少年と少女達の輝き目指す物語   作:キャプテンタディー

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どうも、キャプテンタディーです。

約1ヶ月半、この小説の更新を待っていた方
はいますか?だいぶ待たせてしまいましたね。
もう執筆することに時間を割くことが出来なく
なってきてはいますが、地道に頑張ります。

Aqoursの5th LIVEまであと1ヶ月少し。
早くときよ、さっさと過ぎてくれ(笑)

それでは、本編をどうぞ!





#63 過酷特訓と謎メニュー

 

 

 

 

 

 午後5時半、海乃家前の浜辺

 

 

「ふぅ、流石にお店の後だとちょっときついね」

「いやいやいやっ!その前には俺はあっちで部活もやって来てるんだけど!?」

「何さ……自慢?」

「自慢じゃねぇし!!」

 

 

 とてもと言えるくらいの長い戦いのあと、夕方の5時くらいまで海乃家のお手伝いをした俺たちは、その浜辺で特訓を行っている。今さっきランニングを終えたばかりだ。

 果南からしれみれば、確かに俺が口にした言葉は聞こえは良くないかもしれない。けれど、実際俺は朝から部活で走り込み、ボールを操り、みんなとはまた違う競技を俺は行っている。果南には理解して欲しいのだが、これがなかなかね?

 難しいよな?この大変さを説明するのって。

 

 

「ていうか、それよりも……」

「あっ、あははは……」

 

 

 そう言いながら、俺と果南は後ろを振り向く。

 振り向くその先には、俺と果南以外の全員が砂浜の上で、あらゆる形で休憩を取っていた。俺らから一番遠い千歌と善子と花丸は仰向けに倒れ、ルビィちゃんと鞠莉、そして曜と梨子が背中合わせで座り込んでいた。ダイヤに関しては、四つん這いで崩れ落ちてる。俺と果南のスピードに何とか付いてきてはいた。でも体力の限界のようで、呼吸の息はすでに格段に上がっていた。むしろ彼女には、ここまで付いてきたことを褒めるべきものだ。

 

 

「うぅ……こ、こんな特訓をμ’sの皆さんはいってきたのですか……?」

「うゆっ……凄すぎるよ……」

「こんなの、身体がもたない……」

 

 

 だが想像以上にみんなは疲れていた。でも練習はこれで終わりになるわけじゃない。すぐに次の練習へととりかかる。

 みんなの目標は“ラブライブ”に出場して、学校の統廃合を阻止すること。それを目標に掲げるなら、いつまでも休んでなんかいられないはず。だから、俺はみんなに盛大な発破をかける。

 

 

「ほらほら、次は体幹を鍛えるよ!」

「そんなにきついきついって休んでばっかりじゃ、ラブライブなんて夢のまた夢だぞ〜!」

 

 

 彼女たちの目標への努力を踏みにじる為にこんなにも発破をかけているわけじゃない。むしろ逆だ。この合宿を通じて、改めて、俺は彼女たちの覚悟を知りたい。もちろんそれ相応のサポートを俺はしていくつもりではいるよ。

 今現在、それらしい雰囲気は微塵も感じられないけど、胸の内はきっとみんな同じ気持ちなはずだ。

 

 

「さっ、とっとと始めるぞ!」

「は……はぁい……」

「が、頑張ルビィ……!」

 

 

 そんなことを考えながらみんなを呼び集め、次に取り組む練習へと移る。次は体幹のトレーニング。これは俺も部活で取り組んでる練習メニューだ。

 体の軸を作るトレーニングとして、部活でいつも取り組んでいるのは『プランク』。腕と足のつま先だけで1分間身体を支え、一直線に姿勢を維持することがこのトレーニングのポイント。けれど今から彼女たちが特訓するのは、『アーム&レッグクロスレイズ』というものだ。

 読んで字がごとく。膝立ちで四つん這いになり、右足と左腕を上げて真っ直ぐ伸ばすトレーニング。上げていない左足と右腕で身体を1分間支えなければならないし、最初に話をした『プランク』よりは結構大変なトレーニングだから、最初は耐えるのにみんな苦労するだろう。

