ストライクウィッチーズ~愛の夢~   作:プレリュード

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第11話 すおむす

 スオムス基地は全体的に人が多い。501と502という2つの統合戦闘航空団しか見たことがないため、他に比べる基準がないけれど、この2つよりは人員に余裕があるようだ。

 

 事実として墜落してしまった航空ウィッチ回収用の陸戦ウィッチの人員がいる。これはふたつの統合戦闘航空団にも見られなかった。

 

 人が多ければ、賑やかになる。それは施設にいたころも同じ。人が多ければいろんな音が出る。だから騒がしい。もちろん、楽しげな騒がしさは見ていて楽しいので私は嫌じゃない。

 

 そこの輪へ入っていくことはしないけれど。いつまでたっても私の対人恐怖症は治らない。昔よりもマシになったとはいえ、いきなり見ず知らずの中へ割って入っていくことは難しいことだった。

 

 でも私は端っこにいることは嫌いじゃない。むしろひとりでのんびりとしているのが好きだ。一人のときはピアノを弾くことが好きな私だけど、ここにはピアノがないためなにかをするわけでもなくぼんやりと考えに没頭することにした。

 

 思えば移動ばかりしている。ガリア基地からスオムス基地に。そしてペテルブルクに行ってまたスオムス基地へ。その途中で502と大型ネウロイとの戦闘を盗聴したりしたけれど、おおむね平和に移動ができたと思う。いきなり雁淵さんが走り出した時はびっくりしたけれど。

 

 大型ネウロイとの戦闘なんてそうぽんぽんと簡単に起きるものではないと思っていたけれど、まさか2回もこんな短期間で遭遇するとは思わなかった。やっぱりネウロイはこの世界にかなりいるらしい。

 

 ここスオムスもかなりの激戦区のようでしょっちゅうネウロイと戦闘している。けれど、常に戦っているわけではない。

 

 警報が鳴らない時は和気藹々としたもの。

 

「ああ! またねーちゃんヴィーナで昼間から飲んだくれてるな!」

 

「はっはっは! まだまだだな妹よ! これは水! ただ水を飲んでいるだけだ!」

 

「うそつけ! うわっ、酒臭い! やっぱりヴィーナだ! アルコール度数35%を水とは言わないからな!」

 

 ……和気藹々と、したもの。うん……。

 

 ちなみにヴィーナというのはウォッカの種類のこと。そしてエイラが「ねーちゃん」と呼ぶアウロラさんはエイラの実姉ということになる。

 

 姉妹喧嘩、というほどのものではないのだろう。だから和気藹々という表現は間違っていない、はず。それにふたりとも本気で喧嘩しているわけじゃないのはすぐにわかる。

 

 だから安心して私も見ていられた。エイラにお姉さんがいたのは初耳だったけれど、仲はとてもいいみたいだ。

 

 エイラは完全にからかわれているけれど、きっとそれが姉妹間のコミュニケーションなんだろう。姉妹はおろか、兄弟といえるものもいない私だからそういった関係はよくわからないけれど、エイラとアウロラさんはお互いのことを大切に思っているということはわかった。

 

「ほれほれ、イッルも飲んでみろ!」

 

「未成年に飲まそうとすんなぁー!」

 

「ふふっ」

 

 ちょっとおかしくなってきた。口元を隠すために手をあてて笑うと、その声が聞こえたのかエイラとアウロラさんがこちらを向いた。

 

「サーニャぁ……見てないで何とかしてくれよ」

 

「えっと、でも……」

 

「まあ、こっちにおいで。私がいっぱい奢ってやるよ!」

 

「私が飲まないからといってサーニャに飲まそうとすんなぁー!」

 

 大またにずんずんと酒瓶を片手に近づいてくるアウロラさんにしがみつく形でエイラがずるずると引きづられて来る。ほんのりとアウロラさんの頬が赤いのはアルコールのせいだろうか。

 

「わ、私は未成年ですから……」

 

「ふははは、未成年が水を飲んで何が悪い! ほれほれ!」

 

「いーかげんにしろよねえちゃん! サーニャに絡むなぁー!」

 

 自由奔放だなあ、というのが私のアウロラさんに対する評価だ。口元が笑っているのは完全に妹をおちょくって遊んでいる確かな証拠。

 

 さすがにお酒はサーニャの体である都合上、断っておかなくてはいけない。前だったらちょっともらっていたかもしれないけれど、サーニャの体がお酒に強いかわからないため下手な飲酒は避けた方がいい。

 

「すみません、まだお酒は……」

 

「何を言う! 私がそれくらいのころはぐいぐいとだな!」

 

「それ、ねーちゃんだけだかんな……」

 

 エイラが胡乱な目つきで呆れたようにつぶやく。だけど正直、私から言わせて貰うのならどっちもどっちだと思う。

 

 もちろんエイラが酒乱というつもりはない。だが変わっているという点ではどっちもどっちだ。変わっている、という表現は適切でないかもしれない。うまい言葉が思い浮かばないけれど、どれくらい「ぶっ飛んでいるか」という度合いにおいて似ていると思う。

 

 聞いたところによるとアウロラさんはたったひとりで無数のネウロイと渡り合い、撃退したほどの猛者らしい。一方でエイラはシールドを必要とせず、固有魔法の未来予知でネウロイのビームをことごとく回避してしまえるスーパーエース。

 

 この姉妹はいったいどういう育ち方をしてきたのか気になるところだった。

 

「ったく、いっつもいっつも飲んだくれてばっかり……」

 

「おお、わが妹はずいぶんと辛辣だなあ。お姉ちゃんは悲しいよ。あんなに可愛らしかった妹が……」

 

