麦わら帽子の英雄譚   作:もりも

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パトロール珍道中

職場体験ではヒーローが持つ指名権は2つ。つまり第一候補と第二候補とあるわけだが度々どちらも当たりを引いて両取りすることがある。今回で言う所のフォースカインド事務所の切島と鉄哲のケースがこれに当たる。・・であるからしてエンデヴァー事務所のようなケースは今まででも類を見ない事例だった。

 

「おいおい、流石エンデヴァーのネームバリューとはいえ雄英新BIG3が一堂に会すとは・・!」

 

このエンデヴァー事務所の社員たち多数がガヤガヤとざわめき話題の3人を取り巻く。

ルフィ・轟・爆豪は今や下手なヒーローよりも高い知名度に加え、話題性に富む超有望株として認識されている。ここまで来るまでに何回声を掛けられたことか。尾白くんが1とするなら100はいくだろう。

3人の前に佇むエンデヴァーもいつもと変わらぬ面持ちに見えるが、息子の焦凍だけではなくダメ元で指名したルフィまでやって来たことに俄かに頬を緩めていた。

 

「前途有望な君たちを迎え入れられ嬉しく思う。そして爆豪君、逆指名を貰うとは少々虚を衝かれたが君であれば歓迎する。」

 

「・・・逆指名って?」

 

サイドキックの1人が隣の事務員に聞く。

 

「普通体験は2人まで。指名権がそれまでですから。ただあの子の場合、焦凍君の伝から頼み込んでエンデヴァーさんに許可を貰ったらしいですよ?」

 

「はぁ・・普通人気ヒーローにそんなんしても門前払いがいいとこだってのに。優秀なのはお得だねぇ。」

 

爆豪は正規のルートではなく、悪く言えばコネありきの縁故採用である。

自分以上の実力の2人を越すためにはよりレベルの高い環境に身を置くことがマストと考えた爆豪はベストジーニストの誘いをも蹴って轟に頭を下げたのだ。彼の性分からしてあり得ない行動である。これには頼まれた轟も驚きを隠せないでいた。

 

(利用できるもんはあんなら全部使ってやる!目先の屈辱なんざ後々100倍にして返してやる!!)

「・・ただなんでテメェまでここにいとんだ!!」

 

「いや〜まさか轟ってエンデヴァーの息子だったんだな!バクゴーもいるし楽しくなって来たなー!」

 

この体験に向けてシリアスな空気を纏ってきた2人に反してルフィのこの緩みっぷりである。残念ながらここにはツッコミ役は存在しなかった。

 

 

 

 

職場体験はあくまで生徒らはお客さんであり、仮免を持っていない彼らは同行はできても個性を使用することは禁じられている。つまり一緒にパトロールしていても意味合いとしてはただの見学である。

エンデヴァーに連れられ街へと繰り出す3人はコスチュームに着替えてもそれはある種のパフォーマンスに近い。

 

「・・・モン・・いや、ルフィ。コスチューム来たのか?」

 

更衣室で轟の目に入ったのは自分たちと同じようにコスチュームを入れたルフィのアタッシュケース。

 

「おう!これに間に合ってよかったぞ!ここ来る途中も楽しみにしてたんだ〜!初めてのヒーロースーツ!!」

 

ルフィはガバッと勢いよく開け、コスチュームを身につけていく。

そのコスはサッカーブラジル代表を彷彿とさせるカナリア配色のデザイン。ゴムの体を持つルフィの動作に対応できるようプロ顔負けの高品質の超伸縮ラバースーツ。特筆すべきは斬撃の弱点を補填する耐刃仕様になっているところだ。

手には攻撃補助の特殊手甲をハメ、足元にはローカットのスパイクシューズ。

そしてヒーロー名を体現するパーカー式の麦わら帽子。スーツに合わせたソリッドな形にメイクアップし、カラーは麦わら帽子のイメージに近い黄色とマゼンダで配色。もちろん防御の性能も十分にあるが、基本デザインを重視している。

 

「なるほど・・元々打撃系が効かない上に斬撃までカバーできるのか。かなり高性能じゃないかコレ。」

 

一介の生徒としては十二分な出来のヒーロースーツだ。コレにはガープ関連の協力とやはり体育祭を優勝してからの製造だったためサポート会社も相当なコストを支払ってくれている。質の高い雄英生の中でも特筆できる一品だ。あまりスーツに頓着がない轟も関心する。

 

(実力がありゃ待遇も変わる。個人の能力の上昇と並行してスーツの改良も必須事項だ。)

 

ルフィのスーツをめざとく観察する爆豪。汎用性の高い自身の個性を100%以上に発揮させるためにはサポート会社とチームアップすることが必須であることを改めて意識する。

 

 

 

エンデヴァーを筆頭に4人は近隣でのパトロールを手始めに行う。

 

