インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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第26話『大人の修羅場』

IS学園寮 寮長室

寮長である千冬の私室とあって、かなりの広さを誇るこの部屋に、部屋の主たる彼女と、弟である一夏、そして彼の肩に乗っかるプローブと接続されているメディキュボイドの中で生活する木綿季。その3人が向かい合うように…正確に言えば、千冬と相対すように一夏が座り、その肩に木綿季が乗っかっている、と言うような状況だ。

生徒が暮らす寮の部屋よりも一回り大きいこの一室で、立ち振る舞いからナチュラルにオーラを放っているような千冬と対面して、慣れている一夏はともかくとして、木綿季は緊張でガチガチになっている。

 

「さて、ここに来て貰ったのは言うまでもない。紺野君、だったか?」

 

「は、はいっ。」

 

「…そう固くなるな。何も取って食いやしない。率直に言おう。…キミの境遇については、私の愚弟からある程度説明を受けた。…ま、それを踏まえて一夏が私に頼み事をする、と言うのは中々無いからな。正直驚きはした。」

 

口ではそう言いながらも、口角はどこか吊り上がっており、そこと無く声色も嬉しげである。普段余り頼ってこない弟が自身に頼み事をしてきたことが余程嬉しいのか。否、頼ってくれないことに寂しさを覚えていたからかもしれない。

 

「だが、それと頼み事の内容は別問題だ。この学園にはISに関する最新技術が集まることは、在学中の一夏は勿論、紺野、キミも知っているだろう?」

 

『は、はい。』

 

「機密の漏洩、と言う物はな。下手をすれば世界が転覆しかねない物なんだ。キミを疑うわけでは無い。だが一教師として安易に認める事は出来ない、とだけ言っておこう。」

 

「『………。』」

 

こう言う解答が返ってくるとある程度は予測出来ただろうに、と目の前で落胆する二人に少々呆れる。成長した、とは評したが、こう言ったところはまだまだ子供だとも千冬は思う。しかし、一人抱え込まずに周りを頼り始めたのはよい傾向なのだろうが。

 

『…ご、ごめんね一夏。やっぱり無理はダメだよ。お姉さんのいうように、部外者の授業参加なんて無理があったんだよ…。』

 

「いや、俺もIS学園て立場を甘く見てたみたいだ。…悪いな木綿季。」

 

『うぅん。ボク、嬉しかったよ。一夏や和人がボクのために頑張ってくれたもん。それだけで充分だよ。』

 

「木綿季…。」

 

「んっんんっ!!」

 

どこかお通夜ムードになりつつあった二人に、千冬は大きく咳払いをして話の流れをせき止める。

 

「お前達、何か勘違いしてないか?」

 

「『へ……?』」

 

「私は()()()()()()認める事は出来ない、と言ったんだ。()()()()見放したつもりはないぞ?」

 

してやったり、と言わんばかりにニヤリと口許をつり上げる千冬を、一夏と(恐らく)木綿季はポカンとして見ることしか出来ない。

 

「まぁ私に任せておけ。確約は出来んが、何とか掛け合ってはみてやる。」

 

「ほ、ホントか千冬姉!?」

 

「ふっ…普段から頼ってこない愚弟からの頼みなんだ。ここでYESと言わねば姉が廃ると言うものだぞ。」

 

「お、おぉ……千冬姉が逞しい関羽から、まるで神々しい大天使(アークエンジェル)に変貌を遂げた…!」

 

「千冬スペシャル!!」

 

「たわばっ!?」

 

ゴシャア!という、おおよそ人の頭から響いてはならないような大きな音と共に、何処から取り出したのかは知らないが、IS用の長刀である葵が一夏の頭にめり込んだ。

 

「初日にも同じようなことを言って同じ目に遭ったよなぁ一夏?少しは学習したらどうなんだ?ん?」

 

『一夏~ダメだよ?お姉さんのことを三国志の英雄なんかに例えたらさ~。』

 

逃げ場は無かった。

一夏の中では最大限の賛辞であったはずなのだが、どうやら姉と、そして木綿季にとってはお気に召さなかったらしい。

 

(しかし…)

