麦わら帽子の英雄譚   作:もりも

10 / 27
ルフィ君は単純すぎる

ザワザワと歓声とは違う喧騒が競技場内に立ち込める。

こんな雰囲気になったのは初めてだと雄英教師陣も困惑した。

 

『誰がこんな展開を予想した!?』

 

『全くのノーマーク!!』

 

『障害物競争の勝者は・・・ヒーロー科A組 緑谷出久ぅううう!!』

 

「はぁ・・・はぁ・・・・」

 

なんと一番に姿を現し、障害物競争を制したのは中位グループにいたはずの緑谷だった。

このまさかの予想外の結果に観客達は歓声をあげる。

しかし緑谷自身は棚からぼたもちといわんばかりに、一位を勝ち取ったことに苦笑していて嬉しさ半分の様子だ。

 

そして彼に続き、これも意外B組の拳藤一佳がゴールラインを踏んだ。

一連の騒動にある程度予測がついていたのか他の者を出し抜いたのだった。もっとも彼女も緑谷と同様な表情を浮かべている。

しかし気になるのはあの3人。続々と競技者が帰ってきているというのに今だに現れない。

ゴール通過者は30を超え、そろそろ制限人数が埋まってしまう。

 

緑谷と拳藤以降の順当に上位に入ったA組の生徒らはお互い話すこともせず、心配した面持ちで彼らを待つ。

通過枠があと6つとなったところで、明らかな殺意がこもる罵倒の声が競技場入り口から聞こえて来る。

 

「テメェはいつか殺すと決めてたが、今ぶっ殺す!!この後の競技楽しみにしてろクソが!!」BOMB!!

 

「それには俺も同意見だ・・・・」COO・・

 

「だから悪りぃって何回も謝ってるだろ!ジコだジコ!!」DON!

 

怒りのボルテージがとっくに振り切れている爆豪・轟と一緒に若干開き直ってるルフィがようやく競技場内に姿を現した。

トップを争っていたはずが一気に通過者最低のフィニッシュに終わったことにA組両名はこんな事態に巻き込んだルフィにブチギレている。

爆豪はともかく、クールな印象の轟が全身から冷気を漂わせていることから、待っていた生徒らもこの雰囲気を瞬時に理解した。

 

『せっかくトップ寸前だったのに何やってんだこの大馬鹿はーーーー!!!俺の隣にいる相澤ティーチャーもぶちギレてるぞ!!俺は大爆笑だったがNAーーー!!』HAHAHAHAHAHA!!!

 

『恥をかかせやがって・・』

 

こんなことになったのはもちろん第3関門で起きた大爆発が原因だ。

爆発が爆発を呼び、凄まじい衝撃に見舞われた3人はそれぞれ三方向に吹き飛び、短い時間であったが気絶してしまったのだ。

この隙に後続が彼らを抜き去った。しかも粗方の地雷は起爆していたので悠々と快走させるアシストまでしてしまう始末。

しかし気絶したのにかかわらず枠内に間に合わせた彼らのタフネスぶりは賞賛に値する。

 

ゴールラインを3人が切るころに、コビーの姿も見えた。

どうやらルフィが引き起こした爆発で生じた混乱に乗じて前方の何人かを躱してなんとかラスト一人の枠に間に合ったようだ。

周りの状況に的確に対応するボガードとの特訓がここでも生きたようだ。

 

「な、なんとか間に合った・・・はぁはぁ・・・それにしても」

(彼はすごかったな・・)

 

息を切らせながらコビーは一位を獲得した緑谷に目をやった。

同じ中位グループにいたはずの緑谷がいきなりトップへジャンプアップした様をコビーは見ていたからだ。

 

