麦わら帽子の英雄譚   作:もりも

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お久しぶりっす!
内容忘れたわって人も読み直してくれたらありがたいっす!
うっす!!


決勝!!

ガープは雄英の競技場を後にし、件の保須市へと繰り出した。そして巡回途中にガープは暗く沈む行き止まりの路地裏を覗き込む。ゴミが散らかった閑散として誰もいないはずなのに、どこか人気を感じるこの場所。

 

「恐い、恐い。気配消して死角から見てたってのに、直感でこっちに来やがったよ。・・それにしても、天下のヒーロー殺し様もブラジルの英雄は怖いってか」

 

僅かに人気を感じさせたのは、つい今まで死柄木と黒霧、そしてヒーロー殺し「ステイン」がいたからであった。

ここ保須市でステインと接触した死柄木はステイン共々、例のバーへと半ば逃げるように路地裏からワープしていた。

ステインは軽くはないであろう口を開け、言葉を紡ぐ。

 

「ハァ・・・貴様らがどういう腹積もりで俺に接触して来たか知らんが、「彼」は本物だ。俺が粛清すべき者はあくまでヒーローという存在を勘違いした偽者。俺の目的と合致しない」

 

ステインの目的はこのヒーロー社会の矯正。商業と化した今の現状に、一石を投じるため彼は日夜自身が偽と判断したヒーローを斬りつける。

 

「滑稽だねぇ・・・ヒーローを正すために、ヒーローを斬るか。まわりくどいっ!!」

 

「とっとと言え。・・・・貴様らの目的を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『長い体育祭の歴史の中でもこれほどクレイジーでカオスな大会はなかったぜ!!・・だがそれもこの試合で最後!!目ん玉ひん剥いて上がって行こうぜ!』

 

『雄英体育祭!1年の部、決勝!!』

 

『爆豪勝己 VS モンキー・D・ル~~~~フィ~~~~!!』

 

怒号のように競技場内を反響する歓声はかつて類を見ないほどに熱を帯びている。それも当然か。今年の1年の競技でまともに進行したことがない。波乱に次ぐ波乱、エンタメ性で言えば抜群の展開の連続だった。そしてその中心の人物がこの決勝に並び立つのだ。

 

「大会前はデクと半分野郎を優勝ついでにぶっ殺す予定だったが、最終的にテメェを殺れるならお釣りがくらぁ」

 

言葉だけ切り取ればいつも通りの爆豪だが、口調は僅かに震えている。武者震いだろう。同世代で初めて認めた格上に対する挑戦に対して。

 

「ん・・・ん・・・んっ!引き立て役とかそんなのは知んねぇけどよ。おれは負けねぇ!初めはヒーロー科に行くためだけだったけど、今はそれ以上の価値があるんだ」

 

ストレッチをしながら、リラックスするルフィ。しかしその表情には程よく緊張感が表れていた。

 

「優勝するのはおれだ!!」

 

拳藤との約束、一緒に頑張って来たコビーの分と、そして死力を尽くした轟の為に。

 

『決勝戦開始ーーーーー!!!』DON!!

 

 

 

 

 

 

 

大きな歓声が反響して離れた個室であっても嫌でも耳に入ってくる。しかし気を取り戻し、医務室のベッドに腰掛けた轟の表情に負の感情は見られなかった。これまで彼に対してクラスメイトは喜怒哀楽といった感情をあまり読み取れていなかった。たまに見せる感情で言えば、「怒」のような負の面だろうか。彼の今の表情は何か憑き物が落ちたかのように澄んでいた。

 

(今に思えばツマンネぇ意地で勝ちにこだわってた。でもそんな意地を捨てても・・・負けちまった。結局俺が持ってたプライドなんてもんは大したもんじゃなかった。たかだかNo.2ヒーローの子供だってこった)

 

轟の心中は決して晴れやかではなかった。しかし地に足をつけたかのように客観的に自分を見つめ直し、そしてそれはこれまでになかった新鮮さがあった。

 

(上には上がいる。当然だ。・・・・だけど、このまま負けるつもりもねぇ。俺は勝つ。あいつにも・・・・親父にも。俺の「力」で)

 

憧れたヒーローにようになりたい。その子供頃のような純粋な意思が轟の中に再燃する。

そしてそんな彼の顔を医務室の外から垣間見たエンデヴァーは叱咤の言葉をしまい込み、腕を組みながらそっと背を壁にもたれさせた。

 

 

 

 

 

 

 

「正直爆豪とルフィの試合っていうからすっげえハイレベルな試合だと思ってたんだけど・・・」

 

「・・・これほどの一方的な乱打戦になるとはな」

 

予想外といった顔をしながら声に出したのは上鳴だ。そしてそれに続いたのはルフィと善戦を繰り広げた常闇であった。

 

「死ねぇ!!!!」

 

「うああっ・・!!」

 

『これは予想外な展開ダァ!!?これまでの戦いぶりからルフィが俄然優勢と思っていたが、この試合ここまで爆豪が押しに押しているゾーーーー!!ルフィ、防戦一方!!?』

 

