少年と少女達の輝き目指す物語   作:キャプテンタディー

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どうもキャプテンタディーです。

今回で、梨子の個人回が終わります。
1週間待たせてしまい、申し訳ないです。
頑張って執筆したので、最後まで話を読んでって
くだされば、自分もとても嬉しいです。

それでは、本編をどうぞ!!





#36 梨子と鎌倉 後編

 

 

 

 

 

「んん〜っ!美味しい!」

「んっ。そうだな……」

 

 

 口にフレンチトーストを頬張りながら、梨子の話にウンウンと首を縦に振って頷く。

 鶴岡八幡宮を後にした俺と梨子は、ランチを取るため梨子の案内でとあるお店に訪れていた。

 

 

 そこは『BRUNCH KITCHEN』というお店。

 

 

 鎌倉駅から鶴岡八幡宮へ歩いてきた若宮大路から外れ、小さい小道を真っ直ぐ進んで行くと見える、小さな一軒家のレストラン。

 店には暖炉とテラスがあり、ゆったりとくつろげるスペースもある。そして何より、このレストランは2つの“顔”をもつレストランでもある。

 

 そう、この店はカフェ&レストラン。

 午後5時の夕方から、カフェだったお店が高級感溢れるレストランへと早変わりする。

 

 こだわりある食材を使って、お客さんに提供する様はどこか高級レストランのようだって、梨子が今持っているガイドブックにそう書いてあった。

 それより前に説明したこともガイドブックに載っていたわけだから、俺をすごい物知りだなんて思わないでほしい。

 

 

「ねぇ遼くん。遼くんが頼んでた、その“サーモンのグリル”って、美味しい?」

「これ?あぁ、すごく美味しいよ!」

 

 

 あれから俺は、少し気持ちを切り替えた。

 鶴岡八幡宮を出るまでは、俺は顔を真っ赤にしていて彼女を意識し過ぎていた。

 でもそれは、逆に彼女に対して失礼だと思った。せっかく今日は2人で鎌倉に来たわけだし、今日のような大切な時間を、俺は大事にしたい。

 

 だから気持ちは、一度自分の中でリセットした。

 梨子と心の底から楽しめるよう、このお昼時から優しく接したり、彼女とこの機会にまたいろんな話をしたりと、彼女との親睦を深めようと思う。

 

 でないと今日は、俺にとって多少の“消化不良”になると思っているからさ……。

 そんな事態になる可能性を俺は考えていたら、俺が食べている“サーモン”のグリルをじっと見つめていた梨子が、俺にお願いをしてきた。

 

 

「それなら、それを私に一口……頂戴?」

「えっ?一口……?」

「うん。遼くんがそのサーモンを食べてるのを見てたら、私も食べてみたくて……」

 

 

 右頬を人差し指で掻きながら、梨子は申し訳なさそうに聞いてくる。けど、その梨子の困った表情が俺はとても可愛いと感じた。

 

 俺が実際に食べているものは、フワッとしているホイップクリームが乗ったフレンチトーストが2枚と、梨子が食べたがっているサーモンのグリルに、スクランブルエッグの3品だ。

 因みにスクランブルエッグは、目玉焼きとどちらかを選べられるので好みに分かれるけれども、これでお値段は1,600円。なので高いか安いかと考えるのはあなた次第……かな?

 

 とりあえず俺は、彼女に一切れをあげる。

 凄く食いた気な表情をして俺を見つめている梨子を見ていると、あげたくなくても、なんかあげたくなっちゃうんだよね。

 

 

「……いいよ。一口だけな?」

「えっ!?いいの!?」

「今回だけ特別だからな?」

「やった!」

 

 

 愛くるし過ぎる。人懐っこい犬のようだ……。

 

 それから俺は、自分が食べているサーモングリルにナイフを入れる。フォークで抑え、梨子が食べやすいサイズに切り分けた後、俺はフォークでサーモンを刺し、それを梨子に差しむける。

 それはまるで、カップルなどがよくやっている『あ〜ん』って食べさせるヤツだった。俺が梨子に対して、今そういう状況になっている。

 

 いいや、正しくは、そういう状況に“している”と考えた方がいいかも。

 梨子の反応が、少し面白いからさ。

 

 

「ほい、サーモンのグリル。“あ〜ん”して?」

「えぇ!?りょ…遼くん!?」

「何だよ?いらないのか?」

「も、もう……!」

 

 

