ストライクウィッチーズ~愛の夢~   作:プレリュード

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第7話 よしかちゃん

 ストライカーユニットを装着してフリーガーハマーを掴んだ。グン、と慣性力が体にかかり、私は空に飛び出した。すぐにあとを追ってエイラが隣を飛んで、少し遅れて宮藤さんが空に上がった。

 

 ひんやりとした風が肌を撫でる。夜はやっぱり肌寒い。それでも魔法のおかげか普通に飛んでいられる。

 宮藤さんが加速。くるりと横にロールすると楽しそうに笑う。

「実はね、今日は私の誕生日なんだ!」

「バカだな、お前。こういう時くらい楽しいことを優先してもいいんだぞ」

「ええっ? そ、そうかなぁ……?」

「それにしても宮藤も今日なんだな」

「私も?」

「今日はサーニャの誕生日でもあるんだ」

 そうなんだ……。そういえばカレンダーに何かマークが書かれていたけど、あれはそういう意味だったみたいだ。

 

 サーニャの誕生日。ならサーニャはまた一つ、大人になったのだろう。やっぱり私よりサーニャは年下だった。私なんかよりずっとしっかりしているし、ちゃんと人と接することができてるみたいだけど。

「へえー。サーニャちゃんも今日がお誕生日なんだ!」

「ええ。そうよ」

 本当は今の今まで知らなかったけど。珍しいこともあるものだとは思ったけれど、よく考えれば世界には何億人もいる。同じ誕生日の人くらいはいくらでもいるのは当然かもしれない。

「ねえ、宮藤さん。耳を澄ましてみて」

「えっ? ……あ、何か聞こえる! これは……ラジオ?」

「夜は空気が澄んでるから電波が通りやすいの。だからラジオの電波が拾えるのよ」

 これも最近になって気づいたばかりのこと。サーニャの固有魔法を使っているうちに電波をキャッチしているという特性に気づいた。

 

 そしてこの特性を利用すると、ラジオ放送が聞けるのだ。少しよくない利用法としては盗聴もできる。あんまりいいことだとは思えないからやりたくはないけれど。

「サーニャ。あれは秘密なんじゃなかったのか?」

「そ、そうだったの?」

 宮藤さんが素っ頓狂な声を上げる中で私も焦った。エイラとサーニャの秘密だったなんて知らなかった。そうだと知っていたら絶対に言わなかった。気づかれないように警戒しているはずなのに、どうもペースが乱される。なんとかフォローをしないといけない。

「ごめん。でも今日は特別な日だから……」

「んん……まあ、しょうがない、のか?」

 エイラが首を傾げる。完全に宮藤さんのことをだしにしたけれど、本人が気づいていないからセーフということにしよう。楽しそうに宮藤さんも空を飛びながらラジオを聞いていることだし、きっと大丈夫。

「すごいなあ。こんなこともサーニャちゃんはできるんだ!」

「ふふん。サーニャはすごいんだぞ」

「なんでエイラさんが自慢げなの……?」

 たしかに。サーニャの固有魔法の力のおかげでラジオを聞けている。これを私が誇るのはお門違いだけど、エイラが誇らしげなのも不思議だと思う。

「あれ、これラジオじゃない……?」

「ん、ホントだな。なんだこれ?」

「なんか……サーニャちゃんに似てる?」

「まさかネウロイが真似しているのか!?」

 ノイズのようなものがインカムから流れた。どこか歪な音で不規則そうでありながら一律のリズムを刻んでいるようなこれは聞いたことがある。

 

 体中がざわつく。この音は忘れるわけがない。プロペラ機を迎えに行ったときに遭遇したネウロイ。

 そう、この夜間哨戒をするきっかけになったあのネウロイだ。これを倒せばすべて片付く。

 

 ストライカーの出力をあげる。宮藤さんとエイラを置いて一気に上昇した。せっかく何日も探し続けてようやく掴んだチャンスだ。こんなことで逃がすわけにはいかない。

 

 ラジオの電波を受信するのに割いていた分の魔力もすべて索敵に回す。この眼下に広がる雲海のどこかにネウロイがいる。絶対にここで落とさなくてはいけない。

「どこ……どこにいるの…………?」

 目を凝らしたところで分厚い雲を見透かすことはできない。ひたすらに魔力を集中させて魔道波を飛ばして探す。

「っ……」

 見つけた。けれど同時にネウロイがビームを放ってきた。急いで左にロール。慣性力が負荷として体にかかるけれどもそんなことを気にかけている余裕はない。

「サーニャ!」

「サーニャちゃん!」

 ロールを繰り返してビームを避け続ける。でも魔法に集中しながら機敏に動き回ることは想像以上に難しかった。なにより魔力を索敵にすべて割いているせいでシールドがうまく展開できない。

 

 そのせいで左足のストライカーにネウロイのビームが擦った。ただ擦っただけ。それだけのはずなのにストライカーがもぎ取られて、左足が露出する。黒のストッキングは伝線してしまい、サーニャの白い足に細やかな傷かついた。

