ストライクウィッチーズ~愛の夢~   作:プレリュード

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第14話 ゆくえ

 スオムス基地には戻らない。そう決めて私は基地を飛び出した。夜間哨戒として出て行って、そのまま規定の時刻になっても戻らない。たったそれだけ。

 

 無線機はちょっと申し訳ないけど壊した。私の場所を逆探知で探られて連れ戻される、なんてことがないとも限らない。

 

 一見して無謀にも見える飛び出し。ううん、どこの誰が見ても無謀以外の言葉は思いつかないはず。かくいう私も無謀でなかったとはちょっと言いきれない。

 

 けれどなんの勝算もないわけじゃない。もしかしたら、という可能性がなければ飛び出したりなんかしない。

 

 私には『私の記憶』と一部の『サーニャの記憶』がある。その中でサーニャにゆかりが深くあって行っていない場所がひとつだけあった。

 

 サーニャの旧家だ。

 

 オストマルク、つまりオーストリアに幼少期からサーニャは住んでいた。ご両親が音楽関係のお仕事をなさっていたようなので、そのゆえもあってだと思う。

 

 とにかく、オラーシャで生まれたサーニャはオストマルクのウィーンにずっと住んでいた。ならそこに家がある。そこがおそらくサーニャの今までの生涯においていちばん長く住んでいて、いちばん思い入れのあるおうち。

 

 どうやらネウロイとの戦闘で放棄されてしまったようなのでかなり荒れていることが予想されるけれど、その場所にさえ行ければいい。私は知らなくともサーニャが知っているからウィーンにさえ到着すればたどり着けるはず。

 

 サーニャの記憶はサーニャに関連するものや人と接触することで私も認識できるようになっていた。それならば私がするべきなのは現状で認識できるサーニャの記憶を頼りに、縁のある場所を巡ること。

 

 ずっとサーニャの周りに甘え続けた。もうそろそろ自分から動いて見つけなくちゃいけない。

 

 ここからウィーンまでだとちょっとかかるかもしれない。それでも私は行かなくちゃ。

 

 途中で見つかったら台無し。だから敵味方識別装置(IFF)は切った。その他にも私の位置を辿れそうな機器類もすべて停止。

 

 幸いなことに私にはサーニャの固有魔法がある。これで周囲は常に探れるから問題はない。魔法を使いっぱなしにすることは魔法力を消耗するだろうけれど、サーニャの固有魔法は燃費がわりといいからなんとかなる、はず。

 

 ここから何日かかるだろう。道中でネウロイに遭遇すると軍関係に発見されるリスクが高まるからかなり迂回しながら行かなくちゃいけない。

 

 目指すはウィーンにあるサーニャの旧家。なんとしてもサーニャに私がなることになった原因を見つけなくては。もしも見つからなければ次はサーニャの生まれた家。それでもだめならサーニャのご両親を探す。とにかく思いつく限りでサーニャに関わりのあるものを徹底的に探そう。

 

 どうして私がサーニャになったのか。その原因を見つけるまでは帰れない。これ以上、エイラを苦しませてはだめだから。

 

 適当に選んで借りてきた機関銃をしっかりと掴み直す。そして掴み直して気づいた。

 

 これ、エイラのだ。

 

 無意識に選んでいたなんて、不思議なこともあるものだ。でもきちんと動いてくれることは知っている。エイラには悪いけれど借りていこう。

 

「ちゃんとサーニャを取り戻すから。だからそれまでお願い」

 

 そっとバレルを撫でてやると、私は前を向いた。まだまだ深夜。暁にはほど遠い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リトヴャク中尉が戦闘中行方不明(MIA)です!」

 

 その叫び声に私の体は固まった。けれど想像以上の衝撃とかはなかったし、額面通りの驚愕は作ったけど、本心はさほど驚いていなかった。

 

「まだ戦闘中とは決まっていないだろう! 通信は?」

 

「応答ありません! レーダーの反応もです!」

 

 スオムス基地内に怒号が飛び交う。レーダーに写らない? 通信に応答がない? そりゃそうだ。本気でサーニャが行方をくらまそうと思ったのなら、それくらい気を回さないわけがない。私だってそうする。それにサーニャには固有魔法がある。方角だって索敵だって機器類に頼らなくったってそれだけで事足りる。

 

「やけに落ち着いてるね、イッル」

 

「……まさか。ちょっと感覚が追いついてないんだ」

 

「それもそうか。うん、ごめんよ」

 

 咄嗟についた私の嘘は通じたようで、ハッセはすぐに引いた。私に気を使っているのかもしれない。

 

 ()()がサーニャなのか。それとも別の何かなのか。それはわからない。いや、もうどっちでもいいのかもしれない。

 

 サーニャがいなくなった。事実は変わらない。

 

「エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉。少しいいか?」

 

「……うん」

 

 やっぱり私に話を聞きに来るよな。まあ、サーニャと交友関係が深かったのは私だから至極当然だ。

 

「なぜか少尉の機関銃をリトヴャク中尉は持って行っている。心当たりは?」

 

 この聞き方ですぐにピンときた。すでにサーニャは逃亡を疑われている。そりゃ、私の機関銃なんて持っていったら当然だ。しかも無断だしな。

 

