麦わら帽子の英雄譚   作:もりも

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だいぶお久しぶりです。(汗)
仕事やらなんやらで、なかなか更新もできませんでした。
感想の方でもメッセくれていた方々にも、すごく申し訳ない気持ち。

今回の話は前後半ある形なんで、後半は早めにアップしたいと思います。


吹っ切れた強さ

「あ!!デクくん治ったんだ!」

 

「安静にしてなくて大丈夫だったのかい?いくらリカバリーガールに治してもらったとはいえ」

 

「ちょっとしんどいけど、大丈夫。僕もこの戦いは絶対見ておきたいし」

「轟くん対ルフィくんの試合は!」

 

轟と緑谷の試合が終わった後の二回戦第二試合ルフィ対鉄哲の試合は、鉄哲の耐久力勝負となった。

ルフィの突出した回転数を誇る連打にただただ防御に徹する鉄哲は隙をみてカウンターに合わせるしかなかった。普通だったら肉弾戦では鉄哲はその個性ゆえ無類の強さを誇る。しかしゴムであるルフィの拳は彼の体を殴りつけても痛めることはなく、仮に鉄哲の拳がルフィを捉えてもダメージを与えることは難しいだろう。案の定ルフィの攻勢一方だったが、鉄哲も彼の熱に当てられたのだろうか。折れない。硬い体ではない、硬い心がだ。鉄哲の足は地に根付かせているように踏ん張り粘っていた。それに応えるかのようにルフィも鉄哲を場外に放り投げる行為はしなかった。

しかしついには鉄哲は折れることになる。何分ものルフィの攻撃の末、硬化が綻びた腹部に強烈な一撃をもらい悶絶して地に伏せた。結果的にはルフィの圧倒的勝利ではあったが、猛攻に耐えた鉄哲に賞賛の拍手が集まった。

 

続く第3試合は、八百万の完封勝ちで終わった。最強個性の一つに数えられる「電気」の個性を持つ上鳴であったが、八百万の個性「創造」が生み出した電気を通さない絶縁体生地の前に為すすべなく、なおかつ多様な攻撃を仕掛ける彼女に対応できなかったからだ。

「勝てばヤオモモが俺に惚れる展開もあったのに」上鳴の思惑は真逆の展開となってしまった。うん、これで良かったのだ。

 

二回戦最終試合、飯田対爆豪の試合は互角の展開を繰り広げた。

単純な機動力は飯田が勝るが、直線的な動きの彼に対し爆豪は爆破を使った変則的な動きで対応する。爆豪の変則的だがリズム感を感じさせる動きは一目にすぐにその戦闘センスがわかる。試合が長引くほどに徐々に爆豪が飯田を捉えていった。

しかし展開は一瞬で逆転する。飯田が爆豪から一旦距離をとったかと思えば、文字通り一瞬、目にも止まらない爆発的な加速で爆豪を蹴り上げたからだ。

初見な上に強烈なその攻撃にタフな爆豪もわずかに気を遠のり、超加速した飯田は爆豪を場外へ放り込むよう爆豪を抱え込んだ。飯田の個性を体現する脚にあるマフラーは唸りを上げたと思えば、エンストしたかのようにプスンとか細い音へと変化する。おそらくエンストする代わり無理やり自分のキャパ以上の速度を出すことができるようだ。飯田もまた個性の練度を高めていた一人。

観客席から見ても目で追うのが精一杯の速度だ。目の前で体感すれば反応することさえ難しいだろう。しかし先ほどのコビーとの格闘戦でもその反射神経とタフネスを見せた爆豪、いくら速くても直線的な攻撃を簡単にもらわなかった。自分を抱え場外へ放り投げようとしている飯田の足を爆豪は爆発で跳ね上げ転ばせ、素早くマウント状態にひっくり返した。

そこからはすぐに決着がついた。

マウントから爆豪から逃れられる術が飯田にはなかったからだ。飯田の性格上、無駄に粘ることはせず潔く降参の言葉を吐いたのだった。

 

これで轟・ルフィ・八百万・爆豪と雄英体育祭四強が揃った。そして準決勝第一試合轟対ルフィの今大会最注目のカードが始まろうとしている。

 

 

「焦凍、わかっているな?二回戦同様炎を使え!それさえすればお前は無敵だ!」

 

またもやエンデヴァーは轟を入場前に捕まえ口出ししていた。しかし轟に前ほどエンデヴァーを露骨に邪険にする様子はなかった。緑谷との試合の後、憑き物が落ちた顔をしていた彼に以前のような憎しみだけを原動力にしていた激情は感じない。ただ純粋にトップを獲る、そのことに集中している顔だ。

 

「別に・・あんたの言うことを聞くわけじゃない。俺が奴に勝つためにはコレが必要だから使うまでだ」

「俺にあんたの私怨や目的なんか関係ない。俺は俺がトップヒーローになるために戦う。いい加減俺に自分の影を重ねるのはやめてくれ」

 

「何?」

 

