ストライクウィッチーズ~愛の夢~   作:プレリュード

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第15話 かくご/カクゴ

 ウィーンを目指してすでに3日が過ぎた。まだまだ目的地には着きそうにない。

 

 たぶん、一直線にウィーンを目指していたらきっとこんなにも時間は必要としなかった。だけど私は時間をかけなくてはいけない理由がある。

 

 まず、ネウロイと戦闘するわけにはいかなかった。そのためにネウロイと遭遇することを避けた。ネウロイとの戦闘に慣れていない私が交戦するべきじゃないという理由がひとつ。

 

 そしてもうひとつは他のウィッチと会ってしまうかもしれないこと。もしウィッチと会ってしまったら、スオムス基地に連れ戻されてしまうかもしれない。連れ戻されてしまったら、サーニャを探す旅が続けられなくなってしまう。だから迂闊にウィッチと話すことはできないし、軍関係の施設や人に近づくわけにもいかない。

 

 普通ならレーダーを切った状態でネウロイやウィッチの接近に気づくことはできない。でも私にはサーニャの固有魔法がある。

 

 魔導波でネウロイやウィッチの接近は察知できる。そして少しでも反応があったらその場からすぐに離れる。そのたびに迂回路を取らなくちゃいけなかったけれど、仕方がない。

 

 どちらかといえばウィッチよりネウロイの方が遭遇回数は多かった。というか哨戒中のウィッチを捉えた一回を除いて、あとはすべてネウロイばかりだった。

 

 そのたびに迂回してを続けたせいでウィーンへの道のりはまだまだある。今の私の位置はだいたい把握しているけれど、用意してきた地図に照らし合わせても、もうちょっと先。

 

 だからもうしばらく空の旅は続く。たまに地上に降りて休息を取っているからずっと飛びっぱなしというわけではないけれど。空を飛ぶことが楽しくてもさすがにずっと飛んでいるのでは疲れてしまう。長距離の飛行になることはわかっていたから、ちゃんと休みを入れて居眠り運転ならぬ居眠り飛行だけはやらないように。

 

 今さらになって無謀だったと強く思い始めた。だけど引き返すつもりはない。引き返してサーニャが取り戻せるのなら喜んで戻るけれど、そんなわけはないことくらいわかっている。

 

 もう引き返せない。私に示されている道はまっすぐに進むだけ。戻ることも停滞も許されない。

 

 けれどそれを覚悟した上で私は単身で基地を飛び出している。

 

 ただひたすらに前へ。とにかくどんなものでもいいからサーニャを取り戻す手がかりを。それだけを求めて私は旅を始めた。ならその終わりはサーニャがこの体に戻ること。それ以外はありえない。

 

 サーニャを取り戻す。そのためならばなんだってやる。いや、私はやらなくてはいけない。サーニャの体に入ってしまった者の責任として。サーニャの体を間借りしている身として。

 

 絶対にサーニャを取り戻してみせる。そのためにまずはウィーンにあるサーニャの旧家へ。サーニャの旧家で取り戻すことができなくとも、なにか手がかりくらいは見つけてみせる。それがたとえどんなに小さなものだったとしても、せめて次の目的地に繋がるものを。

 

「しばらくは、よろしくね」

 

 ストライカーに話しかけても返事をしてくれるわけじゃない。そんなことはわかっているけれど、長い付き合いになりそうだから労わる気持ちで話しかけた。

 

 一直線にウィーンへ向かいたいところだけれど、慎重には慎重を期して遠回り。時間はかかるかもしれないけれど、途中でウィッチやネウロイと会ってしまうよりはずっといい。

 

 あと3日はどれだけうまくいってもかかると思う。目測だけれど、地図で見た感じスオムスからウィーンまでまだ半分行ったか行ってないかくらい。だから最短でも3日。

 

 でもきっともうちょっとかかるはず。ここまではまだネウロイの少ない地域だったけれど、この先はネウロイ勢力圏内に踏み込むことになる。ネウロイの数はもっと増えることになるだろうし、もっと迂回を余儀なくされると思う。運が悪ければ戦闘も避けられないかもしれない。