 

 

「じゃあいくぞ!よ〜い、スタート!」

「んっ!んんっ!くぅっ!」

 

 

 ほら、やっぱりね……。

 

 

「千歌、足が落ちてる!もっと上げろ!」

「あ、上げろって言われても、この体勢、結構キツすぎるよぉ……」

「グズグズ言わない。ほれ、上げろ!」

「ひゃっ!」

 

 

 身体を支えようとするあまり、上げている腕と足が少し下がり気味になってしまうのはトレーニングではよくあること。だからこのトレーニングの1番のポイントは、背すじを真っ直ぐに保持し、手足はしっかりと伸ばして身体を支えることが重要。

 

 

「……………………」

 

 

 果南たち3年生の3人は流石だ。1年ものブランクさえも感じないくらいにしっかり出来ている。果南は元々筋肉バカだし、ダイヤは言われなくても自分をしっかり追い詰めるタイプ。鞠莉は出来ることに少し驚いたけれど、身体はあれからでも鈍ってないみたいだった。それから曜と梨子も少しフラフラとしているけれど、耐えながら2人も頑張っている。

 やはり問題なのは、千歌と1年生の3人だ。

 

 

「んっ!ぅんっ!んんっ!」

「う……うゆゆっ……」

「き、きついずらぁ……!」

「今こそ、我に、力を……!」

 

 

 今にも倒れそうなくらい、前後左右にフラフラと身体が揺れている4人。この4人は体幹が弱いから、この特訓を毎日のようにしてもらおう。身体の軸を鍛えないとキレのあるダンスなんかしようと思っても出来なくなっちまうからな。

 だがこれからのことを考えていた矢先に、必死に堪えていた千歌の限界が来てしまった。ドミノ倒しのように、千歌→善子→花丸ちゃん→ルビィちゃんの順に次々と身体が地面へと倒れる。

 

 

「わぁ!?」

「いたっ!」

「ずらっ!?」

「ピギィ!」

 

 

 痛そうに悶えている4人を見て俺が思ったこと。それはこの体幹トレーニングを、しばらくはずっと練習メニューの中に入れておかないとダメだなってことだ。ダンスを披露するんなら、そのための身体作りをしないと。

 

 

「はい、もう1度行くぞ!」

『はい!』

 

 

 この合宿で色々と積み上げていかないと、みんなが目指しているラブライブなんて勝てないだろう。ぶっちゃけそう断言できる。だからこそ、この合宿で身体の軸を鍛える。毎日コツコツ、じっくり時間をかけてね。

 

 

「オッケー!みんなお疲れ様!」

「ふぁ〜!終わった〜!」

「この特訓きつすぎるよぉ……!」

 

 

 こうして体幹トレーニングであるプランク、左右両方とも行うアーム&レッグクロスレイズの2種類の特訓を終える。プランクで1分、アーム&レッグクロスレイズを左右で1分行い、計3分で1セット。合間に休憩時間1分を入れながら5セット行ったことで、特に疲労困憊な千歌と1年生の3人は、終わった途端に即座に砂浜に寝転がった。

 

 息も相当に上がっている。5セットもしたから、みんなの身体のことも考えたら十分に特訓はした。でもまぁ、まだまだ特訓は続くんだけどね。

 

 

「5分休憩したら、次は2人1組になって筋力トレーニングをするから、それまでしっかり休めよ」

「えぇ〜!?千歌もう疲れた……」

「うん!分かったよ遼!」

「果南ちゃん!?」

 

 

 休憩という身体を休められるインターバルがあるのに、いつになく果南はやる気に満ち溢れている。みんなが疲れて座り込んでいるのに、果南は笑って立ち上がる。こいつもこいつで鞠莉と仲直りしたあの日からは、なんか色んな意味でグイグイと積極的になってきた気がする。

 ただみんなはいつもの対応をするから、筋肉バカで体力オバケで俺の勘違いなのかもしれない。けど俺にはそう感じられた。何かしら果南を突き動かす原動力があるんじゃないかと、笑顔に隠された本音を聞かずにはいられなかった。

