インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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今回、木綿季の過去、そして一夏と木綿季の接点になります。
少々こじつけと無理矢理感は否めないかも知れませんが、お願いします。


第20話『紺野木綿季の過去と後悔』

紺野木綿季がメディキュボイドの被験者となったのは、今から4年前のことだった。

出産時に難産であったため、帝王切開を行った際の輸血。それが紺野一家の運命を変えたと言っても過言ではない。その輸血用血液に潜んでいたHIVウイルス。それによって木綿季の母は勿論…お腹の中にいた木綿季…そして双子の姉である藍子を感染させ、そしてその病魔は父親にまで手を伸ばしていた。

時が経ち、紺野一家がHIV感染者だと知るや否や、近所や親類、木綿季や藍子の通っていた学校関係者までも白い目で見始め、学校で二人は陰湿な虐めを受けた。そして…後天性免疫不全症候群…AIDSを発症してしまう。木綿季と藍子の生誕時より紺野一家を診てきた倉橋医師曰く、虐めなどのストレスが発症の引き金になったのだろうという。

そして両親に先立たれた矢先、木綿季と藍子に一つの提案が舞い込んできた。

メディキュボイドの被験者

世に売り出されたナーヴギア、その技術を活かして制作された医療機器。

二人の感染しているHIVは薬物耐性型であったために、投薬治療には身体には副作用による耐え難い苦痛が伴ってしまう。そこで意識を仮想世界へダイブさせ、身体の痛覚をシャットアウトさせるメディキュボイドの使用が提案されたのだ。

それまでの投薬で、辛い思いをしていた二人はその案をのんだ。

仮想世界からマイクを通して倉橋医師とのモニタリングを行い、木綿季は姉の藍子と共に、ナーヴギア対応のフルダイブ対応ゲームの世界を駆け回った。

時には剣士

時にはパイロット

時には魔法使い

そしてまたあるときは……虫(!?)

奇想天外ながらも、現実で体験できない日々に二人は心を躍らせ、そして存分に楽しんだ。

その過程で、自身と同じように不治の病や難病に冒され、余命幾ばくも無かったり、治療の目処が立たない人々と出会って、彼等とも沢山の世界を渡り歩いた。

虐めや迫害

そんな物とは無縁で、ただただ自由で、無菌室と比べるべくもないほどの広々とした世界だった。

 

…だが

 

病魔とは切っても切れないもので縛られていることには目を背けることは出来ず、一人…また一人とその()を迎え、別れていった。

いつの日か終わる旅。

その時は皆に等しく迫ってきていた。

そしてそれは…

メディキュボイド被験者となって1年後…最後の家族で、姉である藍子の命をも奪ってしまった。

 

途方もなく、そして耐え難い孤独感が木綿季を駆け巡った。

仮想世界の友人はいる。しかし家族は…もう誰も居なくなってしまった。

一時的に現実へ戻り、弱り掛けた身体で、物言わぬ姉の身体を見送った時、それはより深く木綿季に思い知らせてきた。

 

深く、深く心に闇を落とした木綿季は、メディキュボイドの内部に設けられたマイスペースに閉じこもる日々が続いた。

持ち前の明るさは鳴りを潜め、眼に光は灯らず、ただただ絶望に身をやつしていた。

 

そんな日々がどれ程続いただろう?

飲まず食わずでも、現実の身体には栄養点滴が投与されているので餓死することはない。しかし病は気からという言葉もあるように、塞ぎ込んだ木綿季の身体は目に見えて弱ってきてるようだった。

 

そんな…時だった。

 

「姉ちゃん…パパ…ママ……」

 

もう枯らしたであろうはずの涙が、未だ止め処なく溢れて木綿季の頬を流れ落ちる。データである今の彼女から流れる涙もまたデータなので、その流れは留まることを知らずにいた。

 

「…なぁ?」

 

そんな彼女に、聞こえるはずもない声が聞こえた。

その声は、メディキュボイドと現実の隔たりを越えるためのマイクを使用したような声ではなく、まるで肉声の…それも少年の物だった。ここはメディキュボイドの内部。その中に入るには、近隣の部屋にある、メディキュボイドに接続するためのランチャーが入ったナーヴギアを使用するか、もう一機のメディキュボイドを使用する以外にない。