大爆発が起こる直前、実はもう一つそれよりも少し小規模の爆発が起こっていた。

これは地雷原に着くなり、地雷をかき集め山積みにした緑谷が意図的に起こしたものだ。

まず一位は現状不可能と悟った彼は手に持つ仮装敵の板状のパーツを爆風の受け皿にして、爆豪の個性のように一気に最前線まで吹っ飛ぶ作戦にでた。

大きな賭けであったがそれは見事に成功。先にいた3人は自爆していたことであまりにうまくいったことに、緑谷は逆に驚いている。

本来なら前方へ飛べたとしても爆豪と轟を抜ける保証もなかった上に、到達するはずだった地点で起きた大爆発がうまいこと上昇気流を生み想像以上の飛距離が出たからだ。

機転を利かせてトップに立った緑谷だが、運に恵まれすぎたと苦笑してしまうのは無理ないだろう。

しかしコビーは同じく個性に頼らずトップに立った緑谷に賞賛の眼差しを向けた。

 

トップを獲得した緑谷に嬉しそうな反応を見せるオールマイトだったが、ルフィのトラブルメーカーぶりに困惑の顔を見せている。

 

(能力はピカイチなんだがなぁ、ムラっ気というか茶目っ気というか・・)Uuum

 

(しかし彼は自分の個性の特徴をよく理解している。ゴムの反発をよく生かしてるな!結局は下位でフィニッシュはしたが、これからも彼が台風の目になりそうだ!!)

「といっても私は緑谷少年推しだがな!」

 

オールマイトのお墨付きを頂いたルフィは、普通科でありながら早くも今大会の注目を浴びる。決していい意味ではない。

この一件でダークホースまたは、おもしろ要員として一発で観客たちに認識されたからだ。

そんな奇異な眼差しを浴びるもなんのそのルフィはケロリとしている。後ろで爆豪が殺す、とも囁いている。

 

さてさて波乱の第一種目が終わり、時間もほどよい頃合いに進行役のミッドナイトは第二種目の説明を始める。

 

第二種目・騎馬戦!

これは残った競技者が各々好きなメンバーで騎馬を作り、騎手がつけたハチマキを奪い合う通常の騎馬戦と基本のルールは一緒だ。

違うのはハチマキが取られても終わりではなく制限時間以内であれば奪い返すことができることと、そのハチマキがポイントを持っているということ。

第一種目の順位がポイントに反映され、騎馬メンバーそれぞれが持つポイントが騎手の持つハチマキとして合計される。

通過条件は制限時間終了時点で所持しているハチマキの合計ポイントを多く持つ上位4組だ。

そしてミッドナイトの最後の一言に緑谷は固まる。

 

「2位のポイントは205ポイント!!そして1位は!!」

 

「1000万ポイント!!!!」

 

はらたいらかよ!と緑谷は突っ込む他なかった。

 

よく知ってるな若いのに・・・

 

 

 

 

 

 

「コビー組もう!!」

 

ルフィは騎馬戦のメンバーにコビーを真っ先に声をかけた。

チームを組む以上、慣れた相手と協力するのは定石だ。それにコビーも快く応える。

 

「狙うぞ1000万!!」

 

意気揚々とルフィは緑谷のハチマキを狙いにくご様子で視線を彼へ向ける。

それと同じ視線を多く背中に感じたのか、ぶるっと緑谷は体を震わせた。

 

「じゃあ私もそれに参加させてよ」

 

フランクな口調でルフィ達に話しかけるのは、サイドテールの女子 拳藤だ。

メンバー選びでB組より先にこちらに声を掛けにきた。

 

「いいのかい?B組の人と組まなくても・・」

 

ルフィを通じて面識のあるコビーは彼女に尋ねる。

 

「別にクラス対抗でやってるわけでもないし、構わないでしょ。それよりも私はルフィの騎手がこの中で一番いいと思っているから!」

 

性格通りさっぱりした返答をした拳藤。彼女はかなりルフィの実力を買っているうちの一人だ。

ルフィのはちゃめちゃぶりには彼女も若干不安はある。第一種目で同じ順位で終了した轟、爆豪は争奪戦が行われているのに誰もルフィには近づいてこないのがいい証拠だ。

だが、彼女はその不安を吹き飛ばす実力がルフィにはあるとしっかり値踏みした上で判断したのだ。

 

「それとも2位の私を断る理由そっちにある?最下位コンビ?」

 

そう言ってまっすぐな笑みを零す彼女の姿はコビーには眩しすぎたようで、まごまご言いながら思わず彼は目を覆う。

 

「ないさ!ポイントなくても拳藤はつえーから大歓迎だ!!」

 