 梨子は当然、俺の行動にびっくりしていた。

 俺からそんなことをされるなんて思ってもいなかったのか、彼女は何を想像したのか分からないけれど、顔を真っ赤に染め上げていた。

 だけど彼女は、自分が食べたがっているサーモンのグリルを俺からくれるわけだから、右手で垂れる髪を耳に掻き上げ、差し向けられたサーモンを一口でパクリと食べる。

 

 彼女が髪を掻き上げて食べる瞬間が、俺にとってとてもエロいと感じたことは言うまでもない。

 

 

「どう?美味しいか?」

「…………………」

 

 

 口を左手で軽く抑え、あげたサーモンのグリルをモグモグと行儀良く食べている梨子に俺は尋ねる。

 その数秒後にそれを飲み込んだ彼女は、食べてみての感想を一言で言い表す。

 

 

「……最高に美味しい……♪」

「んっ、そっか……!」

 

 

 『美味しい』というその一言と共に、梨子は笑顔を浮かべている。

 その笑顔を見つめていた俺も、どういうわけか、その笑顔に不思議と幸せな気分になっていた。

 そんな気分になる原因は分からないけれど、多分きっとそれは、さっき俺が飲んでた熱いカフェオレのせいだ。

 

 ……って、一体何を言ってるんだ俺は……。

 

 

「んじゃ、さっさとお昼食べて、梨子が次に行きたがってる『円覚寺』にでも見に行きますか!」

「うん!そうね!」

 

 

 次に向かうのは、『円覚寺』という寺院だ。

 円覚寺は、北鎌倉駅を降りてすぐ目の前に佇み、鎌倉五山第二位の寺院。そして何より、鎌倉で唯一の国宝建造物だそうだ。

 

 どんな建物なのか、これから見ものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 円覚寺までの道のりは、そこまで遠くはない。

 鎌倉駅から電車で移動して、隣の駅の北鎌倉駅を降りるとすぐに円覚寺は存在する。

 

 

「これが、円覚寺の総門か」

「ここをくぐれば、境内に入るってこと?」

「あぁ。きっとそうだろうな……」

 

 

 その前に俺と梨子を出迎えてくれたのは、円覚寺の入り口である“総門”。鶴岡八幡宮の三の鳥居より大きいと言えないが、“総門”とだけあって、雰囲気は異様。でも、俺や梨子などの参拝客を迎え入れてくれているようにも思えて、2人はゆっくり境内に足を踏み入れる。

 

 

「んじゃ、ゆっくり行こう」

「うん……」

 

 

 ここでも彼女は、俺と手を繋ぎたいとすっかり求めてくるようになった。

 なにも言わず、自分の左手で俺の右手をギュッと握ってくるあたり、彼女の中で、俺の立ち位置でも変わったのだろうか?

 いや、それは今考えないでおこう。

 

 

「ここが……山門ってやつなのか?」

「うわぁ!山門って、すごい造りをしてるのね!」

 

 

 総門をくぐって境内の中を進んで行くと、すぐにまた別の門が俺たちの目の前に現れる。

 その門は総門より大きく、2階建てだ。だが1階は丸太で柱だけの質素な造りで、2階は豪華と言っても過言ではないくらいの造りだった。

 その門の名は、『山門』(さんもん)という。

 

 

「こういう建物を見てるとさ、機械も何もなかった時代で建物を建てた人って偉大だよな」

「うん!みんなで力を合わせてきたから、こうして今の時代にも残っていて、たくさんの人に来てもらえるくらいの観光地になった。本当、不思議よね」

 

 

 梨子はこの山門を見て、同時にそんな事を呟く。

 歴史のある建物が今も残り続けていることに感銘を受け、梨子が述べていた言葉の数々には俺も同じ思いだった。

 

 機械もなく、人の力だけで作り上げた建物だからこそ歴史に残り、今尚も語り継がれている。

 昔に建てられたものがこうしてこの場所に残っているのも不思議ではある。だけど鎌倉に今あるたくさんの寺院が残っていなかったら、きっと、ここが観光名所になんてならなかった。単なる只の鎌倉という街だけしか残らなかったかもしれない。

 

 そういう意味ではこうして残っている事が不思議に思ってて、それが偶然なのか必然なのかは、俺には全然分からない。

 でもその建物があるからこそ、俺は梨子とここに来れたわけで、俺は良かったと心から思ってる。

 

 

「でも、良かったじゃん」

「えっ?どういうこと?」

「鎌倉にこういう建物がなかったら、俺と梨子がこうしてやってくることがなかったわけで、俺は梨子とここに来れて良かったと思ってるぞ」

「えぇ!?な、何よいきなり!?」

 