「パトロールにおいて重要なのはヒーローとして自身の存在感をいかに出すかだ!!」

 

反抗的だった息子に良いところ見せようと距離間的にムダに大きい声で先導する父親の図である。

 

「何より重視しなければいけないのは犯罪を未然に防ぐことだ!気さくで穏やかに民衆と触れ合うヒーローもいいが、それよりも隙がなく緊張感を漂わせることでまだ見ぬ敵の脳裏に己の存在を焼きつかせプレッシャーを与えろ!!犯罪を犯す気を失せさせるほどな!!」

 

市民が周りにいる中エンデヴァーは強面を更にギラつかせる。その姿にすれ違う守るべき市民が彼に怯えてはいるが彼の言う通りならコレが正解なのだろうか。

爆豪が「同感。」とだけ呟く一方で、轟はやはりこの父親とは相容れない様に思えてしまう。

 

(変わらねぇ・・。力が全てかの様な口ぶり。・・・俺も確かにこいつの影響を受けてたことは自覚してる。力さえあれば・・母さんの力で証明してやればって・・・。でも違う。緑谷とルフィとの試合でわかった様な気がする。・・・ヒーローは力や勝ち負けじゃない。)

 

エンデヴァーの熱い指導は常時不機嫌な爆豪と寡黙で反応が薄い轟に完全に空振っている。

さすがのNo.2ヒーローもこの空気の悪さも感じている様で「うむぅ・・」と唸ってしまう。そこで比較的ノリが良さそうなルフィに目を向けるが、居たであろうところに少年の姿がなかった。

 

「おばちゃん。コロッケあと5つくれ!!」

 

「いい食いっぷりだねぇ〜。よっしゃもう2個サービスしちゃるよ!!」

 

「まじ!?サンキューおばちゃん!」

 

目を向けた先にはこの商店街の精肉店でコロッケを山ほど食っているルフィであった。

 

「な、何をやっている・・・。」

 

「ん?コロッケ食ってる。」bakubaku

 

パトロール中のルフィの行動に少し理解が及ばないエンデヴァーの質問にルフィは何の疑問もなくあるがまま答えを返す。

 

「なぜコロッケを食っているのか、を聞いているのだが・・・。」

 

「なぜって・・コロッケおいしいじゃん。好きじゃないのか?おれ好きだけどなー。まぁ確かに日本てウメーもん多いから他の店のにも目移りしちゃうもんな。」

 

父親の愕然としたこの顔を初めて見た轟であった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

警察内部では数日前エースが密航した目的が何かと上層部で俄かに騒がれた。

しかし彼関連で特に何も起きなかったことと、本来悪と呼べない人物像によって捜査が行われることはなかった。

エースの目的は一つ。白ひげの裏切り者、黒ひげの追跡だ。ルフィに会ったとはもののついでに顔を合わせただけで、本来の目的ではない。

黒ひげこと、ティーチはエース率いる2番隊の隊員で白ひげの中でも古株のメンバーだが、一戦闘員であったこと、表立った活躍がなかったことで世間の認知は薄く、ここ日本においては全くの無名と言っていいだろう。だからこそ奴がこの国に潜伏していても何の支障もなかった。

 

「ゼハハハハハハ!!全くこの国は呑気なもんだ!危機感の無い締まり無い顔が並び、足元も疎かなガキが夜道を歩き、腰の曲がったジジイが主役ヅラで吐き散らす。すぐそこに闇が這いずってることに気づいてやしねぇ!!」

 

「乱世の後に平和が訪れる様に、平和の後に乱世になるのもまた巡り合わせなり。」

 

ティーチと、その部下狙撃手のヴァン・オーガーは東京都内の雑居ビルの屋上に腰を据えていた。

 

「まぁ・・女の頭の中が空っぽなのはどこの国でも同じではあるがな!!ゼハハ!!!」

 

「ガフッ!?・・・お頭、あんたの元隊長さんがこの国に・・来てるらしいぜぇ。」

 

血を吐く病弱な男、ドクQ。街の探索の傍にキャッチした情報を土産にバージェス・ラフィットと共に戻ってきた。黒ひげの一味総員5人がここに集結する。

 

「ほぅ・・エースか!だが、今はあいつに構っている場合じゃねぇ!白ひげの様な過去の英雄に囚われちまってる奴に構ってちゃあ乗り遅れちまうぜ!!新時代はもう始まっちまうんだからよ!!!」

 

黒ひげは予期するは悪の新時代。

 

「そしてその中心はこの日本。その理由はオールマイトの衰退、そしてオールフォーワンの存在にありますね。」

 

この一味の諜報役ラフィットは日本の闇社会に潜った結果、今後の動向を予測する。

 