 

 

「いつになくやる気だな、果南」

「まぁね!みんなと一緒に合宿するの楽しいなって思って、はやく次の練習がしたいなってじっとしてられないんだ!」

「……フッ。そうかい……」

 

 

 みんなとの合宿が『楽しい』……か。

 果南の口からそんな言葉が出てくるとは。溢れんばかりの笑みある答えに、流石に俺も不意に笑みを浮かべてしまった。でもむしろそれは、みんな同じことを思っているだろう。

 

 

「じゃあ、次の特訓に移るぞ〜!」

『は〜い!』

 

 

 さて、次の練習に取り掛かりますかっ!

 さっきまで特訓でヒーヒー根を上げていたみんなは、休憩したおかげで体力は回復し、俺の声かけに元気よく返事をする。表情は前よりもずっと明るくなっていた。みんなの表情を見渡せば、果南と同じように笑っている。やっぱりみんな同じ気持ちなんだなって感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……ひゃっこい」

「我慢してルビィちゃん。まだ砂落ちてないから」

「うゆっ。ルビィ我慢する」

 

 

 それからしばらく特訓を続け、太陽が沈むその前に練習を切り上げた。汗をびっしょりかいて練習をしたわけだが、髪や身体に付いた砂を落とさないといけなかった。だからでかいドラム缶に溜めた水を使い、みんなは冷えることを我慢しながら、お互いにバケツで頭から水をかけあっている最中だ。

 

 

「曜、かけるぞ?」

「うん、お願い!」

 

 

 俺も水が入ったバケツを持ち、今から曜の頭から水をぶっかける。こんなことをするのは毎年の夏でいつものことだけどさ、こうしてみんなで水をかけ合うことなんて初めてだからちょっと新鮮。

 以前は千歌や曜とばっかりで海で遊んでいたことがものすごく多かっただけに、なんだか変な感じもしなくはないが、楽しいとも思える自分がいた。

 

 

 

 バッシャーン!

 

 

 

「んっ、大体砂は落ちた。もう大丈夫だ」

「ありがとう、遼くん!」

「遼〜!マリーたちにもお願い!」

「はいはい。今行くよ」

 

 

 曜に水をかけた後、鞠莉から声がかかる。鞠莉は自分たちにも水をかけて欲しいとお願いしてきた。果南とダイヤは何故か恥ずかしそうにバケツを差し出してくる。何か思うところがあるんだろうけど、彼女たちにお願いされては断れなかった。

 ついでに1年生の3人にもしてあげようと思ったのだが、ルビィちゃんは千歌にかけられ、花丸ちゃんに関してはルビィちゃんに水をかけてもらってる。そして善子に関しては、海に潜るときに使うはずのシュノーケルを使い、ドラム缶の中に身体ごと水に浸かっていた。そんなことはしなくても、ちゃんと砂は落ちるんだけどなぁ……。

 

 

 

 バシャーン!

 

 

 

 ひとまず俺は、目の前の果南たち3人に水を盛大にぶっかける。果南から1人ずつ水をかけている最中に、果南が身体に付いた砂を落としていく。すぐ近くで見ている俺にとっては、そんな行動が異様にいやらしくてもの凄く色っぽかった。見てるこっちが興奮を覚えてしまう。

 

 

「んっ。これでもう砂は落ちたろ?」

「うんっ!ありがとっ!」

「次はマリーにかけてくださ〜い♪」

「そ、その次は私にお願いしますっ!」

「はいはい。順番にするよ」

 

 

 彼女たちが水着姿だから、性的に見てしまうのは仕方ないことかもしれない。だがそれを表情として表に出してしまえば色々と面倒なことになるから、性的に見ていても表情を変えることなく、いつもと変わらない感じに振る舞う。

 

 

「鞠莉、水ぶっかけるぞ?」

「OK!いつでもいいよ♪」

「そのあとはダイヤな?」

「はい。準備出来てます」

 

 

