インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
ここでマザーズ・ロザリオは一つの節目を迎えます。
さて、どうするイチカ。
今回ちょい長めです。
午前6時
冬へと変わりゆく季節に合わせてか、ラインの気候設定もこの時間帯は肌寒く感じるようになっている。
早朝の出勤前のこの時間にインしようというプレイヤーもチラホラ見え始め、セーブした宿から出て来る彼等と入れ替わるように、ダイシーカフェへと入っていくプレイヤー3人。
「あ~楽しかったぁ♪」
「「あ〝~…疲れた…」」
一人は満足感に満たされ、残る二人は疲労感に打ち拉がれている。
結局あの後、店仕舞いを終えたマドカを、ユウキはイチカと一緒に連れだって夜の街で遊び尽くし、それがご覧の有様だった。
「お前…良く耐えれたな…」
「俺だって…知り合って数日だぜ…?こんなの初めてだよ…。」
「…仕事以外で徹夜したのは初めてだよ、全く。」
「へぇ…マドカって、仕事してるのか?同い年位なのに?」
「外国住まいだからな。…私くらいの歳で働いている奴らはごまんといるさ。」
何処か陰りのあるマドカの物言いに、これ以上のリアルの詮索はマナー違反であることもあって、イチカは言及しなかった。
逆にマドカは、イチカとフレンド登録をした際に、思わず眉をしかめた。
織斑一夏
自身…亡国機業のコードネームMが憎んで止まない男と同じの名前のアバターネーム。もし同一人物ならば、ゲーム内だろうと息の根を止めるところだが、生憎とここはネットゲームの中。Mことマドカもプライベートと割り切っているので、強行策に移ることは踏み留まった。
…内心、自分も存外甘いものだ、と自嘲しながらだが。
「イチカイチカ!そろそろ皆起きるからさ!朝ご飯にしようよ朝ご飯!」
「おま…まだ食べるのか!?」
「とーぜんだよ!三食はきっちり食べないとね!」
「…いくらデータとは言え…ユウキの満腹中枢は何時になったら音を上げるんだ…。」
未だ絶えることの無い食欲を見せるユウキに戦慄してしまう織斑兄妹(仮)。
そしてユウキは元気よくダイシーカフェの扉を開いた。
「たっだいま~!!」
「ゆ、ユウキ!?」
「朝起きたらいないからビックリしたよ!」
「あはは…ごめんねぇ、イチカと一緒に街に繰り出してたんだ~。」
「よ、夜の街に…!?」
「そして朝チュン…!?」
「…イチカさん。もちろんkwsk話を聞かせて貰えますよね?」
「し、シウネー!?目が笑ってないぞ!?」
手厚く手荒いスリーピングナイツが出迎え、イチカに事のあらましを尋問し掛けているシウネー。
ポツンと置いてきぼりを食らったマドカは、居場所なさげに入口でたちつくす。
「…と、とりあえず私は…お暇しよう…邪魔s…」
「だぁめだよマドカ!皆に紹介するんだから!」
「そ、そんなの私は聞いてないぞ!」
「うん、だって今決めたもん!」
「ぐぬぬぬ…!」
現実世界ならば決して力負けすることのないはずの身体能力を持つマドカだが、悲しいかなここはゲームの世界。パラメーターが物を言う世界だ。生産職としてプレイしてきたマドカは敢えなくユウキによって連行され、スリーピングナイツの前に立たされることとなった。
「平和だなぁ……」
皆の注目がマドカに向いたことで、シウネーの圧から逃れることの出来たイチカは、キッチンに入って朝食の用意に取りかかった。
スリーピングナイツの面々に詰め寄られて戸惑うマドカの微笑ましい光景にほのぼのしながら…。
「はふぅ……美味しかったぁ…」
結局何の苦も無く怒濤と戦慄の朝食を見事に平らげて満たされたユウキは、満足げに椅子の背もたれに身を預ける。
見慣れた光景のスリーピングナイツは、素知らぬ感じで食後のコーヒーやお茶を口にしているが、イチカとマドカは最早表情が消えてしまっている。
イチカもマドカも、周囲にここまで…何処かのピンクの丸い悪魔にも迫るほどの食欲の持ち主はいない。あくまでも仮想世界だけなのかも知れないが、満腹中枢が刺激され、満腹感を感じるのは現実と変わりない。…つまり、胃の許容量の有無だけであり、もしかしたらもしかするかもしれない…。
「さて…片付け終えたら一旦ログアウトするか。さすがにダイブしっぱなしも良くないしな。」
「そう…ですね。すいませんお二人とも。ウチのユウキが引っ張り回したみたいで。」
「いや、店を開けているだけのインの予定だったからな。良い暇つぶしにはなったさ。」
「そうだぜシウネー。嫌なら嫌って言ってるからな。…まぁちょっとワルな気分を味わえたから、貴重な経験になったかな。」
