閃乱カグラ外伝 ヒーローは動く   作:智昭

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 半蔵学園保健室。
 そこには、ザリガニ怪人との激闘で怪我を負った葛城と、彼女の安静を見守る春花の姿があった。
体の安静より、今は心に心配がみらている。その理由の一つとして、葛城の変身ベルトは、春花の傀儡のてによって粉々に砕かれた。そしてもう一つ、そんな出来事を受けて頭の整理をする間もなく、春花の口から葛城の今後を左右する発言が言い放たれたのだ。


第17話 何を言っても無駄

 「ヒーローを…辞める。おい!どういう事だよ春花!説明しろ」(葛城)

 春花の目は、真剣だ。

「簡単な事よ。“次郎メモリ”を使いこなせなかったからよ」(春花)

「え?」(葛城)

 次郎メモリは、3日前に葛城が戦闘の際に使用したUSBメモリの事である。戦闘で追い込まれた結果、春花から事前に渡されていたメモリを使用。

 しかし、葛城はそれから後の記憶が全くない。

「え?い…いや~アレは、ベルトの故障か何かだろ。たまたま、ベルトの状態が悪かっただけで…」(葛城)

「ベルトは、壊れていなかったわよ。アナタは、安易な気持ちで“次郎メモリ”を使って理性を失いかけていたわ」(春花)

「え!り…理性をだと」(葛城)

 春花は、近くの椅子に座り込むと、事の重大さを話し始めた。

「あのメモリは、あくまで体の奥に眠っているチャクラを強制的に発動させる為のアイテム。むやみに使ってしまうと、意識や理性に異常を起こす危険性があるのよ」(春花)

「意識と理性に…」(葛城)

 チャクラは、忍が忍術を使う際に必要とするエネルギー源のことをいう。

 それは忍だけでなく、一般の人間の体内にも流れていると言われている。人は、それを『肉体面』と『精神面』に使い分けながら日頃生きているのだ。

 ここで春花は、保健所に設置されたホワイトボードに目をつけると、なにやら天秤の絵を描き始めた。

「簡単に説明するとしたら…アナタは自身は天秤で、その錘となっているのが『肉体面』と『精神面』のチャクラだとするわよ。ザリガニ怪人と戦って、アナタはかなりのチャクラを消費して精神面も肉体面にも偏りがみられたわ」

 ザリガニ怪人の戦いで、葛城はチャクラを多く消費する攻撃を連発するも、それでもザリガニ怪人を倒すどころか、甲羅にヒビ一つも入れなかったのだ。

 追い詰められて為す術も無くなってしまった葛城だったが、春花から預かっていた『次郎メモリ』の存在に気づいたのだ。

「次郎メモリを使ったアナタは、無理やり錘の数を増やそうとした」(春花)

天秤の『肉体面』と『精神面』の皿に、それぞれ錘を描き足した。

「こんな感じで、両サイドに錘を乗せられた本体は、(天秤)どうなると思うと?」(春花)

「天秤が……壊れちまうって事か?」(葛城)

「そう!本体が壊れたことで、行き場を失ったチャクラは、制御出来ずに体内で暴走した…ということよ」(春花)

 

 葛城は、事の重大さを理解した。『次郎メモリ』を使った事で、体内から無理やりチャクラを引き出してしまい、やがてそれを制御する天秤までも破壊。その結果、肉体面と精神面を制御出来なり、敵も味方もいない獣のごとく暴走したのである。

 春花の話によると、体を纏っていた電流が、光線の様に放たれ、その場の草木や建物は次々と焼け散った。その際に、春花は危険を顧みずボロボロになりながらも近づき、傀儡が足止めしている間に睡眠薬を使って眠らせたのだ。そして、暴走が治まった頃には、怪人もその場から姿を消したとの事だ。

 

 忍結界の効果により、表沙汰にならなかったものの、ボロボロになった2人を見た忍達は黙る事もなかった。春花の傷は半日で完治したものの、葛城は3日間寝たきりだったとの事だ。 

 

 ここで春花は、話を切り替えた。

「でも、今回の作戦で得られた物もあったわ。私達が見つけた粘液の様に、他の3チームもそれぞれ手がかりを見つけたわ」(春花)

「本当か春花!?」(葛城)

「ええ。なんせ、アナタが寝込んでからもう3日経ったのよ。今頃、みんなで怪人を探索しているか…追い詰めているかの二択ね」(春花)

 

