麦わら帽子の英雄譚   作:もりも

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緑谷VS心操

いよいよ体育祭最終競技が始まる。

セメントスが個性によって生み出したリングが形成され、決闘場にふさわしい環境となる。

 

「あまり気負うなよ少年!口角下げてもいいことないぞ!」

「君の精一杯を出してこい!」

 

「っはい!」

 

入場前体を固くしていた緑谷はオールマイトに一喝されリングへ向かう。

入場口から出てきた彼をA組一同が声を張り上げて応援する。皆が挑戦者としての気持ちに一致団結しているようだ。

緑谷はリングの階段を上がり、一歩一歩地に足つける気持ちでリングを踏みしめた。そして相対する謎の多い男へ視線を合わせる。

 

『さぁ初戦!トップバッターを務めるのは、第一種目では第一位!第二種目では辛くも1000万ポイントを奪われたものの判断力・機転のうまさを見せたヒーロー科!赤コーナー緑谷出久ゥ!!』

 

『向かいの青コーナーはハッキリ言って謎!THE・ミステリアス!普通科3人の1人!心操人使ィーー!!』

 

プロフィールなどを随分と長く語るプレゼントマイクをよそに両者は向かいあいながら、試合開始の合図をまつ。緑谷は少し右足をジリジリと前に広げつま先に体重をかけた。

プロから見ればスタートダッシュと同時に攻撃を仕掛ける気がマンマンなのがバレバレだ。

どうやら彼は謎の多い心操の個性を警戒して超短期決戦を仕掛けるようだ。

 

(彼はあの騎馬戦ルフィ君のチームの1人だった。あの時、あのチームは全体的に何かおかしかった。)

(そしてそれを起こしたのは彼の可能性が高い。女子の拳藤さんは記憶がないと言っていた。そんな状態で動けていたということは、つまり操られていたということ。)

(ということは同じく操れていたであろうルフィ君と、友達であるコビー君がその個性の持ち主ではないことは明確だ)

 

(流石に無条件でそんな強力な個性はないはずだ。もしそうなら勝ち目ないし。)

(何かきっかけを作らせる前に決着をつける!)

 

「まだ個性を出していないけどどうしてだ?」

 

緑谷がまだか、と開始の合図を待っていると心操から話しかけられた。このタイミングで話しかけられたことに若干の警戒を抱いた緑谷は答えない。そんな彼に心操は話を続ける。

 

「・・・・ヒーロー科に在籍してるんだ。すごい個性持ってるんだろ?ただ使い所は限定的ってとこか?にしても恵まれてるよお前らは」

 

「そこに属しているだけでチヤホヤされて、将来は安泰だもんな」

 

意図の見えない話に緑谷は訝しむ。何か探りを入れてきているか。これまで無口に近かった心操にとっては少しわざとらしく感じる。

 

「・・・だからあの女もあっさり捨てられたんだろうな。所詮はその程度の覚悟だったのさ」

 

緑谷は挑発だとわかっていても並べられた言葉に血が上っていく。

何やら心操が話しているのは観客席にいる飯田たちにもわかった。

 

「何か・・話している。トラッシュトークの類か」

 

「トラッシュトーク?」

 

「罵りや挑発のようなものだ」

 

A組の飯田たちの中にルフィも加わっていた。ああまでライバル視されているのにも関わらず、気にしない様子で馴れてくるところが掴めない性格を印象づける。

そしてもう一人、ルフィの隣には拳藤の姿もあった。第三種目が始まる頃には競技場に顔を出して一緒に観戦している。

彼女は唯一、心操の個性をおおよそだが把握している。その彼女がまずそうな顔をしている。

 

『さぁいよいよ開始だ!!』

 

「氷の奴も爆発の奴も他のやつもとんだ見かけ倒しだよ。普通科のあのバカに手も足も出せずにさ。」

「みたか?あの間抜けなツラ!傑作さ!個性だけに恵まれた間抜けだよ!」

 

『READY・・・・・・・!!!!』

 

「雄英の恥さらしさ お前ら全員さ!ハハハ!」

「お前もそうなんだろ?緑谷!!」

 

『SゥTAァーーーRT!!!!!』

 

「・・・僕はどう言われたっていい・・・」

「みんなのことは取り消せ!!!!!!」

 

激情に駆られスタートと合図とともに右足を踏み込み、駆け出そうと緑谷の動きが急に停止した。

その状態が数秒続く。ピクリともしない。

それにプレゼントマイクは絶叫する。ただでさえ地味なんだから盛り上げてくれよと。酷い。

ああ、とA組の皆が立ち上がり、観客たちはリング上を首を傾げて眺める。

その目線の先にいる少年の向かいにいる背の高い男子は小さく囁いた。

 

「俺の勝ちだ・・」

 

 

「せ、洗脳!!?」

 

飯田は心操の個性を拳藤から聞き、そんな理不尽な力があるのかと驚いた。

拳藤もそれが本当かどうかはわからないが、確証はあった。

 

