インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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木綿季好きな人すいません!
泣かせちゃいました!


第32話『千冬さんの気苦労が絶えないのは仕方ないのだろうか』

おもむろに、懐からプラスチックのケースを取り出し、蓋を開ける。振ってみればシャカシャカと、小さな何かが中でぶつかり合う。蓋を開けて、手のひらにその中身を二粒ほど取り出して、煽るように口へと放り込んだ。

今となっては飲み慣れたこの錠剤。

本来、飲み慣れるというのは宜しくないのだが、それでも飲まなきゃやってられない。というか、保たない。

 

「ハァ…また、書類提出、か。」

 

生徒のIS所持イコール、政府やIS委員会や学園理事への書類提出と認可を取らなければならない。不意にキリキリと締まる胃を押さえる速効の胃薬。それが喉を通過して胃に落ちる感覚を感じながら、空を飛び回る紫色のISを見やり、千冬は内心涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ちーちゃん!」

 

「…なんだ?」

 

「譲渡って訳じゃないんだ。レンタルなんだよね。紫天って。それに、IS委員会にナシは通してあるからもーまんたいなんだよね!」

 

「は?」

 

「束さんとしては、ISの可能性。協力者のあっ君としては、フルダイブ技術の可能性。その両方を詰め込んだハイブリッド・モデルが紫天なのさ。世代的には、どの世代にも分類されない、外の世代。」

 

「…何が言いたい?」

 

詰まるところ…と、束は頭言葉をつけて、両の腕を空を仰ぐように広げる。

 

「紫天の制作の傍らでゆうちゃんの病気、束さん、ちゃちゃっと調べてみたんだ。」

 

「…ヲイ…勝手に調べたのか?」

 

「まぁまぁちーちゃん。話を最後まで聞こうよ。ね?だからチョークスリーパーはやめて欲しいなぁ。でも背中におっぱいが当たって至福のひとときだねぇ。」

 

千冬の人外腕力によって首を決められても、顔色と表情を変えることなく、むしろニコニコと背中の感触を味わう束。彼女もいろいろ危ない。

 

「束さんからしても、ゆうちゃんの現状には流石に思うところもあったよ。…で、慈善を宣う訳じゃないけど、ゆうちゃんみたいに、病気で寝たきりの人とかが空を飛べるなんて、夢に見るような話だと思ってね。開発しようと考えてみたんだよ。」

 

「束…。」

 

「でも、ゆうちゃんの意識はプローブにある。まぁ投薬の副作用による苦痛遮断の為だし仕方ない。仮想世界からじゃないとISは動かせない。でも仮想世界に対しての技術は束さんにない。…そんな中で手を貸してくれたのが、あっ君だったんだー。」

 

機体はほぼほぼ完成。後はどうやって仮想世界にいる木綿季がISを動かすか。そこで開発は難航してしまっていた。そんな中で、束のPCに現れたのが『彼』だった。

『彼』は、仮想世界における技術を惜しみなく提供し、束はその技術を用いての『主観による仮想世界からのIS遠隔操作』を成し遂げた。

 

「だからこれは、そのための1つの足掛かりなんだよね。上手くいくかは解んなかったけど、首尾よく動けてよかったよ。」

 

「…お前が他者のための足掛かりの機体を制作したこと、それについては驚いたし、感嘆の意を示すに値するだろう。だがな?」

 

ガッ!と束の胸倉を再度掴むと、千冬は一気に顔の前まで引き寄せる。対し束はというと、彼女のその行為が予想済みなのか、大して表情を変えることなく千冬の目を見続けた。

 

「上手くいくかの実験に、木綿季を…私の生徒を使うな!お前がやったことは、アイツを実験動物にしたのと変わりないんだぞ!?」

 

「うん、それに関しては反論の余地がないのは()もよくわかってるよ。」

 

いつもの自身を名前で読み、そしてへらりとした束はそこにはなく。一人の大人の女性としての顔をした彼女がいた。

 

「罵倒してくれても構わない。拒絶してくれても構わない。でもね?私はゆうちゃんに空が似合う。そう感じたから紫天を作ったの。…病気にも重力にも縛られない、自由な翼。それが紫天。」

 

自由に

気ままに

世界中駆けていく

それを実現できる大翼。

 

「この子がいずれ、世の中の床に伏せる人々に、自由な手足、そして翼を与えられると信じてる。」

 

「…束。お前に一体何があった?何がお前をそうまで…」

 

木綿季にISを与えようと考えた、そこまではいい。だが、世の中の人々を有象無象と称して目にも留めようとしたなかった束が、病に伏せる人々のことまで思うなどと、幼い頃から彼女を知る千冬にとっては、まさに天災の天変地異のようなものだからだ。

 

「ん~、まぁ強いて言うなら…

 

 

 

 

 

 

 

愛!