 そう、葛城達を含む4チームは、それぞれ過去に怪人が出現した『半蔵学園裏山』『街中』『街外れ』、そして焔が怪人と遭遇した『公園』をそれぞれ探索していたのだ。

 裏山を探索した斑鳩と詠は、土蜘蛛怪人が攻撃の際に口から放出した土のトゲ。街外れを担当した飛鳥と日影は、電信柱怪人の切れた電線。街中の柳生と未来は、レジスター怪人の不発したと思われる硬貨爆弾をそれぞれ発見したのだ。そして葛城達が見つけた粘液と怪人達が使用してた謎の粉。

 これを基に情報分析を行った結果、春花は怪人の位置を探知出来る特殊な装置の開発に成功したのだ。それに伴い、忍達は作戦会議の結果新たなチーム編成を行い怪人探索を始めたのだ。そして、一番近くで葛城の闘いを目の当たりにした春花が治療係に抜擢されたのだ。

 

 「……なんだか、手をかけさせちまったな。すまない春花」(葛城)

 話を聞いた葛城は、若干照れながら春花に感謝した。そんな葛城に対し、表情は浮かず…。

「何がすまないよ!私と一緒だからよかったけど、あのままだとアナタは、結界の外で暴れていたかもしれないのよ!!」(春花)

 春花は、心の中に溜まっていた思いを吐き出した。その熱量からいかに彼女を心配していたのかが伝わってくる。それほど、次郎メモリは危険なアイテムなのだということを改めて心に染みた。

 ここで春花は、再び話を切り替え始めた。

「あと…もう一つ気になっているんだけど。あなた、首領パッチさんを本当に仲間だと思っているの?」(春花)

 作戦に同行していたのは、忍達だけではない。葛城の提案で、過去に一緒に怪人を倒したキングオブハジケリストの首領パッチも同行した。しかし、途中で敵側から送り込まれた猫又軍団の手により足止めをくらい、首領パッチは意を決して己のノリで猫又を引き付けたのだ。その際に葛城は、本人の相談もナシに、首領パッチを置き去りにしてその場から逃げたのだった。

 どうやら春花は、この行動に対し戦闘中も気にかけていたそうだ。

「お前まだ気にしていたのかよ。言っただろ、首領パッチさんは頑丈だから大丈夫…」(葛城)

「死んだ時は、どうするつもりだったの?」(春花)

葛城の体は、一瞬にして硬直した。春花の目は、いつものドSキャラとは訳が違っう。

「お…お前、案外心配症だな。首領パッチさんは、そう簡単に…」(葛城)

バチン!!

「無責任な気持ちで、ヒーローやってんじゃないわよ!!」(春花)

 

 まるで、夢で見た出来事が仕打ちとして実現するかのように、葛城の頬に赤い痣ができた。

春花の真剣な一言とそのビンタは、葛城を黙らせた。

「いい、葛城。アナタと首領パッチさんの関係は知らないけど、あんな事を斑鳩達にも出来るの?」(春花)

「それは……ほら、仲間を信じているからころその場を任せたっつーか……アレだよアレ、阿吽の呼吸ってやつかな。アハハハハ」(葛城)

 責められた葛城は、何とかいつものテンションを保ちつつ、笑ってその場を誤魔化そうとした。

 しかし今の春花には、葛城がふざけている様にしか見えない。そんな彼女を見た春花は、馬鹿馬鹿しくため息をついた。

「ハァ~。今のアナタを見ていると、ウチの母親を思い出すわね」(春花)

「お前のお母さんを?」(葛城)

 春花の家系は、複雑であった。忍の母親と医者の父親の間に生まれた彼女の幼少期は、親によって左右されていた。

 喧嘩の絶えなかった、夫婦仲はやがて母親の精神に次々とストレスという名の錘を重ねすぎた結果、母親の中の何かが壊れた。終いには、実の娘である春花を着せ替え人形の様に扱う様になったという。

 

 「お母さんの笑顔を取り戻せるって思うと、初め耐えられた。でも…その時の私は、一人の娘ではなく一体の着せ替え人形として見られていた。その証拠に……お母さんの目は、もう私の知ってるお母さんじゃなかったから」(春花)

 自分の事を娘として見なくなった母親に対し、春花の心の中も壊れ始めた。

 ある日の夜、生きがいを失った春花は、いっそのこと家ごと燃やして自分も死んでやろうとした。

「親って本当に自分勝手よね。娘の気持ちも考えないで…人をオモチャにするなんて」(春花)

「春花…」(葛城)

「でもね、そんな私にも生きがいが出来たの。…紅蓮隊の皆に出会えた事よ」(春花)