ルフィは拳藤の問いかけに、信頼を寄せてにかっと答える。

いつもの二人に紅一点が加わり、あと一人を誰にするか相談が始まった。

 

「正直身体能力が高い騎馬が欲しいね。せっかくの騎手がいても騎馬がダメじゃ意味ないし」

 

「確かにそうだね、こう言っちゃなんだけど拳藤さんは女の子だし僕も無個性だってのもある」

 

二人は冷静に自分たちの戦力を計算し、足らない点を挙げる。当然この話し合いにルフィは無力なので、拳藤はルフィに一切目線をあげることはなかった。

 

「ん~・・・さっき言った手前ではあるけど、クラスでオススメできるやつはいるんだ。少し脳筋だけど、丈夫さは保証するよ!」

 

彼女が足早に推薦した男子を連れてくる。

少しパンチの効いた風貌の彼は鉄哲 徹鐵(てつてつてつてつ)。ルフィに変な名前と言われた彼の個性は「スティール」、鋼鉄のように体を効果させる強力な個性だ。

熱い性格で喧嘩っ早い完全なバトルヒーロー型だ。

 

「鉄哲を先頭において、私とコビーが左右から指示をだせば、かなりバランスいい強い組になるよ!」

 

急造メンバーの特徴を発揮させながら戦略をすぐに出せる辺り、彼女は司令塔向きのようだ。

しかし鉄哲はこの誘いを断った。

 

「悪りぃ拳藤、俺はB組でチーム組もうと思ってんだ」

 

「え、そうなのか?」

 

「ああ、信頼してるクラスの奴らの方が結果がどうなろうが納得できるしな」

 

「それに言っちゃ悪いが、お前以外の二人が片や無個性で、片やさっきの騒動の原因。俺がこのチーム選ぶ理由がねぇな」

 

少し棘がある物言いをする鉄哲に拳藤はムッと反応した。普段の彼はそんな風なことは言わないから余計に。

その顔を見て鉄哲も取り繕うように言う。

 

「いや・・この二人を悪く言うつもりはねえんだ!ただ、お前が同じクラスの俺らより先に声をかけに行くもんだからよ、ついよ。俺たち頼りにされてないのかよって思って」

 

「・・鉄哲」

 

どうやらクラスの姉御的存在の拳藤がルフィ達を誘ったことに少し嫉妬したらしい。

鉄哲も気分悪くさせてしまったと思い、ルフィ達に悪いと言い手を合わせた。

そのことに別にルフィとコビーも気分を悪くしているわけでもなく、いいよと返す。

 

「テツテツは拳藤に離れて欲しくなかっただけだろ?」

 

「「そういう言い方はやめろ、なんか!!」」

 

ルフィの言葉に彼と彼女は少し顔を赤くしてツッコむ。

 

ただ当てにした鉄哲を逃して、どうしようかと3人は考えた。先ほどの合間に周りはすでに固まっているようで、早く決まったところは作戦会議をしている。

コビーは誰かいない周りを見渡すとよく知った顔がいることに気づいた。

 

「心操君!」

 

紫色の髪をかきあげた男子はルフィやコビーと同じクラスで普通科の生徒だ。

まだ普通科の生徒がいることに拳藤は意外だと思ったが、彼がヒーロー科に転科希望しているのをコビーは知っているため嬉しそうに声をかける。

ただ彼にも組んでいる相手がいるようだったので誘うのをコビーは引っ込めた。

しかし心操はコビー達、いやルフィを見て、元の相手を断ってからコビーに組もうと言い出してきた。

 

「僕はいいけど、元の人たちに悪くないかな」

 

「そうだけど、古美も誘いたそうだっただろ?俺もやっぱ同じクラスのがいいし。勝つためだと思ったら、こいつと組んだ方が可能性高そうだし」

 

心操はルフィを親指で指した。先ほどの種目を見てそう判断したそうだ。

彼とルフィ達は親しいわけではない。しかし同じ目的同士であるため拳藤も反対は全くなく、これで四人が揃うことになった。

他の組に遅れて作戦会議が始まる。それをまとめる拳藤は心操の個性が何か尋ねた。

しかし心操は自分の個性は騎馬戦では役に立たないといい、無個性だと思って扱ってくれと言った。

普通科にいる彼なので汎用性に乏しい個性だと納得した彼女はそれを了承するが、同じクラスのルフィとコビーも全く知らないのに少し気がかりに思った。

 

