麦わら帽子の英雄譚   作:もりも

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職場体験編
職場体験


緑谷たちの騒動から一夜明け、朝のHRを前に雄英高校1年B組では一つの話題で持ちきりである。

 

「・・何ソワソワしてんの鉄哲?女じゃなくて男でそんな心浮つく?」

 

「ウッセーよ!柔造!!楽しみなんだよ、あいつがウチに来れば授業でリベンジできるだろうが!戦闘訓練とかでよぉ!!」

 

「熱いねぇ〜。ま、俺はあんま戦いたくねぇな。勝てるイメージ湧かん。もちろんタイマンでの話だけど。」

 

男子はライバル意識ビンビンで活気づき、女子は別の話題で盛り上がる。キャイキャイと甲高い声で拳藤を囲む女子陣はこれからくる男子をネタにその中心をいじり出していた。

 

「にへへ、よかったじゃん一佳!あいつこのクラスに転入だって!」

 

取蔭切奈の言葉を皮切りに他何名かも顔をにやつかせる。

 

「は?な、何で?」

 

「わかってる!ウチらわかってるから!!」

 

「だ・か・ら・な・ん・だ!」

 

「ときめきますヨネ!気になる男の子が約束を果たし、そして自分と同じクラスになる。少女マンガみたいなテンカイでーす!」

 

「!!??」

 

体育祭の時の約束が何で自分のクラスに筒抜けなんだよ!と拳藤はガタッと立ち上がってアングリと口を開け体を震わしてしまう。

 

「唯があんたを呼びに行った時に見たんだって!アオハルしてたって!ね?唯。」

 

「ん」

 

「ち、違うから!!てか唯もそんなどーでもイイ話吹聴すんな!!」

 

「この甘酸っぱさをみんなに伝えたかった。」

 

「「「ヒュー!!」」」

 

「あああああああぁああ!!」

まさかの初恋(自覚してるか微妙)が即バレし拳藤が身悶えていると、担任であるブラドキングがガラリと教室を入って来た。大方予想ができた教室の喧騒に眉を顰め教卓をゴンゴンと鳴らし生徒の注目を引いた。

 

「おい、入ってイイぞ。」

 

ブラドはまるで転入生が来たかのように廊下に控える男子生徒に促した。

その男子はこのクラス、いやもはやこの学校でも知らぬ者はいない先日の体育祭の優勝者であり、そしてヒーロー科の皆の目標であった。

 

「おれはモンキー・D・ルフィ!最高のヒーローになる男だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフィがヒーロー科1年B組に転科することになり、B組の席は一つ増えることになった。

ルフィの席は教室の一番前の真ん中となった。明らかに授業に集中させるために配置させたこの席にルフィは愚痴を漏らすものの、念願のヒーロー科にワクワクしてその不満もすぐに吹っ飛ぶ。

授業を始める前にと、来週から始まる職場体験の説明をしたHRからそのままの流れでヒーローネームを決める時間に移行した。助手としてプレゼントマイクが審査員を務める。

 

ガヤガヤと子供の頃から漠然と考えていた自分のヒーローネームに皆が盛り上がる。

 

「Hey チャンピオンからまずいってみようか!!」

 

なぜか発表形式となったので、ルフィは教壇に立ってフリップに書いたヒーロー名を読んだ。

 

「ゴム男!!」

 

「「「ダサっっ!!!!???」」」

「センス、ピーター・パーカーかYO!!」

 

こういったセンスがある訳が無いルフィが苦戦するのは火を見るのも明らかで、このクラスで一番難航したのは言うまでもない。

 

「別に名前なんて何でもいーじゃねぇか。」Boo

 

少しいじけだしたルフィは口をとんがらせてブーたれる。本人さえ良ければ別に何にしてもイイものではあるものの、周りとしては自分たちのトップが変な名前のヒーローなんてカッコ悪くて嫌だと数々のルフィの案を却下していく。

 

「ねぇルフィ。例えばさ、あんたのアイデンティティとか憧れをヒントに何か無い?あとそれに由来するものとか?」

 

席が隣である拳藤が何かテーマがあればしっくり来るだろうとルフィに尋ねる。

 

「・・・それなら、おれは麦わら帽子かな?」

 

「麦わら?」

 

拳藤はルフィにイメージが無い麦わら帽子がいきなり出てきたことにハテナを浮かべる。

 

「ブラジルにいた時の約束なんだ。オールマイトも超えるヒーローになってシャンクスが持っている帽子を引き継ぐって。」

 

「へぇ〜・・。なら、それにしよう!『麦わら帽子』じゃアレだから、英語で直してヒーロー『ストローハット』!!」DON!!