 鞠莉の次にはダイヤと、順番にバケツに汲んだ水を彼女たちの頭からかけていく。こういうのもなんだが、なんか疲れてきてしまった。

 午前中に部活をやって、海の家の手伝いをして、それでAqoursの特訓のお手伝い。合宿の初日からこれでは俺の身体が今後保てるか心配だ。でもそれでもやるって決めたんだけどね。

 

 

「あんたたち〜!」

『……!』

「旅館には他のお客さんもいるから、絶対うるさくしたらだめだからね!」

 

 

 そんな時、美渡さんが玄関の暖簾から顔を出し、俺たちに対して注意を促す。でも仕方ない。夏休みに入ったこの時期から、千歌の旅館に泊まりにくるお客さんがとても多くなってくる時期。

 必然的に、美渡さんからそんなことを言われるのは大体分かっていた。千歌をはじめ、みんなもね。

 

 

「うんっ!分かってる〜!」

「言ったからね!!」

「は〜い!」

 

 

 美渡さんと千歌の2人は俺がいつも見ているやり取りをして、美渡さんは暖簾から顔を引っ込め旅館の中へと消えていく。

 千歌は美渡さんが姿を消したところで、『ふぅ』と深くため息をついたころ、ある人物のお腹から、空腹を示す音が鳴り響く。

 

 

 

 グゥ〜!

 

 

 

「あっ……」

「鞠・莉・さ・ん?」

「えへっ♪テヘペロ♪」

 

 

 その人物は、すぐ近くにいた鞠莉だった。

 鞠莉のお腹から、まさか腹の虫が鳴るとは思わなかったけれども、あれだけ運動すれば、お腹が空くのもおかしくはない。

 

 

「でもお腹が空いたわ。ご飯まだ?」

「そ、それが……」

 

 

 でも海の家での“しきたり”みたいなことをみんなは知らないはずだ。鞠莉の問いかけに対して千歌のこの焦りようを見れば一目瞭然である。

 曜と果南もこのことはちゃんと知っているけど、これは俺から説明するしかあるまい。

 

 

「俺が説明しよう」

「遼くん」

「きっと美渡さんのことだ。いつものだろ?」

「……うん」

「どういうことですか?」

 

 

 俺が仕切りに話を切り出すと、やはりというべきかダイヤがその話に食いついてきた。

 でも実際は、千歌の口から前もって話をする予定だったから、今ここで話をしておいた方が、都合は良いのかもしれない。俺はみんなに問いかけるような形で話を始めた。

 

 

「海の家で料理を作っただろ?それでもしその料理が余ったら、それをみんなで食べて処分しなきゃいけないんだよ」

「えぇ!?そうなんですか!?」

「そんな話、ヨハネ聞いてない!」

「じゃあ今聞いたはずだ」

「理不尽!圧倒的理不尽!」

 

 

 善子さんや、理不尽だろうがなんだろうがなんとでも言ってくれ。これがルールなんだよ。作っては余った料理をみんなで食べる。仕方ないんだよ。

 

 

「それで?なにが余ったの?」

 

 

 それで果南が口を開き、千歌にその質問の答えを促させる。千歌はその質問に答えるのと同時に、海の家で料理を作っていたとある2人は身体をピクッと反応してみせた。自分でも分かっていたみたい。

 

 

「うん。曜ちゃんのヨキソバと、遼くんのカレーはほぼ売り切れたんだけど、シャイ煮と堕天使の泪が全く売れてなくて……」

「うっ……!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 

 善子と鞠莉の2人である。

 当たり前だ。見た目でも全くよく分からない料理を注文するお客さんがいるわけがない。口調が少し悪くなってしまったが、事実を言ったまでだ。

 

 

「とにかく、余った料理はみんなで食べなきゃならない。それだけはみんな分かっていてほしい」

「でも、それってどんな味がするんですか?」

「私もちょっと興味あるかも」

「マルも食べてみたいずら!」

 

 

 んっ?みんな、2人の料理に興味あるのか?