「貸したんだ。機関銃の方がフリーガーハマーと比べて取り回しがいいから」

 

 まったく。もっとそういうのはうまくやれよ。

 

 せっかく跡を消す方法は完璧にできているのに脇が甘いんだ。なんで私の機関銃を持っていっちゃうかな。変な疑いを持たれるに決まってるだろ。そこはちゃんと自分のフリーガーハマーを持っていくべきだってのにさ。

 

 ……本当に、なんでだよ。

 

「上に一言もなしに貸し借りか」

 

「なんだよ。別にいいだろ」

 

「……次は気をつけるように」

 

 たったそれだけの短い注意で私の呼び出しもどきは終わった。それ以上に言ってくることはない。存外にあっけないものだなと思うけれど、つっこまれても面倒だからよしとしよう。

 

「終わったかい、イッル?」

 

「終わったよ、ハッセ。ま、事務的って感じだな」

 

「サーニャさん、心配だね」

 

「……そう、だな」

 

 ハッセは本当に心配そうだ。私も外向きとして心配のふりはするけれど、戦闘中行方不明じゃないことはわかっているからそこまでじゃなかった。

 

 サーニャはネウロイに落とされてなんかいない。普通に生きているし、もしかしたら普通に空を飛んでいるかもしれない。

 

 ただ私たちの前から姿を消しただけだ。

 

「上はてんやわんやしてるらしいね」

 

「ナイトウィッチがいなくなったからか?」

 

 ハッセが言うところの「てんやわんや」はナイトウィッチが少ないからだろうな。夜間哨戒を専門とするウィッチは貴重だ。

 

「違う違う。サーニャさんはオラーシャ陸軍の所属でしょ? それがスオムス空軍管轄の基地でいなくなった。逃亡なのか撃墜なのか。はたまた機器類の不調による行方不明なのか。これだけで上の話し合いの席が大きく変わるからね」

 

「そういうことかよ……」

 

 どっちが有責か。それを話す場でサーニャが逃亡したのか撃墜されたのかは争点として重要視される。だからさっき私に機関銃のことを聞きに来たのかもしれない。

 

 くだらない。上のごたごたなんて私にとってはどうでもいい。

 

 サーニャの行方だってどうでもいいのかもしれない。だって私はこんなにも無関心だ。

 

 これはサーニャが選んだこと。他の人は知らなくとも私は知っている。そしてサーニャが自分の考えを持って選んだことなら私に口を出す権利なんてない。

 

 そう、口を出す権利なんてないんだ。私なんかには。

 

「ハッセ、少し用事があるから」

 

「ん、そうかい。じゃあね、イッル」

 

 たぶんハッセには嘘だとばれていた。でも追及しなかったのはわざとなんだろう。今はその気づかいがありがたかった。

 

「ごめんな、サーニャ……」

 

 私がサーニャを追い詰めた。そして私がサーニャに動かざるを得ない理由を押し付けてしまった。

 

 すべては拳銃を突きつけたあの一瞬が。

 

 結局のところ、私は引き金を引かなかった。引けなかった。けれど鉛弾なんかよりもずっとサーニャに突き刺さる弾丸の引き金を私は引いてしまった。

 

「ほんと、なにやってるんだろうな……」

 

 何もしなければ変わらなかった。サーニャは今日も控えめで穏やかに笑いながらここにいたはずなのに。

 

 私が余計なことをしたばっかりにサーニャの居場所を奪った。

 

 全部が私のせい。そう、私が悪い。そのはずなのに。

 

「なんで間違ったことはしてないと思っちゃうんだよ……!」

 

 苛立ちに任せて壁に拳を叩きつけた。びりびりと痛覚が拳から二の腕まで伝播する。

 

 サーニャが出て行く原因を作ったのは紛れもなく私だ。それは拳銃を突きつけたその日にサーニャが行方をくらましたことからもわかりきってる。

 

 確かに拳銃を突きつけたのはやりすぎだったかもしれない。だとしても、確認せずにはいられなかった。

 

 今でも靄は晴れていない。結局のところ私が「サーニャ」と呼ぶあの人物は果たしてサーニャなのか、それとも別の誰かなのか。

 

 たぶん、だから私は間違ったことをしていないと思っている。

 

 でもその一方でこうも考えてしまう。もし拳銃なんて持ち出さなければ。もし浮かんだ疑念を胸にそっとしまってさえおけば。そうすれば何も変わらずに済んだんじゃないか。

 

 そんなふたつのまったく相容れない考えが私の中で同居していた。どっちが正しかったのか、それともどちらも間違っていたのか。

 

「どうすりゃいいんだよ……」

 

 つぶやいてはみるけれど、どうするべきかなんてわかりきってる。私は口をつぐんでしゃべらない。下手なことを言えばサーニャの立場が悪くなる。

 

 だから黙って待つだけしかできない。きっとサーニャは戻ってきてくれる。そう信じて。

 




 というわけで初めてエイラの視点のシーンを入れてみました。違和感とか大丈夫ですかね?

 ここから先はエイラと私の視点でお送りいたします。今まで一緒にいたふたりがついに離れ離れに!

 もうちょっと続く愛の夢、どうぞ最後までお楽しみいただけでば幸いです!
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