 

 

 

 

 

 

何だかんだで時は進み・・放課後・

 

「・・・ってバクゴーもう登校してんの!?」

 

「あぁん!?だったら何だ!?お前の許可がいんのかコラ!!」

 

「いきなり喧嘩腰!?」

 

ルフィと拳藤・鉄哲・物間の4人が一緒に帰路に着いていると、復帰が長引くだろうと言われていた爆豪と駅で鉢合わせていた。

 

「んだコラ!体調の心配して悪いかオイ!!」

 

「テツテツ優しさが隠せてないぞ。」

 

「ふ〜ん。結構元気じゃないか。てっきり君のようなプライドの塊は負けてもう数日は家でいじけてるもんだと思ったけど!」

 

「ああぁ?騎馬戦で死んだカスが何だって?」

 

A組でも若干持て余す爆豪に競争相手のB組では殊更相容れなそうだ。もっとも嫌味ったらしい物間とではそもそも噛み合う訳がないが・・。

 

「しっしっし!バグゴーはタフだかんな。ダイジョーブだろ!」

 

しかし恐らく一番噛み合わないであろうはこのルフィである。

 

「・・・・。」

 

「いやいや、体育祭の翌日から動き回ってたあんたが一番おかしいからね。」

 

かたや個人主義で打算的、かたや友好的でノーテンキ。相反しているこの2人が友達になることはよっぽどのことがない限り無いと誰もが思うだろう。しかし爆豪は以前のようにルフィに対し無意味に怒鳴り散らすことはしない。体育祭を経て爆豪なりのリスペクトをルフィに向けるようになっていたからだ。それは敬うという意味ではなく好敵手としてだが。

 

「・・・テメェ・・職場体験、どこのヒーローにしやがったぁ?」

 

「ん?何でそんなこと知りてぇんだ?」

 

「イイから答えろや・・。」

 

「まだ決まってねぇぞ。」

 

「ルフィの指名数はウチのクラスでもブッチギリすぎて候補絞るのも一苦労なんだよね。しかもヒーローチャートの上位の大半から来てるから尚更。」

 

「エンデヴァーに、ホークス、ヨロイムシャ、ミルコ、ベストジーニストだもんな。純粋に羨ましいぜ。」

 

「まぁ彼は体育祭の「優勝者」であるからして!!当然ではあるよねぇ!!B組の誇りさ!!」

 

「煽るな煽るな。まだ入って1日でしょーが。」

 

恐らく次回のトップ10に入るであろうトップヒーローたちの指名を独占するかのようにルフィには指名が集中した。ある者はその将来性に自身のサイドキックとして勧誘するため、ある者はその戦闘力と手合わせしたいため、ある者はヒーローとしての矜持を説くため、ある者は自身の2世と競わせるため、と理由は様々である。

 

「ていうか、それでいったら爆豪だって指名数すごいでしょ?1年の部で史上最高って言われてる準優勝者なんだから。」

 

「けっ。2位なんざ価値ねぇんだよ。」

 

「おれはやっぱオールマイトがいいなぁ〜〜!」

 

「いや、オールマイト学校いるし。」

 

ノーテンキなルフィはそもそも日本のヒーローの知識は皆無なので希望もあるわけではない。そんな様子に呆れ気味の爆豪はルフィに宣誓布告をする。

 

「おい、ゴム野郎。確かにオレぁ体育祭でお前に負けたがよぉ!気ぃ抜いてっと、すぐに追い抜かすぞコラ!俺はお前を必ず超す!!」

 

知り合って日は浅いが爆豪がどんな人間か把握しているB組の面々は、彼自身が潔く負けを認めていることに意外そうな顔を浮かべて驚いた。その一方ルフィはその堂々とした布告に不敵な笑みを浮かべ「ああ!」と答えた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

