ストライクウィッチーズ~愛の夢~   作:プレリュード

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第12話 えいら

 

 久々の夜間飛行だ。最近はペテルブルクにいたせいでなかなか飛ぶ機会がなかったけれど、スオムス基地に戻ってきた私はようやくひとりで飛ぶ機会を得た。

 

 本当にラッキーだ。アウロラさんに言われたことをひとりで考える時間が欲しかったところにちょうどひとりで夜間哨戒をすることができたのだから。

 

 私はどうするべきなんだろう。

 

 サーニャがこの体に戻ってきてくれるのが最上だ。けれどそこそこの月日が経っても戻ってくるような様子はない。反対に私が戻ればいいのかもしれないけれど、戻る方法があるなら初めからそうしている。

 

 私は戻らなくてはいけない。もともとこの世界にいたわけではない異物が混じり続けてはいけないから。

 

 けれど、どうすればいいんだろう。私にできることといえばこうしてサーニャを演じることだけだ。

 

 無理があることくらいわかってる。でも話してしまえば私もサーニャも消えてしまう。だから私は与えられたロールを延々と演じ続けるしかない。

 

 正しくないことかもしれない。でも仕方ないじゃないか。私にはこれが精一杯なんだから。

 

 どうがんばっても私もサーニャも戻れる方法が見つからない。この世界で生きていけば何か方法の糸口くらいは掴めるんじゃないかと思った。けれど未だに収穫はない。

 

 私は、どうするのが正解だったんだろう。

 

 真実を告げることも許されず、そして逃げることも許されない。そんな状況でこれ以上の行動なんてないじゃないか。

 

 ああ、だめだ。そんなことを考えたいわけじゃないのにまた言い訳ばかり考えてしまっている。

 

 もう今日はだめだ。こうなってしまったらまともに考えることなんてできない。せっかくひとりになれる機会だったのに、それをみすみす棒に振ってしまった。

 

 そしてこれを続ければほぼ確実にネガティブな方向に思考が傾いていく。いつものことだからよくわかっている。こういう時はできるかぎり楽しいことを考えないと私が潰れる。

 

 思い出せばこの世界も悪いことばかりじゃなかった。楽しいことがゼロだと言ったらそれはサーニャの周囲にいた人たちに失礼だ。

 

 いい人たちばかりだった。今までサーニャが会ったことのある人は警戒したけれど、そうでない初対面の人はさほどサーニャを演じようと必死になる必要がなかった。だからそんな人たちと話すことはとても楽しかったし、少しだけサーニャでいなくてもいい時間だった。

 

 もちろん、会ったことのある人だって話していて楽しい。アウロラさんはぞっとしたけれど、エイラと姉妹のやりとりをしている姿はとても微笑ましかった。

 

 そう、エイラだ。なんだかんだと言いつつ、ずっと一緒にいるけれど割と助かっていた。確かに私は一人でいるほうが好きだけれど、ずっとひとりでいるわけにもいかない。

 

 そんな時にエイラがいるという事実はとても助かった。この世界の知識もない私を導いてくれる存在はいないと困る。そしてエイラはお世話焼きなのかよくサーニャを気にかけている。おかげで助かったことは何度もあった。

 

 どうしてかはわからない。だけど困っている時、エイラは真っ先に助けに来てくれる。

 

 だからきっと。

 

 また、助けに来てくれるんだろうな。

 

「ネウロイが接近中。数は一です」

 

《そう。じゃあ救援を……ああ、やる気に溢れた子が出てったわ》

 

 ネウロイはまだ気づいていない。だから私はずっと一定の距離を取りつつ、様子を見続けていた。そう、変なのだ。今までと比べてはるかにネウロイのサイズが小さい。だいたいサーニャの体と変わらないくらいだ。

 

 今まで遭遇してきた相手は軒並み巨大なものばかりだった。せいぜいであった小型も大型ネウロイの子機みたいなものばかり。だから小型だけ、というのは初めてだった。

 

「サーニャぁぁぁぁぁぁ!! 無事なのかぁぁぁぁぁ!」

 

「え、エイラ。静かに」

 

「んおっと……」

 

 勢いよく、というかもう勢いしかないんじゃないかと思うくらいの速度を出したエイラが制動をかける。

 

「サーニャ、ネウロイはどこだ?」

 

「あの雲の中に……」

 

「まだ撃ってないんだな? じゃあ、先手必勝!」

 

 喝を入れるようにエイラが叫ぶと、一気に速度を上げて私の教えた雲に向かって突撃する。遅れないように私もエイラを追いかけて行く。

 

「そら、出て来い!」

 

 あぶり出すためか、エイラが雲に向かってまばらに機関銃を撃つ。撃ち出された鉛弾が雲霞を切り裂いていく。私が射程圏内に雲を納める頃には雲は散り散りになって、覆い隠していたネウロイが姿を現した。

 

「えっ……そ、そんな……」

 

 確かにネウロイは姿を現した。そしてそれはサーニャの体を同じかそれより少し大きいかくらいのサイズだった。そう、それだけなら私はなにも思わなかった。ただいつものようにサーニャの体に染み付いた動きに従ってフリーガーハマーを撃っていたはず。

 

 ネウロイが人の形さえなければ。

 

「ちくしょう、人型だって?」

 

 エイラが毒づく。けれど速度を緩めることはなく、銃撃の手はさらに激しくなっていった。

 

