ストライクウィッチーズ~愛の夢~   作:プレリュード

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第9話 せいや

 501統合戦闘航空団は解散した。

 

 とても大きな戦いがあって、ガリアにあったネウロイの巣は消失した。そしてその結果、ネウロイと水際の防衛線を繰り広げていたガリアは解放され、ガリア戦線にストライクウィッチーズを配備しておく必要がなくなったとのこと。

 

 いちおう、私もその戦いに参加した。もちろんサーニャとして、だけれど。

 

 残念ながらというか、分相応というか私はろくに戦えていない。エイラが「右だな」、「左だな」と回避行動の指示を出してくれなかったらビームに当たっていたかもしれない。

 

 でも幸いなことに私も501のウィッチたちも大きな怪我なく戦闘は終わった。そして解散後にこうしてスオムス基地へ転属扱いになって、エイラと一緒にスオムス基地へ。

 

 正直、スオムス基地はかなり忙しかった。どうやらサーニャのようなナイトウィッチと呼ばれる夜間哨戒を専門とするウィッチはかなり数が少ないらしく、私が出ずっぱりになることも多い。

 

 けれどスオムスには優秀なウィッチが多い、という喧伝通りさほど私がネウロイとの戦闘に駆り出されることは少なかった。

 

 だから急に長期任務の話が回ってきた時は何事だろうと思ってしまった。しかもサンタのコスチュームを渡されてしまったのだからなおさら。

 

「サーニャ、だいじょうぶかー?」

 

「え、ええ。大丈夫よ」

 

 全然、大丈夫じゃない。どうしてサンタクロースの格好で空を飛ばなくてはいけないんだろう。いや、通説としてサンタは空をトナカイの引くそりで飛ぶものだけれど、私の足に装着されているストライカーユニットはトナカイじゃない。

 

 プレゼントを運ぶ、という意味ではサンタの配役は正しいのかもしれないけれど。

 

 私とエイラに渡された長期任務は輸送機を502統合戦闘航空団のあるペテルブルクまで送り届けること。確かに今日は25日、つまりクリスマス。あまり長い旅路でないことを考えると、今日のお昼過ぎくらいまでにはペテルブルグにある502統合戦闘航空団の基地には届くはず。

 

 だから補給物資がプレゼントで私とエイラがサンタクロース。クリスマスだからちょっとくらい502に小粋なことをしよう、という意図だった。

 

「ニパのことだからなー。もしかしてひとりぼっちかもしれないもんなー」

 

「そんなことない、と思うけれど……」

 

 スオムスの基地にいたみなさんもしきりにその『ニパ』さんのことをからかうようなフリをしながらとても心配していた。

 

 ……ちょっと、羨ましい。

 

 そんなふうに想ってもらえるということはそれだけニパさんが慕われているということ。補給物資だって、みなさんはあれが足りないこれが足りないと言っていろんなものを詰め込んでしまって、最後は補給物資が重量オーバーになりかけるようなことまで起きた。

 

「にしても補給物資、すごい量になったなー」

 

「いれすぎだと思う」

 

「あれやこれやと入れまくったもんな。ま、ニパへのクリスマスプレゼントだな」

 

「クリスマス……」

 

 そういえば私のいた元の世界も今頃はクリスマスだろうか。クリスマスとはいってもそんなに大層なことをした覚えはないし、残念ながら施設暮らしだった私には素敵な家族との思い出はない。

 

 別に嫌な思い出しかないわけじゃない。確かに家庭崩壊するまではいい思い出と呼べるようなものはなかったけれど、施設に入ってからはそれなりに楽しませてもらった。

 

 だからクリスマスを祝う、という気持ちは理解できているつもりだ。そう、気持ちだけなら。

 

 何がいいたいかというと、サンタの服装がとっても恥ずかしい。

 

 常々、思っていたことだけどストライカーユニットは足に装着するものであって、そしてそれはつまり丈の長い服は巻き込んでしまう恐れがあるから着ることができない。

 

