みみっちいことがお得意な方と苦手な方
「だりー、、私ら完全に引き立て役じゃん」
「まったく・・・」
プレゼントマイクの実況とともに入場した普通科の面々は不機嫌そうな顔で愚痴っていた。
完全に注目は彼たちの後にある。
『結局オメーらのお目当はA組ダロォーーーー!?』
実況の煽りとともにA組が入場した途端に、数万人はゆうに詰め掛けた大競技場が大いに沸き立つ。
観客のお目当にTVカメラも生徒の顔をアップに映し出す。
襲来した数多くの敵を退けた彼らを次代のトップヒーローだと言わんばかりに皆期待しているようだ。
大きな歓声を浴び、ちょっぴり照れた麗日お茶子は右手で後頭部をさすっている。
「いやぁ・・・恥ずかしいね、なんだか」
隣にいる緑谷に話しかけた。しかしいつもと違って堂々とした顔の彼にお茶子は少しドキッとする。
「デクくん、なんだか自信マンマンって感じだね!」
「い、いやマンマンってわけではないよ!」
「・・ただ、今まで支えてきてくれた人たちに結果を出して感謝を表したいんだ」
お茶子の問いかけに緑谷は決して自信があるわけではないが、微笑みながら強く優しい決意を秘めた言葉を返した。
それを聞いて彼女も私も一緒だ、と可愛らしい笑顔を浮かべて頷いた。
ところかわってルフィたちを見ると、コビーがこの観客の多さにたじろぎ不安に駆られている。
「コビー どんだけ緊張してんだ」
微塵の緊張も見せないルフィはアタフタしているコビーを面白そうに見ている。
おそらくルフィの心臓にはびっちり隙間なく毛が生えているに違いないとコビーは思った。
そうこうしている内に全ての科が出揃った所で、18禁ヒーローミッドナイトがこれから行う競技の説明を行う。
まず第一種目は障害物競走。競技場外のルートを辿って競技場にいち早く戻ってきた者が通過となる。
雄英の競技である以上かなり大掛かりなギミックが散りばめられているのだろう。
ここで多くの生徒は脱落することになるとのこと。
一つめからいきなり大勢落とされるのは正直厳しすぎるのではとも思ったが、時間の都合上シカタガナイと彼女が鞭を叩くので納得するコビー。
生徒は早い者勝ちとばかりに競技場出口スタートライン線上まで足早に集まる。
ぎゅうぎゅう詰めになりながらルフィとコビーも列とも言えない密集でスタートを待つ。
待ち時間の緊張感により浮足立つコビーにルフィは声をかける。
「自分を信じろコビー!!じいちゃんたちの特訓にも耐えたんだ!お前ならやれるさ!」
一度死に目にあったコビーにルフィは太鼓判を押す。
その言葉にコビーは特訓を思い出し少し吐きそうになったが、だいぶ落ち着いてきた。深呼吸をして色々教えてもらってきたことを思い出している。
その途中にスタートの合図が響きコビーは不意をつかれ、蠢く生徒にもみくちゃなった。
ルフィはスタートの合図にいち早く反応し、腕を伸ばしてみなの頭上へ上がった。そうすると前方組が足が固まったかのように身動きが取れていなかったのを確認した。
「なんだありゃ?・・・・・ってあぶねえコビー!!!!」
この事態に気づいたルフィは出遅れていたコビーを伸ばした腕に巻きつけて上に持ち上げる。
そうするとコビーが元にいた位置が氷漬けになった。
周りの生徒は足元を凍られて前方組同様身動きが取れていない。
「あ、ありがとう!」
コビーは礼をいい、地面に着地した。
「・・これは個性?」
「飛んだ時に一人だけ走ってるやつ見えたから、そいつっぽいな」
この競技場を出る前にすでに大勢の生徒が脱落した。
これをしでかしたのはA組 轟焦凍。個性は炎と氷を操る半冷半熱。ヒーロー科に推薦入学している実力者だ。
普段からA組に出入りするルフィは彼とは話したことはなかった。
誰も近寄らせない雰囲気を纏っており、ルフィはおろかクラスメイトとも最低限しか話さない。
そしてその彼はルフィたちよりはるか前方で入試のときに現れた超大型の仮装敵を一瞬のうちに冷却し、殲滅する。
「ふん、どうせならもっとマシなもん用意してもらいたいもんだ」
入試時受験者があれほど苦戦した超大型敵を大した労力を使わず轟は第一関門・仮装敵を突破した。
後続にルフィ同様、轟の冷却を回避したA組面々がそれに続く。
「スゲーーーーーな!!!一瞬でぶっ倒した!あんなやつがいたなんてワクワクしてきたなぁー!!」
「んじゃコビー!おれは先頭へ行ってくるぞ!お前も早く来いよ!」DASH!!
