インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
眼前に、空を貫かんと高々とそびえ立つ、白い円柱状の建造物。
まるでSFとかに出て来そうな軌道エレベーターか何かにも見えなくはないが、生憎とこの『妖精の世界』にそんな機械的な物は存在し得ない。
この建造物、それは次の階層へと続く、言わば塔のようなものだ。
通称『迷宮区』
フィールドダンジョンと比べても、かなりの難易度と広さを誇るそれの入口に、なかなかカラフルな7人組が並び立っていた。
「ほへ~、相変わらず高いねぇ、迷宮区。」
平手を額に付け、遥か空高くまでそびえ立つそれを見上げ、ユウキが感嘆の声を挙げた。
スリーピングナイツの面々が言うには、25、26の層でも迷宮区と、そしてボスに挑んだが、敢えなく敗退し、そのあとに大型の攻略ギルドがボスを討伐してしまったという。その事もあって、今回こそはと意気込む面々に、イチカも触発されていく。
「とりあえず…わかってると思うが、中のモンスターの強さは、外のそれに比べて高く設定されているからな。油断できないぞ?」
「わかってるって!任せてよイチカ!」
「じゃ、そろそろ入りましょうか。」
ぽっかりと開けられた迷宮区の入口を潜れば、フィールドが切り替わったのか、周囲の景色が薄暗く、広々とした洞窟へと姿を変える。ダンジョンとあって薄暗く設定されているのか、少々視界が悪い。
「ん~、やっぱ暗いな。ノリ、シウネー、バフを頼めるか?」
「OK。」
「任せて下さい。」
補助魔法である、暗視と、ステータス向上効果を持つそれを、パーティメンバーに掛ける。これでよっぽどのことが無い限り、全滅するなんてことはほぼ無いだろう。
全員にバフが掛かったことを確認して、意気揚々と先陣を切るユウキを先頭に、ぞろぞろと後に続いて前進していく。
と、さすが迷宮区と言わんばかりに、Mobのお出ましだ。
鎧を着込んだ二足歩行のトカゲ……所謂リザードマン、それが2匹。右前足?に片手直剣、左前足にバックラーと、典型的なまでにソードマンの出で立ちだ。
「よし、じゃあまずはどれくらいのレベルなのか、慎重に…」
イチカが言い終わらぬ矢先、ユウキとジュンが駆けだした。
リザードマンのAIの思考ルーチンは、普通のMobよりも高い設定だ。
避ける、攻撃する。その程度ならば、他のMobの基本動作なので導入されている。
しかし旧SAO時代から、こう言ったリザードマンや、スケルトンタイプのモンスターと言うのは、ステータスこそ周囲のMobと謙遜無い物にも関わらず、盾のパリィによる武器弾きや、片手直剣によるソードスキルなど、攻撃パターンに多様性を持って居るものだ。そんな奴らの相手をするのならば、ある程度の慎重さを持ち合わせても罰は当たらないはず…だが…
目の前の紫と赤の剣士は、なんの苦も無く、と言うか一撃でリザードマンの首を跳ね飛ばし、霧散させていた。
「「イエーイ!!」」
サクッと倒せて爽快なのか、ユウキとジュンは満面の笑みでハイタッチ。他のスリーピングナイツの面々も、特に変わった光景でもないのか平常運転…と言うか、驚くどころか、どうだ?ウチの鉄砲玉2人は?と言わんばかりにイチカをみてきている。
「は、はは……これ、俺いらなくね?」
そんな言葉がこぼれてしまうほどに。
破竹、そして怒濤の勢いとは正にこのことだろうか。マッピングデータの広さから、普通3時間は掛かるだろうと踏んでいたボス部屋まで、あろう事か1時間で辿り着いてしまった。
イチカの交戦時間はもしかしたら前衛で一番短いかも知れないと思うほどに、スリーピングナイツの面々の実力はすこぶる高かった。しかも、出会ったMob一体一体を総て根絶やしにするものだからなお恐ろしい。途中、レベリングをしに来たのかと錯覚してしまったほどだ。
そして…ボス部屋への扉が荘厳な雰囲気をだしながらそびえ立つ広間で、アイテムや装備、スキルの最終確認を行っていた。
「とりあえず…今回は偵察が主な目的だから、基本的には回復アイテムの使用は無しにして、シウネーの回復魔法主体にリカバーしていこう。無理に攻めず、回避や防御を重視。そして出来るだけ戦闘を長引かせて、攻撃パターンを引き出す。」
『了解。』
「はいはーい!イチカ先生!やられちゃったときは?」
「リメンライトになったときでも、周囲を見ることだけは出来るからな。その時もセーブポイントに送り返されるまでは、ボスの動きや攻撃を眼に焼き付けておいてくれ。」
これで今回の目的や行動方針も纏めることが出来、いざボス部屋へ…
そんな時だった。
「ストップだ。」
「ど、どどどうしたんですか?イチカさん。」
「…っ!」
何も無い、ボス部屋への扉の傍らの窪んだ空間。そこに向かってイチカは雪華を抜刀し、そこに飛び込んでソードスキルの旋車を撃ち放つ。広範囲に攻撃エフェクトが発生するこれは、敵を纏めてなぎ倒すのに大変便利だ。
大まかな位置を予測できていたので、旋車の攻撃により、そこに隠れていた奴らの姿が、スリーピングナイツの面々の眼前に明るみになった。
フードを被った3人プレイヤー。
武器をみるに…後衛組だろうか。
「ま、待て!俺たちに闘う意志はない!」
被っていたフードの一部…それも頬の近くを旋車で斬られ、冷や汗を流す彼らを、いつでも斬れるように雪華を構えて睨み付ける。
「お、俺達はボスに挑もうとしたけど、Mobにタゲられるのが嫌で隠れてたんだよ!」