 

ふむ、と千冬は顎に指を添えて思案する。

目の前でわいのわいのと、一夏と談笑する紺野木綿季なる少女。姿こそ見えないが、一夏から聞いた話では、明るくて人懐っこく、彼女の病状を感じさせないほどに活発だそうだ。

今までこの学園で一夏が自身を頼ってきたことはほぼ無かった。自身で何とかしようという努力をしていたか、もしくは抱え込んでいたのか…。

だがそんな弟が、姉である自分を頼ってまでに願いを叶えたい少女。彼女の立場や現状を加味しても、それだけでは一夏がここまで動くこともないだろう。ともすれば、導き出される可能性の一つに、とある解が浮かび上がる。

 

(ふむ、なるほど…鈍感と朴念仁を足して、攻略王を掛けたような、あの一夏がな…。これはもしかすると…。)

 

なかなかどうして、同級生達から寄せられる好意や恋心、それに伴うアプローチに、ワザとかと言わんばかりに気付かない彼が、いざ好意を持つとこうまで分かりやすくなる物だとは…。

 

(これは姉として喜ぶべきなのだろうが、必死になってコイツを振り向かせようとしているアイツらには、少々同情を禁じ得ないな。)

 

まぁヤキモチ妬いたからと言って、ISの無断展開に加えてそれを制裁に用いる彼女らにも非があるのも確かだと言うのは今更なのだろうが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、

件の二人を部屋に戻したその10分後。

快く引き受けたからには結果を伴わなければメンツが丸潰れと言う物だ。

厳粛な雰囲気が漂うその扉の前で千冬は一息つく。

扉の上には、これまた厳かで、そして達筆な字で『学園長室』と記されており、如何な千冬と言えどその雰囲気に飲まれて固唾を飲み込む。

 

「…よし。」

 

一言

たったその一言が、彼女の意を決するには充分な物だった。軽くノックをすると、中から男性の『どうぞ』という返事が返る。先だってアポを取っていたので、時間は空けておいて貰うことは出来たので、これからの勝負に付き合って貰うことは可能なはずだ。

 

「失礼します。」

 

開かれた扉の先。

学園長室と言うに相応しいまでの広いその部屋。中央には接客用の高級ソファが対って設けられ、その奥に個人の机にしては大きなそれに備え付けられた椅子に座る、白髪が大半を占めた初老の男性。

 

「今日は貴重なお時間、裂いて頂きありがとうございます。」

 

「なに、構いませんよ。それよりも織斑先生、貴女が私に頼み事などと…ほっほ!いやいや、なかなかに珍しいこともありますな?」

 

「それほどまでのことでしょうか?」

 

「逆に貴女が頼み込むほどの案件だ。それほどまでのことでしょう?」

 

どうにもこの学園長こと轡木十蔵は食えない人物で、千冬はどこか苦手意識を持っている。

常に笑みを絶やさず、そしてそれを崩すことは無く、界隈でついたあだ名が『白髪仏(ホワイトヘアードブッダ)』。しかしこの女尊男卑蔓延る風習の中で、その象徴であろうIS学園の長という立場に上り詰める手腕は推して知るべしだろう。

 

「単刀直入に言います。そして無理を承知でお願いが…」

 

「ほぅ?」

 

「とある女子の学園の見学、そして授業参加を許可して頂きたく思います。」

 

「…ふむ。」

 

笑みを絶やさずいた轡木学園長の眼が、瞬時にてギラリと鋭くなる。

その鋭利な刃物を思わせるそれに、一瞬千冬は身体を強ばらせ、ゴクリと固唾を飲み込む。

伊達に学園長まで上り詰めているわけでは無いらしい。

 

「その女子…と言うのは、何かしら特別な物なのですかね?今はオープンハイスクールの時期でも無いし、更にはかと言って、言い方は悪いが部外者である人間に授業参加…とてもではないが、易々と許諾できる物ではないことを君も分かるはずですが…?」

 

やはりそうそう甘くはないらしい。

さすがに国際学校でもあるだけあって、その辺りは厳しいのは当然か。

だが千冬とてこのまま引き下がるほど諦めの良い方では無い。

 