騎馬の組み方は騎手にルフィ、先頭にルフィの動きに慣れているコビー、後方に拳藤・心操が構える形だ。

他の組みで有力そうなのは数組。

轟チームは推薦入学者が二人(轟・八百万)と電気を操る上鳴、フィジカルに長けスピードは随一の飯田とA組の中でも上位クラスの生徒で構成され、役割が明確化しているようで通過は手堅たい。

次に爆豪チーム。「硬化」の個性を持ち体力がある切島、「酸」とザックリとしてるが汎用性の高い個性の芦戸と補助能力の高い「テープ」の個性の瀬呂の3人が高い身体能力と攻撃力のある爆豪を支える。

そしてもちろん注目すべきは1000万ポイントを持つ緑谷チームだが、麗日・常闇・発目で構成されたチームはなかなかに予想できない組である。

「無重力」の麗日と「影」を操る常闇は汎用性ある個性だ。しかし緑谷の個性はクラスメイトでさえ把握できていない上に、唯一のサポート科の発目はヒーローコスチュームなどに使用する器具を用いるので謎と言える。

 

B組にも優秀な者は多いはずだが、A組に比べ目立つ活躍を見せていないので評価は様子見だ。

 

 

15分のチーム決め・作戦会議が終わり、ミッドナイトがスタートの合図をかけた。

 

『スタート!!』

 

総勢11組が猛然と声を上げる。そして多くの組が一方向に駆け出していく。目標はもちろん緑谷チームだ。

 

『あ〜と狙われるは当然がごとく緑谷、これが一位の宿命かー!!』

 

「いきなり襲来か・・まず二組。追われる者のさだめ・・・選択しろ緑谷!」

 

「もちろん逃げの一手!」

 

常闇のクサイ口調の言葉に緑谷は逃げ回る選択を選ぶ。

1000万ポイントとぶっちぎりの得点なので一位通過するためにはこのハチマキを所持することが条件になる。彼らは最後までコレを保持する作戦のようだ。

B組の騎馬とA組葉隠チームの接近を発目のサポートアイテムのジェット機能で空中に飛び、追撃の攻撃を常闇の影・人格を持つダークシャドウがアイヨッ、と打ち払う。

この一連の動きを見るだけで、サポートアイテムの性能性と常闇の個性の防御力が伺える。

そしてさらに麗日が全員の体重を減少させ、騎馬であるのに軽やかな動きを体現させる。このように機動と防御で逃げ果せるようだ。

しかし、爆豪と轟が後続に攻撃を仕掛ける。これを捌ききるのは相当に困難だ。どう捌くのか観客の注目が集まる。

 

オールマイトはまたもやハラハラしながら緑谷を見ていたが、おかしいと思い目線を別に移す。

 

(彼の性格なら迷わず一位を狙いに行くと思ったが・・・)

 

移した目線の先は、この大会のおもしろ枠として注目されているルフィだった。

ルフィの方を見ると騎馬が一切動き出していない。

 

(何をやっているんだ・・・)

 

一位を狙うと明言していたルフィを含む騎馬が動かない。明らかに挙動がおかしい。

拳藤のポイントがある分狙われやすいはずだが、騎手がアンタッチャブルな存在であるルフィであることと不自然なほどに動かないことで、周りの組は迂闊に近づけないでいた。

 

爆豪は鼻息を荒くしていた。先ほどはルフィに対してイラついていたが、幼馴染であり完全に格下に見ていた緑谷が現時点でトップにいることが許せないでいた。

彼のこの体育祭への意気込みは並々ならぬものだ。開会式で彼が言った「俺が一位になる」という周りを舐めきった一言の選手宣誓も自分を追い込むため。

A組の訓練で今までにない苦渋や辛酸を味わってから彼のトップを取りに行く決意は硬かった。

 

「調子に乗りやがってクソナードが!俺の前に立ってんじゃねえよ!!!」

 