 

「ここ、どこなんだ?」

 

「…メディキュボイドの中。」

 

「メディキュボイド…?」

 

「簡単に言えば…医療用フルダイブ機器。」

 

「へぇ…ニュースで聞いてたけど、これがそうなのか。」

 

初めての経験なのか、声の主…聞くからに歳も若く、未だあどけなさが残っていそうな物だ。しかし、木綿季はそんな声にも興味を示すことなく必要最低限の受け答えをする。

 

「俺、確かドイツにいたのに、いきなり暗いとこに居るんだから混乱しちゃってさ。正直教えてくれなかったらパニックになってたかも知れない。ありがとな!」

 

「………。」

 

いつもなら、『どういたしまして!』と満面の笑みで答えるはずが、今の木綿季にそんな気力は無く、無言のままだ。

…しかし、今木綿季は思った。

今、彼は…一つ気になることを言っていた。

意識を失って、気付けばここにいた、と。

前述のダイブ方法の内、ナーヴギアを使用する方法は、意識がなければダイブ出来ない。ダイブするためには、『リンク・スタート』という言葉をスイッチに、意識を仮想世界へ誘う。

しかし声を発することが出来ない意識不明の状態なら、一体どこからダイブしているのか…?

それは…この病院に設けられているもう1台のメディキュボイドだ。

つまり…彼は…

 

「姉ちゃんの…姉ちゃんの使ってたメディキュボイドを使ってる、の…!?」

 

「へ?姉…ちゃん…?」

 

「な、なんで…姉ちゃんは…死んじゃったのに…!なんで違う人が…ここに…!!姉ちゃんのメディキュボイドを…!」

 

木綿季にとって、最後の家族の藍子が使用していたメディキュボイド。彼女が死んで間もないというのに、別の人間が使っている。それが途方も無く木綿季を悲しみから怒りに走らせていた。

 

「で、出てってよ!!こ、ここに入って良いのは、姉ちゃんだけだ!!」

 

もはや悲鳴に近い声だった。

立ち上がって、流れる涙を隠そうとも、そして拭おうともせずただ叫んだ。

物があったら投げつけていただろうほどに、木綿季は激情に埋め尽くされていた。

今となっては八つ当たり、そして理不尽な怒りだっただろう。

だが、深い悲しみに溺れていた木綿季は精神的に不安定になっており、正常な判断が出来ずにいたのだ。

 

「出てって!出てけよ!」

 

「…ぁ、…その…ごめん、な?そんな場所って…知らなかったから、さ。」

 

彼自身も、いきなり仮想世界に飛ばされて不安だったはず。

しかし、目の前の少女に拒絶され、戸惑いと悲壮感に埋め尽くされて、彼は踵を返して元来た道を戻って行った。

迷子になって、その先にようやく出会った人に拒絶されれば、再び襲い来る不安と絶望に耐えられない。…そんな仕打ちを、木綿季は彼にしてしまった。

 

「ボク…サイテーだ……」

 

誰も居なくなった空間で…ユウキは再び膝に顔を埋めて、自身への嫌悪感に涙するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから2年。

あれ以来、木綿季のマイスペースに彼が現れることは無かった。

何か関係があるのかは分からないが、あのやりとりの数時間後になって医師達がドタバタする音が遠くから聞こえていた。

何でも

『SAO患者は第二病棟へ!』

『ナーヴギアを外さないように留意しろ!』

『病室に着いたら、コード接続と点滴投与開始しろ!』

どうやらソードアート・オンラインというフルダイブRPGを利用した例の事件が起こっているらしく、その患者受け入れにドタバタしていたらしい。

そして…

メディキュボイド1号機

そこに接続されている彼も、何らかの事故で巻き込まれた。

そんな情報までも飛び込んできた。

もしかしたら、と木綿季に心当たりはあった。

木綿季のメディキュボイド2号機から1号機へと移る際の僅かな通信接続。その際に…彼はバグか何かでSAOに囚われたのではないか?何せ、ナーヴギアと同じ技術が使われているだけに、その可能性は有り得る。

…もし、あの時追い返さなければ?

…もし、あの時もう少し彼といたら?

