り音を伴って猛烈なスピードで駆けて行った車。
一瞬の事で他の事に気を取られた中でありながら、しかしやはり彼ら3人は特A級ハンター。
国道から伝わった轟音に気付いて見た先にあったそれが、
1959年式のピンクキャデラックである事が把握できた。
テールランプを目で追ってみると、
右側の助手席にいる髪の長い女性が明らかに怖がっているのも顧みず、
身勝手にも制限速度を10数マイルは大幅に上回るスピードで駆けていく
見るからに浅慮で無責任そうなドライバーの姿もはっきりと伺えた。
「おいエックス」
「ああ、手間が省けた……あの車にしよう」
「えっ?」
獲物(カモ)がネギをしょってやって来た。
はっきりと告げた2人にアクセルは、
油切れを起こしたゼンマイ人形のようにぎこちない動きでゆっくりと振り返る。
「あの車明らかに速度違反だった。 止めるのは俺達ハンターの責務だ」
「しかもあんな胸のでかい女隣に乗せてるとか……許せねぇな」
明らかに私怨を含んでいるゼロだが、結論としてはエックスと同じく
『あのキャデラックを拝借するぞ!』だった。
今日始まって以来初めて意見が合致したエックスとゼロの判断は早い。
既に2人は『違反車両の取り締まり』に向けて動き出そうとしていた。
「何も今来なくったっていいのに……!!」
鬱陶しい位に息ぴったりなエックスとゼロと、そんな情け無用の二人に捕捉された
バカなキャデラックのドライバーへの呪わしさにアクセルは嫌な汗を流し呟く。
「グッ!」
「ッゼロ!?」
突如、ゼロが苦しそうに膝をついた。
エックスも身を屈めて苦痛に顔をしかめる赤いハンターを介抱する。
「さっきのファイナルストライクのダメージが残ってたか……
残念だがもう少し経たなければ走れそうにない。
エックス、悪いが先にあのキャデラックを止めてくれ!!」
「ああ!」
カメリーオほどの距離が開いてしまえば不可能だが、今しがた通り過ぎたピンクキャデラックなら
レプリロイドの走力とダッシュ移動を駆使すれば辛うじて追いつく事はできる。
やるべき事は決まった。 エックスは立ち上がり迷わず国道に躍り出てる。
「エックス!」
勇んで国道を駆けようとするエックスをゼロが呼び止めた。
「野郎はともかく女の回収だけは忘れるなよ?
ダメそうならせめて下着だけでもガメてくれ……頼んだぞ!」
ゼロは親指を立ててエックスにエールを送る。
それに答える様にエックスははにかみ、
そっと中指を立ててピンクキャデラックをダッシュで追いかけた。
目にもとまらぬ速度で駆けていく彼の動きを、蒼い軌跡の残像だけがなぞる事が出来る。
それはさながら、エックスの天性の俊敏さを物語っているかのようだった。
青いハンターの雄姿を見届けたゼロは、目を閉じて不敵に笑う。
「フッ、冗談の分からんブルマだ」
そして小声でのつぶやきと共に、
『どこからともなく』飛んできたエックスバスターがゼロの顔面に命中!
眩い爆発の直後には、首から上だけをこんがりと焼かれたゼロがそこにいたが、
勿論顔面セーフとはいかず力が抜け落ちた様に後ろへと倒れこみ、笑みを浮かべたまま失神した。
この間アクセルはついていけず、ただ黙って2人のやり取りを力なく眺めていた。
再び黒焦げで仰向けに倒れ、そしてハンターベースの駐車場にて
目の前で感電した隊員のようにアフロヘア―になったゼロを一瞥し一言。
「あーもうめちゃくちゃだよ」
予想以上に早く仕上がったので第三話投下。
ただいま4話執筆中です。 しばしのお待ちを!
追記:
おっといけない。 俺法にルビ振るの忘れてた!