麦わら帽子の英雄譚   作:もりも

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この世界の中心へと願う

今日は4月2日、雄英高校の入学式の日の明朝にルフィは珍しく電話をしている。

その様子は楽しげで相手との関係性の良さが窺い知れる。

 

「・・でルフィ、お前は日本でヒーローを目指すってわけか」

 

優しげだが、どこか力強い青年の声が聞こえる。

ルフィはその声に淀みなく答える。

 

「ああ!オールマイトを超えるヒーローになるぞおれは!」

 

「もったいねえな・・ルフィ、お前の実力考えたらわざわざ日本なんて行かなくていいのによ。堅っ苦しいだけだぜ実際、ヒーローなんてよ」

 

どうやら話し相手は日本にはいないようだ。

ルフィはすでに雄英の制服を纏い準備万端の格好だが、話に夢中で時間が迫っているのに気づいていなかった。

 

「おめえは今はどこにいるんだ?」

 

「エース」

 

「今はカリブ海だ・・・・つってお前に言っても知らねえか。そうだなアメリカ近くって思えばいいさ。そこで敵狩りに勤しんでるよ。」

 

ルフィと話しているのは3つ上の義理の兄弟であるエースであった。彼はヒーローではない。

非公認でヒーロー行為を行う者[ヴィジランテ]である。

本来ヒーローは国から認可を受けた免許を持っていなければ名乗ることはできず、またヒーロー以外は個性の公的な場で使ってはいけない法が国連加盟国ではほとんどが定められている。

つまり善意であっても一般人が個性を使って敵の捕縛等を行なってはいけないのだ。

ヒーローの本場であるアメリカはもちろん、ヒーロー先進国である日本もこの法は固く定められている。

上記のことからヴィジランテは国からは敵と同じ扱いになり、有名なものは指名手配されていることもある。

 

エースはすでにヴィジランテとして有名であり、政府からマークされている大物である。

どうやら彼はヒーローの決まりの多さを嫌い、ヴィジランテの道に進んだようだ。

 

「エースは白ひげのとこでやってんだってな」

 

「ああ!白ひげの親父との旅は毎日が充実してるぜ!お前も親父のところに来て、俺とタッグを組んだら敵なしなんだが・・俺は白ひげ、ルフィはオールマイトに憧れて今の道に進んでんだもんな」

 

エースは世界最強を目されるヴィジランテ組織「白ひげ」に所属している。

白ひげは自らを正義の組織とは名乗らず、世界中に出没し目についた犯罪組織を潰している。

非公式でありながら民衆から絶大な人気を誇っており、大きなヒーロー組織がない国連非加盟国からは度々招致されるなど太いパイプを持っている。

その頭目エドワード・D・ニューゲートは長くこの世界に君臨し、若い頃はガープとも多くやりあった。

しかし粗暴な者も多く、彼らの活動の間接的被害も多く問題視されているのも事実だった。

 

ヒーローとヴィジランテ、志は近くとも手を取り合うことはない。

それはそれぞれが違う道を歩んだルフィとエースも言えることだろう。

立場だけでいえばだが・・・・

 

「ルフィ君。もう学校行く時間だろう?」

 

時間になっても電話をしているルフィにボガードが後ろから声をかける。

ルフィがそうだったと、少し焦った顔をしている。

エースにまた電話しようと別れの言葉を言おうとした時、やかましい声が別部屋から聞こえてくる。

 

「ルフィ!その相手はエースかぁ〜〜〜!!」

 

ガープが鋭い目をしてルフィに食ってかかる。

その声を聞いて電話越しのエースは「やべえ!ジジイか!?またなルフィ!!」と足早に電話を切った。

 

ルフィは慌てて事務所から出て学校へ向かう。

ヒーローの学び舎 雄英に。

 

結局ヴィジランテなどと言っても、私的介入ができるヒーロー行為はたかが知れている。

多くの民衆を救い出せるのは本物のヒーローだけだ。

 

ゴムの反発を生かして身軽に走り出す。

 

最高のヒーローを目指して。

 

 

 

 

 

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「でっけーなー 色々と!」

 

しっしっしっ、と新鮮な気分で到着した雄英高校をルフィは見渡した。

入試に来た時に一度来ていたため、電車も間違わなく順当に到着した。

始業まで少し時間があり学内を散歩していたら入試で会った真面目な少年にバッタリと会う。

 

「き、君は!?」

 