春花の放火事件を阻止した人物こそ、秘立蛇女子学園の教師、鈴音こと鈴なのである。

 鈴は、そんな春花に対して光と希望を与えてくれた。親の言う通りにしか動けなかった当時の彼女に『自分も1人の人間である事』『自分は自分であるべき事』『仲間の存在』など様々な事を教えてくれたのだ。

「当時あまり友達のいなかった私に、焔ちゃん達は寄り添ってくれた。詠ちゃんや未来、日影も私のことを一人の仲間……いやっ、家族として出迎えてくれた」(春花)

たとえ悪忍でも、同じ忍として分かち合うべきものは変わらないのだ。

「悪忍でも、家族を失うなんて私には耐えきれないわ。アナタが首領パッチさんにやった事は、まさにそれと同じよ!」(春花)

 首領パッチと葛城の関係が特殊でも、見捨てていった行為は春花にとって見逃すわけには行かなかったのだ。

 春花の話を聞いた葛城は、自然と額から汗が滲み出ていた。考えてみれば、自分の行動は、ヒーローとは思えない非道とも思われるやり方だ。仲間を信頼するのは良いことだが、葛城のやった事はまるで首領パッチへの裏切りの様だ。

 いや、裏切ったのは首領パッチだけではない。自身を信じて変身ベルトを提供してくれた春花の心も、無意識に揺さぶっていたのであった。

「なぁ春花……首領パッチさんは…今どこにいるんだ…」(葛城)

「……ハァ。アナタに何を言っても無駄みたいね。いいわ、アナタはここで休んでいて。私は今から皆を手伝ってくるわ」(春花)

「待ってくれ!アタイも加戦しに…痛っ!」(葛城)

 話に食いつく葛城は、ベットから起き上がろうとするも、傷口が痛む。

「だから、今のアナタが言っても足を引っ張るだけよ!そこで休んでいなさい!!」(春花)

 そう言うと、春花は立ち上がった。

 そして、トドメを刺すかの様に一言置いていく。

「アナタは、何を言っても無駄なのよ!」(春花)

 春花は、強めに扉を閉めると保健室から出て行った。

 何を言っても無駄。葛城の心には、言葉の矢が一体何本刺さっただろうか。何も返す言葉がなくなり、葛城は体を小刻みに震わる。

「だぁぁぁぁ、ちくしょう!」(葛城)

 あまりの悔しさに布団に潜り込むと、枕に顔を押し付けながら叫んだ。

「あぁぁぁ、考えるのはやめだ!それならお言葉に甘えて寝てやるよ!!」(葛城)

急に開き直った葛城は、そのままベットに横になる。いっそのこと、春花の言うとおり寝てやろうと目を閉じた。

「あの怪人の強さを体で思い知れ!アタイはアタイで…」(葛城)

『お姉ちゃん、どうして助けてくれなかったの?』

「なっ!」(葛城)

 心の中から、夢に出てきた少女の言葉が蘇る。

『私達は、死にたくなかった。それなのに、アナタは…』

『趣味感覚でヒーローやってるんじゃねーぞ!』

 少女だけでなく、大勢の人々が葛城の心の中に鬱憤を次から次へと埋め込もうとする。

「離れろ!アタイの頭から離れろ!!」(葛城)

 余計な事を考えては負けだと、葛城は自分に言い聞かせようとした。

 だが、考えれば考えるほど心の中はモヤモヤが溜まる一方だ。

「だぁぁぁぁぁ!アタイは…どうすればいいんだよ……ハァ」(葛城)

 ため息を付くと、葛城は再びベッドへ横になった。

 

 

 

 すると、何やら足音が聞こえてくる。その足音は、どんどん保健室へと近づきついに…。

「かつかつかつかつかつかつかつかつ…かぁぁぁぁぁつぅぅぅぅぅ!」(首領パッチ)

極上のバカは、豪快に扉を開けるやいなやハイテンションで登場した。

「ふえっ!ど…首領パッチさん!?」(葛城)

 突然の出来事に、葛城も驚かずにいられない。

 なぜなら足音を鳴らしていた者の正体は、つい先程まで話の話題になっていた首領パッチであったからだ。葛城の心の中は、『嬉しい』と困惑で、ごっちゃになっていた。首領パッチが生きていた嬉しいさと、突然ハイテンションで入室したことの困惑で…。

「ハージケハジケ、ハージケハジケ、それが男のハジケ道!!………どう思う?」(首領パッチ)

「はい?」(葛城)

