麦わら帽子の英雄譚   作:もりも

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コンプレックス笑うの良くない。

緑谷たちが捕まっているころ、女子たちは会場内に足を踏み入れていた。人気のなさに少し戸惑うも歩を進める。

周りは多くの積荷など遮蔽物がある中で、視線は感じるが姿を現さない周囲に耳郎が個性を用いる。耳たぶのジャックを伸ばし、地面へ突き刺す。

彼女の個性は「イヤホンジャック」。対象物から伝わる振動をキャッチして音を聞いたり、逆に音を流し込むこともできる。

耳郎はその個性を使い、地面から伝わる僅かな足音から自分たちが囲まれていることに気がついた。

 

「・・前のUSJの経験からするとさ、だいぶまずい状況みたいだわ。」

 

「ど、どういうこと!?」

 

「まず、あたしら五人以上に囲まれてる。しかも、息を殺して。こんなことするの、敵以外いるとは思えない。」

 

「ヴ、敵!?」

 

4人に動揺が走る。しかし以前の経験からかその動揺はすぐに収めて思考を始動させたところを見ると入学時より大きく成長しているところであろう。

 

「なら、先にここに来てたデク君たちはもう捕まってる可能性あるってこと!?」

 

「それはありそう。というかその前提で考えた方がいいよ。」

 

「わたし、もう脱いだ方がいいかな?ヒーローか警察に通報しなきゃ!!」

 

「そうだね。あたしらがする事って言えば、自衛と通報。救出はあたしらがするべきじゃないね。」

 

素早く作戦を立てる。今携帯を取り出して警察を呼ぶ暇はない。その素振りを見せれば何をしてくるか分からないし、まず何より自分たちの安全の確保が優先だ。

透明化の個性を持つ葉隠をまずこの園内から脱出させるため、他の3人は脱出経路の確保を最優先に動く。元々透明な体である葉隠は服を脱いでしまえば全くの不可視の状態、当然の選択だ。葉隠を優先的に逃しながら他の3人もその後脱出する段取りだ。

 

1.2.3と小さく合図を合わせると一斉に4人は駆け出した。

A組女子は特殊能力、補助能力に優れている。芦戸は毒性の能力、麗日は無重力、耳郎は音、そして葉隠は透明化。単純な戦闘では男子に劣るものの、それ以外のヒーローとしての資質は彼女らの方が上回っている部分が多いため、こういったシュチュエーションには相性がいい。

耳郎が言っていた通り、監視していた敵が4人の後を追うようにワラワラと姿を現すと、

 

「そりゃ!触れないでね!それ、溶けるから!!」

 

まず酸性の溶解液を芦戸が射出し第一の足止めし、そしてそれを避け注意が逸れている敵に麗日が周りの積荷を軽くし投げつけた。

 

「そいや!」

 

その効果はかなり有効で足止めを務めた2人で6人いた敵の葉隠までの距離は十二分に取れた。遮蔽物から完全に死角を取った葉隠は一気に制服を脱ぎ出す。ヒーローコスからして全裸なので裸になることに全く抵抗がない。そう、抵抗がない!

 

「それじゃあダッシュで行ってくる!!」

 

今の葉隠の姿は誰にも見えないが、その足音と気配から3人から遠ざかるのが分かった。耳郎は葉隠の制服を回収しながらも、地に刺したイヤホンから音を拾い司令塔のように芦戸麗日に足止めを止め逃走を促した。

 

「引き上げるよ!!」

 

「オッケ!!」

 

「分かった!」

 

「逃がすな!!!」

 

3人が敵側に背を向けた時、1人の男の大声が響く。

その男は腕組みをし、麗日たちを建物から見下ろしていた。

 

「テメェらそこを動くなよ?「4人」のお友達がどうなるか分からんぜ?」

 

そう脅しをかける男はサーカス団幹部、モージである。

そのモージの珍妙な姿に麗日は思わず噴き出しそうになるがなんとか耐える。4人という言葉に引っかかったからだ。

 

「4人?・・・上鳴に緑谷に峰田、後1人は誰のこと言ってる?」

 

「動物ってのは鼻が利く。それが肉食動物ならなおのこと、我が相棒リッチーにかかれば姿が見えなくとも追跡など容易だ!」

 

「「「!?」」」

 

モージが得意げに語ると、3人はすぐに感づいた。サーカスの公演で見たあの普通の数倍はでかいあのライオン。

 

「ま、まさか!?」

 

「安心しろ。まだ殺してはいねぇ。だが、お前らがここで逃げるというなら・・・・話は別だが。」

 

ニヤリと笑みを浮かべるモージ、そして殺すという脅しに麗日たちもまた体を硬直させてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって雄英高校では、オールマイトを含めたヒーロー教師たちがこの夜分まで会議を行っていた。

 