「んあ! いつのまにアルバムなんて!」

 

「サーニャ、見るだろ?」

 

 ……気になる。

 

 今でこそエイラはちょっと男っぽい口調だけれど子供のころはどんなふうだったのかすごく興味がある。というかぜひ見てみたい

 

「その顔は気になる顔だな? ほら、見てみればいい」

 

「ま、待て! サーニャ見ないでくれ!」

 

 エイラ、ごめんね。

 

 でも気になるの。子供の頃のエイラがいったいどんなふうだったのか。サーニャの小さな頃も気になるけれど、知る術がない。だからとりあえずアウロラさんがエイラを捕まえているうちにアルバムを開く。

 

「あー、あー、あー!」

 

「うるさい、イッル」

 

「ぐえええ! ちょ、ねえちゃんギブギブギブ!」

 

 姉妹仲のよさを目の前で見せ付けられながらアルバムを開く。さらにエイラの叫び声が大きくなったがアウロラさんが締め上げる力を強めるときゅうと強制的に黙らさせられた。

 

 ……わあ。

 

 え、どうしよう。すっごくかわいい!

 

 写真には幼いエイラがぽやっとした表情で写っていた。おそらくスオムス、つまりフィンランドの民族衣装だろうと思われるものを身にまとっている。

 

 他にもあどけない満面の笑顔をしたちっちゃいエイラや、姉妹が並んで写っているものもある。

 

 いいな、こういうのって。

 

 最初はちょっと興味があるから、くらいの感覚だった。でも見ているうちにだんだんと羨望の思いが湧いてきた。

 

 もしこんな姉妹がいたら楽しかったんだろうか。もしこんな家族だったら、私はどんなふうになっていたんだろうか。

 

 少し考えかけて振り払う。こうだったら、というイフを想像することは簡単だけれど、昔は変わらない。それは不毛なこと。きっとその想像は美しいけれど、どこまで行っても本物にはなれない。甘美で恍惚で、そして空虚。

 

 だから私はアルバムを閉じた。

 

「ありがとうございます、アウロラさん」

 

「ん、どうだった?」

 

「ちっちゃいエイラ、かわいかったです」

 

「うぅ……サーニャに見られた……」

 

 今まで締め上げられていたエイラがようやく解放されると、萎れた青菜のようにエイラがぐったりとへたりこんだ。

 

「かわいかったかー。そうだろう、そうだろう。じゃあ、ここでイッルの子供の頃の話でもしようか!」

 

「ちょ、ねーちゃん! やめろって!」

 

「ハッセ!」

 

「はいはい。イッル、ちょっとこっちに来ようか」

 

「ハッセ!? う、うらぎりものーー!!」

 

 パチン、とアウロラさんが指を鳴らすとどこからともなくハッセさんがやってきた。ずるずるとエイラがハッセさんに引きずられてかなり離れたところまで連れて行かれる。

 

 やっぱりハッセさんとニパさんは似ているな、と思いながら羽交い絞めにされるエイラを見守る私の肩をアウロラさんが叩いた。

 

「ちょっといいかな?」

 

「はい?」

 

「何を隠している、サーニャ・V・リトヴャク」

 

 はい、なんて軽い気持ちで返事をした私を剣呑さが孕んだアウロラさんの一言が凍りつかせた。

 

「わ、私は隠し事なんて……」

 

「戦場で生き残るコツを教えてあげよう。色眼鏡を外した自分の目を信じることだ。そして私は君がなにか隠し事をしていると思った」

 

 違うか、とアウロラさんの瞳が私に問いかける。あまりの気迫に私はただただ威圧されてしまって、口が開けない。

 

 背筋にぞくっと寒気が走る。脈拍が速くなり、口内がカラカラに渇く。

 

 肉食獣に睨まれたウサギのように動けなくなっている私をじっと見つめていたアウロラさんがなんの前触れもなく緊張を解いた。でもほっとすることができるわけもなく、私の足は竦んで棒立ちのまま。

 

「まあ、いい。君が敵でないことはわかっている。隠し事の内容はわからないが、私も(イッル)の交友関係に口を挟むほど野暮じゃないつもりだ。だが覚えておくといい。過ぎた秘密は身を滅ぼす」

 

 アウロラさんが私の肩を軽く叩く。そして私に一瞥もくれることなく去っていった。あとには膝が笑ってしまって動けない私だけ。

 

 さんざんアルコール35%のヴィーナを飲んでいたはず。それなのに酔っ払いだとはとても思えなかった。果たして酔っていたかどうかすら怪しい。

 

 ただひたすらに圧倒された。足音が遠く離れてからようやく止まっていた呼吸が意味を成すようになる。

 

 気づかれてはいない、のだろうか。たぶん気づかれていないはず。もし気づいたのなら追及しないわけがない。気まぐれそうな人だけれど、そこだけは確信できた。

 

 だから落ち着け、私。今、変に弱みを見せてしまえばそれで気づかれる可能性もある。仮にアウロラさんが追及しなくとも、ほかの人に違和感を持たれるべきじゃない。

 

 ああ、そういえば今日は私が夜間哨戒のシフトだったっけ。そんな現実逃避のために無理やり思考を切り替える。

 

 過ぎた秘密は身を滅ぼす。その一言が頭にこびり付き続けた。

 




 アウロラさんを出したかっただけ。後悔はしていない。

 オーロラの魔女を読んだんですよ。アウロラさん好き。大好き。ハッセ最高。そんなわけでちょっとでも出したかったから書いちゃいました。

 そんなわけで最新話、いかがでしたか。そろそろ話を動かしてもいい頃かな、と思っているのですがもうちょっとサーニャとエイラの回りを書きたい気もします。
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