胴体真っ二つになったゼロを発見したエックスとアクセルの2人は
河原の茂みを探るようにして、両断されたゼロのレッグパーツを捜索していた。
大都会ともいえる町中でありながら、余り人の立ち入る事のない河川敷は川のすぐ側の
砂利だらけの河原と、土はおろか成人男性の腰元までを覆い隠してしまう程に
背の高い草の生い茂るエリアが混在している。
ゼロの体から切り離されたのならそう離れてはいない筈だが、目立つ所に
見当たらないと言う事は、この視界を遮る草むらに落ちている可能性が高いと言う事だろう。
「全然見つかんないなぁ……」
かれこれ10分辺りを見回っているが、あからさまに目立つはずの
下半身は一向に見つからず、頬を拭いながら不満げにアクセルが漏らした。
ひょっとしたら車と一緒に川に落ちたのかと再び潜ってみたりもしたが
変わらずに沈んだ車2台があっただけで下半身は姿形も見当たらず。
……こうしている間にもカメリーオはまんまと逃げおおせているのだろう。
アクセルの脳裏に焦りが募る。 同じくゼロの下半身を捜索している
エックスの方へと目線を移す。
「ゼロの下半身はここか?」
エックスはそこらに落ちている30センチほどの大きさの石をどかせて下を見る。
日の光が当たらず湿った陰に隠れていた蟻が散らすように逃げていく。
当然見つかるはずもない。
「ここにはない……」
エックスは顔をしかめ石を適当に放り投げると、
続いてその隣に落ちていた流木を蹴って転がした。
「これもだめ」
しかしレッグパーツのレの字も見つからない。
転がした流木に目もくれず、今度は川に流されて堆積した空き缶などのゴミを適当に漁る。
「ゼロの下半身、いるなら返事をしてくれ」
勿論返事はない。
申し訳程度にゴミの山を漁ってみたが、やがてエックスはため息をついて手を止めると、
倒れ伏したまま不満げにエックスを見ていたゼロの方へと振り向いた。
「だめだゼロ、全然見つからない……あきらめてハンターベースに帰ってくれ」
「 お 前 真 面 目 に 探 す 気 な い だ ろ ッ ! ! 」
「え、そりゃまあ……放っておいても直るものをわざわざ探してるし……」
怒りのまま声を上げて地面を叩くゼロに、エックスはただ困ったような表情をした。
横で流し見ているアクセルもあまりに投げやりなエックスの対応に苦笑いを浮かべる。
が、それにしては抗議するゼロに対して少しばかり疑問に感じる部分もあった。
「えらく下半身に拘るね? エックスの言う通り放っといても直るんなら
応援呼んで回収してもらうのも手じゃないの?」
「だめだ! 仲間に回収されたら俺がカメリーオぶっ倒せなくなるだろ!
それにあの千切れた下半身がないと意味がねぇ!
探してくれなかったらこれから1か月はネチネチ絡んでやるぜ!?」
「うっとーしいな! ……いっそ置き去りにしちゃおうかな」
「置いてかんといて」
あくまで食い下がるゼロのしつこさにアクセルは辟易する。
憎きイレギュラーへの恨みから、自分の手で倒さなければ気が済まないのは分かる。
しかしそれについてはある意味自業自得の側面もあったわけだ。
加えてやたらとちぎれた下半身に拘るのも、自他共にスケベと認めるゼロにしても
勝手に直るものをわざわざ時間かけてまで探せと言うのも腑に落ちない。
一体何がゼロをここまで駆り立てるのか?
捜索に時間を取られて取り逃がすぐらいなら、いっその事2人だけで
カメリーオを掴まえに行った方が遥かにマシでないか?
アクセルは内心苛立ちを覚えながらも渋々捜索を続けると、つま先に何やら硬い感触が当たる。
目線を下に向けてみると、そこには見慣れた赤い脚部に黒地の膝、
そしてこっそりブリーフと比喩される腰回りの白いパーツが!