「そうですか。…そう言って頂けるなら…」
と、ここでイチカ特製のオレンジジュース(果汁100%)を飲み終えたジュンが、挙手した。
「なぁなぁ!昨日の今日だけど、イチカさんもログアウト前に皆でアレの確認に行ってみないか?」
「アレ…って何だよジュン。」
「もも、も、もしかして…『剣士の碑』…ですか?」
「おう!僕達、あそこに名前を刻む為に頑張ったんだからな!その成果を見に行くのは当然じゃん?」
なるほど、と皆には反対の声など全くなく、むしろ良いねと賛成多数となっている。
ここに来て状況を飲み込めないマドカが、?マークが頭上に浮かんで見えるような顔で首を傾げる。
「な、なんだ?つまり…どういうことなんだ?」
「あ~…そうだね、マドカは知らないんだった。」
「昨日…ユウキと…イ、イチカの言ってた…27層のことと、何か関係があるのか?」
「うん!昨日ねぇ…」
「話すのは良いけど…そろそろ掃除しようぜ。エギルにこの店を借りてるんだ。いつまでも貸し切りはマズいだろ?」
確かに、店内を見れば、乱れた机や椅子、使用済みの食器やテーブルクロス。とてもではないが、このままエギルに返せるものではない。イチカは自身が一番良く使用したキッチンの片付けに取り掛かっており、スリーピングナイツの面々も掃除用具入れに仕舞ってある箒(モッピーに非ず)を取り出して配っている。
「じゃあマドカ、話の続きは掃除しながらするよ。良いかな?」
「…ユウキがそれで良いなら構わない。」
「やったぁ!じゃあさじゃあさ!ボクとイチカのファーストコンタクトから…」
「ゆ、ユウキ!?それ、いつまで引き摺るんだよ!?」
スリーピングナイツの面々の笑い声が響く中、ダイシーカフェの内装は着々と清掃され、後日店主に、『定期的に来て貰ってもいいぜ。』などと太鼓判を押されることとなる。
新生アインクラッド一層 はじまりの街 黒鉄宮
旧SAOにおける脱落者=死亡者を刻む、言わば墓場のような場所だったここは、現ALOにおいて所謂『フロアボスを倒した英雄達の名を刻む場所』として知れ渡っている。死者を悼む場所から英雄を称える場所へとシフトしたというのは、何とも皮肉な物だと旧SAO生還者は語る。
見た目は旧世紀における神殿のような作りとなっており、中にはミサを行うような聖堂や、懺悔室のような部屋と言った教会を思わせる物もあったりする。
「おっ!あっちだあっち!!」
ジュンがそれらしき巨大な黒い石碑を見つけて、仲間達と共に我先にと駆けていく。
そんな面々に、リーダーであるユウキも混ざっていそうな物だが、なぜかおっかなびっくり、右手をイチカの左手を、左手をマドカの右手を握り、少し行くのを躊躇っているようだった。ちなみにマドカは、自身に関係が無いし、一緒に行くのも憚られるからと遠慮したが、例のユウキの強い要望で断るに断れず、こうして同行することになった…のだが。
「…ユウキ、何をそんなにビビってるんだ?」
「だ、だって…ホントに名前があるか不安なんだもん…!無かったらどうしようって思っちゃうよ…」
「…なんか受験の合否発表に行くみたいだな。」
「運営がしっかり更新していたなら問題ないはずだ。恐れる事はないだろう?」
「だ、だってぇ~…」
「次はお化け屋敷に入るのを渋る子供みたいだな。」
苦笑しながらも、イチカとマドカに引き摺られるように碑の前へと連行されたユウキ。
しかし、自分達の名前が無いかも知れないことを恐れてか、下を向いたまま中々顔を上げようとはしない。
本当に…ここに名前があるのか
もしかしたら無いのではないか
そんな不安で、ユウキの胸はいっぱいだった。
「あ…!」
イチカが、何かを発見したかのように声を挙げた。
「ユウキ、見て見ろよ。」
そんな優しげな声で言われて…ゆっくり…ゆっくりと視線を上に上げていく。
自身のブーツばかりを見ていた視界が、黒の石盤を捉え、そして21層攻略チームの名前を目にする。徐々に、徐々に首も上げていく中、途中で知った名前を目にする。
『Kirito』
『Asuna』
(そっか……2人もボスを倒してたんだね…。…まぁ当然かな。アレだけ強いんだもん。)
結果としてユウキはイチカを選んでいたが、もし彼が居なかったら…アスナ、もしくはキリトだっただろう。それほどまでに強いという印象が、ユウキの中で根強く残っていた。
2人とのデュエルを思い出して笑みを溢しながら、再び自分達の名前を探して首を上げていく。
24、25…
階層が上がる毎に、首の上がりも遅くなっていく。
握った掌に…ジワリと汗が滲む。
26…
ゴクリと固唾を飲み込んでしまう。
あるのか?