 だから常にありえないくらい丈の短いスカートやワンピースを着て、太ももをかなり露出することになるわけで。

 

 ようやくサーニャの服装に慣れてきたばかりの私にコスプレとしか映らないサンタ服はかなりハードルが高かった。

 

 祝おうという気持ちはわかる。けれど恥ずかしいという感情はどうあっても私の中に居座ってしまう。

 

 今は空だからいいけれど、降りた時がちょっぴり心配だった。

 

「なあ、サーニャ」

 

「なに、エイラ?」

 

「ニパのやつ、元気にしてるかなあ」

 

 軽い調子でエイラは言っているけれど、どこか心配そうな色が滲んでいる。

 

 どんな人なんだろう、二パさんって。

 

 サーニャは会ったことがある人なのは確かだ。愛称である『ニパ』という呼び方を聞いた瞬間、フルネームがぱっと頭に思い浮かんだのがその証拠だ。

 

 でも私は知らない。だからどんな人なのかちょっぴり楽しみだ。サーニャの回りはいい人ばかり。なので話すこともけっこう楽しかったりする。

 

 もちろん、サーニャではないと気づかれないようにしなくてはならない。細心の注意を払わなければいけないけれど、なんと言うか話していて心地がいい。

 

 だから私はニパさんと会えることをけっこう楽しみにしていたりする。

 

 ……のだけれど。

 

「エイラ」

 

「どーした、サーニャ」

 

「ネウロイの反応が……」

 

「どこだ?」

 

 ネウロイ。そのたった一言でエイラの言葉に剣呑さが宿った。すばやい動きでMG42を構えると、鋭い目つきで周囲を見渡す。

 

「もう少し先。ペテルブルグ基地に接近してるわ」

 

「ちょっと急ぐか」

 

 エイラが速度を上げた。遅れてはいけないと私も少し手間取りながらストライカーの出力を上昇させた。

 

「ま、502がさっさと片付けてるかもな」

 

「でも迎撃はひとりしか上がっていないみたい」

 

「なんだって!」

 

 急に大きな声をエイラが出して、びっくりしてしまった私はあやうくフリーガーハマーを取り落としかける。そんなに驚かれても、実際にサーニャの固有魔法は大きなネウロイの反応ひとつと、ウィッチの反応がひとつ。

 

「急ごう、サーニャ!」

 

「ええ」

 

 さらにエイラが速度をあげる。今度は手間取らずに私も上げると、ペテルブルグ基地へ急ぐ。輸送機が多少、後ろに置いていかれるけれど仕方ない。とにかく今はペテルブルグ基地に接近しているネウロイの相手が優先。

 

 もし輸送機にネウロイが近づいてもサーニャの固有魔法で探知できる。すぐに戻れる範囲ならエイラに私が警告すれば大丈夫はず。

 

「あれは……ニパか?」

 

 ネウロイを視界に収めたエイラが飛び回っているウィッチを見て言った。どうしてかはわからないけれど、なぜかニパさんしか迎撃にあがっていないらしい。

 

「えいっ」

 

 先制攻撃としてネウロイに取り付いていたニパさんが離れたタイミングでサーニャの経験に身を任せてフリーガーハマーを放つ。

 

 いずれも着弾。さすがサーニャだった。私はひとりで戦っているわけじゃない。私がひとりぼっちだったら絶対にできなくとも、私の中に残っているサーニャの記憶が私の背中を押してくれる。

 

「コアかっくにん!」

 

 エイラがMG42の狙いをつける。間髪いれずに引き金を引いて鉛弾をネウロイにばら撒いた。ネウロイの装甲に弾が食い込むたびに白亜の破片が空中に舞う。

 

 ダイヤのエース。その通称に恥じない活躍ぶりでエイラがネウロイをハチの巣にしていく。もうフリーガーハマーの弾をかなり使ってしまった私は戦闘の行方を見守るのみだけれど、私の援護をエイラは必要としていないだろう。