「う・・うん」
轟の実力を見て、早く行かないと追いつけないと思ったルフィは個性を使って風を切りながらトップへ目指す。
(・・・すごすぎる・・・次元が違・・)
(イヤイヤ!!他と比べるな!自分に力がないのは、わかってることだ!)
(僕は僕のできる最大限を出すんだ!!)
コビーは一度頭を冷静にし、仮装敵相手をうまくさばいて一つ目の障害を通過した。
事務所で鍛えた対人格闘が身についているのがよくわかる。
障害物競走の総距離は8キロに及ぶ、障害を早く通過することと同様に足の速さ・スタミナが問われる。
幼い頃から悪魔の体力訓練を受けてきたルフィは他の生徒とは比べものにならないスピードでグングンと猛進し、二つ目の障害物を進む上位グループまであっという間に到達した。
第二関門綱渡り。崖っぷちに繋がれたロープを伝い、落ちてはただではすまないので生徒は慎重に渡る。
しかし腕が伸びるルフィはこれを難なくクリアしていき、先にいた飯田たちを抜き去った。
「く、スピードの個性であるのに追い抜かれるとは・・!!負けんぞー!!」BROOOOOWWW!!
スピード系個性「エンジン」を持つ飯田は負けじと凄まじいスピードで進んでいくが、彼が綱を渡るさまはとんでもなくダサい。
『さぁさぁさぁ!!!!驚きのスタートからA組轟がトップを独走!それを追ってこれまたA組爆豪!爆破の個性を持つこいつは崖なんざ関係ねぇとばかり空中を爆進!!』
『こいつら二人がトップ争いかと思われたが、しかぁし!!雄英高校が隠し持った伏兵の登場だ!』
「とらえた!」DON!
『普通科!!モンキー・D・ルフィ!!!!』YEAHHHHHH!!!!!!
ルフィはとうとう2位の爆豪を捉える。一時は数百メートル以上離されていたことから異常なまでのスピードである。
先ほどまでいなかった背後に感じる存在を爆豪は確認した。
「てめえクソゴム!?いつの間に俺の後ろに」
「悪りぃけどバクゴー先行かせてもらうぞ!イッシッシ!」
「アアン!!舐めた事言ってんじゃねぇぞ雑魚が!!」
ルフィに追いつかれた爆豪はさらに火力を上げ速度を増したが、ルフィとの差は開かない。
邪魔くさそうな顔した爆豪は最後の崖を渡りきる時に体を反転して、崖を飛び越えるため腕を伸ばし崖の端を掴んでいたルフィの手の周辺を爆破させた。
「アチィ!!??」
ルフィは爆発の熱と崖の一部が破損したことで、飛んでいる途中で止まってしまった。
なんとかロープを掴み落ちずに済んだが、爆豪にその間随分と距離が空けられてしまう。
「ザマァ!!」
とてもヒーロー候補生とは思えない笑みを見せて爆豪は再び爆進した。
『なんと爆豪がルフィを妨害!!しかも渡りきる直前の嫌らしいタイミングだ!!ミッドナイト!!これはアリかよ!?』
「テクニカルなのでアリ!!!」
ピシャリと淫猥な鞭を振ったミッドナイトは妨害行為をした爆豪を技術的に評価できるとし、判定はノープログレム。
爆豪は爆破を最小限にとどめ、ギリギリ熱がルフィの手に届くよう調整したことで、禁止されている直接的な攻撃を避けたのだ。
あんな性格なくせにこんなみみっちいことができるのも爆豪の特徴だ。
「くっそー やるなアイツ!!」
「追いついたぞルフィ君!!」
そうこうしている隙に飯田や他の上位グループがルフィに追いついてきた。
先ほど同様、轟と爆豪のトップ争いに戻ってしまったが、こんなことではルフィが起こす波乱は止められない。
ライバルとの戦いに笑みを浮かばせ、彼はトップを再び目指す。
コビーは上位集団から遅れて綱渡りに挑戦していた。
彼も悪魔の訓練を受けて比較的体力がついたので中位グループに食いついていけている。
(これは体力勝負のとこがあるからなんとかなってるけど、最後の障害がどうなってるかわからない以上それまでにもっと順位を上げてないと)