「俺はオールマイトを超えたいんじゃない。オールマイトのようなヒーローに成りたいんだ」

 

選手二人が入場するとこの日一番の歓声が巻き起こる。当然だ。二人の実力はこれまでで十二分に観客もわかっている。そして間違いなく次世代を象徴するトップヒーローになるだろう、と皆ロマンを胸に膨らませていた。そのうちのヒーローも彼らのチェックに余念はない。

ルフィはもうアフロは外している。先ほどのお祭り状態からマジモードへスイッチを切り替えているからだ。そのためかリング上は緊迫感に包まれる。この雰囲気を作り出したのは間違いなくコビーと緑谷だろう。この二人はトーナメント選手全員に衝撃を与えた。ルフィと轟も例外ではない。

 

『さぁ!!ついに準決勝!今年のトーナメントはなんとも衝撃的で濃密な試合だったが、ついにこの試合含め3試合となった!そしてこの試合は何と言ってもいろんな意味で注目のカードだ!』

 

プレゼントマイクはいつもより何割か増しで実況に熱が入る。

 

『方や日本が誇るトップヒーローの一人エンデヴァーの息子!轟焦凍!そして方やブラジルが誇るワールドクラスヒーロー拳骨のガープの孫!モンキー・D・ルフィ!!』

『サラブレッド同士の対決!このワクワク感は感じるのは俺だけじゃねぇだろ~!!!!』SAY YEAH!!!

 

プレゼントマイクの煽りに観客席もつられて声をあげて応援する。

リング上の轟は屈伸して準備運動しているルフィを一点に見つめている。

 

『それじゃあいい加減スタートといこうか!!』

 

『準決勝第一試合・・・・・・開始!!!!!!!!』

 

長々としていた前置きが終わり、開始の火蓋が切られる。

 

(俺はこれまで親父の個性のせいでお母さんから存在を否定されていたように感じていたが、そうじゃないかもしれない)

(まだ・・・このわだかまりが絆されたわけじゃない。・・・ただ・・)

 

「うおおりゃあああ!!」

 

これまでと同じ光景、ルフィが真っ向から攻撃を仕掛ける。これまでのルフィの性格上から予測できる動きに轟がどう対応するのかに密かに注目が集まる。果たしく「どちら」を選ぶのか。

 

轟はルフィの迎撃に背の高い氷壁を押し上げる。その氷壁は両者の視界を防ぐほどには十分な規模だ。ルフィの前進を拒む。

 

(これまで通りの氷結・・・吹っ切れたように感じたが、これは・・)

 

(失策だ!!)

 

轟を生徒に受け持つ相沢とオールマイトはこの轟の初手に苦言を呈す。スピードが己より上回る相手に死角を与えることは一対一の戦いにおいて最も危険、そして愚策だ。その基礎通りにルフィは楽々と氷壁を躱し、轟の死角から攻撃を加えようと拳を固める。ルフィの攻撃は硬化した鉄哲をも粉砕する威力、死角からもろに食らえば耐えることは至難だ。ーーーーしかし轟の真の狙いはルフィが自分の死角に呼び込むことにある。

 

ただ漠然と起こしたように思われた氷結には罠を仕掛けたであったのだ。わずかに、ほんのわずかに避けやすい様に氷壁の左側を逃れやすい様に調整し、相対する勘の鋭いルフィが気づく程度の隙を作りルフィの動きを誘導。

 

(こいつの戦闘センスの高さは群を抜いてる。癪だが、格上を相手取る戦術で搦めとる他ねぇ!!)

 

単純に相対しては分が悪いと判断した轟は冷静に慎重にこの試合の組み立てを画策する。一気に勝利を呼び込むために。

誘導するために空けた隙のある氷結を何重にも視界の端にいるルフィに無様に畳み掛ける。闇雲にも見える轟の攻撃は当たりはしないもののルフィの突撃を少し阻む。何度も連続して同じ数式問題を解かせる様に、パターンを確信させる。

 

「当たんねーよ!こんな攻撃!」

 

ルフィは何度も阻む氷壁の隙を合間を縫い確実に轟に接近する。そして氷壁に一切の怖さがないと確信する。これを突破すれば自分の土俵に持ち込み一気に勝負をつけてやると。

 

ルフィが轟が繰り出せる最後の氷壁を掻い潜った先に足を踏み込むと、死角に入られていたはずの轟が彼の胸の前に両手を構えていた。完全に捕捉。迷いなく突撃していたルフィの足は完全に止まる。

 

「うっ・・・・!!??」

 

「新しく勝つ理由ができたんでな。一気に終わらせてもらうぜ!」

「FORCE REPELLENTーフォースリペレントー(反発する熱と冷)」

 

緑谷戦で魅せた冷気と熱気で膨張した空気の爆発。轟は両手に込めた超圧縮したそれらを混じり合わせ、指向性を加えルフィへと弾かせる。

 

「ウワァアああ!!!」

 