かな?」

 

「何故そこで愛!?」

 

やはり二十年近くの付き合いをもってしてもコイツの考えは読めない。

そう改めて千冬は認識せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

溯ること数分

 

木綿季に紫天を渡されて、束は混乱する生徒達を尻目に開発者直々のレクチャーが始まった。

基本的な動作を経て慣熟飛行に移行するまでそこまでの時間を要することはなかった。まるでスポンジが水を吸い上げるかのように、それこそIS適正がAはありそうなくらいにスムーズだった。

そして…特筆すべきは、飛行はまるで水を得た魚のように縦横無尽にその紫色の羽根からのブースターを吹かして、真っ青な大空を駆け巡っている。勿論アリーナ内部なので高度制限があるものの、それでも見るものを魅了する飛び方に誰もが頬を緩めてしまうほどだった。

 

「い、一夏さん?」

 

「ん?」

 

「あの方…紺野さんは一体何者ですの?」

 

「うむ…あそこまでの飲み込みの良さ…というか、飛ぶイメージが出来上がっていると言うのも私は驚きなのだが…。」

 

さしものセシリアや箒が不思議に思うのも無理はないだろう。木綿季の飛び方に堅苦しさが感じられないのだ。どちらかと言えば滑らかで、空を飛ぶことに慣れている。そう感じるものだ。

 

「まぁ…俺も、なんだけど、木綿季はALOで結構良く飛び回って慣れているからな。…多分その『飛ぶ』イメージが染みついてるんだと思う。」

 

「飛ぶイメージ?」

 

「ん~、なんて言うのかな?補助コントローラーで飛べるんだけど、慣れると背中に翅があって、それで飛ぶイメージを使ってるからな。それがISの飛行イメージと合ってるんだと思うんだ。」

 

「へ、へぇ…ゲームでそんな…。」

 

「前にセシリアが言ってた、イメージはあくまでイメージ。まさにそれなんだろうな。」

 

どちらも脳でイメージして、それをアミュスフィアもしくはISを通して操作している点には変わりない。今や瞬時加速などの特殊技術を除けば、代表候補生と見紛うまでに滑らかな動きだった。

 

「…はぁ…織斑。皆が紺野に気を取られて授業どころではない。…連れ戻してこい。」

 

「は、はい。」

 

まぁ初めてのISで、しかも現実の空を画面越しとはいえ飛んでいるのだからはしゃぐのも無理はないだろう。だが、あくまでも今の木綿季はIS学園の生徒だ。授業中に身勝手な行動は控えるべきだ。それに関しては一夏も同意であるので、直ぐさま白式のブースターを吹かして飛翔し、空を舞う紫天を纏う木綿季へと迫る。相も変わらず、柔軟な軌道で飛び回る彼女に舌を巻きながらも、一夏は白式を更に加速させる。

 

『あ、一夏!凄いねISって!ボク、こんなに気持ちよく飛べたの初めてかも!』

 

一夏の接近に感づいた木綿季が、宙をロールしながら、やはりというか玩具を買い与えられた子供のように無邪気に飛び回る。

 

「木綿季。楽しむのも良いけどそろそろ戻ろうぜ?今は授業中なんだからさ。」

 

『あ、そ、そうだったね。…もしかして、迎えに来てくれたの?』

 

「…おう。…ちなみに、千冬姉は少々お冠だぜ?」

 

『ヒッ!?』

 

ここ数日間で彼女の人外さの端々を味わった木綿季の中では、既に千冬は恐怖の対象としての立場を確立してきているようだ。彼女を怒らせれば、どんな折檻が待っているか解らないし、受けるなんて事はたまったものでもない。…正直、双子の姉である藍子とは違うベクトルの怖さだ。

 

『戻る!戻ります!今すぐ帰投します!』

 

「アッハイ。」

 

それからの木綿季の行動は早かった。

意図せずしてか否か。

ここでも無意識の内に瞬時加速を使った木綿季は、その強大な加速をもってして千冬の元へと突っ込んだ。急激な加速による、意識が引っ張られるような感覚まで仮想世界の身体に味わわせてくれる点にも驚きだが、そんなことよりも千冬の折檻が恐ろしくて仕方ない木綿季は、一瞬一秒でも早く戻らねばと言う思いでいっぱいだった。

が、ここで一夏の中でデジャヴ再発。

このままでは木綿季はアリーナの地面に大きなクレーターを作り上げてしまうだろう。そうなれば折檻どころの話ではない。正式な生徒ではない彼女が学園に損害を与えてしまっては、下手をすれば初日で授業参加がおじゃんになってしまう。

 

(どうする…どうする!?どうすれば…木綿季は難なく着地出来る!?)