『なんと爆豪が飛んでいるーー!?騎馬から離れてるけどいいのかこれはーー!?』

 

淫猥な鞭が『アリ』と答える。

 

「くッ!?発目さん!!ターボ!!」

 

緑谷が空中に回避した先に爆豪が飛びかかった。爆豪は完全に騎馬から離れ、個性の爆破で追いかけにきたのだ。

これに緑谷は発目にターボをするように促し、攻撃を回避した。

爆豪は瀬呂が出したテープで騎馬へと引き戻された。

 

「ちっ・・・ムカつくぜ・・どいつもこいつ!!てめえもあのクソゴムも邪魔ばっかよぉ!!」

 

「まずはてめえをぶち殺す!デク!!」

 

「かっちゃん・・」

 

「いや、こいつを奪るのは俺だ」

 

二組が睨み合うところに、轟が介入してくる。彼も爆豪同様トップへの執着が表情に強く色づいている。

この二人は第一種目を落としているため、何があっても緑谷から一位を取りに来るつもりだ。

 

(・・・この二人に目をつけられて逃げ切れるとは思えない)

 

優秀な騎馬もある二組に落ち着く暇はない。緑谷はなんとか回避策を瞬時に考え、活路を後方に見出した。

しかし空中から狙える爆豪と飯田を騎馬にしている轟に背を向けるのは愚策、そう思った轟は飯田に指示しフルスピードで追いかけるが捕まえる寸前に緑谷を逃してしまう。

 

「ち・・なるほど、密集地帯をうまく使いやがった」

 

緑谷は後方で争う3組の中にあえて突っ込んでいき、それらを盾にすることで轟・爆豪からの一方的な追い討ちを防ぐ。

前種目3位である飯田を含める轟組はポイント数は全体で二番目に多い。周りに囲まれれば自分たちも当然標的の対象だ。他の組からも狙われる可能性はあるにしろ、能力的には他を圧倒している轟チームと爆豪チームをサシで相手しないことを最優先に彼は考えた。

 

「逃す・・・っ!!??」

 

爆豪が緑谷を逃すまいと足を向けた瞬間、彼のすぐ後方を横切る騎馬が現れた。

その姿を確認すると、見知らない顔がしたり顔をしながらハチマキをくるくると回す。

 

「一つのことに視野が狭くなってるやつはカンタンカンタン」

 

挑発的に言う彼はB組の物間寧人。彼の手元にあるハチマキは爆豪が先ほどまでつけていたものだ。

 

「てめえ!!!」

 

「単純なんだよね、君らはさ。子供みたいにはしゃいじゃって、バンバン個性を出し放題。僕らはよく観察させてもらったよ、第一種目の頃からね」

 

「そもそも第一種目ってことと、例年の傾向からいって最初から少人数まで切り捨てることは考えにくい。特に目玉のヒーロー科をそこで落とすわけにはいかないだろうから最低2クラス40人分の枠は残してるだろうと仮定してそこまでの順位には入って流していたのさ」

「無駄に一位取りに行くのはバカってもんさ」

 

「こ、こいつ!!!」BOMB

 

「冷静になれって爆豪ムカつくけど!」

 

物間はベラベラと嫌味ったらしく今まで目立つ動きをしていなかったことを説明しだした。

この講釈に爆豪チームだけでなく物間の騎馬のB組諸君もイラっとしたが、物間の饒舌は止まらない。これに爆豪は元々ルフィや緑谷で擦り切らせていた堪忍袋の緒がさらに極然状態になる。そして・・・

 

「まぁ、勝手に転げ落ちて僕たちより下だったけどね!あーはっはっはっは!」

 

この言葉に完全にぶちギレた。

 

騎馬の切島・芦戸・瀬呂は恐ろしくて上を向けなかった。坂本九に諭されても無理だ。

爆豪に怒りのオーラはない。すこぶる静まった様子だ。これに3人はあ、人間こうなった時が一番やべえやつだと最も恐ろしい人間の振り切れ方だと感じた。

 

「俺はすこぶる冷静だぜ?切島」

 

「デクより前にこいつぶっ殺すぞ?」

 

「へ、へい!」

 

今まで一番穏やかな爆豪の声に切島は声を上ずらせた。

 

『ここまで大人しかったB組が形成逆転!!緑谷・轟以外のA組チームがことごとく0ポイントにされているぞー!?』WHY!!??