サーカス事件の夜・・・・

 

バギーがエースに吹き飛ばされる直前、緑谷達から死角となった場所に黒いモヤが出現する。

 

「はぁ?よく知らんけど、鬱陶しい展開になってんな・・。」

 

「・・・まさかアレは火拳!?これはこれは・・。」

 

この場に現れたのは、バギー達が呼び寄せていた敵連合の死柄木と黒霧であった。

2人はコネクションがあるバギー達から雄英生を生け捕ったという連絡があったため、特に死柄木は意気揚々と乗り込んできたのだが、現状の有様に呆れ気味だ。

 

「しかし、また彼らですか。」

 

黒霧が呟くように声を出したのは、雄英生とは聞いていたものの先日の襲撃事件の当事者であった緑谷たちがまたもや自分たちの前にいたことに反応したからである。そして隣の男に注意を向ける。先日の襲撃の失敗は緑谷の介入が大きく、死柄木は緑谷に対し明確な殺意を向けていたことから衝動的に動かないか少し焦りを感じている。

 

「・・・心配しなくてもいかねぇよ。どう考えても分が悪いのはわかってる。」

 

「ならここを早く離れましょう。じきにヒーローがくるでしょうから。」

 

「ああ。だけど、ブツを回収してからだ。あいつらが作った武器は先生も相当評価してた。」

 

「ええ。」

 

死柄木たちは緑谷たちやエースに気づかれることもなくバギー達が保有しているバギー玉を回収していく。

そのためオールマイトが到着した後、緑谷たちの証言から警察は武器を探すも僅かな残骸は発見したが肝心な物は回収できずにいたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ガヤガヤと賑やかな昼休みの校内の階段の下でオールマイトはムムム、とマッスルフォームのまま困った顔をしていた。

その太い眉を下がらせてプルプルしている震えている様は少し気持ち悪いが、現状無理もないかもしれない。先ほど2時間目の自身のヒーロー基礎学をB組で行って以降、常に付き纏われていてマッスルフォームを解くことができないこと、そしてどこに逃げても追ってくる奴の存在に恐怖していたからだ。

 

隠れたオールマイトの背後からヌルリと1人生徒が現れる。

 

「見つけた!!オールマイト!!!」

 

「シット!!こんな快活なストーカーにはもうウンザリだ!?」

 

「何で逃げんだよオールマイト〜?」

 

顔が綻びるほどにニヤケ顔のルフィがオールマイトの両肩に手をかける。

 

「あ、あのねルフィ少年。休み時間毎に私につきまとうのはやめてくれまいか!?私だって人間!ひっそりと休息を取りたいのだよ!」

 

「ええ〜いいじゃんかぁ〜。おれオールマイトに憧れて日本まで来たんだぜ?普通科の時もヒーロー科に移るまで会うこと我慢してたんだ。なぁ〜相手してくれよー!」

 

「くぅ!!緑谷少年とはまた違う羨望の眼差し!」

 

言うまでもなく2時間目のヒーロー基礎学はルフィの暴走したテンションに半ば授業は破綻し、オールマイトは教師生活初の挫折を味わったのであった。

ルフィにとっては彼はシャンクスと並ぶ憧れの人物であるわけで、感情に従順な性格のルフィがオールマイトにつきまとうのは自然な流れなのかもしれない。

 

(確かに授業が終われば直ぐに職員室に帰ってトゥルーフォームに戻るから、ヒーロー科以外の子と接触することがないもんな。あっちの姿だと絶対気づかれないし・・。っていうかマジでもうフォームの維持が厳しいんだが!?この後緑谷少年に職場体験の話をしなくてはならんし・・。)

 

「これまでの話も聞きてぇーし、何より戦ってみてぇな〜。No. 1の実力体感してみてぇ!!」

 

(ホントTA・SU・KE・TE!!?)