「あった! これだね――――」
ゼロのレッグパーツをてにいれた!
「見つけたか!?」
「やった! お手柄だぞアクセル!」
ようやくお目当てのモノを発見したアクセル。
探し求めていたゼロの下半身をようやく見つけられた事にエックスとゼロも歓喜の声を上げる。
が、それもつかの間の事。
下半身を発見した当の本人たるアクセルは急に顔をしかめ、
「バーーロォォォォォォォォォォォッ!!!!」
切り離されて機能しないゼロの自前のバスターを全力でストンピングした!
アクセルのキック力増強フットパーツから繰り出される踏み付けは、
軽く地響きが伝わる程の破壊力を生む。
ゼロの足はアクセルの脚力を受け、まるで脚気検査でもしたかのように大きく持ち上がった。
「な、何しやがるアクセル!?」
いきなり股間を潰された怒りとアクセルの凶行に困惑する感情が
入り交じり、目を見開いて叫ぶゼロ。
しかしそれ以上に、声をかけられたアクセルは肩で息をする程に激怒していた。
身をかがめてゼロの片足をつかむと、振り返る事無くゼロの方に下半身を乱雑に放り投げる。
空中でだらしなく足を曲げて放物線を描きながらゼロのすぐ近くに落下する下半身。
地面に叩きつけられる瞬間を見たエックスは反射的に身構えてしまう。
「落ち着けアクセル! 一体何をしてるんだ!?」
「これが落ち着いてなんかいられないよ! ゼロの股間見てみなよ!」
怒り声を上げるアクセルに促されエックスは、
くの字に足を曲げて地面を転がるゼロの下半身を見て――――
――――即座に
「 『 ロ ッ ク ボ ー ル 』 ッ ! ! ! ! 」
ゼロの黄金の股間にシュウゥゥゥゥゥーーーーーッ!!
「おいいいいいいいいいいいいいッ!?」
超、エキサイティンッ!!
再び空中を舞踊り燦然と輝く太陽と重なる赤いレッグパーツに、
ゼロは悲しみの絶叫を上げながら、
左側の護岸目掛けて飛んでいく下半身を掴むように腕を伸ばした。
……その時である。 もう一度空中から地面に叩きつけられる
一瞬の間に、ゼロの股間から白い布切れが零れ落ちたのは。
「あっやべ……」
同時に抗議の声を上げていたゼロの声のトーンが急に下がる。
2人は無言で布切れの落ちた場所へ足を進め、それをアクセルが
身をかがめてさっさと布切れを拾うと、ゼロの元へ戻りそれを突きつけた。
「ねえゼロ、ナニコレ?」
「君の股間のあたりからはみ出てたのを見たんだけどな?」
それは見事なまでに輝ける純白のブラとショーツだった。
白銀を思わせるかのような美しい艶を持ち、あえて明言は避けるが
ゼロの『体温』に触れていた為かほんのりと生温かかった。
「エックス。 ひょっとしてゼロがカメリーオの手錠を外したのって」
「ありえるなぁ。 『押収した下着に』つられないように念は押しといた筈だから……。
まさかこんな物の為に10分もレッグパーツ探させたって言わないよな?」
「ハハハ……マサカソンナワケネェダロウガ……」
2人は威圧感たっぷりに笑ってはゼロを見下ろし、
蛇に睨まれた蛙のようにゼロは片言になりながら、
冷や汗を流して引き攣った笑顔を浮かべていた。
エックスとアクセルは、駐車場にてゼロを吹き飛ばした時のように
武器に手をかけようとした所で、
「ヒィ……ヒィ……」
「と、とりあえずここまでくれば安全か……?」
近くから聞こえてきた声に反応して動きを止めた。 アクセルは銃を下げて
