インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
翌日
早朝のIS学園のグラウンドにて
肌寒さが出て来た少々朝靄の出始めるこの時間に、1人の影が佇む。
運動用の軽装に、腰には学園に似付かわしくない物騒とも取れる長物が携えられている。
日本刀
黒塗りの鞘に収められたそれには、元々は何物をも容易く切り裂けていたであろう刃があった。しかし今は…文字通り刃を潰し、模造刀…いや、真剣の練習の為の刀となっている。
「ふぅ……!」
それを持つ少年…織斑一夏は深く一息入れると、ゆっくりと、まるで流れるように左手で鞘を握り、柄には右手を。
だがその体勢から動かない。
肩からも力を抜き、目を閉じ、意識を右手に集中する。
静かに…ただ静かに、風の音と、学園周囲の海の波打つ音が木霊するのみ。
「ハァッ!!!」
一息、そしてまさしく一瞬。
抜き放った刀の刃が、空気を切り裂き、その軌跡には鋭い風切り音を残すのみ。
超高速の居合抜刀術。
一夏が旧SAO時代にユニークスキルとして発現した『居合』。それの模倣。2年間という命懸けの戦いの日々の中で培った技術、それを現実で活かすための筋力を付けるのに苦労はしたが、それでもまだあの域には達していない。
「…まだだ…、もっと鋭く、速く…!一刀のもとに切り捨てる…それが出来なければ…。」
「早くから精が出るな一夏。」
不意に後ろから凜とした女性の声が一夏を振り向かせる。気配もなく、ましてや足音も無い。
「千冬ね…いや、織斑先生。」
「まだ始業時間ではないからな。プライベートで構わんぞ。」
「わかったよ千冬姉…やっと出番だな。」
「メタな発言は止めておけ。…学園パートが少ないのは否めんがな。」
いつものような黒のスーツに腕を組んでの、まさしくガイ○立ちしている千冬は、普段学校で生徒には余り見せないような柔らかな笑みを浮かべ、『構わず続けろ。』と促して、一夏の抜刀を続けさせる。どうやら…鈍った自分の太刀筋を見てくれるらしい。
「千冬姉こそ……早いな。」
「何、物騒な物を持った生徒がグラウンドに出るのが見えてしまっては、年長者として、教師として指をくわえて見ているわけにもいかんだろう?ましてやそれが自身の弟ともなれば殊更な。」
「いや…見えてしまったこと自体がどうなんだよ。」
「気にするな、私は気にしない。…とにかく、もう一度抜刀をしてみろ。」
「はぁ、わかったよ。」
再び刃を鞘へと収め、再び腰を落として居合抜刀の構えに入る。
一息…呼吸を置き、
目を閉じ、
自身と周囲、その境を完全に断つ。
集中すべきは自身の手。
今は力を抜き…
力を込めるは断つ、その一瞬、
その一瞬に力を出し切る。
「ハァッ!!!!」
刹那
ヒュン!!と言う、まるで柔らかな何かが撓るような音共に抜き放たれた刃。その速さは、まさしく達人の域に達しても過言ではない。
呼吸
流れ
それらが見事に整合され、見事な軌跡を生んでいた。
そう、それは一般的な見解では、だ。
「………。」
一夏は苦虫をかみつぶしたように、柄を握る力を強める。
彼自身、未だ納得が出来ない。
まだ、『
「悪くはない。」
始終を見ていた千冬は、そんな一夏に肯定的な評価を下した。だが、振るった自身が得心のいかないのだ。…ましてや、一夏の上を行く千冬が…ブレを気付かぬ訳がない。
「…心にもないことを言うなよ。…正直に言ってくれ千冬姉。」
「…そうだな。下手に濁すよりも、ありのまま言うのがお前のためか。…ならば問おう。
一夏、お前の太刀筋に迷いが見えるぞ。」
「迷…い?」
まさかの心の乱れ、即ち集中し切れていない。
そう意味する千冬の指摘に、一夏は思わず復唱してしまう。
「あくまで私の見解だがな。…それがお前の太刀筋に僅かながら、お前自身が納得がいかないほどのブレを生み出している。」
「………。」
確かに自身の中では、抜き放つ一瞬に総てを込めて居たはず。
にもかかわらず、迷いが生じていた…?
雑念が入っていた…?
「ふむ、まぁその大本となる理由は私にはわからんがな。一夏、『
「え…?」
「普段の学校で、これと言うほどの問題や出来事はないのはある程度把握している。ともなれば、一昨日から潜り始めた先での出来事だと、私は仮定するが…?」
「…やっぱり、千冬姉には敵わないな。」
「ふん、何年お前の姉をやっていると思っている?」
ドヤッとニヒルな笑みを浮かべる姉に、思わず一夏も釣られて笑みを浮かべる。ぶっきらぼうに見えるが、ちゃんと自分を見て、想ってくれる自慢の姉だ。…少し、いやかなり不器用なだけである。
「まぁ仮想世界に関して私が出来ることは余りないだろうが…そうだな、助けになるかわからんが…」
「…???」
「今の太刀筋よりも、以前私に突っかかって試合を行ったときの方が良かったと、私は想うぞ。…まぁあくまで私の見解だか、な。」
突っかかって行ったとき…
それは旧SAOから帰還した一夏が、旧ALOに囚われたアスナ達を助けるために仮想世界へと行こうとしたときのことだ。千冬としても、言葉こそ厳しいが、やはり2年も唯一大切な肉親である弟の一夏が囚われた仮想世界へ行こうとするのは賛成しかねる物だった。しかし、それでも食い下がった一夏と、テンプレの様な展開ではあるが、自身との試合を執り行った。
…結果、一夏の敗北だが…千冬は弟の成長に舌を巻き、旧ALOへのダイブを認めるに至った。
その時、一度、たった一度きりで有効打ではないが、自身に一太刀入れた彼の一太刀。それは、千冬自身ですら振るえた事が出来ないと記憶するほどの、鋭く、どこまでも研ぎ澄まされた物だった。
思い出す度に笑みを浮かべてしまうほど、綺麗な太刀筋。
それを副担任の山田麻那に見られる度に茶化される。その都度、塩コーヒーをプレゼントしてやるのだが、…なる程、茶化されるのも無理はないほどに弟を想い、評価しているのだなと改めて思い知らされた。ただし茶化すのは許さないが。
「私に言えるのは…それぐらいだ。…参考になるか解らんが…。」
「…いや、ありがとう千冬姉。少し、道が見えた気がするよ。」
「…ふっ、そうか。ならいい。」
再び笑みを浮かべ千冬は踵を返し、寮ではなく校舎へ向かって歩を進めていく。
「そろそろ朝食の時間が始まるぞ。…遅刻して、私に出席簿を振るわせるなよ?愚弟。」
「わかってるよ。」
その返事を聞いて納得したか、背中越しに手を振り、千冬は去って行った。
…誰も居なくなったグラウンドで…一夏は腰から刀を抜き取り、青くなりかけた空に掲げてニヤリと笑みを浮かべた。
「……待ってろよ。27層ボス…!俺と…スリーピングナイツが…潰してやるからな!」
小説書きながら、ユウキのキャラソンLiberty Rosarioを聞いてたら、文字打つ手が軽く感じる。元気をくれるいい歌だなぁと今更ながら思います。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
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兄さん。
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兄貴。
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一夏。