ストライクウィッチーズ~愛の夢~   作:プレリュード

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第18話 さーにゃ

 ビームが体を掠める。サーニャの感覚に身を委ねてシールドを張って衝撃をいなすとロール。

 

 トリガーガードから外した人差し指を引くと、エイラの機関銃から銃弾が私に向かってビームを放ったネウロイに土砂降りがごとく降り注ぐ。

 

 そのうちの何発かがコアを捉えたらしく、ネウロイが爆散した。

 

「はあっ、はあっ……」

 

 一体、これでいくつめだろう。こうやって交戦しては逃げようとするのだけれど、すぐに別の個体が攻撃してくるから対応せざるを得ない。

 

 体感ではかなり長い間、ずっと戦っているような気がする。でもきっとまだたいした時間は流れていないんだろう。

 

 撃破した隙を狙って離脱を試みる。だけど、またしても私の進路を塞ぐようにネウロイが立ちはだかり、ビームを放つ。

 

「っあぅ……」

 

 急いでシールドを張って一瞬だけ受けるとピッチアップしてビームの軌道から外れる。直撃をシールドで防ぎ続けたら魔力がもたないし、私がもたない。

 

「来ないで」

 

 がむしゃらに機関銃を掃射するけれど、私の腕を嘲笑うようにネウロイは回避した。

 

 サーニャの固有魔法をフルで使用することによって敵の位置は見えなくとも把握できる。でも倒せるかどうかは別問題。

 

 数体は仕留められたけれど、そのために何発の弾を無駄にしたのか。すでにマガジンが2つも空になっていることが私の腕の未熟さを教えてくれている。

 

「あぐっ」

 

 幾条ものビームが飛来し、急いで展開したシールドで受け止める。1発でも押し返されるのに、同時に何発もきたのだからたまらない。

 

 逃げ道を。とにかく退路を確保して逃げないと。このままやっても残弾を浪費し続けるだけ。たぶん、残弾をすべて使ってもこの場にいるネウロイの半分も落とす事はできない。

 

 弾が切れたら次に切れるのはなんだろう。私の魔力? それとも命? どちらも遠慮したいけれど、その手段が私にない。

 

 じりじりと死の袋小路へと追い込まれていくようだ。打てる手を次第に奪われていき、最後にはなす術がなくなっていく。

 

 湧き上がる焦燥感と恐怖をサーニャの体に染み付いた反射的な衝動に従って動き回ることで塗りつぶす。むちゃくちゃに飛び回って狙いをつけられないようにする。

 

「ーーーーーーーーーー!」

 

 ネウロイの鳴き声、とでも言うのだろうか。甲高い音がネウロイから発されて私の鼓膜を揺らした。咄嗟に振り向く私の視界がネウロイの発する紅の光で覆われる。

 

 怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い。違う、戦え。でもどうやって?

 

 いやだ。死にたくない。死にたくない死にたくない死にたくない。

 

 願ったところでなにも状況は変わらない。ネウロイはビームを放つ直前で、私に回避する余裕はない。

 

 急いでシールドを張ろうと構える。けれど、反対側からも同時にビームが私を挟み込むようにして放たれたようだ。両側からの衝撃が私を押し潰しにかかる。

 

「う……っぁぐ……」

 

 奥歯を食いしばって両側のビームを受け止めるため展開した2枚のシールドを維持する。けれどじりじりと押し込まれて肘が曲がっていく。

 

 シールドを解除すればビームに焼かれて私は死ぬ。でも解除しなくても自分のシールドに押し潰されて死ぬ。

 

 どう転んでも逃げようがないのなら、いっそ苦しまずに済むビームで焼かれる方を選ぼうか。時間をかけてプレスされていくより、一瞬で焼き尽くされた方が楽なはず。

 

 張っていた肩肘を解いて、シールドへ注ぎ込んでいた魔力を減らしていく。ガリガリとネウロイのビームが硬度の足りなくなったシールドを削り始めた。

 

 ごめんなさい。ああ、もう少しうまくやれればよかったのに。

 

 やっぱり、私はーーーー

 

「さぁぁぁぁぁぁにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 私の体が上空から勢いよく降下してきた何かに掴まれて急速に連れ去られた。さっきまで私がいた場所でネウロイのビーム同士が衝突しているところが後ろに見える。

 

 どうして。ここはウィーンでスオムスからずっと離れているのに。

 

「なんで……なんでここにいるの、エイラ?」

 

「そんなの後だ! しっかり掴まってろよ!」

 

 私を抱えたままエイラはさらに急降下。ネウロイが私とエイラの後を追いかけるように加速する。逃れるようにエイラはさらにピッチダウンを続け、ついには建物よりも高度が低くなった。