声のした方向……エックスがゼロの下半身を蹴り飛ばした護岸の方向に振り向いた。
見てみると何やらレプリロイド2名が息を切らすように走り、
近くの草むらに落ちたゼロのレッグパーツに気付く様子もなく、
何やら必死な様子で護岸を駆け降りてきた。
「! エックス伏せて!」
アクセルはエックスの肩を掴んで体重をかけるように2人して地に伏せる。
色合い的にも目立つ2人の体は、ゼロの切り離された胴体と下半身がそうだったように
青々と生い茂る草むらに隠れるように倒されてすっかり目立たなくなった。
「どうしたアクセル……いきなり押し倒したりして」
「皆静かに!」
不満げな声を上げるエックスに、アクセルは小声で口元に指を立てる。
エックスはしばし考えたが、アクセルの意図を察したか黙ってうなずいた。
それを返事と受け取ったアクセルは草むらをかき分けて来訪者の姿を窺った。
やってきた2人は草の生え方もまばらな開けて視界のよい、
川の側にある砂利の河原で立ち止まっては膝に手をついた。
鬣の立派なライオンのようなレプリロイドに、ディグレイバー型だが明らかに
そんじょそこらの量産型よりも立派な装備に身を包み、
紙幣のはみ出したトランクを持ったレプリロイドの2体。
「ライギャンβにキンコーソーダー……!?」
「あいつら指名手配されてるイレギュラーだよね……なんでこんな所に?」
エックス達には見覚えがあった。
最近この辺りで強盗騒ぎを立て続けに起こし、予てから凶悪犯としてマークされていた
『ライギャンβ』と『キンコーソーダー』の2人組であった。
一心不乱に走ってて注意力が散漫になっていたのもあったのか、素早く隠れたのが幸いして
すぐ近くに潜んでいるイレギュラーハンターの影には気づいている様子はない。
やがて2人組は息を整えたのか、互いに顔を見合わせて会話を始めた。
「もう少しで捕まっちまう所だった。 全くお前の煙幕にはいつも助けられてるぜ」
「気にすんな。 ……それよりも金は持ち出せたか?」
「おうよ、何とか前金の分だけでもあるぜ」
話から察するに2人は捕まる寸前に逃げてきたようだ。
追っ手を撒いた安堵からかは知らないが、
大切そうに持っていたトランクを地面において中身を開く。
その中身ははみ出していた現金が物語る通り、大量の札束が所狭しと収められていた。
この間周囲に注意を払うようなことはせず、
手配犯2人はトランクの中身を恍惚とした目で眺めていた。
そして顔を見合わせて時代劇における悪代官と悪徳商人よろしく、
いかにもな下衆な笑い声をあげる2人組。
先述の会話といい前科持ちの身の上からして、
この金は恐らく『出どころの宜しくない』物だろう。
強欲極まりなく、そして無警戒にも程があるとしか言いようがない。
「とりあえずはこれでカメリーオの旦那のブツは買い取れそうだ」
「足りない分はまた後で巻き上げりゃいいんだよ……。
へっへっへ、旦那の下着のチョイスは最高なんだよな」
「確かに……しかも脱いで洗濯してないマジモンだ。 たまんねぇや!」
隠れて話を窺っていたエックス達は悪党どもの変態性に顔をしかめた。
ずっと地面を寝転がっていたゼロも、一緒に様子を見ようとしたのか
上半身だけで器用に地面を這ってエックス達の隣に並び隠れていた。
「……カメリーオだって?」
「あいつらカメリーオと取引しやがるってか……まさか!」
「持ち去った下着の山だろうね。 ……どうして僕の周りってこんな変なのばかりなの?」