 

 ストライカーの出力が左のストライカーがなくなってしまったせいで大きく落ちた。それだけで致命傷だ。またネウロイのビームが直撃コースで飛んできたらもう避けられない。

 

 でも幸いにもフリーガーハマーは掴んだままだ。ならまだ戦える。なんとしてもあのネウロイだけは……

「バカ! 1人でどうする気だよ!」

「サーニャちゃんだけではムリだよ!」

 エイラと宮藤さんが私の隣に追いつく。再び放たれたネウロイのビームを宮藤さんが展開したシールドが弾いた。

 

 残念だけれどあのネウロイは逃がすしかない。私が焦りすぎてネウロイの攻撃に当たってしまったから撤退になってしまうだろう。このまま被弾した私がいてはエイラも宮藤さんも危ない。

 

 ぜんぶ、ぜんぶ私のせいだ。せっかくのチャンスを私の焦燥感が台無しにしてしまった。

「2人とも逃げて」

「そんなことできないよ!」

「あのネウロイはサーニャを狙ってる。サーニャを一人になんてできるもんか」

「でも……」

 私は俯いた。この状況では私は足手まといだ。

 

 だから私は悩んでいた。これは私のミス。サーニャのせいではない。2人を無事に帰さなくてはいけないのは当然だけれど、サーニャも無事に帰さなくてはいけない。

 

 でも現状において2人を帰すために確実なのは私が囮になること。2人はきっと基地に帰ったら救援を呼んでくれる。あとは私が救援到着まで逃げ切ることができればいい。

 そんなことが不可能なことくらい重々承知だけれど。

 どれだけ救援が急いだとしても2時間弱はかかる。それまで片方だけのストライカーユニットで凌ぎきれるとはとても思えない。もちろん足掻いてみるつもりだけれど苦しいのは自明だ。

「サーニャ、それ借りるぞ。宮藤、サーニャを」

「わ、わかりました!」

「え、エイラ?」

「サーニャはネウロイの位置を私に教えてくれ」

 エイラが私の手からフリーガーハマーを取ると元から持っていた短機関銃をスリングで吊ると、構える。

 

 まさかエイラはネウロイと戦うつもりなんだろうか。足手まといになってしまった私を守りながら。

「でも……」

「大丈夫。私の固有魔法は未来予知だ。あいつの攻撃は当たらないよ」

 それでも危険すぎる。そんな危ない目に合う必要なんてないよ。

 そう言おうとした。でもこの口はうまく動いてくれない。まるで石にでもなってしまったかのよう。

「あいつは1人ぼっちだけどサーニャは1人じゃないだろ? 私たちは絶対に負けないよ!」

「そうだよサーニャちゃん!」

「サーニャ! 教えてくれ。敵はどこにいるんだ」

 わからない。だから帰って。危ないから。2人とも死んじゃうかもしれないんだよ。

 そう言わなきゃいけないのに私の口は意に反して別のことを口走る。

「ベガとアルタイルを結ぶ線の中間。天の川をまっすぐに進んでる。距離は3200よ」

「こうか?」

「高いわ。射角をもう少し落として」

「これでどうだ?」

「うん、だいじょうぶ。3秒後に発射」

「3、2、1……いけ!」

 白煙が尾を引いてフリーガーハマーからロケット弾が3つ、飛び出した。それぞれが雲海に刺さり、雲を吹き飛ばして大穴を空ける。

「外れた! 次!」

「進路はそのままよ」

「こっち来んな!」

 エイラがまた2発、ロケット弾を撃った。広い範囲で爆発が起き、千々にちぎれ散る。ダメ押しでエイラがもう1発、発射するとドムッ、と雲が散った。

「だめか?」

「ううん。当たったわ」

 私の固有魔法はしっかりと捉えていた。よく目を凝らすとキラキラとネウロイの破片が飛び散る雲に混ざっている。

 

 当たった。フリーガーハマーの残弾はもうない代わりに一撃が入った。

 

 けれど安心したのもつかの間だった。破れかぶれなのか、ネウロイはビームを連射しながら私たちの方へ突っ込んできた。

「来るなって!」

 エイラが短機関銃に持ち替えて鉛弾をばら撒く。だがネウロイもやられるがままであるわけがなく、さらにビームの数を増やしながら突っ込んでくる。

 

 いくらなんでもこの数は危ない。その時、私の体が前に引っ張られた。

「やあっ!」

 私を支えながら宮藤さんがエイラの前に巨大なシールドを張った。そのシールドは連続して飛んでくるビームを弾いて内側にいる私たちがネウロイのビームに曝されることを防いだ。

「気が利くな、宮藤」

 エイラが銃撃の手を休めずに撃ち続けながら言った。宮藤さんがシールドを張ったことによってエイラは避けることを考える必要がなくなった。

「大丈夫。私たちならきっと勝てるよ!」

「それがチームだろ!」

 必死にシールドを張り続けてくれる宮藤さん。私たちにぶつかる前になんとしてもネウロイを倒そうと必死になってくれているエイラ。

 