 

「エイラ、ぶつかるっ……」

 

「へへん、甘く見んなよっ」

 

 エイラが地面にぶつかる前に機首上げ。ぐい、と私の体も持ち上がって通りを低空飛行。後方でなにかがぶつかるような轟音はきっとネウロイが勢い余って地面に衝突した音だ。

 

「サーニャ、離すなよ。私も離さないから」

 

「えっ?」

 

「行くぞ!」

 

 地面から5mくらいをエイラと共に飛び続ける。後ろから複数のネウロイが追い立ててくる。ビームがいくつも飛んでくるが、エイラは振り返らないで回避していく。

 

「当たるか!」

 

 私を抱えたまま、上下左右にエイラが不規則な回避行動を取る。連続して飛んでくるビームは私とエイラを捉えられずに石畳をその熱量で溶かす。

 

 町角を右へ曲がって直進。ネウロイから放たれるビームを避けながら大通りを飛んでいく。

 

「え、エイラ! ぶつかる!」

 

 目の前にはそびえ立つ建造物たち。このまま直進すればぶつかるのに、エイラは旋回するような素振りも見せずにむしろ加速させていく。

 

「しっかり掴まってろよ!」

 

 エイラが体の向きを縦に。そのまま建物の隙間を突き進む。髪が硬質な建物を掠めて背筋がぞくりと冷えた。隙間を抜けると同時にドスン! と建物に衝撃が走ってビリビリと大気が震動する。

 

「ざまあみろ!」

 

「え、エイラ。でも……」

 

「げっ。サーニャ、上昇するぞ!」

 

 機首を上げて急上昇。直後に建物を貫通したビームがさっきまで私たちのいた場所を焼く。あと少し遅ければ私たちも焼かれたものたちの仲間入りをしていただろう。

 

 どうしてエイラは背後を一切見ることなく避けることができるのか不思議だったけれど、エイラがウィーンにいるという事実によって錯乱していた頭がようやく落ち着いてきて思い出した。エイラの固有魔法は未来予知だ。見なくても視えるのだから問題ない。

 

「まだまだぁ!」

 

 次々と間を空けずに撃ち込まれるビームをエイラが未来予知で先読みしてコースから逸れることで回避をする。機首下げをしてただでさえの低空飛行からさらに高度を下げて飛行。手を伸ばせば地面に届きそうなくらいの低空でありながらも、墜落することはなく、まるでここはエイラの庭なんじゃないかと錯覚するくらい自由自在にウィーンの街並みを飛び回る。

 

「っ! エイラ、次の角は右にして」

 

「ん? わかった」

 

 前方のT字路を右に曲がるコースで進んでいたエイラに懇願すると、エイラはあっさりと右へ進路を変える。内側の建物に衝突しないぎりぎりを進行して右折。

 

「ああ、左にネウロイいたのか……攻撃だけに未来予知を絞ってたから気づかなかった」

 

「ネウロイの場所は私が特定するわ」

 

「じゃあ攻撃コースと回避は任せろ!」

 

 聞きたいことはある。だけど今は生き残ることが優先。だから鎌首を持ち上げた疑問は追いやってストライカーの機関を吹かす。

 

「次、ライトロールな」

 

「グリッド30、12にF型ネウロイ」

 

「ピッチアップ2セコンド。それからレフトロールだ」

 

 右に旋回すると機首を一瞬だけ上げて左に旋回。すぐに離脱して別の通りに移動したおかげでネウロイのビームは的外れな方向へ。

 

「サーニャ」

 

「グリッド56、32にB型ネウロイよ。なに?」

 

「ちょっと信じてくれよな?」

 

 ぐいっとエイラが強引に右方向へ私を連れてロール。目の前に紅の光を宿したネウロイが現れる。

 

「そっちにはネウロイが……」

 

「わかってる。だからこうするんだ!」

 

 機首を上げて一気に急上昇。ずっと私を支えていた手をエイラが離して、フリーガーハマーを構えた。

 

「落ちろ!」

 

 一発のロケット弾が私たちを追いかけようと上昇を始めたネウロイの速度を殺して空中で釘付けにする。止まってしまったネウロイの胴体に後続のネウロイたちが次々と衝突していく。

 

「ハッセ! もう着いただろ!」

 

《もちろんさ、イッル! みんな、やるよ!》

 

 団子のように一ヶ所にまとまったネウロイに多方面から同時に鉛弾の応酬が降り注ぐ。動きを阻害されて鈍っていたネウロイたちは為す術もなくコアを撃ち抜かれて破片へとその身を変えた。

 

《まだいるんだね、イッル》

 

「うじゃうじゃいるぞ」

 