あって欲しい。
そんな切実な願い…祈りを込めながら、そこからは勢い良く見上げた。
Floor27
・Yuuki
・Siune
・Tecchi
・Talken
・Jun
・Nori
Ichika
「あっ…た……!」
しっかりと、そして確実に、目の前にはスリーピングナイツ+1の名前が刻まれていた。
しかも1パーティなので、全員の名前が記載されており、スリーピングナイツの面々が歓喜の渦に包まれる。
「ボク達の…名前…だ……」
喜びか…はたまた感動の涙腺にでも触れたのか、ユウキの目許にはうっすらと涙が浮かぶ。
やった…
成し遂げた…
自分達の悲願だった、『スリーピングナイツの皆がここにいたシルシ』
それはユウキの、
シウネーの、
テッチの、
タルケンの、
ジュンの、
ノリの、
その想いの集大成。
「これで、…もう……何も…思い残しは……」
「…ユウキ?」
消え入りそうな声で何かを呟いた彼女に、マドカは思わず名前を呼んでしまう。
「ん、…何でも無いよ?」
涙を拭い、何時ものユウキの笑顔を浮かべる。
…何かを呟いていたようで気になるマドカだったが、そんな彼女の顔を見て毒気も抜かれてしまい、これ以上の詮索は止めることにした。
「おぉい!どうせならさ!記念に写真を撮ろうぜ!」
「お、ジュンにしちゃ気が利くじゃんか!」
「にしちゃってどう言う意味だよ!」
ジュンがストレージから取り出したスクリーンショット撮影クリスタルを丁度良い所に設置していたので、皆が一列に並び始める。
「ほら!イチカもマドカも!」
「わ、私もか?私はいい!そもそもここに来たのはお前がどうしてもと言うからで…」
「ダメ、かな?」
マドカ ユウキによる核弾頭並みの落とし方(無自覚)により轟沈、大破。
「くっ……こ、今回だけだからなっ。」
「えへへ、ありがとマドカっ♪」
「じゃあ、このフードも捲らないといけませんね?」
「シウネー、ナイス!せっかく写真を撮るんだから、ね!」
「な、なにをするぅっ!?」
シウネーの案でギラリと目を光らせたユウキは、AGIを活かしたかどうかはわからないが、素早くマドカの目許辺りまで覆うフードを取っ払った。
そこには、大きく黒い耳がピョコンと現れた。
「わぁぁぁぁっ!!!」
「あらあらうふふ。」
実行犯と計画犯の2人が、それぞれ感動し、そして微笑ましく微笑む。
スリーピングナイツの男3人も、その衝撃的…というかギャップに、言葉を忘れて呆けている。
「お、ケットシーだったのか。生産職してるから、リズと同じでレプラコーンかと思っていたぞ?」
「フ、フカー!!!!」
「うおっ!ま、マドカっ!?痛ぇ痛ぇ痛ぇ!!爪でひっかくな!!」
それは…黒猫。
不吉を届けに来るとか、そんな異名を持つ掃除屋も、そして迷信もあるとか何とか。
しかし、一般の黒猫。その性格は穏やかで、どちらかと言えば大人しくて人懐っこいらしい。
だが、目の前のケットシー…マドカは、肩まで届く黒く艶のある髪と、釣り目の整った顔立ちの美人…と言うより美少女ではあるのだが、少々気性が荒くあらせられるようで、イチカの顔に引っ掻き傷を作っている。…まるで不倫か浮気をした旦那に怒る妻のように見えなくもない。
「ほらほらイチカもマドカも!写真撮ろう!写真!」
「お、俺は構わないけど、マドカをどうにかして欲しいんだが…」
「ぜ、絶対似合わないから何か言われると思って隠してたのに…!」
「え~?似合ってるし可愛いよ~?ね?イチカ?」