ルフィの体を悠々と弾け飛ばし観客の耳をつんざくほどに高音を響かせ競技場を揺らすその衝撃波は、硬いセメントでできているリングを深く抉りこむほどであった。

対緑谷戦と同じく水蒸気爆発に似た原理を応用したこの技は、試合前とっさに思いついた即興の技であったがぶっつけ本番で成功させるあたりさすがと言うべきだろう。リング上の光景がそれを物語る。これまで圧倒的な強さを見せてきたルフィはなんとか運よく場外は免れてはいるものの、運動着の上着は消し飛ばされ地に伏せていた。ミッドナイトはダウンを宣告する。

 

「なんってすごいんだ・・・これが轟君の本気の強さ。炎を戦いに使うのは今日が初めてみたいなものなのに。」

 

「・・・ぶっ殺しがいがあるぜ、ちくしょうが!」

 

「血だらけになってるけど、大丈夫かな。ルフィ。」

 

元から轟の強さを知っていたA組も驚きを隠せない。2回戦では彼を追い詰めた緑谷でさえ再戦してももはや敵うことはないと思わせ、決勝で当たるやもしれない爆豪の顔には似合わない冷や汗が滴らせる。

他には拳藤や芦戸などはルフィの容態を気にかける。倒れるルフィの体には浅くはない傷が見られるからだ。教師陣も未だ立ち上がらないルフィの状態を見極める。そしてこの光景を見てエンデヴァーを体を震わせ、これ以上上がらないと言うほどに口角を釣り上げていた。

 

「やはり焦凍は最高傑作だ!ただ最強の個性を携えているだけではない!それを活用する想像力!展開力!遂行力!俺をはるかに超える天賦の才能だ!」

「まだまだ荒さはあるが、3年後だ!見ていろオールマイト・・・その玉座、奪ってみせるぞ!」

 

『イレイザーヘッド・・・マジで今年の一年どうなってんだよ。ぶっちゃけ実戦テストとかであいつに勝てる気しねえぜオレ!?』

 

『まぁ・・戦闘能力じゃ中堅ヒーローでも敵じゃないだろうな実際。ただ相手もそれは同じだ。まだ試合は終わってねえ』

 

轟は震える両手をポケットにしまう。どうやらあの技はリスクが高い技の様で、乱発は到底できそうにない。その余裕のなさを隠しながら轟は倒れているルフィに言葉を投げかける。

 

「いつまで寝てんだ?直撃はしてないだろ。立てよ。」

 

倒れていたルフィは轟の言葉にすぐ反応する様に立ち上がる。

 

「簡単に言うな〜。ちょっとは避けたけど、ものすんげえいてぇんだからなさっきの技!」

 

軽い感じで立ち上がったルフィのタフネスさに会場がどよめく。

 

「あの技はあくまで衝撃。体がゴムのお前には決定的にはならなかった様だな。」

 

「どーりで簡単に氷を避けさせてくれると思った。だけど今度はこっちの番だ!」

 

ルフィは拳を握り構える。しかしーー

 

「悪いが先手はもう打たせてもらった。」

 

轟がそう宣言すると急激な冷気が足元に漂う。瞬間、ルフィは大きく上空へ飛び上がった。

轟が仕掛けようとした技は一回戦で瀬呂に見せた瞬間冷凍攻撃「アイスエイジ」。あらかじめ地表を冷やしこむことで地表上の敵に避ける暇も与えない瞬殺技である。ルフィが倒れこんでいるうちに仕込んでいたのだが、一度見せた技であったためルフィは間一髪反応し攻撃圏外の上へ飛び退いた。

飛んだ勢いのままにルフィは轟へ攻撃を加えようと腕を伸ばすが、まだ轟のターンが終わったわけではなかった。

 

「地面の氷はあくまで仕掛け。お前の動きを制限するためのな。」

 

「いっ!!?」

 

轟は空中に飛び退いたルフィの動きを読んでいたように右腕から噴出する特大の炎をルフィへ振り抜いた。

 

「うううううああああ!!!!!!!!!」

 

その炎は情けもなくルフィの体を焦がす。あのルフィでさえもこの灼熱の炎には悶絶の声をあげた。振り伸ばした腕も勢いが止まり、轟に届くこともないまま彼の体に引き戻されていった。・・・そして重力によって強制的に地に体を落とされことで、熱さに悶えるルフィの体は急速に冷え込むことになる。

 

「悪いが、この個性。確かに反則的だな。」

 

暖かい空気は上、冷たい空気は下に漂う様に轟の個性もまた同様だ。地表は逃げ場のない氷結地獄ならば、空中は灼熱地獄。死の二択を選択せざるを得ない。

ルフィの体は冷たく、そして硬く・・・・そして固く氷ついた。

 

「すべての蟠りが消えたわけじゃない。ただ今はトップをとることに全力を尽くす。俺は絶対に勝つ。」

 

 

 

 

 




強化版轟くん。原作では間違いなく実力が頭抜けてたけど、ルフィという格上の存在があるここでは個性の成熟さと攻撃の雑さが消えています。

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