そんな後悔が後々になって木綿季の頭を過ぎってきた。

SAOでHPを全損した場合、ナーヴギアによって脳を焼かれ、死に至るという。

メディキュボイドは、ナーヴギアよりも強い電磁パルスを発しているし、内部バッテリーはおろか、通電での稼働だ。バグとは言え、ナーヴギアでないにせよ、HP全損で脳が焼き切られない可能性はゼロでは無かった。

…ボクのせいだ。

ボクがあの時、もう少しでも冷静だったら。

そんな罪の意識に囚われながら…日々を過ごしていた。

そしてある日…嬉しげに倉橋医師から告げられた。

SAOに囚われていた人々が解放された、と。

嬉しい忙しさに、モニタリングに来る倉橋医師はずっと笑顔だった。

ふと、木綿季は倉橋医師に尋ねた。

 

『先生、姉ちゃんの使っていた1号機の人…は?』

 

『えぇ!彼も無事に戻ってきましたよ!今頃はメディキュボイドを外して一般病棟に移っているはずです。』

 

…よかった。

ただその気持ちでいっぱいだった。

聞けば、SAOに囚われていた一万人の中、戻ってきたのは六千人ほど。つまりSAOに関わって、四千人ほどが命を落としていた。

そんな過酷な世界で、彼は良く生き延びたものだ。

…しかし、その喜びと裏腹に、彼をSAOに追いやってしまったという罪の意識は消えなかった。

だからこそ…木綿季は彼の名を聞くことはなかった。

もう会わないだろう、彼の少年。その存在を忘れない。ただそれだけを胸に残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、運命とはかくも残酷で、そして悪戯のように引き合わせるのか。

彼が退院して、ほぼ9ヶ月。

ALOでイチカに藍子のことを指摘され、思い出して溢れ出る涙を隠すことが出来ず、逃げるようにログアウトしてしまった。

思えば自身を蝕む病のせいで、遠くない未来に命の灯火が消える運命。だからこそスリーピングナイツの皆と誓ったはずだった。

『必要以上に仲を良くせず、一定の距離を保つ』

と言うことを。

だがユウキはそんなことを忘れてしまうほどにイチカと…そして新しくフレンドになったマドカと過ごす時間は魅力溢れる物だった。

それに気付いたからこそ、ギルドの皆との誓いを思い出してしまった。

こんな思いをしたくないから、させたくないから、ある程度の距離を保とうとしていたのに…。

そして…彼女が二人の前から姿を消したその日の午後、ユウキ…木綿季に面会を希望する男女が現れた。

…よもやこんなに早く来るとは思わなかった。

でも…何故か来てくれると、そう予感していたのかも知れない。

そして、…今の現実の自分を見て…後悔するかも知れない。

でも、もしそれならそれで、これ以上関わらなくて済むなら…。

木綿季はそんな思いでいた。

 

 

 

…しかし、

 

 

 

メディキュボイドに備えられたカメラから、無菌室と廊下を隔てる分厚いガラス。その向こう側に、倉橋医師と立っていた人物を見て、後悔したのは………

 

 

 

木綿季の方だった。

 

 

 

 

ものの一分も見ていない顔だったが良く覚えている。否、忘れるものか。

メディキュボイド1号機…その被験者となっていたあの少年、その面影が色濃く残っていた。

あの時から背は伸び、身体や顔付きは大人っぽくなっている。

 

(こんな……ことって……!)

 

蘇るあの時の記憶。自身が命の危険を伴うSAOへと追いやってしまった少年が、そこにはいた。

 

(まさか……イチカが…あの時の…!?)

 

かくも運命の巡り合わせという物は残酷なのか。

イチカ…いや、織斑一夏の顔を見て木綿季はただただ言葉を失うだけだった。




なぜイチカのALOアバターをみてユウキは一夏のことを気付かなかったか?そんな疑問を持たれる方もおられるかも知れません。
理由については、ALOのアバターの顔などの設定についてはランダムなので、ユウキからしてみれば、たまたまそんな顔だったという認識なんです。
アバターの顔が現実と変わらないのはSAOから引き継いだ感じはありますが、確かALOはそんな感じだったと思います。
…違った、かな。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。
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