ゼロは怒りを覚えたのか「あれは俺のだ!」と呟きながら両手に作った握り拳を震わせ、
そんな隣にいる仲間を含む、変態レプリロイド達の
毒気に当てられたアクセルは参った様に額に手を当てる。
一方でエックスはしっかりと聞いていたイレギュラー達の会話から何かを閃いた。
「つまり、あいつらはこれからカメリーオと会う約束をしてるって事か?」
そこまで口に出して隣にいた2人の仲間も気が付いたようにはっとした表情になる。
「かもしれないね……奪った押収品に金目の物は無かったらしいからね」
「カメリーオにしてみりゃ、高飛びも含めて当面の資金を直ぐにでも欲しいって訳だな」
「問題はいつ会うかだ。 これはもう『聞いてみる』しかないな」
3人は無言でうなずくと、下半身を失っているゼロはその場に待機。
エックスとアクセルは音を立てないようにゆっくりと横に匍匐して草むらを掻き分け移動する。
行き先は、草むらに囲まれているゼロの下半身の落ちた所だ。
そこを左右に挟むようにエックスとアクセルは片方ずつ分かれて前進した。
「……よし、とりあえずこれだけありゃカメリーオの旦那も逃げ切れるだろ」
「金だけでも持ち出せて何よりだ。 さて、一息付けたしそろそろ集合場所に行くか」
「そうだな。 この状況じゃ近くも警戒されてるだろうから手短にな」
開いたトランクの中身を検めた2人は、蓋を閉じるとさっさと立ち上がる。
その間にもエックスとアクセルは配置につき、いつでも飛び出せる態勢を整えた。
それを見計らったかのように、ゼロは近くに落ちていた小石を拾い横薙ぎにスイングして投げる!
投石した先はゼロ自身の下半身が落ちている場所だった。
硬い小石が土の地面に当たってバウンドし、茂みを鳴らしながら草むらへと入る。
「あ?」
何も知らないライギャンβが、ゼロの投石が落ちた音を聞き分ける。
鬣の立派なイレギュラーは不審に感じ、草を掻き分けて音のした方向をたどって歩み寄り――――
「うおっ!? お、おいマジかよ!」
そして分断されたゼロのレッグパーツを発見する。
同じレプリロイドである彼からすれば、
人間で言うなら切断された下半身を目の当たりにしたような物。
血の気の濃い凶暴なイレギュラーであるライギャンβにしても、これには身じろぎするほかない。
「どうしたライギャン? 何があった?」
相方の異変に気が付いたキンコーソーダーが、ライギャンβの後を追ってやってくる。
「何だぁ? レプリロイドの残骸でも見つけたってか?」
「そのまさかだよ!」
「……んな!?」
ライギャンβに促されるまま、同様にゼロの下半身を目撃しては息を呑む。
無残にも分断され、乱雑に打ち捨てられた下半身の姿に2人の視線は釘付けになった。
その瞬間をイレギュラーハンター達は見逃さなかった。
先に立ち上がったのはアクセルだった。 素早く銃を抜き、遺棄されたレプリロイドの
下半身に気を取られてるスキをついて、銃口をキンコーソーダーの後頭部に突き付けた!
「はいそこまで、2人共動いたら撃つよ?」
2人は目を見開いた。 キンコーソーダーは慌てて振り返ろうとするが、
アクセルが銃口で後頭部を小突くと一瞬身を震わせた後に両手を上げた。
「なんだこのガキ! 何モンだ――――」
ライギャンβが両手から爪を引き出した所で、今度はワンテンポ遅れて
背後から飛び出してきたエックスにタックルを食らう!