 

 そのことを梨子に直接伝えると、梨子は何故か顔を真っ赤にして俺から数メートル後ろに後ずさる。

 それで彼女は後ずさってそんなことを聞いてくるものだから、俺は彼女に尋ねるように話す。

 

 

「何って。俺は思うことを言ったまでだぞ?」

「でも遼くん。そんなこと、平然と私に真顔でそう言わないでよ……」

 

 

 梨子はそう言うと、恥ずかしそうに視線を外し、彼女からそっぽを向かれてしまった。

 俺、梨子に何か変なこと言ったか?

 

 それから俺と梨子は、トボトボと山門をくぐって歩いていくと、目の前に円覚寺の本殿とも言える『仏殿』が姿を現す。

 『仏殿』は、円覚寺のご本尊が祀られている建物だから、ここでも俺たちはお参りをする。5円玉をお賽銭箱の中に投げ入れ、2礼2拍してからそれぞれお願い事をしていった。

 

 

 インターハイ全国優勝!

 インターハイ全国優勝!!

 インターハイ全国優勝!!!

 

 

 鶴岡八幡宮では、俺は冬の選手権のことをお願いしていたけど、円覚寺では同じお願いはせず、夏に出る『全国高等学校総合体育大会(インターハイ)』のことを俺はお願いした。

 まぁあれだ、“優勝祈願”ってやつだ。

 大会前にこんな事をするのがあまりなくて、逆にしたらすぐ負けるんじゃないかって思ってるけど、全国の舞台だし、後悔はしたくないからさ。やれることは、全部やっておきたいんだ。

 

 『インターハイ全国優勝!』というお願いを10秒行なって、俺はふと隣の梨子を見る。

 

 

「……………………」

 

 

 すると彼女はまだ目を瞑り、手を合わせてお願いをしていた。綺麗な横顔だったから、思わず俺の胸がドキッと高鳴っていたのは秘密だ。

 それで八幡宮でもそうだったけど、彼女がどんなお願いをしているのかとても気になっていた俺は、梨子が終わるまで隣で待っていた。

 

 

「……あっ、ごめんね?待たせちゃった?」

「ううん、待ってないから大丈夫だよ」

 

 

 そしたら思いの外すぐに終わり、そんなやり取りをして少し間を置いてから、俺は彼女に尋ねる。

 尋ね方としては、少しさりげなく尋ねた。

 

 

「それで?どんなお願いをしてたの?」

「えっ?さ、さっきの?」

「そう。随分と長くお願いしてるもんだから、どんなお願いしてるのか気になってさ……」

 

 

 仏殿で立ち話をするのもあれだから、俺が尋ねたことは梨子と歩きながら話をする。

 

 

「聞きたい……?」

「えっ?それはどういう……」

「私があそこでどんなお願いをしていたのか、遼くんは聞きたいの?」

 

 

 そしたら、逆に梨子から尋ねられる。

 俺の右隣から、正面に向き直って立ってきた彼女は、どこか優しい笑顔を浮かべながら、俺にそんな風に尋ねてきたのだ。

 もちろんそんな感じに尋ねられると、逆にどんなお願いをしてたのか気になって仕方がなかった。

 

 

「あ、あぁ。是非とも聞きたいな……」

「うふふ……♪」

 

 

 俺はしっかりとその答えを聞きたいと、ちゃんと意志を持って彼女に答える。

 すると彼女はそんな悪戯っぽい笑みを浮かべると、俺に対して背中を向けて2〜3歩歩き、顔だけをこっちに振り向かせる。

 やっと事を話してくれるとそう思っていた俺だったが、彼女は何にも話してくれなかった。

 

 

「教えな〜い♪」

「なっ!?何でだよ!?」

「だって教えたくないんだもん!」

「はぁ〜!?」

 

 

 俺に対して『教えたくない』と、お茶を濁すように話をはぐらかす桜内 梨子。

 どうしても教えてくれないと分かった俺は、彼女にはこの手を使いたくはなかった。でも仕方ないと思って、俺は力ずくで彼女の口から聞いてやろうと思った。

 

 俺もある程度、梨子がどんなお願いをしていたのか予想は考えていた。けど、やっぱり本人の口からそれを聞きたい。

 そんな思いに俺は、彼女との空いた距離を一気に縮め、彼女を背後から抱きつき真意に迫った。

 