「へぇ…。」
「あ、アンタらが先に挑むんなら邪魔はしないよ!俺達は帰るからさ。」
そそくさと立ち去る3人を横目に見送り、イチカは雪華を鞘に収める。
立ち去る3人を見ながら、シウネーがキラキラした眼でイチカを見つめていた。
「私、対人戦て初めてなんです!いつ始まるのかとwktkしていました!」
「あ、そ、そうなの?」
しっかりした年長者っぽいのに、変なところで子供っぽい所がある彼女に、苦笑いを禁じ得ない。
しかしそんな中でも、イチカは3人の立ち去る方をじっと見ていた。
「どうかした?イチカ。」
「いや……何でも無い。…俺の杞憂だと良いんだけど…。」
悩んでいても仕方がない。
今自分達がすべきことは、目の前の部屋の主をぶった切ることだ。
それに集中すれば良い。
雑念を捨て、ジュンが開いたボス部屋に、一行は消えていった。
そして…
扉が閉まる直前に
まるで滑り込むように部屋に侵入した小さな影。
それに誰も気付くことはなかった。
27層主街区
その街の中央に位置する噴水の前で、人の山が出来ていた。
下から順に、テッチ、ジュン、タルケン、イチカ、ユウキ、ノリ、シウネーと…
何ともまぁ人間サンドイッチ…いや、妖精サンドイッチが出来上がっていた。
「いやいや~、負けた負けた!」
「結構惜しいところまで行ってたんだけどな…。」
「だ、大丈夫ですよ、次は勝てますよ。」
皆が口々に労う中、深刻な顔をする人物が1名。その顔は正直に言うと、悔しさと共に怒りも多少なりとも混じっているようにも見える。
「ど、どーしたの?イチカ。」
「皆、ボス部屋に入る前に見たあの3人…覚えてるか?」
「え、えぇ。」
「…どうやら、まんまとあの3人の職務遂行の手助けをしてしまったみたいでさ。」
「ど、どういうこと?」
「…俺がやられてリメンライトになる前に…皆の足下を走り回るトカゲみたいな物を見たんだ。…小動物のオブジェクトMobかと思っていたら…どうにもそいつの目は、ずっと…ボスの動きを見ていて…、恐らく、あの3人プレイヤーが放った使い魔だろう…。」
「え?じゃあ…」
「上手い具合に、アイツらの偵察を手伝わされたってことか…!」
ノリの言に、イチカは静かにコクリと頷く。
あの3人…恐らく、ここ数階層のボスを討伐している大型ギルドだろう。HPゲージに描かれたギルドマークからして、確かここ最近になって名を挙げだした奴らだ。
上手い具合にボス討伐をしていると思ったら、なるほど。こんな感じで自分達の犠牲を無くしつつ、他のプレイヤーをダシにして情報を集め、死に戻っている間に討伐、と。
正直、余り好かないが、それでもシステムや魔法を使った上手い手だとも思う。
もしかしたら…
「俺の勘、だけど…ここ最近はスリーピングナイツの面々の戦いを見て…パターンを覚えていた可能性もある。」
「それってどういう…」
「俺が見た所、スリーピングナイツの実力…ユウキを筆頭に、皆の力はかなりの物だし、意思疎通や連携のレベルもかなり高い。…それこそ、トップギルド並みにだ。」
「そ、そう言われると照れちゃうな~」
「でも…他のギルドと違って…欠点と言うべき所…、それはワンパーティという点。」
イチカは言う。
先程の戦いを見ていて、最初こそ勢い良くダメージを削れては居たが、後半になるにつれて徐々に息切れと集中力の低下が目立ち始めていたことを。
さすがに数十分、フルパワーで避けて、フルパワーで攻めて。HPやマナの方はアイテムでどうとでもなるが、プレイヤーそのものの状態は如何ともし難い。それを補うためのレイドなのだ。本来、リレーで完走するはずの距離を、1人で走りきるともなると考えるなら、その差がわかりやすいだろう。
そしてそれを見越していた攻略ギルドは、スリーピングナイツの戦いを基に、討伐の作戦を立てていたのだろうと。
「…じゃあ…ボクらじゃやっぱり無理なのかな…?」
目尻に涙を浮かべるユウキに、自身らが成し遂げたかったことが不可能と言われて、俯く者、唇を噛み締める者が悔しさを露わにしていく。
「いや…。」
そんな中でイチカは…光明を刺すべく、ユウキの言葉を否定した。
「闘うチャンスも、勝利の可能性もまだある。…幸い、今現在は夕方の6時。相手が学生で無い限り、そのインは大体もう少し先。…もしかしたら、まだギルドメンバーが揃っていない可能性も無くはない。だが急ぐ必要もある。」
思案した後、イチカは迷宮区を見遣り、こう宣った。
「全員!全速力で迷宮区に飛ぶぞ!途中のモンスターは一切合切無視!最短最速でボス部屋に行けば、まだ間に合うかも知れない!」
自身らの悲願が、まだ叶えられる可能性が残っている。それが皆の心に火を付けたのか、力強く頷き、迷宮区へと飛び立っていった。
それと同時に…イチカは思った。
(食堂…閉まっちゃうかもな…)
最悪夕飯抜きになるが…致し方ないと、迷いを振り切って飛翔に専念した。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
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兄さん。
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兄貴。
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一夏。