 今まで遭遇してきたネウロイは悉く異形のものばかり。どこか機械的で無機質なその容貌を見たところで何とも思うことはなかった。

 

 でも今回は人の形をしていた。たかだか人の形をしているだけ、と思うかもしれない。だけど私にとっては死活問題だ。

 

 人の形をしているものは撃てない。

 

「サーニャ、今だ!」

 

 エイラが追いつめたのか私のフリーガーハマーを撃つように言ってくる。だが撃てるわけがない。

 

 相手はネウロイだ。だから撃たなくちゃいけない。そう頭ではわかってる。でも理解していたところで私の指は動かない。サーニャが撃てたとしても、私が拒否している。

 

「サーニャ? どうしたんだ!」

 

 撃てるわけがない。それがネウロイであったとしても、人の形をしている。それをこの手で撃つことはできない。

 

 トリガーガードから指を外すことまではやった。けれどトリガーを引くことができない。仮にも人の形をしたものを撃つことにためらいがあった。相手が撃ってきたのならまだ撃ち返せた。しかし人型ネウロイは私たちに対して攻撃することはなく、ただ避けているだけ。つまりほとんど無抵抗。それを一方的に攻撃するなんて。

 

 それじゃあ、私の親だった人たちと同じだ。

 

 ネウロイは人類の敵。だから討たなくちゃいけない。理屈はわかるけれど、その理屈はサーニャの世界のもの。私の世界じゃない。

 

 だから私はトリガーへ指をかけられなかった。

 

「っ……来るなって!」

 

 エイラの機関銃が銃弾を人型ネウロイに向かって吐き出す。すいすいと人型ネウロイはそれを回避した。

 

「なんで当たんないんだよ!」

 

 苛立ったエイラが人型ネウロイを屠らんとマガジンを空にする勢いで連射する。固有魔法の未来予知も併用したエイラの十八番。だがそれを超えるレベルで人型ネウロイは回避行動を取っていく。

 

 ぐるりぐるりと人型ネウロイが旋回する。そして急速に私たちから離れていった。

 

「深追いするのはやめとくか……」

 

 エイラが銃口を下に向けてホバリング。ダイヤのエースが万全の状態で挑んで仕留め損ねた相手だ。迂闊に追いかけてとんだしっぺ返しを食らわないとも限らないと考えてたのだろう。

 

「帰ろう」

 

「うん……あの、ごめんなーー」

 

「謝らなくていいから。な?」

 

 それだけ言って私には有無を言わさずエイラが基地へ方向を転換させた。同じように私も向きを変えた。

 

 私のせいで逃がしてしまった。だから気まずくて基地へ帰還するまで一言もエイラとは話せなかった。

 

 緩慢な動きでストライカーから足を抜いて、フリーガーハマーをいつもの定位置に。夜間哨戒だからまだ朝焼けは顔を見せたかどうかという時間だ。誰も彼もが起きてくる時間だけど私はこれからが就寝時間。

 

 今日はエイラの部屋へ行く気が起きなかった。だから私は自分の部屋で寝ることにした。

 

 

 

 

 

 少し早めに目が覚めた。

 

 いつも早く目が覚めてしまった時は二度寝をするところだけれど、今日は睡魔が襲ってこない。2度、3度と寝返りをしてみたが眠りに落ちる様子がない時点で諦めた。

 

 もそっと起き上がって服を着る。とりあえず早いけれど夕食にしよう。ちょっと重めに取れば夜間哨戒まで持つはず。夜食をこっそり確保して夜の空で食べてみるのもいいかもしれない。

 

 そんなことを考えつつ、手早く夕食をいただいてさて何を夜食に選ぼうかと考えている時に、私の肩が叩かれた。

 

「なあ、ちょっと……時間、いいか?」

 

「ええ、エイラ。大丈夫よ」

 

 肩を叩いたのはエイラだった。こうして呼ばれるのは初めてじゃない。言われるがままにエイラに付いていくと、だんだんと人気のないところへ。そしてついに誰もいない倉庫の裏ついた。

 

「どうしたの、エイラ?」

 

 スオムスは常に寒い。だから魔法力に守られているとはいっても寒いものは寒い。だからエイラがここに私を連れてきた意図が早く聞きたかった。

 

 今回はなんだろう。結構、なんでもないことでエイラは私を呼んだりする。でもたいていはその内容が「星がきれいだった」とかそういうものばかり。だからちょっと期待していたりもした。

 

 けれど現実はまたも私の予想を裏切った。

 

 カチャン、と金属的な音が冷たく、そして小さく響いた。私の視界の先に真っ黒い何かが唐突に現れる。

 

 瞬時に私の体が凍りついた。

 

 真っ黒のそれは拳銃だった。エイラの手に握られた拳銃の銃口が私に向けられていた。

 

 エイラが感情を殺した眼で私を射貫く。

 

「お前は誰だ?」

 





はいどうも。気づけばもう2月です。早いですね。明後日は節分ですよ! みなさんは豆まきとか恵方巻きとかやりますか?

アウロラ「ほう、マメマキ……よし、来い! はははは! そらそらそらぁ! 当ててみろぉぉお!」(スコップで豆をすべて弾く)
エイラ「いや、ねーちゃん。たぶんマメマキってそういうイベントじゃないと思うぞ……」
ニパ「エホウ・マキ? よくわからないけど……んっ、おいしい!」

次回! 第一次豆まき大戦~来いよ、ニパット。豆なんて捨ててかかってこい!〜

お楽しみに!(大嘘)
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