 

「きゃっ!」

「何だよ!教えてくれたっていいじゃんか!」

「い〜や!教えたくない〜!」

 

 

 端から見れば、ただのカップルのイチャイチャにしか見えないだろう。でもそんな意味でやったわけじゃないし、そういうのを狙って俺が梨子に対してしているわけでもない。

 

 あくまで、彼女が仏殿で願ったことを聞きたかった所以の行動だ。決して、深い意味はないのだ。

 

 

「観念しろ!そして全てを吐き出せ!」

「いやっ!絶対に教えたくないんだから〜!」

 

 

 そして俺は彼女に色々と迫った。だけど、梨子は最後まで俺の問いをはぐらかし続け、結局のところは、何にも話してはくれなかった。

 俺はもう仕方なく、彼女に問い続けるといつしか頬にビンタを食らいそうだったから、観念して聞くことを諦めた。

 

 

 それで密着していた体を俺は離した時、彼女の頬が少しだけ赤くなっていたのを……、

 

 

 俺は知る由もなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方、時刻は4時を回る。

 

 俺と梨子が円覚寺をあとにして最後にやってきたところは、『海に行くならここ!』って言う人たちも多いであろう観光地、『由比ヶ浜海水浴場』

 

 美しい砂浜に約900mも続く海岸、そして遠浅の綺麗な海が特徴の海水浴場。

 毎年の夏は多くの観光客で賑わい、ロマンチックな雰囲気のある海岸は、有名なドラマや映画のロケ地として使われることが多く、あまり説明しなくても知っている人も多いはずだ。

 

 

「うわぁ〜!綺麗〜!」

 

 

 空はすっかり青色から朱色に染まり、夕日が海をオレンジ色に輝かせていた。

 その景色を見た梨子は感動の声をあげる。

 

 

「ねぇ遼くん!綺麗だね〜!」

「あぁ。すごく綺麗だと思う」

 

 

 俺も梨子から声をかけられる以前から、この由比ヶ浜の海岸は綺麗だと思っていた。

 まだ海開きにもなっていないのに関わらず、ゴミは全く見受けられない。ましてや真っ白な海の砂浜は、夕日の直射日光でキラキラと輝いていた。

 

 すると梨子は、俺に話をしてくる。

 

 

「ねぇ遼くん。今日はありがとう」

「えっ?何だよ突然……」

 

 

 俺は、彼女の言葉にびっくりする。

 彼女はいきなりの突然、俺に対してなんとお礼を言ってきたのだ。

 そんなことを言うもんだから、どうしてそんな事を今ここで言うんだろうと彼女に尋ねる。

 

 そしたら彼女は、こんな事を口にしてくる。

 

 

「だって、今日は遼くんはおかげだもん……」

「はっ?俺の……おかげだと?」

 

 

 俺にとっては、とても変な言葉だった。

 どうして今日を『俺のおかげ』と理由付けるのかと、俺は不思議で頭がいっぱいになった。

 でもすぐに梨子は、その理由を話してくれた。

 

 

「そう。1週間前、あのときの書店で遼くんが私に『一緒に行こうよ!』って言わなかったら、私たちは今、ここにはいなかった……」

「あの時のことか……」

 

 

 梨子が理由に挙げた話というのは、1週間前に書店で俺が告げた『一緒に行こうよ、鎌倉!』という言葉だった。

 彼女のその言葉を聞いたときは、あの一言が今の俺たちを左右していたと考えられる。そして何よりも俺は、あの言葉があったからお礼を言われたんだと初めて認識し、それで今、彼女からお礼を言われたんだと理解することが出来た。

 

 

「まさか、梨子からお礼を言われるなんて……」

「なに?びっくりした?」

「まぁ、ね。正直驚いてるよ」

 

 

 だけど俺はただ、あの時すごく残念そうな表情をしていた梨子の願いを叶えてあげただけで、お礼を言われるまでだとは思わなかったが、彼女のお礼はしっかり受け止めるつもりだ。

 じゃないと彼女に対して失礼だし、俺だってそうしないと気が済まないから。

 

 すると、梨子は驚きの言葉を言ってきた。

 

 

「私ね、今回行けなかった観光地、また来たら見に行きたいなって思ってるの」

「えっ?また来ようと思ってるの?」

「うん。もちろん、また遼くんと2人で……」

「えっ!?え〜っと……」

 

 