「じゃ、じゃあデクくん勝ち目なしなの!?」

 

麗日が対抗策はないのかと慌てふためき彼女に聞くが、彼女もただ知らぬ間にかかって知らぬ間に解かれていただけなので詳しいところまではわからなかった。

そんな絶対的な個性なんてあればどうしようもないが、あったとしても1対1の状況でもう洗脳されてしまうともはや為す術もない。

ルフィもそういうことだったのかと当事者のくせに今更気づいた。

 

「強力な個性だけど、確かにあの入試試験なら通らないも納得だね」

「操って倒させても他の人のポイントになっちゃうんだから」

 

悔しかっただろうなぁ、とルフィたちの一段上の席でA組耳郎が心操の個性の弊害を考察した。それを聞いて拳藤はなんとも言えない気持ちになる。

 

洗脳の完了を確信した心操は深く息を吐いた。

彼の個性のトリガーとなるのは彼の問いかけに答えること。そのためにわざと挑発をかけ緑谷の返答を引き出そうとしたのだが、緑谷がそれに気づいている素振りもあってなかなか苦労した。

これが成功しなければ終わり。彼の生命線は非常にシビアであった。

 

「悪いな・・・こんな「非人道的」な個性で」

「こんな悪人みたいな個性でもヒーローに憧れちまったんだ。負けてくれ」

 

彼は幼い頃から自分の個性を悪用しているんじゃないかと疑われ続けてきた。自分でもヒーローより敵向きの個性だと自覚していた。

しかし、それでもヒーローを目指す道を選んだ。荊の道なのは重々承知だった。雄英のヒーロー科を受からなくとも普通科に一縷の望みを見出し、どんな手段をとってでものし上がる。

彼はそこまでの覚悟を持っていた。

 

心操は緑谷にリングを出るように指示を飛ばす。すると素直に緑谷は踵を返して振り向いて歩を進めた。

その方向をふと目にやるとオールマイトがトゥルーフォームのためコソッと入場口からのぞいていた。

 

(ダメだ緑谷少年!!来ちゃダメーー!!)AAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHH!!

 

緑谷の足は止まらない、彼の意識がこれを拒絶してもなお、だ。彼の脳内は止まれの大合唱を歌っていた。

 

(止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ・・・・・!!!!!!!!!)

(あんな・・・あんなことを言われて負けるなんて絶対嫌だ!)

(みんなヒーローになるために必死なんだ!現状に満足なんて誰もしちゃいないんだ!)

 

(許せない!例え挑発だったとしても僕が負ければ言い返すことも否定することもできないじゃないか!)

(麗日さんは家族を助けるために、轟くんだってかっちゃんだって強い思いがあるんだ!)

 

何より仲間を侮辱されたことに彼は憤慨していた。

皆先月の敵襲来で恐怖を味わいながらも立ち上がり、この体育祭でも一度完膚なきまでに敗北しても、目指す先へ辿り着くために努力をして来たのだ。

彼も元は恵まれなかった1人だ。挫折から立ち上がるのがどれだけ勇気がいるか知っている。

だから負けるわけにはいかなかった。

緑谷の今までに感じたことがないほどに内なる感情は沸き立った。

 

「無駄だよ、俺の個性は「お前自身」の精神を支配する」

「逆らえやしない」

 

心操は勝負が決まったと思い、目線を切って自分も踵を返そうとした。

しかしその時観客が沸き立つ。何があったのかと思い、とっさに観客の目線の先を振り返った。

 

「ば、バカな・・・・なんで」

 

そう呟いた心操は大量の汗を吹き出した。理解ができなかったからだ。

目線の先には緑谷がリング場外のラインの前に踏みとどまって、こちらを向いていた。

 

(洗脳が解けたのか・・・いや、違う。あの様子はちゃんとかかっている状態だ。何か衝撃を受けて解かれている様子もない。)

 

彼の洗脳の弱点、解除方法は体に衝撃を与えること。例えば第三者が肩を叩けば解かれてしまうというものだ。

簡易な方法で解除できてしまうが、この局面でそれはない。

何が起こっているのかわからず、彼は戦慄する。

 

「一体どうなっているんだ。緑谷くんはどうやら踏みとどまったようだが、様子がおかしいぞ」

 

このさらに奇妙さが増したこの試合は何分精神的な個性の戦いなので飯田たち見てる方からすると何が何だかだ。

緑谷の方を見ても正気があるように見えない。しかし緑谷の頭のなかは凄まじい世界が展開されていた。

 

(なっんだコレ!?)