 

 

 

なんとか轟たちから一時的に脱出した緑谷チームは一息をついた。

彼らを追う者同士が潰しあっている状況に仕向けたのが功を奏した。

 

「デクくん右見て!!」

 

麗日がそんな中声を張り上げる。

唐突に伸びてくる手がこちらに伸びてくる。とっさにこれを避けるも緑谷は体勢を崩してしまう。

何もないところから手が現れるのは彼の仕業だろうと緑谷は警戒心を再び最高にまであげた。緑谷もまた第一種目でその手の人物に注目したからだ。それは奇異な者をみる目ではない、強者を見据える目だ。

あの爆豪と轟とすんでのところまで優勝を争い、そして騎馬戦では有利になるだろうゴムの個性の驚異的な相手だ。

その相手が自分たちから10メートルほど前方に佇んでいる。しかしその雰囲気にかなり違和感を感じる。

いつもクラスにやってきては馬鹿騒ぎを起こしている彼が何か虚ろな顔をしている。この違和感に騎馬の発目以外の二人も気づいた。

 

「ふん、目の前に1000万ポイントをぶら下げた敵がやってきたぞ」

 

「ハチマキをブン取れ!」

 

ルフィチームの心操がそう指示をした瞬間に、騎手のルフィが大きく息を吸い雄叫びをあげるように声を張り上げる。

 

「ゴムゴムのガトリング!!!!!!」DoDoDoDoDoDoDoDoDoDoDoDoD!!

 

「イィ!!??」

 

緑谷チームは先ほどの静かさからいきなりのテンションに思わず気圧されてしまう。

無数に繰り出されるパンチにダークシャドウが防ぎに出るが、全てを落とすことはできず緑谷と常闇に攻撃はかすってしまう。

一度崩れた騎馬の体勢では分が悪すぎると感じ緑谷はここでも脱出を図る。

 

「逃がすな」

 

しかし爆豪同様、空中へ飛び出したルフィは追撃を繰り出す。

 

「ゴムゴムのピストル!!」BOW!

 

繰り出された突きはとっさに避けた緑谷たちには当たらず地面を叩き、ヒビを入れた。

さらに緑谷の額のハチマキに手が伸びてくる。

とっさにダークシャドウがこれを弾き、ルフィは一旦騎馬へ戻っていった。

 

「あ、あんなモノ食らったら一撃KOだ!?」

 

「で、でもあんなんあかんのちゃうん!?確か悪質な攻撃はダメって!!」

 

「確かにあれは騎馬をも狙った悪鬼の所業・・」

 

ルフィの攻撃は騎手だけでなく、騎馬をも打ち倒さんばかりだ。個性での攻撃は認められてはいるが、悪質、つまりは騎馬を崩すために怪我をさせる行為は禁止されている。

緑谷はちらっとミッドナイトの方に目を向けるが、判定はセーフと出している。

 

(確かに当たれば危険・・当たればね。攻撃が外れた後に間髪入れずハチマキを取りに行ってることから、あれはあくまで牽制ね)

 

ミッドナイトはルフィの一連の動きを見て、わざと攻撃を外させていると判断した。

 

ルフィの厄介さに緑谷は常闇に徹底的な防御と後ろの二人には相手から一定の距離を保つように指示をする。

これでルフィからの攻撃はなんとか防ごうとするが、完璧な動きで猛進するルフィチームの勢いを止めることはできなかった。

 

「く、くそっ!!!」

「なんて連携だ!?とても急造チームとは思えない」

 

ルフィの攻撃はなんとダークシャドウを突き破り、緑谷のハチマキを奪い取ったのだ。

取られたショックに堪えることなく、緑谷たちは奪い返しにいこうとするもルフィの圧倒的な攻撃力に二の足を踏んでしまう。これを取り返すよりも他の組を狙った方がいいのではないかと。

 

しかし緑谷にはその選択肢は選ばない。彼は約束に応えなければいけなかったからだ。オールマイトと約束したトップを取る。自分こそが次代の象徴になるために。

 

「みんな取り返そう!!」

 

「うん!!」「当然!」「まだまだ私のベイビー達も暴れ足りてませんよ!!」

 

緑谷の意志は皆にも伝播する。

(ルフィ君の攻撃は確かに強力だ、でも隙も多い。伸びた手を引っ張り倒して騎馬から落とす!)