《いいじゃないか、うじゃうじゃ。撃墜スコアが稼げるし、スオムス一位の座も奪えるかもしれないし、ね》

 

「なら抜かれないように私も暴れるか。サーニャ、私の銃を返してもらっていいか?」

 

「あ……これ。その、ごめんなさい」

 

「気にすんなって」

 

 私が無断で借りて行った機関銃をエイラに返す。エイラが自身の機関銃をしっかりと掴んでスリングを肩にかけた。

 

「何も、言わないの?」

 

「別にいいんだ。サーニャが何を隠してるかはわからないけど、それでもサーニャがサーニャであることは変わらないんだ」

 

「でもエイラは私のことを……」

 

「そうだなー。確かにサーニャじゃないかもとは思った。でもなんだろうと私にとってはサーニャなんだ」

 

 わかるためにずいぶんと時間をかけちゃったけどな、とエイラがテレ半分、苦さ半分に笑う。

 

「ちゃちゃっと片付けて帰るか。サーニャはこっち使ってくれ」

 

 フリーガーハマーをエイラの手から受け取る。さっきまで持っていた機関銃と比べると、はるかにこちらの方が重い。でも久しぶりの重さに安堵しているサーニャがいた。

 

「さて、やるか……っと!」

 

 ストライカーの出力をあげて戦線に加わろうとしたエイラをビームが掠めて行く手を封じる。未来予知で気づいたらしいエイラは直前で制動をかけたおかげで幸いにも直撃にならずに済んだ。

 

《イッル、数が増えた。これは想定内?》

 

「私が視たのはサーニャがネウロイに囲まれてる光景までだ! 数が増えるのは知らない」

 

《なら撤退時か……っ! 全員、散開!》

 

 ハッセさんが焦った声をあげる。スオムス基地のウィッチたちが散った直後に、さっきまで彼女たちがいた場所を熱線が焼き払った。

 

《イッル、想定できるかぎりで最悪の状況だ。ある程度の増援は織り込んできたけど、この数はね》

 

「目的は果たしたから手薄なところを落として撤退、だろ。殿は私がやる」

 

《それすら許してくれるかわからないけどね》

 

 エイラの通信機越しだけれど、聞こえてくる銃声やシールドでビームを受け止めた轟音が戦闘の激しさを物語る。

 

「さあ、私を落としてみろ! やれるもんなら、な!」

 

 エイラが吼えると飛び出す。連続して放たれる幾条ものビームを最小限の動きのみで避けると銃撃。迂闊にもエイラに背を晒していたネウロイに風穴が穿たれる。

 

 やっぱりエースの称号を冠するだけあってさすがの機動だ。けれど状況は好転しない。

 

 エイラひとりだけでこの数を捌ききることができるわけじゃない。戦闘隊長であるハッセさんも奮戦しているけれど、他のウィッチたちへの指揮に忙しい。

 

 私にできることはない。魔力はまだ残っているけれど、スタミナが限界に近い。もうちょっと休めばまた動けそうだけれど、すぐには難しい。

 

「っ! サーニャ、避けろ!」

 

「えっ?」

 

 エイラの鋭い警告によってようやく私は高速で突撃してくるネウロイの存在に気づいた。固有魔法を切るんじゃなかったと後悔しても遅い。

 

 シールドを展開して受け止める。トラック同士の衝突事故もこれほどじゃないと思えるくらいの凄まじい音を撒き散らしてネウロイは弾き飛ばされた。

 

 一瞬は止められた。だけどこれは拮抗じゃない。私のシールドが耐えられなかったから急いで私が逃げたために偶然うまくいっただけ。もう一度、同じことをされたら厳しい。

 

 それを知ってか知らずか、再びネウロイが反転して私を捉えた。

 

「サーニャ!」

 

 刹那、銃声。

 

 私に向かって突撃姿勢を作ったネウロイが吹き飛ぶと、その体躯を煌めく破片に変えた。

 

 撃ったのはエイラじゃない。かといってスオムス基地のウィッチたちでもなければ、ハッセさんでもない。

 

《サーニャさん、無事かしら?》

 

 通信機に新しい声が割り込む。声の主には聞いたことのあるもの。

 

「ミーナ、中佐?」

 

偶然(・・)にも近くを哨戒していたら、偶然(・・)にも友軍がネウロイと戦闘中で、戦況を見るに苦戦していた。なので、これよりミーナ・ディートリンデ・ヴィルゲ以下5名はスオムス空軍と協力し、敵性ネウロイ群を撃滅します》

 





さあ、最終回付近あるあるの「ネームドキャラてんこもり祭り」が開催されるぞー!

皆の衆、準備はいいか! ここから後は最終回付近あるあるの連続だっ!
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