 

 そして案の定、エイラはペテルブルグ基地に接近していたネウロイを撃破した。

 

「よー、二パ!」

 

「イッル!」

 

 顔中をほころばせながらニパさんがホバリング。エイラも同じようにホバリングするのに従って私も少し苦労しながらサーニャの体に染み付いた動きに任せてホバリング。

 

 まだ油断はできないため、サーニャの固有魔法で周囲を確認。ネウロイの反応は……ない。

 

「敵撃破確認。オールグリーン」

 

「サーニャさん!」

 

 今度は私に気づいてニパさんが嬉しそうに声を上げた。やはり顔見知り。しかも表情と声の様子からしてサーニャとは相当に親しい関係。ボロをださないように気をつけないと。

 

「どうしてここに?」

 

「えっと、サトゥルヌスのプレゼントです」

 

「いい子にしてたかー、ニパぁ?」

 

 タイミングを計ったように輸送機が降下してくる。いつのまにか基地の外に出てきていた502のメンバーたちの表情がぱあっと明るくなった。

 

 

 

 

 

 そこから後は早かった。

 

 あれよあれよという間にサトゥルヌス祭の準備は進められていった。あっという間にろうそくの灯火で格納庫は照らされ、豪華な料理が長テーブルに並ぶ。

 

  シュポン! という軽快な音と共にシャンパンの栓が開けられた。たくさんの泡が空中に飛び出してろうそくの柔らかい火を映す。きらきらと輝いて漂う泡たちはどこか幻想的だ。

 

「やー、心配してたんだよ。もしかしたらニパのやつ、502に馴染めてないんじゃないかと思ってさ」

 

 エイラがいただいた温かいお茶を飲みながら笑う。釣られて私もちょっぴり笑った。

 

「心配、ないみたいね」

 

「そーだなー」

 

 ニパさんには聞こえない場所でエイラも言うあたり、本人の目の前で言うことはちょっと気恥ずかしいものがあるんだろうか。でも心配していた、というのはあながち間違いじゃなくてスオムス基地の方々もなんだかんだと言って心配しているから補給物資をしきりに多く入れようとしたんだろう。

 

 わいわいと楽しそうな声が至るところから。カチャカチャと食器がぶつかり合い、笑顔があふれてこぼれ出す。

 

 これがサトゥルヌス祭。これがクリスマス。

 

「こういうクリスマスも悪くない、かも」

 

「なんか言ったか、サーニャ?」

 

「ううん、なんでもない」

 

 マグカップのお茶をすすった。温かいものがのど元から食道を通って胃の中でじんわりと広がった。

 

「サーニャ」

 

「なあに?」

 

「メリークリスマス」

 

 はにかみながらエイラが言った。

 

「ええ、エイラ。メリークリスマス」

 

 特に示し合わせたわけでもなく、私とエイラが笑う。いろんな人が集まって、美味しいものを食べて、たくさんのお話をする。こういう形のクリスマスは初めて。

 

 でも、けっこういいかもしれない。こんなクリスマスも。

 




お久しぶりです。ずいぶんと投稿の感覚が長くなってしまいました。

ようやっと重い腰を持ち上げて書いたクリスマス編、いかがだったでしょうか。せっかくなのでブレイブウィッチーズのサトゥルヌス祭にかけて書いてしまえ! ということでニパも登場させちゃいました。ニパかわいいですよね、ニパ。ブレイブ組の中では2番目くらいに好きです。一番はロスマン先生です。ちまっこくてかわいいと思いませんか? クルロスは至高。

次の更新も申し訳ありませんが、未定です。年内の更新は厳しそう、とだけ。来年には完結させたいなあ、と思っています。

今後の予定としてはちまちまと書いては不定期投稿をしていきたいと思っています。きちんと完結はさせますので、どうか最後までよろしくお願いします。
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