麦わら帽子の英雄譚   作:もりも

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短めです。


舞台の裏で

興奮から静寂、そしてざわめき立つ会場を他所に、教員しか立ち入らない部屋で先ほど激闘を繰り広げた少年は教員数名に抑えられながらも軽くはない傷を負った体を揺さぶり珍しくいきり立っていた。

 

「なんで止めんだよ!まだ!まだ決着はついていなかっただろーが!」

 

ルフィと轟の試合は、二人が立ち上がるも再会されることなく終了を告げられたのだった。

現場にいたミッドナイトとセメントスがその判断を下した訳ではなく、教員の中で最も冷静な立場で入られた校長である。とにかくこの二人の少年の力は良くも悪くも観戦者の目を奪わせ、魅せつけるものであった。そのためか、普段冷静な相沢でさえこの勝負の先を唆られてしまっていたのだ。その中で唯一校長のみが正しい判断を下せたといえようか。

抑え付けられたルフィの前の相沢が息を深く吐き言葉を投げかける。

 

「・・校長の判断は正しい。正直決着が気になっちまった俺が言うのはアレだが、あれ以上やっていれば事故になっていただろうな。間違いなく。」

 

「・・・事故?」

 

「お前らの力はもはや人を殺すには十分な威力を持っちまってるのさ。それを高校生が舞台の体育祭でやる試合の範疇を超えちまっていた。」

「まぁ、それでも教員側がそれを上手くコントロールできてれば問題ないところではあったんだがな。情けないことにこちらも冷静ではなかった。すまなかった。」

 

もはやルフィと轟の力、特に威力に関しては並のヒーローのそれを凌ぐ。先の試合までのテンションからいって最後には両者ともに加減を加える余裕もなかっただろう。そうなればどちらかが重症以上の手傷を負うことは後から思えば容易に想像できる。いくらリカバリーガールがいようともそれは絶対に避けなければいけなかった。

さらにいえば、今大会のレベルは雄英史上最もハイレベルな戦いと言っても差し支えはないほどであった。それがテレビ中継の視聴率も爆発的に伸びた要因でもあるのだが、それに伴って流血するほどの試合が多すぎることが最も懸念されたのだ。どれだけすごくてもこの舞台の主役はあくまで子供。安全が保障されていない試合は世間は許さないだろう。もし誰かが死にはしないまでも取り返しの重症を負ってしまうようなことがあれば、雄英の名誉は地に堕ち、最悪大会存亡問題まで話が膨らんでいたかもしれない。それにこの体育祭には多くのスポンサーが関わっているため、その影響は学校内で収まる事ではないのは明白だった。

学校やスポンサーの事情は大人の事情であって、生徒であるルフィには関わりはない事であったため口に出すことはなかったが、相沢はルフィにこの試合の顛末を納得できる様にいつになく丁寧に言葉を紡いでいく。相沢の真摯な態度にルフィは段々と落ち着いていった。

 

「じゃあ、結局試合の勝敗はどうなんだ?引き分けになるのか?」

 

「ああ、試合の形式上そうなるな。ただ・・・」

 

「決勝はないとか言うんじゃねぇぞ!!」

 

相沢の言葉の途中、ガンと音を立てて部屋に入ってきたのは爆豪であった。彼は既に八百万を下し、決勝進出を果たしていた。

 

「俺はここでトップを取るためにやってんだ。デクも半分野郎もクソゴムもやらずに終わるなんて冗談じゃねぇ!」

 

爆豪は入り口の縁に背を掛け不遜な態度を見せる。褒められた態度ではないが、彼のこの大会に懸ける熱は周りの人間には十分に伝わるものであった。

 

「・・・全く、話を遮られるのは好きじゃないんだが。まぁ聞け。形式上は引き分けだが、ルフィには決勝に出てもらう。」

 

「は!?轟はどうなるんだよ!?」

 

「轟はもう出れる体じゃないよ。」

 

「ん、誰だ?ばあちゃんは?」

 

会話な中に唐突に入ってきたのは、雄英の屋台骨リカバリーガールだ。彼女はようやくおとなしくなったルフィを治療しようとやってきた。

 

「轟の怪我は治したよ。でも胸骨と肋骨、損傷が酷くてね。治癒の反動で気絶しちまったんだ。逆にあれだけ焼かれて凍らせても元気なお前さんは反動があっても大丈夫そうさね。」

 

「・・・つまりだ。元々の規定上、時間切れ含む引き分けがあった場合は別の形での再試合が想定されていたが、事実上轟がここでリタイアしたため、お前が決勝進出ってこった。」

 

「なんか・・・納得できるような、でもないような。PK戦で試合決まったみたいな感じだなぁ。」

 

「ブラジル出身らしい例えだな。」

 