「・・では1年のカリキュラムは従来より早いですが、これで決定させて頂きます。」

 

B組担任ブラドキングが会議を締めて解散の流れとなった。ふぅ~と皆が息を吐き、各々体をほぐす。やっと終わったとプレゼントマイクあたりは揚々と部屋から出て行った。その中でオールマイト・相澤・ブラドキング・校長は席を立たず部屋に残った。

 

「いやはや、こんなにも時間がかかるとは。」

 

「正直効率はいいとは言えませんね。」

 

「しょうがない。今年の1年は色々と問題があるからな。」

 

オールマイトが口火を切ると、相澤とブラドの不満そうな声が上がる。

今回の会議の議題は予定を組んでいたカリキュラムの変更だった。その変更が大幅に変わったことで5時間もの会議になってしまった。

今年の初め、A組が敵に襲われるという事件があったことで生徒らは実戦を味わった。そしてその経験が現れた体育祭。彼らの次のステップはすでに従来の予定よりも遥か先にあると感じた教師陣は元にあった予定を一から組み直したのだった。

 

「以前より他ヒーローが協力してくれている職場体験・林間合宿・仮免・インターンは予定通り行うにしても、普段の授業・・・主に実践授業は相応な強度でやらなければいけなくなったな。特にウチのクラスの轟・爆豪の実力は俺たちでも油断すれば足下すくわれかねん。」

 

「やれやれ・・・まさかA組にここまでの大差をつけられるとは。」

 

「何を言ってるんだい?君のクラスもそんなヤワな子らではないさ。それに彼が加わるじゃないか。力は拮抗してるさ。」

 

「そうですね。戦闘力といえばやはり彼が抜けていると言ってもいい!」

 

「まぁ・・・問題は仮免など試験なんですけどね。」

 

「「「・・・試験かぁ〜〜。」」」

 

何やら頭を抱える4人。するとオールマイトの携帯に着信がきた。

ワタシガキタッ!!ワタシガキタッ!!

 

「あぁ・・!すいません私です!」

 

((ダセェ・・))

 

「会議はマナーモードにしてくれたまえよ。終わったからいいものの。君は昔からヒーローとしては立派だが、社会人としての常識が些か覚束ないからね。」

 

「き、気をつけます。」

(うう・・ズバッとくるな。)

 

オールマイトが電話を取ると、相手は警察官の塚内からであった。

 

「どうしたんだい?何か事件でも?」

 

『事件というわけではないんだが、気になる情報が入ってね。とんだ大物が今東京にきているらしいんだ。』

 

「大物?」

 

『白ひげの一味、2番隊隊長火拳のエース』

 

「・・・それは、凄いのが来たな。目的は?」

 

『いや、わからない。白ひげは義賊で知られているが、一応は国際指名手配犯だ。とりあえず君の耳に入れておこうと思ってね。』

 

「そうか。一応意識しておくよ。電話ありがとう。」

 

プッと電話を切ったオールマイトは少し興奮したような顔をした。それは強者を眼の前にワクワクしたような顔であった。

 

(火拳のエース・・・か。私でさえ「勝てない」男がこの国に一体何用で?)

 

オールマイトは再び席に座り直すと、今度は相澤の携帯に着信が届いた。相澤の携帯は音が鳴る事なくスマートに電話に出た。すると電話の内容を聞いた相澤の顔がみるみると暗くなっていく。

 

「どうしたんだい相澤くん?」

 

校長が尋ねると、相澤は眉間に皺を寄せて内容を説明する。

 

「ウチのクラスのものが未だ帰宅しておらず、連絡が取れないという電話が生徒自宅からかかってきているようです。その生徒はわかっているだけで、緑谷・上鳴・芦戸・葉隠・耳郎の5人。」

 

「「「!?」」」

 

「・・ただ遊んでいる、ということもあるでしょうが。すぐに職員室に向かいます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

緑谷・上鳴・峰田の3人は縄に縛られ拘束されていた。

その気になれば緑谷はそれを引きちぎることはできるが、自分だけならまだしも他2人を考えればかなり限られた隙を伺うしかない。もし仮に本当に死柄木たちがここにやって来てしまえば、まず命はないだろうと緑谷は考えている。

何とか隙を作ること、そして気になっていたことを彼はバギーに投げかける。

 

「・・・どうやってオールフォーワンと繋がりを持てるようになったんだ?奴は日本でも長らく闇に姿を潜ませていたのに・・。」

 

「あぁ・・?」

 

「お、おい緑谷、何を?」

 

「一体奴の目的は何なんだ!?」

 

オールマイトが引退を考えるほどの傷を与えたオールマイトの宿敵、オールフォーワン。傷を負った代わりにオールマイトが5年前奴を撃退寸前まで追いやり、その存在は薄れていたはずだったが敵連合との繋がりがあるようで再びオールマイトの抹殺を試みている危険人物だ。