 

精神世界の彼の目には7人の影がこちらを見つめてくる情景が浮かんだ。その姿に緑谷は困惑とそして恐怖を強く感じた。何か自分を超越する力に・・・

その中の1人が彼に近寄ってくる。しかし逃げることができない。現実世界と同じく洗脳されているからではない、逃げる足がないからだ。ただただ近づいてくる影を待つしかない。

その影が彼の手をただ握る。ただそうやっている。女性のような優しげな笑みをニッコリ浮かべて。

 

「こうなったら俺が自分で押し出してやる」

 

個性ではなく自力で押し出そうと心操は緑谷の方へ駆けた。しかしその時地鳴りが起きる。

皆何事かとざわめきたつが、やがてその地鳴りが大きくなっていき、地震へと変貌し競技場を大きく揺らす。

 

「うわぁ地震だ!!怖えぇ!!!???」

 

「アッヒャッヒャッヒャッ!!すんげぇな!これが地震かぁ!」

 

「皆地に伏せて頭を守るんだ!!訓練を思い出せ、そしてそこ!楽しそうにするんじゃない!!」

 

飯田が委員長ぶりを存分に発揮し、皆の安全を誘導する。若干一名ジェットコースター気分だが。

競技場全員が揺らされ立つこともままならない状態であるのに、リング上を見ると唯一人緑谷だけが直立不動であった。

 

「こ、こいつの仕業か!なんだっていうんだ、あのゴムもそうだがなんでこんなイレギュラーが起きるんだ」

 

この現象に心操がうろたえていると、次の瞬間には弾かれたような突発的な爆風が舞い込んできた。

ブオオと音を立て圧をかけてくるこの風は対戦する少年から発生され、リングサイドの壁に打ち付けられた。

 

「今度は風か!!?」

 

腕を前に顔を隠していた心操はゆっくり元凶を見やると、その少年は息遣いを荒く肩をゆらし、さっきとは違って目に力がこもっていた。

 

(な、なんだ・・・ワンフォーオールが強制的に発動したぞ!?)

(イタタタタタタタタタタ!?・・・折れてはないけど、全身の筋が痛い!?)

 

緑谷は無自覚に爆風を起こした際に覚醒した。どうやら自らの力の痛みによって解除されたようだ。

自分でも何が起きたかわかっていない。

 

オールマイトは驚愕する。あのような現象を自分も知らなかったからだ。まさか緑谷の中の「力」が暴発したのかと警戒心を高める。

 

『なんだか自然災害が起こっているうちに状況が変わっているぜーー!?まさか神のお仕業かーー!?』

 

「とりあえず助かった」

 

緑谷は自分のことはわからなくとも、戦況はよく把握した。自分が心操の言葉に答えたことで洗脳にかかり、それが痛みによって解除されたことに。

彼は一歩前に足を踏み出す。それに心操は一歩後ずさる。

全身の痛みで早くは動けない緑谷は一歩一歩前進する。気持ちが後ろに引かれる心操は再度洗脳にかけようとまたも挑発を言い出す。

 

「羨ましいな!個性でこんな真似できるだなんて!」

「なら、なんで最初から使わないんだ!?嘲笑っていたのか周りを!」

(ああ・・僕も昔から嘲笑われた!)

 

「俺はこんな個性だからヒーローなんて目指しちゃいけないなんて思っちまって!」

(わかるよ・・・・僕もずっと思ってた!!)

 

「誂え向きの個性に恵まれてホント羨ましいよ!!」

 

(僕は恵まれた!!!)

 

心操の言葉は緑谷の心に突き刺さる。なぜなら彼は「無個性」だったから。彼は声を大にして同じだったと叫びたかった。しかし彼は黙して前進する。

 

「何か言えよ!」

 

心操は半ばやけくそに緑谷に殴りかかる。しかしテレフォンパンチ、実戦訓練をこの2ヶ月間何度も行ってきた緑谷には当たらなかった。

そして緑谷はUSJの事件より試してきた諸刃の超パワーの5パーセント調整をイメージして、心操の腹を殴りつけた。

 

「ゴフッ!!??」

 

横隔膜を殴られた心操はリング場外へ弾き出され悶絶している。吐きそうなのを我慢しながら恨めしそうに緑谷を睨みつけている。

緑谷は彼を見てわかるよ、と言い心操に対して言葉を続けた。

 

「始めの君の言葉が本心かどうかなんて僕にはわからないけど、でもこれだけは言っておきたいんだ」

 

「僕が言えた義理じゃないけど、恵まれていたとしてもみんな何かしら抱えながら生きているよ・・・」

「それにここのみんなはトップをとるために踠いてる。そのことだけわかってほしい」

 

緑谷のなんとも言えない表情に心操は何も言い返すことも気も起きず、立ち上がった後は終始上を向かずリングを去って行った。

 

 

『最後には鉄拳一発!!WINNERは緑谷ダァーーーー!!!』 YEAH!!

 

プレゼントマイクのテンション高めの声が響く中、オールマイトは帰ってくる緑谷を目を細めて見つめる。

そして何か意味深な言葉を発した。

 

「まさか緑谷少年はワンフォーオールのトリガーを引いたのか・・・」

 





短いですが、キリよくここまでです。
次回は8試合目まで生きたいです。
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