 

(いざというときは使うぞ ワンフォーオールを!)DON!

 

この試合初めて緑谷チームが攻勢に出た。

しかしそれは左からくる氷の軍勢に阻まれる。

 

「なんだ緑谷・・取られちまったのか」

 

かろうじて避けた不意の攻撃に大きく緑谷達はバランスを崩す。

 

「轟くん!?」

 

「ならてめえに用はねえ」

 

「カッちゃん!?」

 

先ほども狙ってきた二組が近づいてくる。しかし向かう先は緑谷ではなくルフィたちだ。

そして緑谷は彼らが手に持つハチマキの数に驚愕する。

 

『さすがは入試一位と推薦入試の最強の男と言うべきかーーーーーッ!?こいつら他の組のハチマキを全部取っているぜーー!!しかもご丁寧にそいつらの動きも封じてる徹底さだぜ!!』

 

なんと轟・爆豪はここにいる以外の組のハチマキをこの短い時間で全て剥ぎ取ったのだ。

そして彼らは奪い返しにこないよう瀬呂のテープ、轟の氷結それぞれを用いて取り終えた相手を縛り上げた。

メンバーの総合力をフルに生かした轟とキレすぎてかえってすこぶる冷静になった爆豪の実力はこの中でも飛び抜けた力を発揮した。

 

「さっきの借りを返すぜ」

 

轟はルフィに対して攻撃体勢に入り、飯田のふくらはぎにあるエンジンの鼓動が速まる。

今動けるのは4組、しかも既に通過は決定的になっているにもかかわらず、轟・爆豪もトップを取るためにルフィに迫る。

 

ルフィの騎馬である心操はこの状況にめんどくささを感じていた。

 

(もう勝負が決まってるってのに変に対抗して掠め取られるするのもうざいな・・・。せっかくこいつらを操って大成功したってのによ)

 

心操人使ーー彼の個性は「洗脳」

自分の問いかけに答えた者を洗脳し操ることができる。

なぜルフィの雰囲気が変わっていたのか、それは彼の洗脳下にいたからだ。そして拳藤・コビーもそれは同様だった。

ものすごい個性ではあるが、タネがわかれば脆いピーキーな能力のため隠すことを徹底している。

だから騎馬戦が始まる前に拳藤に個性を聞かれた時もうまいこと誤魔化したのだった。

 

(こいつらを選んだのは、かなり都合が良かった。古美は役に立たねえが、女は2位の205ポイントを所持していて、ルフィの能力はさっきのでわかった。転科推薦を狙うには目立つ必要がある。うまいこと利用させてもらった)

 

彼の個性は本当に有用性が高く、特にこのチームで動く騎馬戦においても有利な点があった。それは洗脳によって自分の意思を他3人と統一することができるからだ。一人の思うタイミングで駒を動かせる、これほど優位な点はないだろう。

 

(何よりこいつの洗脳のしやすさが最大の利点)

 

このチームの中でもルフィはとてつもなく洗脳にかかりやすかった。

洗脳といっても普通ならかけられた者にもボンヤリと意識は残ってあり、解いた後にはかなりの違和感が残ってしまう。

しかしルフィはそれが全くない。

心操は以前あまりにルフィが教室で騒ぐので一度洗脳を試みたことがあった。その時あまりのかかり具合とその後の鈍さに彼は驚き、こう思った。なんて頭の中がスッカラカンなんだと。

ここまで深くかかると彼の個性の「弱点」も消すことができる。

 

(よく働いてくれたよ、だけどここまでだ)

 

「あとは逃げて時間を潰せ」

 

心操はメンバーの3人にそう声をかけ制限時間が過ぎるまで逃げ果せるつもりだ。

しかし、それに従事する騎馬の二人とは違いルフィだけ一人身を乗り出して前に行こうとする。

再び心操が指示を出すが、ルフィはそれに従うそぶりはない。

 

(何で俺の言うことを聞かない!?)