そしてなおかつ奴はオールマイト・緑谷の個性「ワンフォーオール」の対を為す個性を持っている。そんな男との繋がりを緑谷は聞かずにはいられなかった。

 

「ほぅ・・・奴の事を知ってやがるのか。その質問に答えてやる義理もないが、暇つぶしに答えてやろうか。」

「詳しいことは知らんが、目的は大方社会の破壊、それしかねぇだろうなぁ・・。奴は数十年、いやもっと前から存在していたと言われているいわば都市伝説のようなモンだ。ここ数年を境に海外のシンジケートに接触している話もある。そして俺たちがまさにそうだ。本来俺のようにユーロを拠点にしている組織に外部の組織がおいそれと接触すること自体が困難。何しろあっちにはジョーカーと言われる闇市場の大元がいるからな。だが、それに関わらずあらゆる組織とコネクションを築き出したあたり奴の存在は世界的にも恐れられているのかもしれねぇな。」

 

(オールフォーワンが、海外の犯罪組織と手を・・・・。)

 

バギーは脇に置いている小銃を手に取り、

 

「だが、奴の目の付け所は良かったぜ?この俺様が開発したバギー玉に価値を見出した所はな!こいつは小銃サイズでありながら下手な家なら軽く吹き飛ばすほどの破壊力!本来ならこいつで欧州の闇市場を独占することが可能なほどの性能のはずだった!しかしジョーカーの存在で、燻っちまっていた。歯噛みしていた俺たちをオールフォーワンの野郎はこいつの引き入れと、製造資金の提供、そしてアジア市場の流用を約束した!」

「つまり俺の時代が来たってわけだ!!」

 

愕然とした。間違いなくその武器の用途はオールマイトの殺害に使うため。着々と悪は触手を伸ばしていたのだ。

緑谷はこのことを何としてもオールマイトに伝えなくてはと思っているだろう。上鳴と峰田の2人はその突拍子もない話についていけていない様子だ。

 

「な、何だかめっちゃヤバイ話になってんじゃんかよ・・。」

 

「何でこんな奴らがサーカスなんてやってんだよぉ〜・・・変な鼻してるくせに・・ヒェ!?。」

 

峰田がバギーの鼻のことについて口にした瞬間に、その場の空気が一瞬で凍りついた。

 

「ホゥ〜〜〜・・。俺の自前の鼻が赤くてデカイことがそんなおかしいか・・?」

 

「お、お頭!?お、落ち着いてください!!」

 

バギーの特徴的な赤鼻に触れられたことに団員たちは大きく動揺する。先ほどまで饒舌に話していたバギーは一転、怒気を纏わせた。

 

「バッ・・!!?峰田お前刺激すんなよ!?アレどう見たってコンプレックスじゃねぇか!」

 

「・・テメェら今すぐ殺されたいらしいなぁ!!」

 

「ああああ!!?すんませんすんません!!」

 

「バギー落ち着きな!ガキの言うことにカッカしてみっともない!」

 

「ぐっ・・・・ああ、そうだな。」

 

バギーの鼻についてはこのサーカス団の中で最も行ってはいけないタブーである。団員なら即刻殺される案件だが、処遇が保留されている緑谷たちは何とか見逃してもらった。

ヒヤリとした場面が過ぎ去った頃、バギーや緑谷がいるテナント内に新たな者たちが連れられて来た。

 

「う、麗日さん!?それにみんなも!?」

 

入って来たのは男子と同様に縛られた女子たちであった。

その状況に男子は狼狽えていた。

 

「やっぱりデク君達も捕まってたんだね。ごめん。しくじった・・。」

 

「おーおーこれまた随分と増えちまったなぁ・・。男は殺さないにしても使い所に迷うところだが、この年頃の女は色々と捗りそうだ。」

 

バギーは女子4人を下卑た目で見て、そう口に出す。その言葉に一様に女子は顔を青ざめる。

 

「わ、私たちが何したって言うのよ〜〜〜〜!!!」

 

芦戸は涙目になりながら体を揺らしながら泣き叫ぶ。一高校生がこんな状況になれば取り乱すのも無理もない。失言を零しても誰も責めはしないだろう。

そして爆弾を彼女は投下してしまう。

 

「このデカッ鼻ぁ!!!!!!!」BAAAAN!!!

 

 

 

・・・・。

 

 

「「「あっ・・・・」」」

 

 

 

「こ、こ、このガキャア!!!!派手に死ねぇえええええ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途轍もない爆炎と轟音が鳴り響いた!

 

 

 

 

 







この話長くなるなぁ〜。

質問にもあったんですけど、言語的なものはスルーでお願いしますの。エースカタコトだったりしたけど、そうするとバギーたちも何で喋ってんだよ、となるだけど、そうしないと話が進まない系になったので。

みんな日本語喋れる設定ということで!!

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