「あ!オメーはカクカクメガネ!!」

 

「か、カクカクメガネ!?」

 

衝撃的な初対面でルフィのことをよく覚えていた少年は驚いたが、妙なあだ名をつけられていることにさらに驚き困惑した。

 

「ぼ、俺は飯田天哉だ!断じてそのような蔑称ではない!」

 

「べっしょう?おれはルフィだ!」

 

お互い挨拶をして一緒に教室へと向かう。

しかし仲良くしようと言う雰囲気はないようだ。少し飯田が前に歩いている。

 

「まさか君が合格しているとは思っていなかったぞ・・すまないが、そんな知能があるとは思っていなかった」

 

だいぶ失礼な物言いのだが、彼のルフィの印象では妥当だと頷くしかない。

しかし真面目な彼だ。過去のことは過去だと忘れ、この発言の後に一緒に勉学に勤しむだろうルフィにお互い精進しようとルフィに話しかけた。

 

「おう!」と元気に返したルフィであったが、自分が普通科だということは考えてない。

 

二人がA組の教室の前に着いたとこで、隣の教室に入ろうとしていた入試で一緒だった拳藤一佳と顔を合わせた。

拳藤は顔をパッと明るくさせ、手を焼かされたルフィに話しかけた。

 

「ルフィ!!受かってたのか!」

 

「おー拳藤じゃん!!オメーもか よかったなー!」

 

「それはお互いだろ?私はあんたが受かるかヒヤヒヤしてたんだからな」

 

どうやら拳藤はルフィの合否が気になっていた。とても筆記ができると思っていなかったからだ。

男勝りな性格の拳藤とはウマが合っていたのかルフィもかなり親しげだ。

 

「まぁ、あんな実技の結果見せられたら当然か。単純な戦いで勝てる気しないもん 私」

 

「む?そんなにルフィ君は実技がすごかったのか?」

 

仮にもヒーロー科に合格した者がここまで言うのに反応して飯田は尋ねた。

 

「すごかったよ!あの超大型敵を倒したからさ!」

 

入試を思い出し少しテンションが上がった拳藤だった。

それはすごいなと驚いた飯田だったが、あの彼以外にもいたなんてと呟いた。

その呟きを聞いたルフィは彼?と気になったが聞き直したりはしなかった。

 

「そっちの教室の前ってことはルフィはA組?クラスは別々だけど合同の訓練とかもするみたいし、その時はまた組もう!」

 

「いや〜それがよ〜 おれヒーロー科落ちちまって普通科なんだ」

 

少し言いにくそうにルフィは自分の状況を言った。

嘘だろ!?と拳藤と飯田が驚愕の顔をしている。

二人からしたらまさかである。

拳藤は目の前でルフィの実力を目の当たりにしているし、飯田は先ほどの話と普通科は受かるだけ勉強ができるのかと思ったからだ。

参った参ったと、なぜか笑いながら言うルフィ。明るいやつだ。

そんじゃまたな、と自分の教室に行くルフィの後ろ姿をまだ驚いている二人は教室の入り口で固まり、後から来る生徒に邪魔そうな顔をされた。

 

 

 

 

「え〜と、この一年D組を担任しますマキノです。私もまだ2年目なのでまだ未熟だけど一緒に頑張っていきましょう!」

 

爽やかで可愛らしい笑顔がよく似合う教師のマキノがルフィの担任であった。

入学式が終わり初めのガイダンス中、その容姿に教室の男子は彼女に釘付けであった。

女子の何人か舌打ちしている。そんな雰囲気の中ルフィは朝早く起きていたので眠気に駆られている。

 

マキノは出席番号順に生徒の名前を呼び、呼ばれた順に生徒は自己紹介していく。

ルフィが呼ばれた時には、外人なのか?と入試の時の肉のやつだ!という声が上がる。

呼ばれたルフィは立ち上がり元気よく自己紹介をする。

 

「モンキー・D・ルフィ!出身はブラジルのサンパウロ!好きなことはメシを食うこと!目標はオールマイトを超えるNO.1ヒーローになることだ!!」Don!!

 

 

そう答えたルフィに少し間が空いて周りから冷笑が聞こえる。

 

「普通科にいるのにNO.1ヒーローてまた壮大な夢見てんな」

 

「一流どころは学生時代から逸話を残してんだ、ここで挫折してるやつがなれるかよ」

 

心無い言葉にルフィは馬鹿にされた気分になった。

 

「ウルセェな!やってみないとわかんねえだろ!おまえらだってそうだぞ!」

「まだこっからなのに何諦めたようなこと言ってんだ!」Don!