「ぬぉッ!?」
「動くなライギャンβ! お前達を逮捕する!!」
身を崩しうつ伏せに組みつけられながら、背後からのしかかるエックスに
バスターを突きつけられ、草むらの地面に押さえつけられる。
「お、お前はエックス!! さてはこのガキもハンターか!!」
「もう一度言う、動くな」
もがいたり尻尾を振り回して抵抗を試みるも、エックスが有無を言わさず
バスターをチャージし始めるや否やライギャンβはすぐに大人しくなった。
2人揃って確保された事実に、自分達の置かれた立場を理解したらしい。
アクセルに銃を突きつけられるキンコーソーダー同様、彼も観念したようだ。
して、相方のキンコーソーダーだが……ホールドアップの意思を見せつつも
目線だけは後ろへ銃を突き付けているアクセルに問いかける。
「ど、どうしてこんな所にハンターが?」
「そんな事はどうでもいいよ。 質問したいのは僕達だよ」
しかしアクセルはキンコーソーダーの言葉を遮り、
姿を目に入れる事も許さないとばかりにもう一度銃口で後頭部を小突く。
キンコーソーダーは慌てて目線を正面へ戻した。
「アンタ達カメリーオと会う約束してるんでしょ?
どこでいつ待ち合わせするのか、教 え て ?」
「ッ!!」
質問の内容と語気を強めたアクセルの態度からか、キンコーソーダーは身体を強張らせる。
ディグレイバーと同型の彼に表情などないが、しかし仕草から明らかに緊張している事が窺える。
「ケッ、誰がてめえらなんかにゲロッたりするかよ!!」
「ッ!! 暴れるな!」
一方で悪あがきからか、エックスに取り押さえられながらも精一杯の悪態をつくライギャンβ。
地面に抑え込むエックスの腕に一層の力が加わる。
「何が何でも喋ってもらう! 俺達には時間がないんだ!」
「ハッ! 正面切って勝てねぇからって不意打ちなんて狡い真似しやがって!
しかも頼りになる仲間はこんなガキ一人ってか!
てめぇらの言う事素直に聞くと思ったら大間違いなんだよ!
こ の ブ ル マ 野 郎 が ! 」
そして今朝方のカメリーオ同様致命的なミスをやらかす。
口は災いの元と言うが、特にエックスに対しては文字通り命取りとなる。
禁句の『ブルマ』呼ばわりを受けてエックスの顔から表情が消え、
辺りの空気が瞬時に凍り付いた。
「ライギャン……お、お前……」
「ア、アンタ何て事言うんだよ……」
氷を得意とするレプリロイドのそれを上回る、なお冷たい視線を感じ取り
キンコーソーダーとアクセルは揃って青ざめる。
それもその筈である。
彼らの目線は不気味に笑みを浮かべるエックスに注がれていたのだから。
「君は犯罪重ねるだけあっていい度胸してるね」
そしてエックスに組み敷かれたライギャンβは感じ取る。
エックスの声に笑い声が混じり、しかしそれは決して温かみを含んだものでなく、
目元に影を感じさせるような絶対零度の冷たさを。
「ところで……君は良い鬣を持っているね?」
バスターを腕に戻し、エックスの手先がライギャンβの鬣に触れる。
「お、俺の鬣に触るな!」
「つれない事言わないでくれよ……へぇ、これは立派で丈夫そうだね。
強 く 引 っ 張 っ て も 抜 け な さ そ う だ よ 」
鬣を撫でるエックスの手つきにライギャンβは嫌悪感を隠せない。 震えた声で嫌がるも、
エックスはそこから更に右手で頭を……そして左手で髭の部分を力強く掴んだ。
鬣を引っ張り、ライギャンβの首を上に持ち上げるエックス。
アクセルは銃を突きつけたまま冷や汗を流し、
両手を上げたままのキンコーソーダーの膝は笑っていた。
まるでこれから起こる惨劇を察しているかのように。
「早く、早く今の言葉取り下げろ……コイツには……」
「もう手遅れだと思うよ……?」
その場に居合わせる全員がエックスの恐ろしさに身の毛のよだつ様な思いをしていた。
やがて堪え切れなくなったキンコーソーダーが、ついに叫び出してしまった。
「ロックマンXに『ブルマ』は禁句だって――――」
「 ブ ル マ っ て 言 う な あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! ! 」
キンコーソーダーの叫び以上の音量をもって、エックスは絶叫しながら
ライギャンβの鬣を持ったまま右腕と左腕を時計回りになる様に引っ張り、
鬣に引っ張られるままライギャンβの首はあられもない方向に捻り上げられる!