 意外だな。あれを“料理”と呼んでいいのか俺さえ分からないのにさ。ていうか、こんなことを考えてしまった地点で俺の負けじゃないか?

 

 

「OK!シャイ煮〜Please!」

「クックックッ。堕天使の泪に溺れなさい!」

 

 

 と、俺がそんな事を考えているうちに善子と鞠莉はみんなの興味に添えられるよう、それぞれの自分の料理を作り始めていた。さっきの話は別として、美味しいのかどうなのかは俺も気になる。

 

 

「はい!出来たわよ〜!」

「堕天使の泪、召喚ッ!」

 

 

 はてさて、もう出来てしまったようだ。

 おいおい。出来るの早すぎだろ?

 

 

「「さぁ!召し上がれ!」」

 

 

 みんなが座るテーブルに、出来立てのシャイ煮が入った鍋とそれを盛るための器。そして堕天使の泪がたんまりと乗せられた皿が並べられる。

 さっきまで興味津々で食べてみたいとまで言っていたみんなの表情を伺うと、やっぱりねって感じ。初めて目の当たりにする料理に唾を飲み込み、表情は少しばかり曇っている。だがそんなことは2人はいざ知らず、みんなが自分の料理を食べて、どんな反応をしてくれるのかとイキイキしていた。

 

 

「……………………」

 

 

 みんなはそれぞれシャイ煮をよそって、その器を左手に持ち箸を右手に持つ。

 そしてみんなは、一斉にシャイ煮を口に運んだ。

 

 

「……い、いただきます……!」

 

 

 箸で食材を掴み、もし不味かったら?って考えているみんなの表情を見ながら、俺も自分でよそったシャイ煮を口に運ぶ。不味かったら美味しくないと言えばいいだけの話だ。

 そんなことを考え、俺はそれからなんの躊躇いもなくシャイ煮を口すると、鞠莉が作ったシャイ煮を小馬鹿にしていたときの俺を殴ってやりたい気分になった。

 

 

「……美味しいっ!」

「シャイ煮、美味しいずら〜!」

 

 

 美味。美味しい。みんなが一口目を食べた瞬間、表情はすぐに一変した。

 食材をあんなデタラメに入れて料理になるのかと思っていたのだけれど、逆にそうすることで食べたことのない新たな料理が生まれるという、良い意味でとんでもないことになった。

 するとそのとき、梨子から質問が飛ぶ。力を振り絞って大きな鮑を箸で持ち上げながら。

 

 

「でも、これ一体何が入ってるの?」

「フッフッフッ。シャイ煮は、私が世界から集めたスペシャルな食材で作った究極な料理デ〜ス!」

 

 

 そんな質問に鞠莉は答えながら、俺たちにその『スペシャル』な食材を見せてくれた。その食材の多くは、一般の家庭で見ることや、また調理できるなんてことはまずないだろう。

 俺も少しばかり驚いた。なにせ、来た時から気になっていたことがようやく分かったからな。

 

 

「でっ?一杯いくらするんですのこれ?」

「さぁ?10万くらいかしら〜?」

「じゅ……10万!?」

「いくら何でも高すぎだよ!」

「はぁ。これだから金持ちは……」

 

 

 松茸に伊勢海老にアワビ。ズワイガニにマンボウにA5もも肉とか、シャイ煮を作るだけでどんだけの高級食材を使っていたのか見ていてよく分かる。

 だがよくこんな食材を手に入れられたな。まぁこんな大量の食材を手に入れることくらい、小原家みたいな金持ちの家系なら簡単なんだろうな。

 

 

「じゃ、じゃあ、次は堕天使の泪を……」

「そうだね。次は善子ちゃんが作った料理を食べてみよっか!」

 

 

 そうこうしているうちに、ルビィちゃんが早くも次に善子が作った堕天使の泪を手にしていた。

 爪楊枝が刺さったその堕天使の泪を手に取って、ルビィちゃんはなんの躊躇いもなくたこ焼きを口に運ぶ。美味しそうに、一口でパクリと。

 

 

「あぁ……んっ!」

「……………………」

 

 