爆豪は広げた両手を不規則ながらリズミカルに爆破しながら、ルフィの四方八方縦横無尽に死角から攻撃を加え続ける。左脇腹・右肩、左のフェイントを挟んで右側頭部。連打ながらもその一撃は・・・重い。

 

「はっ・・!!予想外だぁ!?舐めんじゃねえよ!!」

 

爆豪のアッパー気味の爆撃にルフィはガードしながらも数メートル後方に吹き飛ばされる。

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

「・・・ルフィくんの動きがかなり重い。当然だ。さっきあれほどの戦いをしていたんだ。リカバリーガールの治療を受ければ、普通試合ができる体調じゃない」

 

緑谷が言うように、それこそ猿のように身軽さを見せていたルフィの体は人一倍重力がのしかかったように沈んでいた。そしてそれと同様に反応速度も著しく落ちていた。

 

「・・・ケッ!んな状態のてめえに勝ったところでなぁ、クソ程も俺の価値は上がらねぇ!」

 

「うっせえ!何勝った気でいんだバクゴー!勝つんはおれだかんな!」

 

「なら使えや!あの半分野郎に使ったあの煙状態をよ!」

「消耗激しいのは分かってんぞ。・・・だからどうした!?死ぬ気でかかってきやがれ!!」

 

爆豪の目的は完璧でかつ鮮烈なまでの優勝だ。

雄英に入るまでその才能を振りかざし脇道振らず、勝者として歩んできた彼であったが、入学して以降その道は決して整備された順調な道ではいなくなっていた。ここは日本最高峰の教育機関、当然そこに集まる人材もまた勝者として歩んできた者たちだらけだ。言うならば爆豪はお山の大将、井の中の蛙であったことを痛感したはずだ。雄英の中でも優秀の部類に入る彼であったが、これまで培った自尊心が上には上がいるという現実を簡単には受け入れなかった。それもそのはず、推薦入学の轟や八百万はまだしも、道端の石ころと思っていた緑谷にも敗北してしまったのだから。

そこから彼の心境は徐々に変化していき、お山の大将から頂きを目指す挑戦者へと視点を変え、良い方向へ向いていた。

しかし人間簡単に変わるものではない。

この体育祭で爆豪が目の当たりにした才能こそ理想そのもの。恵まれた身体能力に錬磨された個性、そして人々を魅了する存在感。自分を遥かに上回るソレらを持ったモンキー・D・ルフィはまさに自分がこれまで描いていた勝者としての姿だった。理想が他人、ましてや同級生に重なったことが徐々に治ってきた彼の自尊心が大きく揺れることになる。

この試合はただ勝った負けたではない。子供の頃から着々と肥大化していった自尊心を守ることがこの試合の勝利の意味合いの大部分を占めていた。

 

(あんなカッちゃんの顔初めて見る・・・。自信に満ちた顔でも、相手を見下した顔でもない。ましてやライバルを見る顔じゃない。・・・・どこか怯えてる顔だ)

 

「舐めプしてんじゃねぇぞっ!!」

 

(君が、そんな顔をするなんて・・っ!!)

 

幼馴染だからこそわかる程度の表情の変化か、緑谷だけが爆豪の顔に映る小動物が怯えながらも威嚇するかのような表情に気付いていた。

幼き頃からの近くにいる憧れである爆豪のそのような姿に緑谷は居た堪れなくなった。

 

「なら、やってやる!!・・・ギア2!!!」

 

ドゥルルン、と高エンジンの発動音が鳴り、ルフィの体から煙が立ち上がる。この姿に会場は大きく沸き立つ。

 

『さぁ〜〜ここでルフィのまさしくギアが1段階上がるゼーー!!』

 

「・・・来やがれ!」

 

爆豪は両足を大きく広げ、腰を落とす。

 

(単純にこのまま打ち合ってちゃあ、押し込めれるのは俺だ。だが、疲労があってか防御に徹して来やがる。これじゃあ決定打がない。どでかい隙を作るなら、無理な攻め手を出させてやる)

(・・・・それに本気のコイツを相手にしなきゃあ意味がねぇんだ!!)

 

ルフィは重い初動から爆発的な踏み込みから爆豪を中心に回り込む。

 

(爆豪の反応速度を奴も相当警戒してるな。今の状態じゃ僅かな時間でも苦痛なはず。この技は明らかに多大の体の負担を被る類いのものだ)

 

ルフィは爆豪の死角に入って、仕掛ける。

 

「JETピストル!!!」

 

眼前に迫る拳を爆豪は振り向きざま視界に捉える。

 

(は、速・・)

 

しかしその拳は彼の顔面を捉えた。

 

『ルフィのパンチで爆豪の首が弾け飛ぶ!!その威力は轟戦で実証済みだぞーーー!!!』

 

目で反応できても、体までは反応しきれない。爆豪であっても初見のギア2は厳しいものがある。だが、爆豪のタフネスだ。一撃では沈まない。

 