ゴキリッ☆
「しげとっ」
当然、エックスの怪力に耐えられないライギャンβの頸椎は見事にへし折れる。
直後、ライギャンβの目から光彩が消え、死んだ魚のような瞳で上目を剥いた。
どうやら完全に『オチ』たらしい。
「あ……ああ……ああ……」
とどめの『ブルマ』発言がなくても同様の結果にはなっただろうが、
それでもキンコーソーダーとしては、自分自身で相方の死刑台のボタンを
押してしまったと言う感覚は否めなかった。
膝の震えだけでなく、ある筈のない奥歯の鳴るような音が口元から零れてくる。
そんな思考がフリーズするキンコーソーダーに、エックスは振り向いてこう話しかけた。
「知ってるか? こういう時は反対方向へも捻っておくと『確実』なんだ」
エックスはライギャンβの鬣を握っている手を上下に入れ替えると、
今度は首を逆方向へと捻り上げる。
もう一度、しかし先程よりかは小さな乾いた音を上げると、
僅かにライギャンβの体が痙攣し、それ以降完全に動かなくなった。
やる事をやったエックスは手を離すとライギャンβの首が
あってはならない方向へひん曲がり、完全に首の中身が断裂した事が分かる。
恐怖に打ち震えているであろうキンコーソーダーに、エックスは最後にこう告げる。
「 君 も 身 を も っ て 体 験 し て み る か い ? 」
「カ、カメリーオの旦那とは今から5分後に
空港近くのセントラルパークで待ち合わせるんだッ!!」
助かりたい一心なのだろう。 キンコーソーダーは自ら
カメリーオとの秘密の待ち合わせ場所を喋り始めた。
聞くからに震え声で必死に言葉を捻り出している。
しかしエックスは容赦ない。 完全に降参するキンコーソーダーに
なおも情報の開示を要求しようとバスターの銃口を突き付ける。
「セントラルパークの、どこだ?」
「すぐ側にベンチの置いてある公園端のトイレだあああああああああああ!!!!
頼むうぅぅぅぅぅぅ!! 殺さないでくれええぇぇぇぇ――――――――エ"ッ!!」
最後に命乞いを始めるや否や、突如キンコーソーダーの体が震え始めた。
それは恐怖によるものに違いないが、緊張と言うよりは痙攣の
大きく体を前後に振るわせるような大げさな震え方だった。
「エ"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!! アッー!」
これにはアクセルも引き気味に、思わず銃を握ったまま後ずさりした。
どうやらひきつけを起こしてしまったらしい。
明らかに異常を訴えかけるような全身の震えはしばらく続き、
やがて最後は声にならないような叫びを上げると、
口元から泡を吹いてそのまま卒倒してしまった。
地面に横たわり、手足の指先を震わせるキンコーソーダー。
エックスは倒れた情報提供者を素早く確保、手錠をかけて拘束する。
「これでよし。 この2人の後の事は応援を呼んで任せよう」
アクセルはそんな青い仲間の様子を冷や汗を流しながら眺めていた。
「エックス……アンタ何でそんなに『手慣れて』るの?」
「聞きたいか?」
アクセルは開いた両手を差し出して首を大きく横に振った。
ノーサンキュー!