「お、おぅ。もうちょい大人しかったらなお良しかも、な…。」
「う、うるさいっ!と、とにかく、写真を撮るのならば、フードは…」
「取ってて…欲しいなぁ…」
「くっ!こ、今回だけだからな!」
あと何回、今回だけが続くのか。
「じ、じゃあ改めて…!行くぞ~!」
剣士の碑を背後に皆が一列に並び、ジュンが数メートル離れた場所にクリスタルを浮遊、タイマーをセットして急ぎ戻る。
「ほら、マドカ。笑ってよ。」
「私は…どう笑えば良いか…解らない。」
「そうだね~、どっちかと言えば…ぷりぷりしてたよね。」
「そこにいる阿呆のおかげでな。」
「お、俺かよ!?」
「でも…こうして、皆で写真を撮れるの、何か良いなぁ。…仮想世界でも…共通の時間を過ごしてるって…実感出来るもん。」
「だな。楽しいことを皆で分け合えて、笑い合えるのがこういうゲームなんだ。…マドカ、心の底からこのALOを楽しめているか?」
「わ、解らん…ただ。」
「ただ?」
「現実では出来なかったこと…出来ないことを…ここで出来て…ユウキのように、私の作り上げたもので喜んでくれるのは……胸の辺りが暖かくなる。」
「マドカ…それはね、嬉しいってことなんだよ。」
「そう、か。これが…嬉しい…喜び……」
「あ!いいよ!その笑顔!少し硬いけど…今までよりも凄く良い!」
「…今、私は…笑った…のか?」
「うん!だからさ!胸が暖かく…嬉しくなったのを思い浮かべて!」
「わ、わかった…やってみよう…」
「じゃあ皆!カメラに向かって…………
ブイッ!!」
現実そっくりのシャッターを切る音が黒鉄宮に響いた。
ユウキの胸元のロザリオ。その輝きと共に。
写真を撮り終えた後…
改めて剣士の碑を見上げて、イチカと、ユウキはやり遂げた実感を感じていた。
「本当に…俺達、やったんだな。」
「うん………」
掘られた文字をなぞってみれば、ひんやりとした石の触感と、ザラリとした彫刻跡。消えることのない、剣士の偉業が確かにここにある。
「ボク、遂にやったよ……姉ちゃん。」
「…なぁユウキ、俺って女っぽいか?」
「……え?」
複雑そうな顔を浮かべ、イチカはポリポリと頬を掻く。
「そりゃ確かに…キリト程じゃないけど、女顔みたいだって言われたことあるぞ?」
現実世界のどこかで、黒好きの少年が大きなくクシャミをした、様な気がする。
「でも、ボス戦の時もそうだったけど、俺って姉ちゃんて呼ばれる程かなぁってさ。」
そこまで言って…イチカは目の前の少女の表情を見て固まった。
「ゆ、ユウキ……!?」
頬から流れ、黒鉄宮の床へ流れ落ちる大粒の雫。
そしてそれは止め処なく溢れ、石造りの床に黒い染みを幾つも重ねていく。
「イ、イチカ……ボ、ボク………!!」
必死に口許を抑え、声を漏らすまいとしているのか。
しかし涙は止まらない。
何か琴線に触れるような事でもあったのか、だがこの仮想世界では涙を偽ることは出来ない。
涙を…我慢は出来ない…。
「ボクっ……!!」
「ユウキっ!?」
片手で必死に声を抑えながら…
ユウキは端末を操作して…
手を伸ばすイチカの想いも空しく、光の粒子となって目の前から
「ユウキ……?」
何を思い
何を感じて彼女は去ったのか。
それはイチカには解らない。
しかし、
それを最後に
不敗の超剣士『絶剣ユウキ』はALOから姿を消した。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
-
にいに。
-
お兄ちゃん。
-
兄さん。
-
兄貴。
-
一夏。