コビーと同じことを考えていたのは、少し前にいる緑谷だった。
彼もこれまで個性を使っている様子はない。
しかし入試の逸話やヒーロー科の授業の映像を見る限り凄まじいパワーを持っているはずだが、腕が折れてしまうリスキーなため温存しているのだろうか。
個性を使わず上位に食い込むことに頭を働せていた。
控え室でモニターでその様を見つめるオールマイトはハラハラしていた。
手を口に当てて緑谷を心配をしている。これが女の子だったらすごく可愛いのだが、残念!気味悪い。
というのも普段の筋骨隆々な姿ではなく、骸骨のようなやつれた姿だったから余計だ。
どうにも彼は緑谷に対して特別な感情があるに見える。まさかとは思うがアッチではないだろうな・・・。
「頼むぞぅ・・第一競技で落ちないでくれよ。君がキタってとこを見せてくれ!」
モニターの画面が変わると、トップ争いは激しいせめぎ合いに発展していた。
強力な衝撃を生む地雷に注意、第三関門・地雷地獄。
ここにいち早く進んだ轟であったが、地雷を避けるために時間をロスしていた。そこに飛行能力がある爆豪がまたもや関係ないとばかりに戦況をひっくり返しにきた。
しかしこうして二人が前に行かせまいとしている間に、後続グループが追いついてきた。
その先頭のルフィが面白いこと思いついたとルート脇の木へ向かう。
「何をするつもりだ?」
飯田は疑問に思うが、自分は正規ルートの地雷原を慎重かつ素早く進んでいく。
それとともにB組の面々も続く。
その中の一人、ルフィとは仲がいい拳藤一佳は地雷以上にルフィに注意している。
(な〜んかあいつってやらかしてくる感じするんだよな〜)
地雷原で皆足取りが重くなってしまい、距離的には先頭から中位グループにあまり差がない状態になった。
コビーと緑谷も地雷原へ到着した。
コビーは迷わず前に進んだが、トップを目指す緑谷はこのままではダメだと作戦を考えた。
すると、背に抱えていた仮装敵の板のようなパーツを使って埋まった地雷をかき集める。
これで一発逆転を狙う気だ。
「はっ・・はっ・・この半分やろう!しつけえな!」
少し息を切らす爆豪であったが、彼の爆破の元は彼が出す汗が揮発材となっているため体を動かすほど真価を発揮してくる。そんな彼に轟も手を焼いていた。
(ちっ、スロースターターか・・・攻撃できりゃ楽なんだが・・・)
もはやトップはこの二人に絞られたかと観客は思ったが、後方から高速の飛行物が飛んでくる。
「「!?」」
飯田たちと別れルフィは脇にある2本の木の幹に手をかける。
何かを企んでいるルフィがやることに、碌なことは起きない。
「しっしっし!!これやるのもサンパウロにいたとき以来か!」
大きくバックステップを踏み込み、10メートルは伸びた腕はさながら弓の弦のようにしなる。
「ゴムゴムの〜〜・・・」
「ロケットーーーーーー!!!!」BAN!!!
サンパウロでは海に飛び込む時によく使った飛行方法だ。
伸びた腕の反発を利用してルフィは超高速の弾丸となって先頭の二人を強襲した。
・・・そう強襲したのだ。
目測を誤り、追い越すつもりがルフィは轟・爆豪に突っ込んでいった。
「「は!?」」
ドゴゥと吹っ飛ばされた二人とルフィはめちゃくちゃ地面を抉り、その際彼らの下敷きになった数十個の地雷は・・・
・・・・・・大爆発した。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!
「「「ぬああああああああああ!!!?????」」」
『『「「「「えええええええええええええええええええ!!!!!???????」」」」』』
思わず耳をつんざく大爆発の轟音と3人の絶叫。そして他の競技者と観客全員が驚愕の声を響かした。