 だけど、ルビィちゃんのそのたった一つの行動が間違いだった。どんな料理なのかも分からないそれを、軽々しく口の中に運んでしまったことが全ての過ちだった。

 

 

「……………………」

「……?ルビィ……?」

「ピギャアアアアァァァ!!!!!」

「……っ!?ル、ルビィ!?」

「辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い!!!」

 

 

 あまりにもの辛さにびっくり仰天。

 海の家を飛び出し、顔を真っ赤にしながら海の家の前でとのたうち回るルビィちゃん。ただ、こんな風に冷静に説明をしている場合じゃない。見た目はたこ焼きのくせに食べたら辛いとか、笑ってる場合ではない。善子の野郎なにをぶち込んだ?

 

 

「ちょっと善子さん!一体何入れたんですの!?」

「タコの代わりに大量のタバスコで味付けをした。これぞ!堕天使の涙!」

「タ……タバスコ……」

「善子、お前なんてもん入れてんだ……」

 

 

 タコじゃなくて、タバスコ。そりゃあ辛いわ。

 ひとまず言えることは、中身になんてもんを入れてんだよ。普通ならタコだろ?なんでタバスコなんだよ?具でもなんでもないじゃないか。だが善子はそれを美味しそうに食べている。

 

 

「んん〜!美味い!」

「オ〜ウ!Strongly hot!」

「平気なんですの!?」

「まぁ私、辛いの好きだから」

 

 

 辛いものが好きだというのは初耳だ。普段いつも堕天使な言葉しか善子は言わないからさ。食べ物に関してどんな好みをしているんだと思っていたが、まさかそんな好みがあるとは思わなかった。俺からしてみれば少し意外で、驚いた。

 

 

「とにかく、ルビィちゃんに水を!」

「ルビィちゃん!これお水だよ!」

「あ……ありがとぅ……」

 

 

 花丸ちゃんがルビィちゃんにコップ一杯に入れた水を与え、ルビィちゃんは一気にそれを飲み干す。見た目でどんな食べ物なのか分かるはずがないのが普通だ。びっくりするのが当たり前。ルビィちゃんは舌を出し、未だに辛味の辛さに耐えていた。

 きっと善子は、自分の好きな辛いものを料理にしたかったのだろう。そしてそれを形にしたのがこの堕天使の泪だ。だがみんなはそれを口にしたけど、あまりにもいい評価は出なかった。表情を渋らせ、辛さに耐えることしかみんなは出来なかった。

 

 

「なんで私の料理が不評なのよ〜!」

「いや、そんなのにタバスコなんか入れてるから、みんなから不評になってるんだろ?」

「うぅ……なんで私ばっかり〜!!!」

 

 

 やれやれ。善子には、少しばかり料理というものを教えてあげる必要がありそうだ。

 こうして2つの料理を食べ終え、鞠莉のシャイ煮は高評価、善子の堕天使の泪は低評価で終わった。やはり鞠莉のシャイ煮が美味しかったのが意外で、これを少しでもオススメとして売り出してみれば、多少なり売れるのではと僅かに期待を俺は抱く。

 

 そしたらその束の間、千歌は口を開く。

 それは、俺に向けてのことだった。

 

 

「ねぇ!遼くんの料理は?」

「え……俺の料理?」

「私、遼くんのカレー食べたい!」

「え、えぇ……」

 

 

 千歌からのいきなりのリクエスト。俺が作っていたキーマカレーを、千歌が食べてみたいという唐突な要望だった。

 だがそれにはまたカレーを最初から作らなければならない。材料はあるからまだなんとかなるけど、こうなった場合は、一緒にみんなの分のもカレーを作るしかしかない。みんなの分は敢えてだから多少なりにも時間はかかるんだけどさ。

 

 

「はぁ……仕方ないなぁ……」

「作ってくれる!?」

「千歌が言うから作ってやるよ」

「わ〜い!やった〜!」

 

 

 やれやれ。本当に陽気なやつだな、こいつは。

 お前のために俺のキーマカレーを作ってやるんだから、少しはじっとして待ってて欲しいものだ。

 とりあえず、()()の力を借りるか。

 