 

 できれば戦いたくないな、というのが私の本心。サーニャが手だれだったとしても私はぜんぜん戦闘という行為に慣れてない。もしも戦闘になって2体目のネウロイが来た、なんてことがあったらサーニャを探すどころか撃墜すらもありえてしまう。それでは本末転倒だ。

 

 こればっかりは常にサーニャの固有魔法に気を使って警戒を続けるしかない。なにか反応を返す物体があったらすぐに方向転換。そうでもしなければきっとネウロイに襲われる。

 

 だけど固有魔法を常時発動させつつ、ストライカーで飛び続けるなんてことをしたら、すぐに魔力が尽きてしまう。だからきちんと休憩は取らなくちゃいけないし、場合によっては眠らなくちゃいけない。でも、一口に休むといってもネウロイに襲われる可能性を孕んだ状態ではゆっくり休むこともできない。

 

 とにかく身を隠して薄く固有魔法の魔導波で周囲警戒を怠らない。ここまでやってようやく。でも休まないとウィーンまで辿り着けない。

 

 まだまだ私の旅は長くなりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3日過ぎた。だけど私の元にサーニャについての情報はまったくと言っていいくらい来なかった。どうやら捜索隊を出そうかという話までは行ったようだけれど、サーニャがどこへ向かったのかわからないから、どこへ出せばいいかもわからないまま停滞しているらしい。

 

 たぶん、考えられる候補はすでに潰した後だ。サーニャが行きそうだと思われる場所としてぱっと思いつくのは最近いたペテルブルク基地だろうか。でも成果はないようだし、ペテルブルクにはいないんだろう。

 

 どこ行こうとしてんだよ、サーニャ。

 

 元ストライクウィッチーズのところにはすでに連絡が回ったと見ていいはず。でもなんの報せもないってことはミーナ中佐たちのいるサントロン基地も、リーネやツンツンメガネのところにもいない。ロマーニャのシャーリーやルッキーニもたぶん外れ。扶桑の宮藤や少佐んとこは遠すぎるから論外。

 

 そうなると本当にどこを目指してサーニャが飛び出したのかわからない。サーニャはなんのあてもなく飛び出すようなタイプじゃない。追い詰めておいてどの口がって我ながら思うけれど、サーニャは何か考えを持って行動している。

 

「ま、それがわかんないんじゃ意味ないよな……」

 

 わかれば苦労していない。きっとこんな軋轢を生むようなこともなかった。

 

 悔いても仕方ないことだと理解していても後悔してしまうのは浅ましいとしか思えなかった。

 

「よ、妹よ。辛気臭い顔をしてるじゃないかないか」

 

「……悪いけど今はちょっとねーちゃんの相手するのはパスな」

 

「おっと、イッルは冷たいね。いや、拗ねてるね、か」

 

 ぐいぐいっとねーちゃんがヴィーナの瓶を傾けてあおる。いっつも飲んでよく飽きないな、ほんとに。そんなことを片隅でぼんやりと考える。

 

「イッルも飲むか?」

 

「だから未成年に飲ますなって」

 

「別に変なことでもないだろう。寒い時は軽くアルコールを入れる。子供でもすることだ」

 

 確かにスオムスは寒い。だからちょっとキツめのアルコール飲料を私も体を温める目的で飲んだことは何度もある。もちろん量は飲まないけれど、ねーちゃんの言う通りで子供でも酒は飲むこともある。

 

 でも今はとてもじゃないけれど、アルコールを摂取したいとは思えなかった。

 

「気分じゃないんだ」

 

「ああ、知ってる。いつまでガキみたいに不貞腐れてるつもりだとおちょくりに来たんだからな」

 

「飲みの肴になってなによりだよ」

 

「……本当につまらなくなったな、イッル」

 

 キュポン、とねーちゃんがヴィーナの瓶から口を離しつつ、私を目線で射抜く。この程度で気圧されたりはしないから、私も負けじとにらみ返した。

 

「いつまでサーニャのことでいじけるつもりだ?」

 

「いじけてなんかいない」

 