「今のこの社会は非常に繊細なバランスで成り立っています。まだ個性が存在しなかった前時代であれば警察など組織的な治安維持が可能なほどに、個人は皆平等に無力でした。しかしこの個性隆盛の時代、個人の中で隔絶された差が生まれ始めました。人を傷つけることすら出来ない個性もあれば数百人単位を滅ぼせる個性もある。組織が個を抑え込めなくなったからこそ個で抑え込めるヒーローが生まれたわけですが、この場合圧倒的なカリスマが必要です。際限の無い悪に正義は対応し続けられない。象徴となるべきヒーローがいるから新たなヒーローが生まれます。今でいうオールマイトがそう。しかし彼が倒れれば間違いなく正義は枯渇するでしょう。ではどうなるか?当然悪の縄張り争いが始まります。」

 

抑圧された個性が解放される日は近い。近頃紙面を賑わす敵連合の台頭、マフィア復権画策、完成されつつある異能解放軍の存在とこれから裏社会は目まぐるしい変化が起こっていくだろう。

 

「縄張りなど雑魚どもでやらしゃ良い!俺たちが狙うはオールマイトのみ!!・・・いやワンフォーオールをだ!!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ひったくりよーーーー!!!」

 

人通りの多い大通りで女性の甲高い叫び声が響く。

ひったくり犯の男は体のいたるところにある穴から空気を噴出させる個性を使って人混みをかき分けて逃走している。この様に犯罪を犯す者は個性を使い事を図るが、周りの一般人は逆に個性使用は認められていないため見過ごさなければならない。つまり通報してヒーローを呼ぶか、運よく巡回しているヒーローが駆けつけるしか無い。

 

ボウッ!!と爆破音が犯人の後方から一つ鳴ったと思えば、その音が連続して鳴り響く。

 

「チンケなことしてんじゃねえや!!クソゴミが!!」

 

「!?」

 

唐突に空から現れた爆殺王(没)が犯人の前を防ぐ。

犯人はとっさに空気の噴出口を彼に向ける。

 

「おっせぇ!!!閃光弾!!!!」

 

視界が潰されるほどの光量に叫び声を犯人は上げると同時に浮遊感に襲われる。

 

「そりゃ!!ゴムゴムのーー!!」

 

群衆の中から伸びた手が犯人を上空に引き上げていたのだ。

 

「おい。その先はダメだぞ。」

 

ストローハットを手で制した少年、ショートが飛んでいる犯人を囲む様に5本の氷の支柱を地面から氷結させた。

ぐえっ、とそのまま地に落ちた犯人は氷の檻によって閉じ込められ呆然とする。そして彼を囲む様に3人のヒーロースーツを纏った少年たちが集った。

 

「おおっ!すげえ鮮やか!誰だあのヒーロー!?」

 

「・・ヒーローでは無い!!」

 

「うおっ!?エンデヴァー!!?」

 

遅れてヌッと出てきたエンデヴァー鼻息荒く現れた。

 

「テメェ!!俺が足止めしたモンを横取りしてんじゃねえよ!!」

 

「バグゴーナイス足止め!」

 

「貴様ら!何を勝手にやっている!」

 

エンデヴァーは3人に詰め寄り今3人がやったことを咎める様に声を荒げた。

 

「資格のない者が個性を使うことは違反行為だ!ヒーロー校の生徒が知らない訳ではないはずだ!」

 

「?・・何怒ってんだ?」

 

「・・知らない奴がいたな。俺らはまだヒーローの資格や仮免を持ってないからさっきみたいに個性を使ったらダメなんだ。」

 

この辺の知識がないルフィに轟が大まかに説明する。

 

「悪い奴捕まえると罪になるだって?」

 

ンエっと舌を出して「何だそりゃ?」とルフィは顔を顰めるとエンデヴァーが釘を刺す。

 

「それがこの国の決まりだ。素人の火遊びほど怖いものはない!」

 

「攻撃はしてねぇ。」

 

「屁理屈!!個性を使った時点で言い訳できん!!そして君らが出る必要性はない!」

 

堅物のエンデヴァーに何を言っても頑として聞き入れなさそうなので爆豪もこれ以上何も言わなかったが、ルフィはイマイチ納得はいかなった。

 

「面倒だなぁ〜。ってかこんな近くで犯罪起きてっけど、さっきオメェ犯罪をそもそも起こさせないとか言ってなかったか?」

 

「!?」

 

「・・・それもそうだ。」

 

「言ったそばから起きてやがんな。カッコ悪ぃ。」と爆豪。

 

3人はジッとエンデヴァーの方に目を向ける。

ヌググ、と先ほど声高々に未然防止を語っていた手前反論ができずに固めるエンデヴァー。初日から不安の残るスタートとなってしまった。

 

 




なんか今日掲載の原作似た展開になったんだけど・・・やだこれ。こんなことあんのねぇ〜。



ワンピの扉絵連載みたいな感じで、ウソップを主に前書きか後書きで話作ろうかと思ってるんですけど需要あるっすかね?

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