 

オールマイトが助けを求めるような目を廊下に向けると、こちらを伺うように見つめる拳藤がその視線に気づいた。

 

「あ!ルフィまたオールマイトに迷惑かけてるだろ!!散々さっきの授業で困らせてたのにいい加減にしろ!」

 

「怒鳴んなよ〜。うるさいなぁ。」

 

「うるさいとは何だ!?あんたのその素直なとこはいいけど、人の迷惑も考えな!オールマイトも忙しいんだからあんた1人構ってられないの!」

 

拳藤は現れるなりルフィを叱りつける。元々姉御肌の彼女なので自由奔放なルフィの世話を一身に買って出ていた。実はただ気になってしょうがないだけなのですがね。

彼女のその姿を見てオールマイトにとって今まさに彼女こそがヒーローに思えてしまう一方、(お母さん?)という保護者と子供のやり取りを見ている気分でもあった。

そしてオールマイトもその隙を逃すまいと「またお話ししよう少年!」とサムズアップして逃げ出した。

 

「あ!・・・行っちまった。」

 

「ったく、あの人に憧れてここに来たのは入試の頃から知ってるけど、自重しなよ。」

 

「ま、これから学校で会えるんだし、いっか!」

 

「そんなことより、ルフィ。職場体験のところ決まった?今日中に返事しないといけないってブラド先生も言ってたよ。」

 

「ああ、もう決めたぞ。」

 

「どこ?」

 

「No.1のオールマイトが無理なんだったらNo.2のところだ。」

 

「え・・ってことは・・え?マジ?」

 

「しっしっしっし!」

 

 

 

「おい爆豪!お前どこにすんだよ?まだ提出してないんだろ?相澤先生少しキレてたぞ。」

 

食堂にて列待ちする切島が前で並んでいる爆豪にそう声を掛ける。

大方皆が既に職場体験先を決めている中で、珍しくウダウダと悩んでいる様子の爆豪にどうしたのかと少し心配している切島。体育祭以降物静かになっている爆豪。クラスメイトから若干気味悪がれつつも心配され、教師陣からは自信の喪失をしてしまったのじゃないかと懸念されていた。

 

「勝手にキレてろや。」

 

「いや、あの人怒らすとマジで洒落ならんて。」

 

「・・・もう決めてはあんだ。ただ折り合いつけてねぇだけだ。」

 

「?」

 

爆豪はガシガシとイラつきを取り払うかのように頭を搔く。どうしても感情がその選択を拒否して邪魔をしてくる。根っこにあるプライドが邪魔をする。

ルフィを超えると決めた以上、妥協はしてられない。恥を忍んでも考えうる最上の訓練を受けるべきだ。

爆豪は人生で一度たりともしたことない行動をとった。

 

 

 

 

週末が明け、いよいよ職場体験の日がやってくる。

ヒーロー科全員は学校から最寄りの駅へ集合し、そこから研修先の事務所へと向かう。おおかたは都内の事務所に向かうが、A組の常闇のように福岡を拠点にしているホークスならば、遠方まで赴く事になる。

クラスとの別れ際、緑谷と麗日はいかにも心配そうな顔つきで研修先に向かう飯田の背中を見つめている。先日のヒーロー殺しに彼の兄であるインゲニウムが襲われた事で憔悴していることは本人は隠しているが仲のいい2人もそれは感づいている。しかし身内の不幸に対して気が利いた言葉をかけてやれるほど、まだ彼らは大人ではなかった。

 

そして一方、あるヒーローの事務所に向かう道に3人が同じく歩を進める。

今回でも研修先がAB組で被るところは何組かあるので重複する事自体は珍しくないのだが、豊作と言われている今年の1年のトップ3が集うというのはかなり稀有なパターンだろう。この決定には相澤にしてもブラドにしても全くの予想外と言っていい。果たして無事職場体験が終えるのか、その心配でこの期間落ち着く日はないと2人は断言できる。

 

「・・思ったよりアイツに人気がある事に驚いているんだが。」

 

「なんでテメェまでいるんじゃ・・!!」

 

「お前らもか〜。ウッシッシ!楽しくなりそうだな〜。」

 

轟・爆豪・ルフィの3人はNo.2、エンデヴァーのヒーロー事務所へと乗り込む。

 

 

 

 

 

 

 




ぶつ切り感のある回・・。

あ〜早く神野編行きてぇ!

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