「嘘は悪いものじゃないが、私は自分を殺すための嘘が大嫌いなんだ。イッル、その嘘はどっちだ? 別に私に言えというつもりはないさ。だから自分に突きつけろ」

 

 どっちだ、か。そんなのわかりきっているんだ。だけど言葉にすることがいやだ。言葉という形にしたくない。

 

「わかっているんだろ、イッル。ごまかしは長く続かない。それが自分を偽るものならなおさら」

 

 ああ、まったく。その通りだよ、ねーちゃん。

 

 確かに長く続かなかった。私も、そしてサーニャも。

 

 けどもう、どうだっていい。サーニャが本物かどうかなんて悩まなくてもよかった。変わらないことを当たり前と思っていた。だけどサーニャだって人間だ。何かのきっかけで変わることもあるかもしれない。

 

 それに変わったところでサーニャはサーニャだ。私は今のサーニャがキライなわけじゃない。なら別になんだっていい。ただサーニャがいてくれれば。

 

 これでお別れなんて認めるもんか。

 

「ねーちゃん、それちょっともらうからな」

 

 ヴィーナの瓶をねーちゃんの手からひったくるようにして奪うとぐいっと飲んだ。喉元から胃の腑まで焼けるような感覚が落ちていく。

 

「さすが我が妹。いい飲みっぷりだ!」

 

「勘違いすんなよ。別に酒なんて好きじゃないからな」

 

 手の甲でぐいっと口元を拭いながら押し付けるようにヴィーナを突き返す。一口でこんなものは十分だ。それに酔ってなんかいられない。

 

「さて、妹よ。お姉ちゃんの出番は?」

 

「あるわけないだろ。もう終わったよ。こっから先は私の出番だ」

 

「そうか。じゃあやってみろ。手は出さないから」

 

「出されてたまるもんか! これは私がやるんだ」

 

 べっと舌を出してねーちゃんに背を向ける。背後で小さく笑ったような声がした。

 

 見てろよ。私だってエースだ。背中は押されたけれど、それ以上は必要ない。

 

 どんなことがあろうと私はサーニャに話を聞きに行く。言わなきゃわからないし、言わなきゃ伝わらない。だから私がどう思っているか伝えるんだ。ちゃんと顔を合わせて。

 

 サーニャが残していったフリーガーハマーに手を触れた。サーニャはどこにいるか。どこへ向かっているか。

 

「ま、だめで元々だっ!」

 

 えいやっと意識を集中。同時に固有魔法を発動した。

 

 未来予知。これがどこまで通じるかわからない。相手の位置や行動が予知できるこの魔法でサーニャを探ろうとしたって、数秒先では情報として心もとないし、なにより対象が目の前にいない状況下で発動したのは初めてだ。

 

 正直に言って固有魔法がうまくいく自信なんてまったくなかった。今まで挑戦したことはなかったことだし、対象が目の前にいないから見たい未来の固定化が厳しい。

 

 けれど、視えた。

 

 なぜか数秒先の近未来だけではなくて数日後までが。

 

「ッ!」

 

 いきなり大量の情報を頭に叩き込まれたせいで、無理が祟ったのか猛烈な痛みが走った。だけど、そんな痛覚が陳腐なものに思えるくらい私が視た未来は衝撃的だった。

 

 サーニャの行く先はウィーンだとわかった。道中までは急激に詰め込まれた情報量に頭が付いてこれなかったせいではっきりとわからないけれど、目的地がわかったのは大きい。

 

 でもそれ以上に私が衝撃を受けたのは。

 

「サーニャが危ない!」

 

 サーニャがウィーンの旧市街地でたったひとり、ネウロイに取り囲まれている映像だった。

 

 だからなんだろうか。私の中で覚悟が固まった。

 

「サーニャを助けるんだ。絶対に!」

 




 さて、そんなこんなでまたしてもサーニャとエイラの視点からお送りいたしました。

 うだうだ日常を書いていたいところでしたが、間延びしそうですし話を動かすべきかなあ、と。

 ああー、アウロラさん好き。アウロラさんのイケメン女子感ほんとうに好き。

 いっぱいしゅき。
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