「………どう思う?」(首領パッチ)

「……」(葛城)

「どぉぉぉぉぉぉぉ思うぅぅぅぅぅぅ!」(首領パッチ)

「……………」(葛城)

 急に話しかけたと思いきや、『どう思う?』の一点張りで、いつも以上に絡みづらい首領パッチ。対応が面倒くさく感じた葛城は、無視してそのままベットへ横になった。

「おい、葛城!寝てないで何とか言えよ!俺、生きてたんだぞ。キングオブハジケリストの首領パッチ様が生きてたんだぞ!感動の瞬間再来ウェェェイ」(首領パッチ)

 黙り込む葛城。首領パッチがテンションを上げて絡もうとするも、掛け布団に顔を潜めて中々首領パッチの顔を見ようとしない。

 しかし、首領パッチも負けじと更に話を進める。

「聞いてくれよ葛!あの後俺っち、猫又に囲まれて集中攻撃を受けてただろ。その後かくかくしかじかあって…スクールアイドルデビュー!!でも、規則では猫は参加出来ないって理由でわずか一日でラ●ライブ出演の夢が水の泡に……それをお前はどう思う!!」(首領パッチ)

「なぁ…首領パッチさん」(葛城)

 ツッコミどころの多い独特な首領パッチトークガラ展開される中、ようやく葛城の口が開く。

 なんだか、暗くて重たい雰囲気だ。

「おっ!それでどう思う?やっぱり猫だってラ●ライブに参加出来るって規則を…」(首領パッチ)

「アタイとヒーローやって、よかったんですか?」(葛城)

「は?」(首領パッチ)

 心の中に抱えていたモヤモヤを、とうとう首領パッチに直接聞き始めた。

 

 「アタイは、無計画で無責任で、抜けてるところが多い。今までのアタイは、自分なりのやり方を貫いてきた。でも、それで周りはどう思っているかなんて深く考えたことなかった」(葛城)

 葛城は、深刻な顔で話を続ける。

「今回のヒーロー活動も、言うならばアタイのわがままで始まった様なモノだし…そんなアタイのわがままに、首領パッチさんは付き合ってくれた。その時、アタイは嬉しかった。仲がいい先輩とヒーロー活動が出来るなんて、夢の様だった」 (葛城)

 ラーメンを食べに行くときも、プロレス観戦に行った際も、葛城はいろんな場面で首領パッチに世話になっている。チームを組む前も、自身が欠けていた『楽しむ』事の大切さも教えてくれた。

 そんな仲のいい首領パッチだからこそ、葛城は一緒にチームが組める、共に戦えると思ったのだ。

「…でも、それなのにアタイは……首領パッチさんを見捨てただけじゃなくて……力に溺れてしまった。アタイは……ヒーロー失格だ…」(葛城)

 春花の話がよっぽど心に響いたのか、今話しているのは、まるでいつもの天真爛漫な葛城とは別人であった。『ヒーロー失格』という言葉は、もはや辞める事を宣告している様にも感じられた。

 葛城は、首領パッチに向かってゆっくり頭を下げようする。

「……チェストー!」(首領パッチ)

「ふがっ!?」(葛城)

 何を思いついたのか、首領パッチは葛城の鼻の穴に、何かを詰め込んだ。

「は…鼻にピスタチオ!?」(葛城)

 続いて首領パッチは、どこから持ってきたかわからないラジカセをテーブルへ置いた。

 そして、数枚のCDを取り出すと、葛城に問い始める。

「さーて、曲はどうする?東京音頭か?白浜音頭?」(首領パッチ)

「フン!急に何するんっすか首領パッチさん。人の鼻にピスタチオ詰めて…」(葛城)

「お前こそ、忘れたとは言わせねーぞ!次に弱音を吐いたら、鼻にピスタチオ詰めて盆踊りだってよ」(首領パッチ)

「えっ?」(葛城)

 葛城は、思い出した。以前レジスター怪人に負けた際に、首領パッチが手紙に『次に弱音を吐いたら、ピスタチオ鼻に詰めて盆踊り』と書いていた事を。

「葛、お前はちょっと勘違いしているみたいだな。オレは、お前とヒーローをやって後悔した事はねーよ。まぁ…後悔した事を挙げるとするなら…今お前が、ヒーローになったのを後悔していることだな」(首領パッチ)

「ハッ!」(葛城)