 

「ひとまず曜、手伝ってくれ」

「えぇ!?私もするの!?」

「サポートだけをして欲しい。それに、お前以外で料理が出来るやつが他にいるか?」

「それ、善子ちゃんと鞠莉ちゃんに失礼だよ」

 

 

 善子や鞠莉には失礼な言葉を使ってしまったが、それはもう致し方ない。それよりむしろ、これは曜にしか頼めないことだ。一緒に料理をしているから言えること。俺は曜を信頼してるから頼んでる。

 その時、それを他所に千歌は口を開く。

 

 

「遼く〜ん!早く作ってよ〜!」

「はいはい、分かった分かった!」

 

 

 外野からガヤガヤと早くカレーを作れと言うもんだから、両手を合わせながら俺は曜に頼み込む。

 

 

「曜、すまんが頼むわ」

「もう……人使い荒いんだから……」

 

 

 曜はそう言いつつ、俺の頼みを受け入れる。上着で来ているパーカーの袖口を少し捲り上げ、渋々と調理台へと向かう。その背中姿を見届けた後で、俺はみんなに少しだけ待ってもらうように告げた。

 

 

「じゃあ俺と曜でカレー作るから、みんなは自由に話をしながら出来上がるのを待っててくれ」

「は〜い!待ってま〜す!」

 

 

 千歌が今一番に声を大にして返事をし、俺は曜が待つ調理台へ駆け込む。既に大きな鍋とフライパンと包丁とまな板が用意されていて、材料もある程度は曜が用意してくれていた。流石は曜、仕事がとてつもなく早い。

 

 

「じゃあ、調理を始めよう!」

「分かった!下ごしらえからする?」

「あぁ。よろしく頼む」

「了解であります!」

 

 

 それで俺と曜はそれぞれ役割を決めて、それからカレー作りを始める。曜はひき肉をほぐし始め、俺は野菜を各々のサイズに切っていく。

 

 

「ひき肉、こんな感じでいい?」

「……うん。そんな感じでいいや。サンキュー」

「じゃあ次は私も野菜切っていくね!」

「あぁ、助かる!」

 

 

 曜と一緒に料理するのは本当き久しぶりだけど、やっぱりこいつと料理をしていると早いし楽しい。今まで1人でしてきたことの手間が省かかとが出来て、本当に頼りになる。

 その間には、外野がコソコソと俺と曜のことを話している人たちがいた。あえて俺らに聞こえるように話をしているようにも感じられた。

 

 

「やっぱり凄いね……あの2人……」

「えぇ。お互いに息がぴったりですわ」

「流石恋人同士でーす!」

 

 

 3年生のあいつら、俺と曜を見て何やら恋人どうのこうのと話をしているみたいだ。野菜を切る音で少し邪魔になって話が聞こえない時があるけれど、果南が発した『2人』という言葉と、鞠莉が発した『恋人同士』という単語に何となくそう感じた。

 

 

「……恋人……同士……」

「………………」

 

 

 そんなことには曜も反応を示していた。チラッと曜のことを見やると、頬のあたりが若干熱を帯び、僅かに紅く染まっていた。包丁の手の動きもそれを気にしすぎて止まっている。

 

 

「なんか……恥ずかしいな……」

「うん、そうだね……」

 

 

 3人の話、彼女も聞いていたみたいだ。

 お互いに恥ずかしいと思い、困りつつ笑みを浮かべて笑い合いながら、俺たちは調理を再開しカレー作りを続けたのだった。

 

 

 

 

「………………曜ちゃん」

 

 

 

 

 






最近小説の書き方を変えています。
実はいろんな人の小説を見て、色々と考えながら
執筆はしているので、何かしら意見があれば
メッセージや感想でいただければと思います。

さて、そろそろ彼女のアノ件もはっきりさせない
といけませんね。次回の話はそれに視点を置いて
小説を書いていこうと思います。

それでは、次回も楽しみにしていてください!
感想や評価等、お待ちしております!!!



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