いつからだったろうか。いや、初めからだったかもしれない。
僕がカッちゃんに憧れたのは。
僕には無い才能。嫌なやつだったけど、ヒーローに憧れる僕にとって彼こそが身近なヒーローだったんだ。
いつも勝気で自分の本当の「個性」を持った幼馴染。
正直羨んだし、妬んだし・・・・・憧れた。
「君が・・・君がそんな姿をしないでくれ。」
どういう眼で俺を見てやがんだ。あのクソナード。
俺を憐れんでやがんのか。・・・クソが。
まぁ・・あいつには恨まれてるだろうからなぁ。
こんな・・・生まれながらの才能を胸焼けするほど見せつけられる、こんな胸糞悪いこたぁねぇよな。
テメェと同じ気分をこの俺が味わうとはよ。嫌になっちまうよな・・・。
投げ出したくなっちまうぜ。
「爆豪少年・・・。自尊心の高い子だとは重々承知だったが、気づくんだ。君の才能は一握りの者が選ばれた眩い可能性だ!誰かと比べてではない。君自身の力を示せばいいんだ!」
「力はあるんだ。いつまでもガキのままでいるんじゃない。超えろ。」
生徒だけではない。爆豪の才能は教師全員が認めている。
このヒーロー社会において誰かと自分を比較するのは愚の骨頂だ。ヒーローそれぞれが色んな役割を持ち、社会へと貢献していく。ヒーロービルボードなんてものは結果ああいう形になっているだけしかない。真のヒーローを目指すのであれば、自身の価値の証明をしなければならない。
Origin。個性を使った本当の「個性」を確立していかなければならない。
誰しもがオールマイトに憧れているが、誰しもがオールマイトになれるわけではない。ならばオールマイトが出来ない技を、役割を、地位を極めばいい。
「今大会、ずっと宙ぶらりんだった轟がその片鱗を見せた。爆豪次はお前だ。答えを出さなきゃ、いつまで立っても目の前の男の背中を見る羽目になるぞ。」
相澤はこの教師生活、数々と様々な理不尽・難題を生徒たちにぶつけてきた。その試練に除隊処分になった生徒は数知れず。しかしこれは雄英の校訓のあるが、人生というのは理不尽の塊である。妥協したとしてもそれなりの人生は送れる。しかし時には生死が関わる厳しいヒーローの道だ。その数々の理不尽を踏み越えて初めてなり得るものなのだ。
「お前は何者なのか見せてみろ。」
「カッちゃん!!!!」
ウルセェな。デクが。なんであいつの声だけこんなクリアに聞こえんだ。なんで・・
・・・ちょっと、待てや・・。デクの野郎はそれでも諦めたかよ?俺の後ろで周りの連中みたいに遜ったか?
違うよなぁ?いつの間にか個性身につけて、同じ高校に入って、俺に勝ちやがったはずだろ?
あのナードがこの俺の隣に並び立ちやがっただろうが!
・・・だったらなんで俺は今、諦めようとしてんだ?あいつにできて、なんで俺が出来ねえと思っていやがんだ!?
「ふざけんじゃねえ!!!!」
『た、立ったーーーーー!!!爆豪が立ったーーーーーーーー!!なにやら凄まじい声をshoutしてるゼーーー!!?』
息を荒げながら背を反るように勢いよく爆豪は立ち上がる。
「デクにできて俺が出来ねえことなんかあるかよ!!」
彼の最後に残ったものは意地。緑谷に対する意地でしかなかった。
「俺は俺だ!!俺様だ!他の奴なんか知ったことじゃねえ!!」
爆豪の突然の絶叫に不意を食らったかのように見るもの全員がギョッとする。
そして爆豪の顔は普段通り、いや普段以上に不遜な態度がありありと表れていた。
「全員ぶっ殺す!!俺の道を邪魔する奴は完膚なきまでだ!!」
「追ってくる奴!前に立つ奴!今じゃねぇ!!這って這って這い倒してでもその喉元掻っ切って俺が頂きにたってやらぁ!!」
ヒーローというより、まるで敵のような叫声にただただ観客はポカンとした顔を浮かべている。そして教師陣はというと・・・・
「・・・ハァ。全くなんでこう俺のクラスは癖のある奴が集まるんだか。」
「フ、フハハハ!爆豪少年!ここまでくれば、確かにそれは君の物になり得るだろうさ!!」
呆れ混じりにも、爆豪のブレなさに感嘆の声を漏らす。
「やっとらしくなってきたって感じだな!」
「ああ!あいつはああいうクソで下水を煮込んだ感じがやっぱあってんよ!唯我独尊天上天下全て俺さまが偉いぜってな!」
「野蛮ですけどもね。」
爆豪にもう僅かな負い目はない。例え相手が自分よりも優れていたとしても泥臭く何度倒れても確実な一歩前へと踏み締める。決して相手を崇めない、薙ぎ払ってやると。
屈折・増長した自尊心から、決意と誇りある自尊心へと変貌していった。
これが爆豪のオリジン。
「簡単に勝てると思うなよ!ルフィ!!!」
爆豪は力強く一点をルフィに向けて指指す。
「しっしっしっしっ!ああ、これまでの爆豪とは比べもんにならねえ!」
ダウン前とは目の輝きが違う。ルフィは直感で知っている。本当に手強い相手というのはその者の中にどれだけ揺るぎないものを持っているかを。ルフィの周りにもガープ、エース、それにコビー・・・そしてシャンクスは確かにそれを持ち合わせていた。
悲鳴をあげる体を奮い立たせる。相手の意気に答える。それが漢ってもんだ。
「ギア2!!」DON!!!!
仕切り直された盤上に再び熱が篭る。
まだ決勝戦は終わらない!!
「頑張れ!!カッちゃん!!!」