 

言葉を言うにつれて少しルフィは興奮した。

何よりこれから高校生活がスタートしたと言うのに諦めたような顔をしている周りに檄を飛ばした。

だが、ここにはヒーロー科を落ちた者が多数いる。これまでにあったヒーローへの志がしぼんでしまったのだ。

ルフィはボガードから転科推薦の話を聞いているので、周りの者とのモチベーションに差が出ているのだ。

 

(へぇあいつは転科推薦狙ってるクチか?普通科はヒーロー科に転科する目的の奴も多いって聞くけど、このクラスはそういう気概を持ってるやつは少なそうだ)

 

前目の席で静かに黙り込んでる男子は自分も持っている野心があるルフィを同類かと考えている。

彼が言うように転科を希望する者は多くいるがこのD組は諦めてしまっている者が大半だった。

 

「こらこら言い合いをしないの。ルフィ君のように何にでも目標を持つことは大事よ!」

 

「次の人に行くわよ」

 

マキノはルフィらを諌め、自己紹介を進めさせる。

 

この後は滞りなく進み、軽い連絡事項を済ましたところは初日の学校は終えた。

ルフィは帰宅しようとしたところでマキノに呼び止められこの後に生徒指導室に来るように伝えられた。

 

「?・・なんでおれだけ呼び出されんだ?」

 

ブラジルでは散々教師に呼び出しをくらっていたルフィは何かしたかと不味そうな顔をしていると、後ろから丸渕のメガネをかけた男子に話しかけられた。

 

「どうかしたの?」

 

「ん?なんでもねえよ・・・えーとお前は誰だ?」

 

「え・・まぁそうだよね・・僕なんて影薄いし覚えてないか」

 

先ほどに自己紹介があったのに名前はおろか顔も覚えていないルフィは天然で少しひどいやつである。わりぃわりぃ、と謝った。

 

「僕は古美。中学ではコビーって呼ばれてたからそう呼んでくれる嬉しいな」

 

背が低く気弱そうなコビーは普段は人見知りであまり初対面で話しかけるタイプではないのだが、先ほどのルフィの自己紹介を聞いて話しかけたくなり少し勇気を出した。

 

「恥ずかしながら、僕もヒーロー科を諦められなくて・・・、ヒーローに憧れて、試験を受けたのはいいけど全くダメで・・普通科には入れたけど正直諦めてたんだ。だけど君のさっきの言葉聞いてまだやれるんじゃないかと思って・・ハハ」

 

大人数相手に物怖じせず、自分が諦めたこと言いのけたルフィに彼は感化されたらしい。

しかし言葉に力はなく、自信もなさそうだった。

 

「へ〜お前もまだヒーロー科狙ってんのか!じゃあ俺たちは仲間だな!シッシッシッシッシ!」

 

自分と同じ目的のコビーと会ってルフィは素直に喜んだ。

一緒に頑張ろうと答え、コビーは少し驚いたが、がっちりと熱い握手をしてルフィはコビーと別れた。

 

今まで友達らしい友達がいなかったコビーはルフィのまっすぐこちらを見る目に惹かれた。

彼がルフィとともに行動するのに時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフィは現在生徒指導室にいる。数々のトロフィーが立ち並び、名門校らしい煌びやかな部屋模様だった。

対面に置かれた二つのソファの片側にルフィは落ち着かない様子で座る。

ルフィと向かい合うのはヒーロー科1年A組の担任である相澤と、彼の担任であるマキノの姿があった。

 

「まず初めましてだな、ヒーロー科の担任をしている相澤だ。一応確認はしとくが、お前はヒーロー科の転科を希望しているか?」

 

ルフィは当然と答え意思を示した。相澤はとりあえず本人の口から出た意思を確認し、話を続けた。

 

「お前が知らないとこで、お前のことでゴタゴタが起きていてな。それというのも入試の時、お前をヒーロー科にいれるべきかどうかって話し合いだ」

 

ルフィがその話し出しに反応したが、相澤はルフィの質問などには答えることはなく進めていく。

 

「結局は学力が酷すぎるとのことで不合格にした、がお前の実技試験の成績を考慮して希望を出してなかった普通科に移しチャンスを与え、今後の活躍次第で転科推薦を出すという方向に決まった」