「ゴムゴムのーーーJETガトリング!!」

 

「・・ちぃっ!!」

 

追撃の攻撃を受けるわけにはいかない爆豪は両手を前方に翳し爆発させ後方へ距離を取るように躱すが、腕が伸びるルフィの拳が何発か受ける。

的の標準をずらしたとはいえ、弱くはない衝撃を体を駆け巡る。

 

「う・・おおおおおぉおお!!!」

 

反撃を試みる爆豪だったがルフィの怒涛の攻撃が始まった。攻撃の回転数を上げ、攻撃は最大の防御と言わんばかりに追撃をかけた。

 

「がっはぁっ・・・っ!!?」

 

あまりの猛攻に隙を伺う暇さえない。防御するにも数発に一度程度防ぐしかままならず、爆豪の口から血が飛び散っている。

 

「ゴムゴムの・・・っブレットぉ!!!!」DON!!

 

後方へ伸ばした腕が収縮する反動を利用し凄まじい衝撃を生み出すルフィの拳が、爆豪の腹を貫いた。

足を踏ん張り、場外へ飛ばされることだけは阻止した爆豪だったが、息を吐き出すことさえできぬままゆっくりと・・・・前のめりに倒れたのだった。

 

『ば、爆豪ダウーーーーン!!!!!』

 

ウワァアアアアアアアア!!!

 

あっという間の大逆転劇。

さっきまでの一方的な試合からの展開に会場は大いに盛り上がる。これで決まったかのように会場にいる記者やカメラマンは一斉にルフィの顔を捉えた。しかしそこにルフィの笑顔はない。

ルフィはえずくように口を抑え、いかにも苦しそうに顔を歪めていた。

 

「・・やっぱこの技はまだ・・じいちゃんが言ってたみたいに使うには早いみてえだ」

 

体育祭までの訓練期間に習得したギア2だったが、体の負担が相当に高いため極力ガープから使用しないようルフィは言葉を受けていた。疲れがピークに達している今使えばいかにタフなルフィであろうとも無茶以外他ならない。

 

「だけど・・使わなくちゃバクゴーには勝てねえ!」

 

 

「た、立て!爆豪!!お前だったらまだやれるだろ!!」

 

A組の集まる席で仲のいい切島が爆豪へ吠える。それと同じく他のA組一同が爆豪へと声援を送る。あまりの激痛に逆に意識が飛ぶことはなかった爆豪にはその声援も耳には届くことがなかった。1人を除いて・・。

 

(ち、ちくしょう・・・。このクソゴム野郎。体の反応が追いつけやしねえ・・。半分野郎のように遠距離じゃねえと・・近距離じゃ勝負にすらならねえ)

(クソ!クソ!!クソが!!!・・やっぱ俺じゃ勝てねえのか?俺はこの程度なのかよ!?)

 

・・・俺は敗者だったのかよ。

 

爆豪の脳裏にこれまで抱いていた劣等感が一気に吹き出した。

自分の才能から人の上に立ち続けた爆豪だが、初めて劣等感を抱いたのは幼少期。川に落ちた自分を心配そうに手を差し伸べた緑谷が相手だった。その他人にすればなんのこともないことが爆豪の頭にはずっと残っていた。

認めたくなかった。才能ある自分が助けられたかのような行為に。許せなかった。自分こそがヒーローに相応しいのだと。

爆豪のヒーロー像とは、オールマイトのように圧倒的な強さを誇り人々から尊敬を受ける勝者である。その理想を実現するためこれまで彼は才能の上に努力も重ねてきたつもりだった。

しかし蓋を開けてみれば雄英に入って彼は自分が本当に勝者であるか疑問を抱くようになった。

そう感じるようになったのは同じ年の3人の存在だった。

轟の個性は自分の個性と比べても強力なものであったし、これまで無個性で歯牙にも掛けなかった緑谷に対しては授業の訓練では敗北を喫した。

そして決定的なのはルフィの存在だった。

轟との死闘を観戦して、自分の中で負けて仕方ないという初めて味わう感情が彼に芽生えてしまった。だからこそ彼は強気な態度を振りかざして吠えていた。有利な条件であれこの試合に勝って、その感情を払拭したかったからだ。

しかしその反骨心さえ折れかけていた。抱いていた疑念が確信に変わりつつあったからだ。地に伏せた爆豪だが、意識は保っているし立ち上がれないほどでなかったが、彼の意思が手足に信号を送ることをしない。このまま審判のカウントをただ待つようにピクリとも動かなかった。

 

そんな彼の姿に1人の少年が声を上げた。

 

「立てよ!!カッちゃん!!!!」

 

一際大きな声で叫んだ緑谷。会場の喧騒に紛れてリング上からは大して聞こえるはずもない声。

しかしそれ以外全てがかき消されたかのように爆豪の耳にはその声がはっきりと届いた。

 

「・・・勝てよ。カッちゃん」

 

「・・・・デク・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

爆豪の体に信号が送られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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