 

心操が解けたのかと少し焦るが、ルフィのブツブツ言うつぶやきに驚愕の顔をする。

 

「ハチマキをぶんどる・・・ハチマキをぶんどる・・・ハチマキをぶんどる)

 

(こ、こいつ!!まさか最初に命じたことにしか通じないのか!!??)Gaaan!!

 

そう、ここまですんなり洗脳にかかる残念なルフィの頭は何度も命令するとキャパオーバーを起こすのだ。

なので既に言うことは聞かなくなっており、初めに命じたハチマキをとることにしか頭にないのだった。

 

「何なんだ・・こいつは」

 

半分呆れが混じった言葉を吐き出した心操をよそにルフィの体に異変が起きる。

 

 

「「行くぜ!!」」

 

爆豪・轟チームが一斉にルフィ達に飛びかかろうとするが、両チームとも目標の異変を目にして足を止めてしまう。

 

『な、なんだー!!ルフィの体から煙のようなのが噴き出しているゾーーー!!??』

 

(な、なんだこれは!?まさか暴走して!?)

 

意識がないはずのルフィの体から蒸気のような煙が立ち込め、もはや心操の洗脳の範疇を超え出した。

なんだとばかりにそれを見る選手、観客の動きが止まる。すると、一瞬でルフィの姿が消える。

 

「「!?」」

 

操っている心操でさえ騎馬上にいたルフィを見失う。

皆があっけにとられている中、爆豪だけがその動きに反応した。

 

「上だ!!!」

 

「ゴムゴムの〜〜・・・・・」

 

 

 

「JETガトリング!!!!!!!!!!!!」DON!!!

 

 

目に止まらない拳大の弾丸の嵐が頭上から放たれる。あまりの威力、あまりの速さに当たった地面は所々めくり上がりその衝撃で凄まじい衝撃が生まれる。

轟はこの弾幕に氷結を試みるが、ルフィの手を捉えることができない。

とっさに左手の炎を試みるが・・・・

この凄まじい攻撃に爆豪組の芦戸と轟組の八百万の女子はきゃあ、と声をだし倒れこんだ。それに釣られ両騎馬は為す術なく一斉に倒れ込んでしまった。

 

 

実況のプレゼントマイクは驚愕のWHAT!!を連発し、相沢は目を見開く。

攻撃の範囲外にいた緑谷達も衝撃に揺れる。

 

「なんって・・・攻撃だ!?まるでオールマイトみたいだ・・・!!」

 

「あんなもの喰らえばダークシャドウとて消し飛ばされるぞ・・!!」

 

ようやく攻撃が終わると同時にタイムアップのベルが鳴り響く。

ルフィの体から煙が消え、数十メートルの空中から落ちて地面を跳ね上がった。

 

『だ、第二種目 騎馬戦はここまで!!!』

『判定に入ります!』

 

静寂に包まれた中、ミッドナイトが毅然と自分の仕事を進行する。

未だに爆豪轟達は動くことができなかった。・・・しかしあれだけの弾幕を浴びたにもかかわらずよく見ても大きなけがは見当たらない。

爆豪は屈辱で表情を歪ませる。

 

「あの野郎・・・俺たちが動けないのをわかってわざと外しやがった!!」

 

一人だけわずかに反応できた爆豪の手には持っていたはずのハチマキが全てなくなっていた。

 

 

控え室にいたオールマイトは先ほどの攻撃が見せた所業に身を震わせ、Oh My God と両手で後頭部を押さえていた。

 

「彼のポテンシャルがここまでとは・・・もはや学生の域をはるかに超えている!」

 

会場が静寂に包まれる中、マイクの音声が響き渡る。

 

 

『発表します!』

 

『選手すべてのポイントを獲得!!』

 

 

『第一位 ルフィチーム!!』DON!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず物間が生きていることを願う。



関係ないですが、昔に描いた絵がありましたので掲載します。
【挿絵表示】

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。