 彼女はまた鎌倉に来たいと思っているらしくて、そして俺とまた2人でと考えてるみたい。

 梨子はモジモジと恥ずかしそうに身体をくねらせたり、俺をチラチラと見て来るあたり、俺の答えをものすごく待っている様子だった。

 

 そんな風に梨子から言われたり、恥ずかしそうにして俺の答えを待っている姿を見ると、俺からしてみれば、それを断る選択肢はなさそうだった。

 でも、また梨子と鎌倉に来れるという新しい楽しみが増えたから、俺の中では、あまりネガティブな思考にはならなかった。

 

 

「いいよ。また、鎌倉に来よう!」

「……っ!ありがとうっ!!」

 

 

 それで俺の言葉を聞いた彼女は、嬉しさのあまりに俺の両手を手に取り、満面の笑みを浮かべる。

 その笑顔につられるようにして、俺も梨子の笑顔とともに笑った。

 

 

「ねぇ!海に入ろうよ!」

「えぇ!?まだ海開きしてないんだぞ?」

「足だけよ!そこまで入らない〜!」

 

 

 これで一つの冒険が終わるのかと思っていたら、そしたら梨子の奴、唐突にそんな事を言い出すと、ハイヒールを抜いで海へと駆け出す。

 きっと海に入りたくなったんだろうと勝手に俺は考えていたが、ものの見事に的中してしまった。

 

 

「遼くん!すごく気持ちいいよ〜!」

「そうかい。そりゃ良かった」

 

 

 そしてしばらくの間、俺は足を海につけ、気持ち良さそうに山の陰に沈もうとしている夕陽を、じっと眺めている彼女を見つめていた。

 本当ならば、彼女に海の海水を浴びせて服全部をビチョビチョにしてやろうと思っていた。

 

 けど、優しい風に吹かれる赤みがかった長い髪、綺麗に整った横顔、そして、魅惑溢れるその身体。全てにおいて彼女に魅了されていた時、俺の視線に彼女は気がつくと……

 

 

「……♪」

「……っ」

 

 

 顔をこっちに向けて優しく微笑み、右手で優しく髪を耳に掻き上げる。

 その瞬間の姿に俺は、“心を奪われた”。

 

 

 

 トクンッ

 

 

 

 優しくて、波を打つように鳴ったその心の音は、きっと、それは間違いないと思う。

 今日一日、梨子と付き合っていて、そんな音はいくつも心の中で鳴った。だから、きっとそうなんだと思う。

 

 でも、それは“真に”確信までには至らない。

 それがちゃんと確信に変わるまでは、心の中の奥底の隅っこに留めておこうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 “恋”

 

 

 

 

 

 

 

 俺がきっと、彼女に対して抱いた感情。

 不確かで明確ではないけれど、心の奥底で鳴り響いたその優しい音は、きっとそれなんだ……。

 

 

「じゃあ、そろそろ帰ろう!」

「……あぁ、そうしよう」

 

 

 海から上がったその子はそう言うから、俺は彼女に抱いた感情を表に出さず、彼女の発した言葉には俺も従うように賛成する。

 それから足についた砂を近くの水道で洗い流した彼女は、タオルで水を拭き取り、ヒールを履いた後で俺に近づいてきて手を差し出す。

 

 もう俺は、彼女から言われなくても何を求められているのか分かってしまっていた。

 

 

 ギュッ

 

 

 俺はその手を優しく握り、梨子は微笑む。

 

 もし、俺が梨子の笑顔を守らなきゃいけない時が来たなら、俺は絶対に彼女の笑顔を守ってやろうと考えている。

 まだまだ彼女とは出会って数ヶ月の付き合いで、彼女の知らないところもたくさんあるけれど、そこはめげず彼女と付き合っていきたいと思う。

 

 

「じゃあ、帰ろっ!!」

「あぁ。そうだな……!」

 

 

 そんなやり取りを交わした俺と梨子は、帰るために鎌倉駅へと由比ヶ浜をあとにする。

 そして俺たちは2人だけの秘密として、鎌倉駅の近くにあるス○ー○ックスに立ち寄り、帰りの電車の中で静かなひと時を過ごしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






この回より以上をもって、3話にわたる
梨子の個人回を終わりにします。
見てくださってありがとうございました。

次回からまた、アニメ本編に沿って話を
展開していたいと思っています。

まだまだ道のりは長いですが、温かい目で
見てくださると、とても頑張れる気がします。

是非次回も、楽しみにしててください。
感想・評価、誤字・脱字等があれば、
是非ともよろしくお願いします。


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