「ここまでは家の人に聞いたよな?」

 

「頑張ったらヒーロー科行けるってのは」

 

(またザックリだな)

 

元よりルフィ側に者たちに話した流れを確認して、後日に決定した転科推薦を出す条件を説明していく。

 

「お前これから勉強はできるようになるか?」

 

ルフィに対して彼が最も恐る一言を相澤は放った。

ルフィはうっとした顔を浮かべ、めちゃくちゃ目線を流した。すごい汗である。

これを見て相沢はため息を吐きルフィに求めることを言う。

 

「これまでの学力具合はボガードさんから聞いて把握している。今更高学力をお前には求めんよ。」

「大事なのは姿勢だ」

 

「と言いますと?」

 

ルフィはなんとか話しを理解しようと頑張る。

 

「ヒーローってのは己の身を呈して人々を救助する、いわば皆の模範となるべき存在だ。自分の嫌いなことに逃げてる人間がなれる職業じゃない。勉強ができないのは目を瞑れても努力する姿勢を見せろってことだ」

 

「なるほど」

 

相澤は本当にわかってるのかコイツ、と内心思いつつルフィの普通科入りに強く意見した人たちを挙げていった。

 

「感謝しろよお前は恵まれているんだ。担任のマキノ先生も勉強に関してはより協力してくれると言ってくれている」

 

グーの手を胸の前に出してマキノは頑張ろうと朗らかに笑いかけた。

ルフィも関わった人たちに感謝してやる気を漲らせた。

 

「浮かれるな 条件はもう一つある」

 

相沢は入学自体が本来の入試結果を捻じ曲げた超法規処置だと言う旨を伝え、ルフィの実力を加味した転科条件を突き出す。

それは6月に開催される雄英体育祭で優勝すること。

ヒーロー科を含めた一学年全員が争うこの大会は毎年熾烈を極め、優勝者は輝かしい未来を約束される。

 

「結局この世界結果が全て。結果を出して黙らせるしかないのさ。ヒーロー科はこの2ヶ月間ヒーロー育成訓練をみっちり行う。実技試験では優秀だったが、そのアドバンテージなんてすぐに吹き飛ぶぜ?」

 

 

「プルスウルトラ」DODON!!

 

 

「以前の自分を超えて俺たちに見せてみろ」

 

「・・・以上だ」

 

相澤は雄英の校訓をあげルフィに実技の向上も促し、話を切り上げた後そそくさと部屋を後にした。

 

相澤の鼓舞するような言葉にルフィは身を震わせ、大きく口角を引き上げた。

 

 

 

「見せてやるさ!!」

 

 

「俺の力を!!待ってろよ体育祭ーーーーー!!」Uryaaaaaa!!

 

 

気合の入った声が学内中に響き渡った。

 

 

 

 

ルフィの雄叫びを聞き、相澤はふっと微妙に笑った。

 

(しかし校長やオールマイトはあいつに相当な期待があるようだ。この処置をあっさり許した文部省はガープの孫という色眼鏡があったのが見え透いたから意外でもなかったが・・)

 

(ま、ああいう表立って気合をみせるやつも俺は嫌いじゃないがな・・)

 

 

校長が以前語った、ルフィを雄英で囲もうとした発言の真意を相澤は後に聞いた。

なんでも近い将来ヒーロー社会は低迷期に差し掛かる可能性が高いことが一番の理由にあるからだそうだ。

 

日本国内に限ればオールマイトという存在が平和の象徴となり安定した社会になっているが、世界的に見ればそうではない。

犯罪者が幅を利かせ、内紛にまで発展する国も少なくない。

白ひげのような大物ヴィジランテの存在が対抗勢力として成っているケースもあるが、所詮荒くれ者の延長線上でしかない。責任のないものに真の信頼はないのだ。

ヒーローの数は年々増加の一途をたどっているが、巨悪に対抗できるヒーローはそうはでてこない。

圧倒的に悪の方が個性で人を傷つけるのに躊躇がないからだ。

 

このような理由がありルフィのように正義を心を持ち、巨悪に対抗できるポテンシャルを持つ若者を手放してはゆくゆく敵の後手を踏むことになると校長は言った。

その発言はルフィがこれからのヒーロー社会の中心になってもらうかのような期待を伺える内容だった。

 

相澤は願わくはそれが過大評価にならないようにと思った。

 


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