「では言い方を変えましょうか。」

 

「と、言いますと?」

 

「貴女ほどの人が1人の女子を授業参加させてあげて欲しいと言わしめる理由、それをまず話して頂けませんか。」

 

「それは……」

 

少し千冬は言葉を詰まらせる。

予め木綿季には、学園長への情報開示の可能性があることを知らせてあるし、彼女もそれを承諾してくれている。

が、千冬としてはやはり病状が病状なだけに、易々と話すべきなのか躊躇うのも事実。

 

(いや…)

 

そんな躊躇いを千冬は脳内で必死に振り解く。

そうだ、木綿季は自身の情報を言っても構わないと言っているのだ。その病状を人に話すのも躊躇うはずの本人が。ならば彼女と、そしてそれを助けようとしている弟の願いを受けた自身が不意にするなど出来ようものか。

 

「わかりました…、お話しします。彼女…紺野木綿季の現状と、そしてその願いを…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

………

 

「…成る程、仮想世界で暮らさざるを得ない病状…しかも終末期医療…と。」

 

「はい。彼女の願いとしましては、……終末期医療であるが故に、一つの心残りとして通学という物をしてみたい、と。」

 

一通り話し終えた千冬と、それによって木綿季の病状に一考する轡木。

通えないでいた学校への憧れに、教職を担う者としては何とかしてやりたい思いもある。

だが立場が複雑な学園であるだけに、それを叶えるのも至難の業…もしかすると不可能な物なのかも知れない。

 

「ふむ、教職としては、同情と、その願いを叶えて差し上げたいという気持ちは山々なのですが…」

 

「やはり、難しいものでしょうか?」

 

「これは骨が折れる案件であることには変わりないですな。」

 

「……それは…つまり?」

 

「えぇ。茨の道ではありますが、可能性はなきにしもあらず、と言ったところでしょうか?…織斑先生。」

 

「は、はい。」

 

「二徹ほど、行う覚悟はおありですかな?」

 

二徹…つまり、二日の徹夜…。

つまりそれだけのことで…可能である、と?

 

「それで二人の願いが叶うるのであれば。」

 

「よろしい。ならば紺野木綿季さんには三日後に授業参加出来るようにスケジュール調整いたしましょう。もちろん、織斑先生にはそれをお手伝いして頂きますが。」

 

「謹んでお受けしましょう。」

 

轡木が言うにはこうだ。

外部に漏れても可能な授業内容を三日後に集中。それに伴うスケジュールの差異を調整して、後々滞ることなく授業を回せるようにすること。

木綿季を参加させるに至って、IS委員会に提出する書類を最優先で纏めること。

IS実習への参加も可能ではあるが、その際には千冬と一夏で責任を持って木綿季をフォローすること。

言うには簡単だが、年を通しての授業スケジュールを調整するのだ。数ヵ月先を見越しての物なので、かなりの作業ともなる。更には数ヵ月前から用意しておく、本来オープンハイスクールの為の必要書類を仕上げろというのだから、徹夜など通り越して、二日で出来るかどうかすら怪しい内容だ。…だが、千冬はそれが茨の道ならば喜んで受ける心積もりだった。

他ならぬ、愛しい愚弟と、その彼が思いを寄せる少女のために…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに

後ほどこの件に関する通信会議が開かれ、轡木と共にIS委員会が参加したのだが、自身らの保身のためと見て取れるような発言で反対しようとする連中を彼は黙らせた。

 

『お前らなぁんか勘違いしとりゃせんか?あ?』

 

『お前らのためにIS学園があるんじゃねぇ。学びたいという生徒のためにIS学園があるんだ。』

 

画面越しでもその凄みと共に、ドスの効いた声が彼の口から放たれ、IS委員会の誰もが言葉を失った。中にはしめやかに失禁する委員もいたとかいなかったとか…。

そして轡木十蔵はIS委員会や関係者からこうも呼ばれることになる。

 

 

白髪鬼(ホワイトヘアードデビル)』、と…




轡木氏のキャラが分からずこうなった…

元ネタ…分かる人多いだろうな

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。
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