 首領パッチの言う通りだ。葛城の判断は、間違っていたかもしれない。だが、それをいつまでも悔やんでいるのは、ヒーローとして情けないことである。

 首領パッチは、置き去りにした事ではなく、そんな葛城の現状に後悔していたのだ。

「葛、お前はお前のままでいいじゃねーかよ。お前が始めた事なんだから、お前自身が乗り気じゃねーとやっていけないだろ」(首領パッチ)

「…で…でも」(葛城)

「あああ、じれったいな。お前はお前だ!考えてみろ、お前は確かに無責任で自分勝手で豪快…でも、そんなお前のおかげで変わる事が出来たヤツだっているだろ!」(首領パッチ)

 葛城は、頭の中で自身の事を振り返り始めた。

 蛇女子学園での決戦では、感情のない日影に感情の良さを教えた。

 死塾女学館の夜桜とは、それぞれの過去を通じて和解する事だって出来た。

 ヒーロー活動を始めたときにも、怪人にから体を乗っ取られた人達だって救うことが出来た。

 振り返ってみると、葛城の頭の中には、ヒーローとして素晴らしい宝物(思い出)の数々が眠っていたのだ。

「お前は抜けているところも多いが、そんなお前に助けられているヤツだっていたんじゃねーのか。助けられた数の方が多いなら、オマエはオマエのままでいいじゃねーかよ葛!」(首領パッチ)

 首領パッチは、忍ではない。しかし、葛城よりも先に正義の為に戦うヒーローの先輩だ。教える事は、まだまだある。

「あれ?なんでだ……目から……涙が…」(葛城)

 気が付くと、葛城の瞳から一滴の涙がこぼれていた。

「ほほぉ、いつも豪快なセクハラ忍者の目にも涙ってか」(首領パッチ)

「な…泣いてねーよ。……グスッ…ただ、目にゴミが」(葛城)

 茶化す首領パッチだが、その反面嬉しそうだ。

 葛城は、涙を見られてはいかんと、手で拭き取る。自然と涙をは、先程よりも量を増していた。

 そして、そのまま泣いていた。嬉し涙か情け涙なのか。

 この時、もう首領パッチの前では涙をみせないと心から誓ったのだ。

「ほらよ!これで涙を拭け」(首領パッチ)

 そんな葛城を見計らい、白い布を手渡す。素直に受け取るのが恥ずかしかったのが、若干素っ気ない態度で布を受け取る。

 そして、咄嗟に涙を拭く。

「ぐっ…まったく、どんばっぢざんば…ん!?」(葛城)

 突撃、葛城は何かに気づいた。

 受け取った布を広げてみると、その正体は誰が履いたのかわからない真っ白なパンティーであった。

 そして、首領パッチは葛城へ一言。

「スケベ!」(首領パッチ)

「おい、パチ公ごらぁぁぁぁ!!」(葛城)

 涙で潤っていた瞳は、一気に乾く。その熱は、葛城の顔を赤く染めた。

 ハンカチかと思っていた布がまさかのパンティーだと知った葛城は、首領パッチへ激怒し、捕まえようとした。

 しかし、相手は首領パッチ。予想も就かない独特な動きで葛城の手法を次々とかわす。

「ほら、ようやくいつもの葛に戻ったじゃん」(首領パッチ)

「え?」(葛城)

 気が付くと、首領パッチの目の前には、彼が知る普段の葛城の姿があった。

 つい先程まで、春花の話で落ち込んでいたのに、いっその事寝て過ごそうとしたのに。

 首領パッチやった事は、まるで小学生がふざけた様なノリと変わらないが、彼なりに葛城を励ましたのだ。

「オマエは、それでいい。そうじゃなきゃ、オレも絡んでて楽しくないからさ」(首領パッチ)

「フフフッ、やっぱり首領パッチさんには敵わないっすね」(葛城)

 たとえ失敗したとしても、もう一度やり直せる。

 『仲間を守るため』『仲間の前では涙を見せない』といった新たな目標を胸に、葛城はもう一度ヒーローになることをその時決意した。

 そして、葛城は首領パッチに向かって頭を下げた。

「首領パッチさん、これからもよろしく頼むぜ!」(葛城)

「よし!そーと決まれば早速行くぞ」(首領パッチ)

「行くってどこっすか?」(葛城)

「アソコだよ。ア・ソ・コ」(首領パッチ)

「だから、ドコなんっすか」(葛城)

「行けばわかるよ、ついてこい」(首領パッチ)

「ちょっ、首領パッチさん」(葛城)

 強引に葛城の手を引くと、2人はそのまま保健室後にした。

 

 

「世話が焼ける生徒を持ったものだ」(??)

 




つづく

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