「ハッ!!どんなこじつけでも、テメェが出れんならそれで十分だっ!ぶっ殺して俺がトップを取る!それでこの大会は終いだ!」

 

「ま。轟には悪いけど、やれるんなら勝ちにいくよ。おれは。ヒーローになるために。」

 

半ば強引にルフィの決勝進出が決まり、どうにも釈然としないルフィだったが彼の性格上ゴチャゴチャ考えず頭を切り替えす。そして自分に向かって立てた親指で首を切り、それを下に向ける爆豪を左の口角を上げながら睨み返した。

 

 

 

 

 

暗がりの一室、内装をよく凝らして見ればバーである事が分かる。そしてカウンター内で佇むバーテンダーの服を着たモヤのような男

と複数の手が付いている男が唯一光を放っているTVを見つめていた。

 

「・・・驚きましたね。先日の雄英強襲の時は生徒たちの予想以上の力に手を焼いたものですが、彼ら以外にもこれほどの逸材がいたとは・・。」

 

モヤのような男、黒霧はそうポツリと言葉を落とした。彼らが見つめるモニターは現在行われている雄英体育祭が映し出されている。黒霧の言葉に、片方の男、死柄木 弔はガリガリと荒れた首筋を引っ掻きイラつきをみせるが答える事はしなかった。

 

「彼につられてか、他の生徒も以前と比べ成長しているように思えますね。正直末恐ろしい。」

 

「・・・おいおいおい黒霧。何ガキども意識してんだ。こいつらなんざ眼中にねぇんだよ。俺らの抹殺対象はオールマイトだ。奴を殺す算段だけ考えてりゃいいんだよ。」

 

つらつらと、以前邪魔をしてきた雄英生を称賛する黒霧にイラついた死柄木がその態度を隠さず噛み付く。するとTVとは別のモニターが一つ映し出された。

 

「しかし、無視できる存在ではないよ。弔。」

 

モニターに映し出された謎の男はこれまでの会話を聞いていたのか、死柄木に対して忠告の言葉を発する。

 

「・・先生。」

 

「この少年はブラジル英雄の孫、そしてあの『ドラゴン』の血を引く稀代の才能だ。敵対する可能性があるならば十分にマークしなければいけないよ。」

 

「しかし、先生。「それにだ。」・・・。」

 

「日本ではNo. 1ヒーローとしてオールマイトは持て囃されてはいるが、世界に目を向ければ奴に匹敵する輩は決していないわけじゃない。EUを取り仕切る連合軍の三大将、本場アメリカで君臨するトップヒーロー、そして白ひげら偽善者の一党。」

「この偽りの世界を潰すには、それらも視野に入れなければいけない。緑谷出久がオールマイトの後継者で日本の未来ならば・・・あの少年は外の世界の未来。殺す算段はつけておいた方がいい。来たる時期を伺ってね。」

 

「・・・・。」

 

「それはそうと弔、黒霧。あの男の居場所がわかった。今からそこに向かってくれ。」

 

押し黙った死柄木は、男の言葉に軽く頷き、促された通りに目的の場所に黒霧の個性を用いて向かっていった。

 

 

 

 

 

「む〜、あの状態のルフィとあそこまでやるとは中々日本の学校も侮れんの〜。」

 

決勝が始まる前に、観客席に戻ってきたガープは雄英のレベルにいたく感心していた。これまで一緒に仕事をした日本のヒーローは仕事の効率の良さや細やかさには目を見張るが、単純な戦闘能力では少し物足りなさを感じていたからだ。

 

「ルフィが日本に行くと聞いたときは、平和ボケで腑抜けてしまうんじゃないかと思ったが、同じ歳のライバルができるならこれ以上ない収穫じゃったわ。ワハハハハ!」

 

高笑いしているガープの傍でサインをどのタイミングで貰おうかとスタンばっていた緑谷は、せわしなくキョロキョロと辺り見渡している。それに気づいた麗日が彼に尋ねた。

 

「デク君どないしたん?不審だよ?」

 

「ふ、不審!?い、いや飯田君の姿が見えないなと思って・・。」

 

「飯田君なら電話かかってきてたから席外してるよ。・・なんか深刻そうな顔してた。」

 

「飯田君が・・。心配だね。」

 

「うん・・。」

 

この二人の会話と同じ頃にガープの後ろにボガードがスルリと現れた。

 

「ガープさん、仕事です。案件は保須市の例のアレです。被害にあったヒーローは重傷だとか。」

 

「またか。今から良いとこじゃったのに。いい加減捕まえんとのぅ。悪をのさばらせていくと、知らぬうちに大きくなりよる。」

 

警察からの直通の応援要請を受け、ガープ達は例年にない盛り上がりを見せる競技場を足早に後にした。

 

 

 

 

 

ヒーローの卵たちが放つ光が眩く放つ一方で、悪が醸す闇は着々と根を張ろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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