 

下手に専門用語を用いれば、逆に混乱して失敗する可能性がある。ならば、聞き慣れた単語での方が無意識な反応が出来るのではないか?

着地体勢…減速……

 

そうだ!

 

「木綿季!!ランディング!!」

 

『あっ!そうだっ!!』

 

一夏の声と、目の前に迫り来る地面に我を取り戻したのか、木綿季はブースターを逆噴射させる。急激に掛かる慣性にぐっと耐えながら、脚部を下方に移動させ、文字通りに空中でブレーキを掛けて減速させ、地面ギリギリで完全停止させた。

まではいい。瞬時加速による超高速を逆噴射によるブレーキを掛けたことにより、周囲に突風と見紛うまでの衝撃と共に、生徒達の悲鳴が走る。

 

『あ、危なかった~。でも上手く着地が出来て…』

 

なんとか激突だけは避けられたからか、ほっとする木綿季。しかし、『彼女』はそれを看過することは出来なかった。

 

「この…馬鹿者!!」

 

『ひっ!?』

 

突如の怒鳴り声に、身を萎縮する木綿季。目の前には、まさに怒り心頭、怒髪衝天と言わんばかりの千冬の顔が迫っていた。

 

「誰が急ぎ戻れと言った!?着地が上手くいったのは結果論だ!今お前は、ここにいる生徒皆の生命を脅かしていたのだぞ!?それを解っているのか!?」

 

『え……ぁ……!』

 

千冬の言い分は最もである。いくらこの場にいる面々が、強度の高いISスーツを身に纏っているとは言え、加速落下してくるISが激突しようものならば、それは大怪我どころか死者が出かねない。

一夏も庇い立てしたいところだが、過去に自分も同じ過ちを犯しているために、ぐうの音も出ずにいた。

 

「束からISを借りて有頂天になっているのはお前の勝手だ。だがな!そのとばっちりが他の生徒に回るなどと、許されると思うのか!?」

 

『………っ』

 

木綿季も、千冬の言わんとすることが解るのか、そして自身のしでかした重大さ、深刻さを自覚したのか、スピーカー越しに啜り泣く声が木霊し始めた。

 

「…今回は大事がなかったのは偶然だ。だが、生徒を危険にさらしたのには変わりない。…いいか?ISというのは、宇宙進出を目指したマルチフォームスーツであると同時に、現代における兵器のトップを走るものだ。イコール、人の命を容易く奪える代物と言うことを改めて認識しておけ。わかったか?」

 

『は…ぃ……ごめん…なさい…。』

 

優しく、とはいかないが、それでも諭すように千冬は木綿季に伝える。

それは世界初のIS搭乗者で、そしてその力を世間に知らしめた張本人であるからという意味もある。

だが何よりも、一夏が大切に思う少女だからこそ解って欲しい。知って欲しいと思うから。

そして木綿季は、自身が受け持つ生徒なのだから。

その思いを解った木綿季に得心したのか、よし、と微笑して紫天から離れると、腕を組んで仁王立ちすると、生徒達を一瞥し声高々に話を始める。

 

「これで解ったろう!瞬時加速はその圧倒的な出力を得られるが、その分状況を十二分に把握していないと自滅につながりかねない!その点をしっかり覚えておけ!!」

 

『はい!!』

 

おぉ。千冬姉がいつになく教師してるぜ。

目の前で生徒に教訓を宣う彼女に、弟である一夏は感心していた。

だが…それがよくなかった。

相手は()()織斑千冬。いろいろ規格外であることは、常々一夏も痛感しているはずなのだが…。

 

「あばっ!?」

 

彼の頭に振り下ろされた出席簿が、一夏の学習能力の低さをありありと物語っていた。

 

「おい織斑。随分と失礼なことを考えているようだな?ん?」

 

「め、滅相もない…」

 

「ふん。罰として放課後、紺野のISの練習に付き合ってやれ。申請は私の方からしておいてやる。」

 

「えぇ…ぶっちゃけ罰とは言わないんですがそれは…」

 

難色、とはいかないが、それでいいのかという疑問符を浮かべる一夏に、千冬は顔を寄せて小声で話し始める。

 

「…私が補習をしてもいいのだが、アイツの飛び方はお前が着いてやっている方が伸びるはずだ。…これは、私からのお願いだ。頼めるか?」

 

「…おう、解ったぜ千冬姉。任せてく…」

 

もう数えるのも嫌になった出席簿制裁が、快音と共に一夏の頭部にたたき込まれた。

 

最後の一言で台無しだった。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。
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