エックスは特に気にせず黙ってゼロの下半身を拾い、
離れた所でじっと様子を窺っていたゼロに持って行ってやる。
「場所が分かった。 国際空港の近くのセントラルパークだ。
……さて、早く下半身をくっつけようか」
「いつも思うがお前ちょっと怖いぞ……まあいい、
早く俺の下半身宛がってくれ。 後は再生能力でくっつける」
「もっと早く直せる方法がある」
エックスは懐から湿気た巻紙のようなものを取り出した。
それを見るやゼロはぎょっとした様子で目を見開いて、
続いて一転してげんなりとした態度を露にする。
「……ガムテープ」
「さっきカメリーオのパトカー内からこれとあいつの尻尾が見つかった。
これを使って貼り付けたからカメレオンスティングが撃てたんだろう」
「恰好が付かねぇな……もうちょっとマシな方法なかったのか?」
ゼロは額に手を当てて呟いた。 わずかに見える口元はどこか悲しげだ。
「背に腹は代えられないだろう。 くっつくだけましだ」
「……しょうがねぇな。 しかし俺達の体って一体何なんだろうな」
「当たり前のように再生しておいて今更だな……とにかく始めるぞ」
2人は苦笑いをしながら、エックスはガムテープを引っ張っては千切り
持ってきたゼロの下半身を切断面に合わせつつも
ガムテープの切れ端を宛がっては一枚ずつ貼り付けていく。
「クソ……この上から横に巻いたらまるで腹巻だ――――――――ぬぅおッ!?」
何枚かガムテープを張ってある程度形を整えたあたりで、
突如ゼロが苦悶の顔を浮かべ、悲鳴と共に強く股間を押さえては苦痛を堪えようとする。
どうも2度蹴られた分のダメージがしっかりと残っていたようだ。
「あ、ごめん。 そう言えばさっきアクセルと二人で金的したんだっけ」
「お"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"……少しは手加減しやがれぇぇぇぇぇ」
ぺったんテープでペタリっ! しただけのお粗末な補修だが、
こんなでも電子回路だけはしっかりと繋がったのだろう。
悶絶する赤いハンターを前に、エックスはちっとも悪びれる様子もなく頭を掻いて平謝りする。
「……うーん」
赤と青の仲間をよそに落ち着きを取り戻したアクセルは、
気絶したキンコーソーダーと、文字通りエックスの手によって
昇天させられたライギャンβの計2名のイレギュラーを見下ろしていた。
キンコーソーダーはきちんと地面にうつ伏せに拘束されているが、息の根の止まった
ライギャンβはあられもない方向に首が曲がったまま野ざらしに横たわっていた。
とくに後者は決して見ていて気持ちのいいものではないが、
しかしアクセルはイレギュラー2人を見て思う所があった。
「カメリーオって奴狡猾そうな上に隠れるの得意だから、
約束してたこの2人が来ないって分かったら逃げちゃうかもなぁ……」
アクセルは頭をひねって考えている。
待ち合わせの場所や時間は開示された情報からは明らかだが、
この非常線がそこらに張られている状況となると、約束したカメリーオ自身も
相当警戒心を高めているに違いないだろう。 ともなれば、自分はあらかじめ
先回りした上で、例の光学迷彩を使うなりしてこっそり監視している可能性がある。
もしここでカメリーオに感づかれて逃げられてしまえば、自分達3人に
逃走中のイレギュラーを捕らえるチャンスは2度と来ないだろう。
いっその事キンコーソーダーを無理矢理協力させると言う事も考えたが、
ここまで完全に伸びてしまえば時間までに叩き起こすのは無理があるだろう。
「うーん……カメリーオに警戒されずに近づくには――――あっ!」
思考を重ねる中、アクセルの脳裏にある閃きが。
明るい表情で両手を叩き、すっきりとした様子で笑顔になる。
あった。 たった一つ怪しまれずに近づく方法が。
それもアクセル自身の十八番とも呼べるある能力を持って。
「へへっ、『擬態』は何もあんただけの取り柄じゃないって事だね」
にっくきイレギュラー、スティングカメリーオの
慌てふためく姿を思い描き、アクセルは1人不敵に笑った。
そして、股間の痛みをこらえながらも立ち直ってきたゼロの方に問いかける。
「ゼロ。 悪いけど例の下着ちょっと借りるよ?」