 あのネウロイが私を狙っているのだから、エイラも宮藤さんも私を見捨てて逃げれば無事に帰ることができるくらいわかっているはず。それでも彼女たちは戦ってくれている。

 ああ、これがきっとサーニャの命の重みなんだ。

 考えが甘かった。サーニャがどれだけ多くの人に大切にされているのか私はこれっぽっちも理解していなかった。

 

 そしてどれだけ彼女たちが仲間を大事にしているのかも。きっと誰が何と言おうと彼女たちは仲間を見捨てない。本人が見捨ててと頼んだとしても、絶対に助けようとするんだろう。

 

 仲間だから。それだけでも命を懸ける理由として彼女たちにとっては十分すぎる。だから彼女たちは大空を飛ぶ。守りたいもののためにその命を燃やして。

 それがウィッチなんだ。

「芳佳ちゃん、少し貸して」

「ええっ!? サーニャちゃん!?」

 シールドを張っている宮藤さんから機関銃を取ると構えた。早くネウロイを倒さなくちゃ。その一心だけで名前を呼んだことも無意識だった。

 

 フリーガーハマーなら撃ったことはある。でも機関銃は初めてだ。でもなんとかしなくてはいけない。

 落ちて、落ちて、落ちて。

 私とエイラの機関銃から鉛弾が吐き出され、ネウロイから放たれるビームを宮藤さんが弾く。銃弾がネウロイに刺さるたびに破片がこぼれ散る。

 

 固有魔法のせいでネウロイが接近しているのが実感しやすい。けれど不思議と怖くはなかった。

 私とエイラのどちらかはわからない。でも確実にどちらかの弾がネウロイのコアを捉えた。ネウロイのコアが砕け、そしてついに破片となって飛び散った。

「やっつけた……?」

「まだ聞こえるわ」

「これ、ラジオだ。誰かがピアノを弾いてるんだ」

「これってサーニャちゃんがよく歌ってる歌だよね?」

 確かにその通りだった。私はまったく知らないのに、ついつい口をついて歌ってしまうよくわからないメロディー。それがピアノで演奏されてラジオに流れていた。

「これはサーニャの歌だよ。サーニャのお父さんがサーニャのために作ってくれた曲だろ?」

「え、ええ。そうよ」

 知らなかった。私は知らないメロディーのはずなのになんとなく口ずさんでいたけれど、この曲はサーニャのお父さまがサーニャのために作った歌らしい。

 

 その曲のピアノがラジオで流れている。広く公表された曲ではないということは演奏できる人は必然的に絞られる。

 

 1人はサーニャ。よく口ずさむ曲なら楽譜を覚えていても不思議じゃない。

 そしてもう1人はサーニャのお父さま。この曲を作った本人なら弾けないわけがない。

 サーニャは今、弾ける状況下にない。なぜなら私がサーニャの体に入ってしまっているから。

 なら誰がピアノを弾いているのか。サーニャのお父さまに決まっている。

「じゃあこの空のどこかからラジオに乗ってサーニャちゃんのお父さんの演奏がここまで届いてるんだ! すごいよ、奇跡だよ!」

「奇跡なもんか。今日はサーニャの誕生日なんだ。サーニャのことが大好きな人なら誕生日を祝うのは当たり前だろ?」

「エイラさん優しいんですね」

「んなんじゃねえよ、バカ……」

 エイラが照れて頬を染める。そんな中で片足だけになったストライカーの出力を私はあげて高度を上昇させる。

「お誕生日おめでとう、サーニャちゃん」

「あなたもでしょう、宮藤さん」

 上から見下ろすような姿勢で宮藤さんに言った。それを聞いた宮藤さんが小さく首を傾けた。

「サーニャちゃん。せっかくだから名前で呼んで。ほら、さっき呼んでくれたみたいに」

「えっ、えっと……」

「だめ、かな?」

 ここで断るのもよくない気がする。なにより彼女は私のために命を危険に晒してシールドを張ってくれた。

「お誕生日おめでとう。よ、芳佳ちゃん」

「おめでと、だな」

「……ありがとっ!」

 まだサーニャのお父さまのピアノは流れていた。演奏に乗っている女性の歌声はサーニャのお母さまだろうか。私がわからなくとも直感的にそんな気がした。

「お父さま、お母さま。ここです。ここに私はいます」

 私はいる。そしてサーニャはいない。あるのはただサーニャの体だけ。

 だから私は死ねない。

 




そんなわけで一期の6話にあたる箇所はこれにて完結です。やはり憑依もので原作の裏話をつくることは簡単ですが、まったく同じようにたどらせるのは難しいですね。どうしても元の人物と憑依した人物を差分化させなくてはいけないのに、大元のストーリーを大きく変えられないことが枷となってしまいます。

次回予告でもここらでしてみましょうか。

次回! サーニャのピアノはどうしたー?

 お楽しみに!
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